通信具開発の進捗状況

 無事にユニオン・ハウスも完成し、俺達はフィールへの直接転移手段を確保することが出来た。

 今まではいちいちフィールの外に出て転移しなきゃだったから非常に面倒だったんだが、その手間が無くなったことは非常に目出度い。

 だからクラフターズギルドへの報酬700万エルに加えて、さらに100万エルほど追加で支払っている。

 規模としては、ユニオン・ハウスとしては大きいが屋敷としては小さいぐらいになるが、元々アルカへの転移をするための物でもあるから、民家程度の大きさでも十分だった。

 ただウイング・クレストにはマナやユーリといったアミスターの王女様に、元とはいえバリエンテ公爵令嬢のプリム、さらにはトラレンシア女王のヒルデといった王族もいるから、さすがにそれは問題になる。

 だから小さくても、屋敷といった体裁は整えておく必要があったわけだ。

 それに普段はアルカにいる俺達だが、ユニオン・ハウスを全く使わないこともないから、これはこれで必要経費だろう。


「やっぱりフィールから直接アルカに転移出来ると、諸々の手間が省けて楽だな」

「そうですね。私達も楽に買い出しに行けますから」


 俺と一緒にアルカに戻ってきたヴィオラの言う通り、今まではゲート・クリスタルを使ってフィールの外に飛び、そこから街中に移動して日用品や食料を買っていたんだが、入口でライセンスの確認をしなきゃいけなかったから、非常に面倒だった。

 最近まではトラレンシアを始めとした他国に遠征してたせいでフィールに来る機会は減っていたが、ソレムネとの戦争が終わった今、そこまで他国に関与することもない。

 ヒルデの護衛とか手伝いとかあるから、週に何回かはソレムネの帝都デセオに行く予定だが、毎日って訳でもないし、行くとしても俺達ぐらいだから、エド達やラウス達、バトラー達はフィールにいる事の方が多くなる。


 だからって訳じゃないが、マリサさんにヴィオラ、ユリアもバトル・ホースとの従魔契約を考えていて、さらに俺達が最初に作った箱型獣車を貸してほしいって言われている。

 多機能獣車は便利だが、そのデカさから小回りは効きにくいし、買い物にそんな物を使う必要もないからだが、確かにバトラーが使うには悪くないと思う。

 俺達は天樹製多機能獣車を使うが、ラウス達も別行動することがあるし、エド達だって同じだから、試作2号車はラウス達が、箱型獣車はエド達とバトラーが使うことで話も纏まっている。

 まあ、ラウス達が試作2号車を使う機会は、滅多にないと思うが。


「で、その買い出しのためだけって訳じゃないと思うが、バトル・ホースと契約するんだろ?」

「はい。ドラゴニアンのエオスさんは無理だと聞きましたが、マリサさんもユリアも、契約したいと言っていました」


 バトル・ホースは、購入出来る騎獣の中で一番人気の魔物だ。

 お値段はそれなりにするから誰でも気軽に買えるって訳じゃないが、高ランクのハンターも多くが契約していると聞く。

 マリサさんも、俺とマナの結婚と同時に契約を考えたそうだが、Sランクバトラーの報酬じゃ難しいからってことで、今の今まで契約出来ていなかった。

 ヴィオラも同様なんだが、2人とも俺と関係を持ってしまったこともあるから、バトル・ホースの購入金額ぐらいは出しておこうと思って、フィールに戻ってくるちょっと前に提案したんだが、お礼とばかりに夜が凄いことになってしまったな。

 ちなみにユリアの方は、ラウスが全額出すらしい。

 ユリアはキャロルの従者だし、レベッカやレイナとも仲が良いからな。


 ドラゴニアンは従魔・召喚魔法を使えないらしいから、エオスはどうしようもないんだが。


「分かった。じゃあ予定通り、明日ラグナルド牧場に行って、相性の良さそうなのがいなかったらレスペトって事で」

「はい、よろしくお願いします」


 頭を下げるヴィオラ。

 レスペトはフィールに領代として赴任しているソフィア伯爵が治めるトゥルマリナ伯爵領の領都で、アミスター最大のバトル・ホース牧場がある。

 ラウスやレベッカ、キャロルもレスペトでバトル・ホースと従魔契約を結んでいるし、ミーナだってソフィア伯爵がフィールに赴任してから連れてきたバトル・ホースと従魔契約してるから、フィールにあるラグナルド騎獣牧場で相性の良い個体が見つからなくても、レスペトなら見つかるんじゃないかと思う。


「ああ、だからその資格を取りたかったのか」


 バトラーズギルドでユニオン・ハウスの管理を正式に依頼した後、ヴィオラはバトラーズギルドで受けられる資格試験の参考書を購入している。

 ヴィオラが受けようとしている試験は、従魔や召喚獣の世話や繁殖のための資格だ。

 牧場があることからも分かるように、従魔や召喚獣の世話や繁殖の管轄はクラフターズギルドになり、育成師や調教師とも呼ばれている。

 だが従魔・召喚契約している者が育成師や調教師を雇っているとも限らないし、そもそも雇える程数は多くない。

 だから契約者本人が管理したりバトラーに任せることが多くなるんだが、やはり本職に比べると知識の面でも実践面でも劣ってしまう。

 契約者本人なら自己責任で済む範疇だが、バトラーは雇われているわけだから、何か問題があったら責任問題に発展しかねない。

 だからバトラーズギルドでは、本職に近いことが出来るようになり、該当する協会魔法ギルドマジックが使えるようになる資格試験は重要視されている。


「はい。アルカにはノンノさんもいますけど、お1人では限界がありますし、旅先でもケアは大切ですから」


 ノンノはホムンクルスの1人で、アルカにある牧場を管理してくれている。

 俺達が契約している従魔や召喚獣達の世話は、基本ノンノに任せてるんだが、ホムンクルス達は滅多にアルカから下りてこない。

 実際ソレムネとの戦争中も、ホムンクルスは同行していなかった。

 だからヴィオラが従魔や召喚獣の世話を出来る資格を取ってくれると、俺達としても非常に助かるし、アルカでもノンノの負担が減るんじゃないかと思う。


「とはいえ、試験は凄く難しいですから、簡単にはいかないんですが」


 俺もバトラーズギルドで話を聞いたが、従魔管理の資格は育成師や調教師の知識だけじゃなく、獣医としての知識も必要らしい。

 当然魔物によって体格や生態系は異なるから、試験はそこを考慮した難問が用意されるんだとか。

 俺には協力できるかも分からないから、頑張ってくれとしか言えないんだけどな。


「はい、頑張ります。そういえば大和様。通信具でしたか?そちらの開発はどうなっているんですか?」


 ふと思い出したように、通信具という単語を口にするヴィオラ。


「さすがに難航してるが、目途は立ってきてるから、あとちょっとってところだな」


 遠距離との通信を可能にする魔導通信具は、残念ながらまだ完成していない。

 まあその理由の1つにソレムネとの戦争があって、開発に専念出来なかったからなんだが。

 行軍中の暇な時間を使って頑張ってはいるんだが、なかなか思ったようにはいかず、結構苦労しているところだ。

 光属性の魔石が最も相性が良い事は分かったし、魔力はヘリオスオーブならどこにでもあるから、電波塔みたいなのを作る必要がなさそうなのは救いか。


「そうなんですね。遠くの人とも会話が出来る魔導具だと聞いていますけど、完成したら凄いことになりそうですね」

「それだけで済む話でもなさそうだけどな。まあそれを考えるのも、完成してからの話だが」


 現在俺が開発中の魔導通信具は、オーロラ・ドラグーンの魔石にいくつかの魔法を融合魔法で融合させてから付与させ、翡翠色銀ヒスイロカネで作った机サイズの筐体に設置している。

 その筐体、眼球をカメラ、耳をスピーカーに見立て、オーロラ・ドラグーンの血液や神経を配線にして繋いでるんだが、これ以上小さくは出来なかった。

 ただ姿を映すスクリーンや声を届けるマイクに問題があるらしく、そこさえ何とか出来ればって感じだろうか。

 まあそれが基幹部分でもあるから、完成まではまだまだかかりそうなんだが。

 音声に関しては風属性魔法ウインドマジックを付与させれば何とかなると思うんだが、問題はスクリーンなんだよなぁ。


「何が問題なんですか?」

「映像、だな。オーロラ・ドラグーンの眼球を使うことで映像も送れるんだが、それをどうやって受け取る筐体に表示させるかで悩んでるんだよ」

「表示、ですか?それって鏡とは違うんですか?」

「ああ」


 鏡は自分の姿や死角を写し込んだり出来るが、反射率が高すぎるからか、上手く映し出せなかったんだよ。

 自分の顔も写ってるから、訳が分からなくなったしな。


「まあ焦って開発してるわけでもないから、じっくりと納得のいくまで考えてみるさ」

「はい、応援していますね」


 はいよっと。

 さて、本殿に到着したし、少しみんなと話してから工芸殿に行くとするか。

 ソレムネとの戦争が終わったとはいえ、統治の手伝いもあるし、まだレティセンシアやアバリシアとの問題も残ってるから、出来るだけ早く完成させるに越したことはない。

 ソレムネの統治を行うヒルデとも、連絡が取りやすくなるしな。

 予定ではヒルデが再びデセオに向かうのは10日後だから、出来ればそれまでに完成させたいところだな。


Side・マリーナ


 クラフターズギルドやバトラーズギルドから帰ってきた大和だけど、なんか疲れた顔してるね。

 多分本殿で話し合ってるプリム達が原因だと思うけど、こればっかりは仕方ないか。

 あたしもアルカに戻ってきてからずっと工芸殿に籠ってるから、何の話をしてるのかは分からないけど、予想ぐらいはついてるしね。


「大和さん、何か大変なことでもあったんですか?」


 心配そうな顔で大和に声を掛けるのは、フィーナの妹フィアナ。

 本当に心配そうにしてるけど、どうせ大和達の問題だし、外野がとやかく言うような事でもないから、放置でもいいと思うよ。


「フィアナ、気にしなくてもいいぞ。どうせアリアと真子のことだろうからな。俺達が何か言っても、なるようにしかならねえよ」

「それはそれで腹の立つ言い方だが、事実だから反論できねえ……」


 やっぱりね。


 アリアも真子も、フロートやベスティアで開かれた戦勝祝賀会で貴族に言い寄られるのを避けるために、大和の婚約者ってことで通したんだけど、今後2人をどうするのかってことを、プリムやマナ様達は話し合ってるみたい。


 プリスターのアリアはまだ15歳だけど神託の巫女ということで大和のとこに来たから、アリアを囲い込めば大和を自由に動かせるかもっていう頭の悪い事を考える貴族を牽制する必要がある。

 アミスターでもトラレンシアでも、そんなことを考える貴族は少ないんだけど、全くいないワケじゃないから、あたしも必要なことだとは思う。


 真子の場合は大和と同じ客人まれびとでエンシェントヒューマンだから、もっと深刻だよ。

 さすがにエンシェントヒューマンを2人も敵に回す馬鹿はいないと思うけど、それでも見返りは大きいから、危険を承知で囲い込みに走ろうとする貴族は出てくる。

 実際ベスティアでの祝賀会じゃ、何人かの貴族の息子が真子に言い寄ってたからね。

 大和と婚約してるって言っても聞く耳持ってなかったから、後で妖王家と当主から大目玉を食らったらしいけど。


「それで、どうなったんですか?」

「まだ話し合いの最中だったが、俺の意見を尊重する形になるだろうって言われてる」


 最終的にはそうなるよね。

 でもそれだったら、とっくに話し合いは終わってそうな気もするんだけどな?


 まあいいや、あとでプリム辺りに聞いてみよう。


「で、大和はその空気に耐えられずに、工芸殿に逃げてきたってわけか」

「な訳あるか。戻ってくる最中にヴィオラから通信具の話が出たから、そっちを何とかしようと思って来たんだよ」


 なるほどね。


 大和が作った通信具は、遠方でも姿を見ながら会話出来る優れものだけど、姿は見えたり見えなかったり不明瞭になったりするし、声も途切れがちだから、改良点は多い。

 声に関しては核になってるオーロラ・ドラグーンの魔石に風属性魔法ウインドマジックを付与させて試してみるそうだけど、問題なのは姿を見ることかな。

 最悪声だけでもやりとり出来れば良いと思うんだけど、通信具自体が机並の大きさだし、姿が見えることも前提とした作りになってるから、そうしてしまうとまた1から作り直した方が楽みたいだね。

 それに大和は、意地でも姿を見ながら話せる通信具を作るつもりだから、何か良い方法がないかを試してみるつもりなんだと思う。


「はあ?水属性魔法アクアマジックを付与させるだぁ?」

「ああ」


 エドが訝し気な声を上げるけど、なんか話が進んでるね。

 というか、どこをどうすれば水属性魔法アクアマジックを付与させるなんて話が出てくるんだろ?


「そこからか。地球にはウォータースクリーンっていうのがあるんだ。水を滝みたいに流したり、霧みたいに噴射させて、そこに映像とかを映し出すんだよ」

「そんなもんがあるのか」


 水に絵を写そうってことか。

 そういえばベール湖も、時々マイライトが写り込んでたっけ。

 それを利用して、相手を映し出そうってことね。


「って言っても真子さんに言われるまで、俺も忘れてたんだけどな」


 ああ、真子のアドバイスなのか。

 確かに大和が知ってたんなら、とっくに考え付いててもおかしくないか。


「さて、まずは実験からだな」

「面白そうだな。俺も手伝うぜ」

「頼む」


 エドも大和の手伝いか。

 でも確かに面白そうだし、あたしも手伝おうっと。

 まずは手頃な水属性の魔石で実験をして、その次は天魔石に加工して使えるかの確認、それから魔導通信具に組み込む形かな。

 それじゃあ実験開始と行こう。

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