巫女と戦女神の結婚観

Side・プリム


 ユニオン・ハウスが完成し、フィールへ直接転移が出来るようになった。

 大和はヴィオラを連れてクラフターズギルドに報酬の支払いと、バトラーズギルドに引き続きユニオン・ハウスを管理してくれるバトラーの派遣依頼に行ってるから、あたし達は早速ユニオン・ハウスからアルカに戻り、大事な話し合いを行うことにしている。


「話っていうのは、やっぱり私とアリアちゃんのこと?」

「ええ。事情が事情だから、とりあえず2人も大和の婚約者ってことで祝賀会は押し切ったけど、だからといって終わったらそれまでというワケにもいかないでしょう?」


 マナの言う通り、対ソレムネ戦勝祝賀会では、貴族辺りが余計な横槍を入れてくる可能性が否定できなかったから、アリアも真子も大和の婚約者ってことにして乗り切ったんだけど、その祝賀会が終わってすぐに婚約解消というのも問題でしかない。

 というより、そんなことをしたら偽装婚約だってすぐにバレるし、逆に貴族達を抑えられなくなるわ。


「そのことなのですが、別に私は婚約者という立場を使わずとも、乗り切れたと思いますが?」


 首を傾げながら、自分も婚約者という立場を偽装されたアリアが呟く。

 いいえ、あんたもけっこう厄介なのよ。


「アリア、あなたは大和に仕える神託の巫女でしょう?」

「はい、そうですが」

「それが問題なのです。数は少ないとはいえ、アミスターやトラレンシアにも権力志向の貴族は存在しています。もしその貴族にあなたが囲われてしまえば……」


 ユーリがアリアに説明するけど、あたし達の懸念はまさにそれ。

 アミスターやトラレンシアには、権力を悪用する貴族はほとんどいないけど、全くいないわけじゃない。

 しかもアリアが神託の巫女だということは広まっているし、ソレムネとの戦争も終わっているから、そういった馬鹿貴族達も遠慮なくアリアを囲い込もうと考えるでしょう。

 当然あたし達も許さないけど、万が一にも囲い込まれてしまった場合、あたし達はその貴族にも配慮というか、使われる可能性が高くなるし、国内の治安や安定という面から見ても問題しか起こらない。

 アミスターやトラレンシアでもこんな心配が出るから、バリエンテやバレンティア、リベルターはどんな手を使ってでもアリアを囲い込もうと考えるでしょうね。


「ですがそれは、神罰が下ることもあり得ると思うのですが?」

「確かにね。でもそんなことを考える輩に限って、自分だけは神罰が下ることはないっていう根拠のない自信を持ってるものよ」

「そうですね。さらにそういった方々は、周囲への迷惑も省みません。アミスターやトラレンシアでさえそういった貴族が少数ながらいるのですから、他の国でしたらもっと強引に、あなたを手に入れようと躍起になる可能性も否定できません」


 そういう事情もあるから、あたし達はアリアと大和が結婚することは反対していない。

 というより、積極的に後押ししているわ。

 これも一種の政略結婚になるから、大和はあんまり良い顔しないと思うけど、そもそもマナやアテナ、ヒルデ姉様との結婚や婚約だって似たようなとこがあるんだから、そこは受け入れてとしか言えないけどさ。


「それは……さすがに考えすぎではありませんか?」

「そうとも言えません。実際バレンティアでは、ラウス君を取り込もうと考えた貴族が複数いましたから」

「ラウスは大和の弟子だけど、その弟子を囲うことで大和を好きに使おうって考えてたからね。ニズヘーグ公爵家が改易されたせいで影響力を失ったから、それをどうにかしたかったってことみたいだけど」


 いたわね、そんな馬鹿どもも。

 数ヶ月前だけど、旧ニズヘーグ公爵領にあるソルプレッサ迷宮をゲート・クリスタルに登録する際、ラウスを勧誘してきた貴族が複数いたの。

 その馬鹿貴族どもはニズヘーグ公爵家に付き従っていたバレンティア東側の貴族なんだけど、ニズヘーグ公爵家が改易されてからは最低でも1つ爵位を落とされて、領地も半分程召し上げられたらしいわ。

 ニズヘーグ公爵家の当主だったナールシュタットは、密かにアバリシアに協力し、魔化結晶まで入手してバレンティアを征服しようと企んでたみたいだけど、当然その罪はナールシュタットの命だけで贖える物じゃないから、一族郎党から臣下に至るまで、ほとんど全員が処刑されている。

 当然バレンティア内での影響力は最底辺にまで低下しているから、その影響力と発言権を高めるためにエンシェントヒューマンの大和を取り込もうと考えたのよ。


 だけど大和はアミスター王女のマナと結婚し、ユーリとも婚約している。

 下手なことをすればアミスターを敵に回すことになってしまうから、弟子のラウスをってことだったみたいね。

 当然だけど二つ返事で断ってるわよ。


「では私も、大和様の妻になるべきだということですか?」

「本音を言えばね。だけど無理強いはしない。どうするかはあなた次第よ。幸い、成人するまで2年あるから、それまでに決めてくれれば良いわ」


 婚約解消も視野に入れた提案だけど、どんな決断を下すかはアリア次第。

 婚約の解消はそれなりにあるし、何よりアリアはまだ未成年だから、説明もしやすいのよね。


「いえ、この数ヶ月、大和様の人となりはお側で見させて頂きました。ですから皆様が許可をしてくださるなら、私も末席に加えて頂きたく存じます」

「ええ、歓迎するわ」


 少し顔を赤くして応えるアリアに、あたしは心からの歓迎を示した。


「それで真子、あなたはどうするの?」


 アリアはあまり自分の気持ちを出さないから分かりにくいけど、この反応を見る限りじゃ大和に好意を抱いていると考えてもいいでしょう。

 巫女としての義務だけなら、顔を赤くしたりはしないでしょうからね。


 そのアリアより問題なのは、大和と同じ世界出身で、大和のご両親と同じ年の生まれだという真子。

 なにせ真子からすれば、大和は親友の息子っていうことになるんだから。

 あたし達にはどんな感覚なのか分からないから、アドバイスもしようがないのよね。


「最近やっと、大和君のことを1人の男として見れるようになってきたけど、正直に言えば、まだ大和君のことを親友の息子っていう目で見てる自分がいるわね」


 やっぱりか。

 だけどこればっかりは仕方ない気もする。

 なにせ大和は、真子の親友の息子であることに違いはないんだから。


「真子さんはヘリオスオーブに来てまだ3ヶ月ですし、仕方ないといえば仕方ないですよね」

「そうだよね。あたしはそこまで焦らなくてもいいと思うけど?」


 ミーナとルディアの意見に、フラムやリディアも賛成するように首を縦に振る。

 実はあたしも、同意見なのよね。


「私もそう思うわ。だけど大和と結婚する意思があるのか、そこだけははっきりとさせておきたいのよ」


 ああ、そういうことね。

 婚約だけしておいて、いつまでたっても結婚せずに今の関係を続けられると、あたし達としても困ることになる。

 だからマナは、それをはっきりさせておきたかったのか。


「そういうことですか。それでしたら私は、結婚する意思はあるとお答えします」

「即答ね。理由を聞いてもいいかしら?」

「はい。というよりまだ私も、はっきりと言葉には出来ないんです。ただ大和君と結ばれることが出来れば、私の中の何かが変わるような予感があって」


 真子ははっきりと、大和と結婚する意思があると口にした。

 だけどその理由は、かなり曖昧だわ。


「予感?もしかしてあなた、それだけで大和と結婚するつもりなの?」

「いえ、さすがにそれだけの理由ではありませんよ。大和君は私の親友の息子ですけど、この3ヶ月である程度はそのイメージを払拭出来てきています。本人達がいないことや、赤ちゃんだった大和君を見た事がなかったっていうのも、大きいと思いますけど」


 ああ、それは確かに大きいかもしれないわ。

 いえ、実際に貴族が、母親と同年代の乳母を娶るなんていう話もあるんだけどさ。

 大和だってあたしの母様を抱いてるし。


「あー、つまり真子は大和が親友の子供でも、そこまで気にしてるわけじゃないってこと?」

「そうなるわね。お父さんにも似てるけど、どちらかと言えば大和君はお母さん似だから、あんまり彼を意識しなくて良い感じかしら。それよりもヘリオスオーブの結婚観にまだ戸惑いがあるから、出来ればもう少し時間を貰えると助かるわ」


 別に真子は、大和のお父様に懸想してたとか、そういうことはないみたい。

 親子だから似てるのは当然なわけだけど、大和ってお母様似だったのね。

 むしろ問題なのは、一夫多妻が常識のヘリオスオーブの結婚観か。

 大和や真子の世界は一夫一妻で、夫が妻以外の女性を抱く事、ましてや子供が生まれようものならとんでもない大問題になるんだとか。

 世間からも白い目を向けられることになるし、そんな世界で育った真子からしたら、ヘリオスオーブの結婚観はそう簡単には受け入れられないのも無理もない。

 大和だって、今でこそ受け入れてるけど、あたしと結婚した当初は凄く悩んでたわ。

 実際ミーナのプロポーズだって、受け入れるべきかどうか迷っていたもの。


「それは仕方ないわ」

「サユリおばあ様も、結婚するまで時間が掛かったと仰っていましたしね」


 サユリ様はマナとユーリの曾祖母で、大和や真子と同じ世界出身の客人まれびとでもあるから、客人まれびとの世界の結婚観がヘリオスオーブと違うことも、あたし達は知っている。

 だから真子も焦って結婚しなくても、客人まれびとだということを前面に押し出せば、サユリ様という前例がある以上は貴族達も強くは言ってこれないでしょう。

 いずれちゃんと結婚するっていう意思があるなら、あたしはそれで良いと思うわ。


 なんにせよ、アリアと真子も正式に大和の婚約者って事になった。

 アリアはまだ15歳だから結婚は2年以上先になるけど、20歳の真子は明日にでも結婚出来る。

 だけど違う世界出身で結婚観も違うから、早くても数ヶ月先になるでしょう。


「え?結婚前に関係を持つのは普通って話は聞いてるけど、みんな一緒になの?」

「ええ。体調を崩してたり気分が乗らなかったりしたら別だけど、基本は全員一緒のベッドで寝るわよ」

「そ、それってつまり、大和君は12人を一度に相手にするって事?」


 真子が戦慄の表情を浮かべてるけど、そこまでかしら?

 女もそうだけど、男は進化すると性欲や精力も上がるから、ハイクラスなら5,6人ぐらいは楽に相手出来るって話よ?


「正確に言えば他にもいるわね。アプリコット様やエオス、マリサにヴィオラなんて、よく参加してくるわよ」

「まだ2,3回だけどミュンもよね。うちのお母様も、一度ぐらいはみたいなこと言ってるけど」


 アプリコットはあたしの母様、エオスはマナと竜響契約を結んだアテナのバトラー、マリサはマナ、ヴィオラはユーリのバトラーよ。

 ミュンさんはアマティスタ侯爵家の侍従長なんだけど、リカさんのもう1人のお母様になるから未亡人でもある。

 だからリカさんのお世話のためにアルカに来る事も多いんだけど、その時に何度か夜を共にしていたりするのよ。

 その話を聞いたリカさんの実のお母様エリザベート様も、なんか興味を持ってるってリカさんが言ってたわね。


「姉妹どころか母娘まで……、しかも待ってる間は女同士でって……」


 でしょうね。

 あたしも初夜の時まで、母娘っていうのは聞いたことなかったもの。

 だけど姉妹が同じ相手に嫁ぐ事はそれなりにあるし、夫の体は1つしかないんだから、待ってる間とかの体の疼きを沈めるためには女同士でってことは常識なんだけど?


「ヘリオスオーブではそうでも、地球では違うのよ。大和君と結婚する決意は固めたっていうのに、すっごい揺らいできたわ……」


 頭を抱える真子だけど、アリアは普通に受け入れてるわね。


「シングル・マザーが娘の夫に嫁ぐこともないわけではありませんから。私も何度か、結婚儀式をお手伝いしたことがあります」


 ああ、アリアはプリスターだから、何度か結婚儀式を手伝ったことがあるのね。

 あたしだけじゃなくマナやリカさんも初耳だったみたいだから、本当に珍しいんでしょうけども。

 頭を抱える真子には、受け入れてとしか言えないわね。

 でも慣れると、女同士も楽しいわよ?

 あたしも今じゃ、マナやミーナ達とはもちろん、母様とだって楽しんでるから。

 まあ、大和の妻は全部で12人だから、母様にマリサ、ヴィオラ、エオス、ミュンさん、あとは興味を持ってるエリザベート様が子供を希望するなら、シングル・マザーになってもらうしかないんだけど。

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