第十一章・雪の国に生まれた迷宮
ユニオン・ハウス完成
Side・プリム
フィールに帰ってきてから2日、あたし達はようやく日常に戻ることが出来た。
一昨日の昼過ぎにフィールに帰ってきたまでは良かったんだけど、あたし達はもちろんフィールから出向したオーダー5人も無事に帰還したもんだから、凄い大騒ぎになったのよ。
スリュム・ロードにアントリオン・エンプレスを討伐したこと、多くがエンシェントクラスに進化したこと、レックスさんが次期グランド・オーダーズマスターに決まったことも伝わってたみたいだから、ほとんどお祭りだったわね。
なのにハンターズギルドは人使いが荒くて、昨日は早速マイライトの調査に行かされたわ。
既にマイライトの麓は雪で覆われてるから、オークとかが下りてくることはほとんどないんだけど、雪の積もらない中腹以上で越冬して数を増やしてることは予想されてるから、冬の間でも調査できるならやっておくべきだし、可能なら間引きもしておくに越したことはない。
普通なら獣車とか騎獣とかに乗って麓まで行って、徒歩で登ることになるんだけど、あたし達は移動手段には事欠かないから、マイライトの中腹だろうと山頂だろうと雪を気にせずに行くことが出来てしまう。
さらにはマナ、ミーナ、フラム、リディア、ルディア、アテナ、エオスと、エンシェントクラスが7人も増えて、下手な軍隊より戦力は上になってるから、マイライトでオークの異常種や災害種が増えようと、そこまで気にすることなく討伐を行える。
だからハンターズギルドも、調査依頼という名目で、あたし達にオークの間引きを依頼してきたのよ。
オークの魔石は供給過多で相場より2割程安くなっちゃってたけど、それでもちゃんと買い取ってくれるからまだいいんだけどね。
あとクラフターズギルドに依頼していたユニオン・ハウスだけど、実はそっちは先週完成していて、今はバトラーズギルドから派遣されてる数人のバトラーが管理してくれているわ。
場所は貴族街で、ベール湖の畔。
貴族の屋敷より一回りも二回りも小さいけど、それでも庭付きの3階建てよ。
外観はフィールの街並みに合わせて石造り風だけど、石材は
あたしも詳しくはないんだけど、魔物の骨とか石灰とかを混ぜ合わせたコンクリートっていう石を使ってるって聞いたわ。
庭は貴族の屋敷より小さく、多機能獣車を3台も止めると手狭になるぐらいね。
装飾なんかは控えめにしてるけど、ちゃんと植木はあるし、桜樹も何本か植樹しているわ。
桜樹は大和や真子の住んでた国の象徴の木と似てるそうだから、ユニオン・ハウスにも用意しておきたかったんですって。
アルカに行けばいつでも見られるのに、それとこれとは別問題だって言われちゃったわよ。
門にはイリュージョン・ノッカーが備え付けられたから、ユニオン・ハウス内に設置しているゲート・ストーンと連動して、ユニオン・ハウス内はもちろん、日ノ本屋敷にいても来客が分かるようになっている。
ゲート・ストーンは転移用とは別で用意しなきゃいけなかったけど、こればっかりは仕方ないわ。
ちなみにイリュージョン・ノッカーを鳴らした際に出てくるのは、ルナより小さいカーバンクルになってるわ。
その門を潜って庭を抜けて玄関に入ると、2階への階段がある吹き抜けのホールが広がっている。
ここもそんなに広くないけど、このホールはあくまでも動線だから、これでも問題はない。
このホールに、調度品に偽装させた、イリュージョン・ノッカーに対応してるゲート・ストーンを設置しているわ。
左手側にキッチンや食堂が、右手側にはトイレやお風呂が、そして奥にはリビングと、それを挟むように応接室が2部屋ある。
造りとしては、貴族の屋敷と大差ないわね。
2階はほとんどが客室で、一応8部屋ほど用意しているんだけど、使うことはない気がする。
だけど用意しないわけにもいかないから、とりあえずね。
そして3階は、あたし達のプライベートスペースよ。
と言っても3階には2部屋しかない。
1部屋は多機能獣車が2台並んで止めて置ける広さの部屋以外何もなく、既に多機能獣車試作1号車がしっかりと床に固定されていて、パッと見じゃ獣車とは分からないように装飾も施されている。
ユニオン・ハウスを造った最大の理由はアルカへの転移のためだから、ユニオン・ハウスの設備は必要最低限だけど、試作とはいえ多機能獣車は下手な屋敷より快適に過ごせるし、試作1号車の使用頻度は下がってるから、これも有効活用になるわね。
その部屋の奥には小部屋があって、その小部屋に転移用のゲート・ストーンの設置も終えたから、これでフィールにいながら、いつでもアルカに転移出来るようになったわ。
トラベリングを使えるようになったあたし達だけど、アルカへの転移はトラベリングが使えないから、ゲート・ストーンとゲート・クリスタルは必須。
だからユニオン・ハウスは、絶対に必要だったのよ。
「玄関脇にはイリュージョン・ノッカーに対応したゲート・ストーンの設置も済んだ。1階と2階の設備は注文通りだし、3階はリフォーム出来るように丈夫に作ってもらってるから、こっちも問題なしと。さすがクラフターズギルドだな」
「防犯のためにバトラーズギルドに管理をお願いしてたけど、そっちも助かったわね」
「本当ですね」
1週間程前に完成していたユニオン・ハウスだけど、依頼したのはソレムネへの進軍前だったし、行軍中に完成することは分かってたから、バトラーズギルドにも維持管理依頼を出しておいたの。
トラベリング習得以前から転移石板やゲート・クリスタルを使って、週1ぐらいでフィールやフロート、ベスティアに経過報告はしてたから、そのついでに依頼を出してたのよ。
帝王城を落としてからも2度ほど戻ってきてるんだけど、すぐにデセオに戻らなきゃいけなかったから、完成したって話を聞いてただけで、実際にユニオン・ハウスを見るのは今日が初めてなんだけどね。
それならフィールに帰って来た日に行けばって思うんだけど、帰って来たその日はフィールでも祝勝会が開かれたし、昨夜はマイライトの調査が終わってすぐにアルカに転移したから、機会が無かったのよ。
「管理してくれたバトラーには、引き続き管理を頼むことにするつもりだけど、それでいいか?」
「ええ。マリサ達は私達に同行することも多いし、ホムンクルスはアルカの管理があるから、そうするしかないしね」
マナの意見に、全員が首を縦に振った。
ユニオン・ハウスを管理してくれてたのはCランクバトラー2人とBランクバトラー2人だけど、このまま継続して雇うってことで決定ね。
「ってことはクラフターズギルドで報酬を支払って、その後はバトラーズギルドか」
「だな。ああ、それぐらいは俺1人でも大丈夫だから、みんなは先にアルカに行っててもいいぞ?」
「あたし達はそうさせてもらおうかな」
「セラス様の双剣を作らないとだからな」
「シエル様にも、天球儀を贈らせていただく予定ですしね」
エド、マリーナ、フィーナは、アルカで双剣と天球儀の製作か。
まあセラス様は正式にラウスの婚約者になったし、姉のシエル様もライ兄様の戴冠式と同時に結婚することが決まったから、早めに完成させるに越したことはないわね。
こないだの戦勝祝賀会で、ラウスもライ兄様も、ついに年貢を納める覚悟を決めて2人を受け入れているんだけど、さすがにすぐに嫁げるわけじゃない。
リヒトシュテルンの状況も気になってるから、一度リヒトシュテルンに帰ってハンター登録をしてから、セラス様はウイング・クレストに加入、シエル様は天樹城で暮らしていくことになる。
シエル様はアリアやレイナと同じく戦闘経験は無いけど、ライ兄様と一緒に狩りに行くつもりらしいから、アリアと同じような天球儀を贈ることになったのよ。
アイヴァー様も興味深そうだっただけど、そっちはゴールド・ドラグーンとディザスト・ドラグーンの革を追加で献上したから、防具の製作に張り切ってくれることでしょう。
また大和の刻印具からデザインを引っ張り出してきたけど、シエル様にはピッタリな感じがしたしね。
同じくラウスの婚約者になったフィーナの妹レイナも天球儀を使っているけど、こっちはアリアのスターライト・オーブみたいに防御特化じゃなく、魔法に特化させている。
核となる天魔石は、Mランクモンスター グリフォンの魔石に
さらに装飾として、天辺に翼を広げたグリフォンを飾っているけど、実はこのグリフォンの翼、ミラーリングと
グリフォンの天魔石に付与させた
まあ、グリフォンの翼はガスト・ドラグーンの革を
実際レイナは、ソレムネ進攻中に何度か使ってるんだけど、Sランクモンスター辺りの攻撃は一切通さなかったしね。
その天球儀、レイナが付けた銘はグリフィスライト・スターよ。
「あたし達も、今日はアルカでのんびりする?」
「そうしましょうか。帰ってきて早々にマイライトに行けなんて言われるとは思わなかったし」
「確かにそうですね」
ルディアの意見に真子とフラムが同意し、他のみんなも賛成した。
あたしもその意見に賛成だけど、それならそれで、今の内に話しておかなきゃならないこともあるから丁度良いわ。
「ってことは、あたし達はシエル様とセラス様の武器製作、大和はクラフターズギルドとバトラーズギルドで依頼、他のみんなはアルカでのんびりするってことでいいのかな?」
「そうなるな。ああ、バトラーも誰かついてきてくれるか?バトラーズギルドの規則とか、いまいち理解しきれてないところがあるんだ」
「かしこまりました、それでは私が同行させて頂きます」
大和の要望に真っ先に手を上げたのは、意外なことにヴィオラだった。
真面目で几帳面な性格をしてるから、仕事は正確でミスも少ないし、ユリアの面倒もしっかりと見てるから、あたし達も色々と仕事を頼むことがあるわ。
でも、経験豊富で頼れるエオス、マナ付きということでエオスからもウイング・クレストの筆頭バトラーとして立てられているマリサと違い、あまり前面に出てくるようなことはなく、裏方に徹することが多い子ね。
だからヴィオラが手を上げるとは、正直思ってなかったのよ。
「それは構わないが、ユーリのことはいいのか?」
「はい。アルカでしたらホムンクルスさん達もいますから。それに実は、受けてみたい資格試験があるので、教本を購入したいと思っていまして……」
あー、資格試験か。
バトラーズギルドの資格試験って昇格試験とはまた別だけど、持ってる資格の数が昇格にも関係してるみたいだから、結構大変みたいなのよね。
バトラーズギルドの資格試験は調理とか裁縫とか、他のギルドと関係の深い物が多い。
だからなのか、バトラーズギルドの資格試験に合格すると、資格に関係する
「なるほど。じゃあヴィオラ、頼むな」
「はい」
嬉しそうに大和に答えるヴィオラ。
何気にヴィオラって、大和と2人で行動したことないのよね。
マリサやエオスは、大和がクラフターズギルドへ行く時に同行する事があったけど、ヴィオラは機会がなかったのか、今まで一度も無かった。
あたし達もあんまりないんだけど、それでも何度かはあるから、ヴィオラが嬉しそうにする気持ちも分かるわ。
そのまま大和とヴィオラはクラフターズギルドで報酬を支払い、バトラーズギルドで引き続きユニオン・ハウスの維持・管理を依頼してきた。
バトラーの派遣は3日に一度で、派遣されるバトラーはCランクからBランク。
普段はマリサ、ヴィオラ、ユリア、エオスの4人が管理を行うけど、日ノ本屋敷もあるし、4人はあたし達と一緒に遠出することも少なくないからね。
何人か常駐で雇っても良いとは思うけど、どうするかはもうちょっと考えてからにするべきかしらね。
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