新ギルド構想
Side・プリム
ソレムネ軍とアントリオンの大群を打ち破って、一夜明けた。
予定通り朝食後、ソレムネ軍の捕虜にデセオ到着後の待遇を伝えてから、あたし達ウイング・クレストとサヤさん、シャザーラさん、デルフィナさんは、あたし達の天樹製獣車に乗り込み、エオスに抱えてもらってデセオに向かった。
連合軍のエンシェントクラスは26人になったけど、さすがに全員で行く訳にはいかないから、半数の13人ずつに分かれた形になっているの。
ハンターだけというのも問題だから、第7分隊ファースト・オーダーのデルフィナさんが指名されて同行する事にもなっている。
レックスさんはジェネラル・オーダーで、ローズマリーさんとミューズさんもセカンダリ・オーダーだから、本隊を離れるワケにはかない。
ミランダさんもロイヤル・オーダーを纏める立場だし、何よりロイヤル・オーダーは近衛でもあるから、捕虜が3,000人もいる現状だと動かすのは無理。
だから残ったエンシェントオーダーって事で、デルフィナさんが来るしかなかったのよね。
「一晩立ったとはいえ、まさかエンシェントクラスに進化出来るとは、今でも信じられないよ」
「私もよ。そもそもインサイド・オーダーでエンシェントクラスに進化した方は、ジャンヌ様しかおられない。なのにここに来て、一気に5人も増えてしまったわ」
ジャンヌ・キルシュリヒト様か。
トラレンシアのカズシ様、エリエール様、バシオンのシンイチ様と同時期のOランクオーダーで、歴史上初のインサイド・エンシェントオーダーね。
名前の通り女性で、種族はエルフだったはず。
Oランクオーダーだからこそということで、グランド・オーダーズマスターへの就任を固辞し続けてたそうだけど、最終的にはアソシエイト・オーダーズマスターに就任されたはず。
レティセンシアの迷宮氾濫で現れたA-Iランクモンスター ディザスト・ドラグーンとの戦いで命を落とされてしまったけど、それ以降アミスターとレティセンシアの関係は微妙な物になって、レティセンシアが一方的に難癖を付けてくるようになっているわ。
「大和君が絡んでるんだから、こればっかりはね」
「違いないわね」
「いや、ちょい待ち。何でもかんでも俺のせいにすんのは止めてくれませんかね?」
不本意そうな顔をする大和だけど、この件に関してはあたしも援護出来ないのよね。
あたしの
ハイクラスやエンシェントクラスへの進化だって、大和がいなかったら無理だったと思う。
それはあたし達だけじゃなく、この戦争に参加したアミスター・アライアンスやオーダーズギルドだって同じだわ。
「エンシェントクラスへの進化はもちろん、
あー、確かにサヤさんの言う通りだわ。
エルさんがエンシェントハーピーに進化した際、他のアミスター・アライアンスのハイハンターで、エンシェントクラスに進化する可能性がある人達には、あたし達が持っていたMランクモンスターの革を、格安で譲っているの。
既に装備も完成していて、何日か前から使ってるんだけど、問題なのはオーダーになる。
レックスさんのアーク・オーダーズコート、ローズマリーさんとミューズさんのプラチナム・オーダーズコートは仕立て直してもらってるんだけど、ミランダさんのプラチナム・オーダーズコート、デルフィナさんのオーダーズコートは既存品のままだから、今のままだと近い内に問題が生じてしまうわ。
「そうなんだけど、剣や盾はともかく、コートはオーダーズギルドからの支給品だから、勝手をする訳にはいかないわよ」
「支給品というのは羨ましいが、こんな時は不便だな」
ハンターは、武器はもちろん防具も自分で用意しなきゃいけないけど、オーダーはオーダーズギルドが用意してくれる。
オーダーは国を守るための存在でもあるから、これは当然だけど、だからこそ装備は統一されていて、個人で勝手に変更する事は認められていない。
いえ、武器や盾なら、別に構わないそうだけどね。
「でもソレムネ軍は壊滅したも同然だし、アントリオンも殲滅出来てるはずだから、そのコートに関しては、アミスターに戻ってから考えてもいいんじゃない?」
「それしかないんだけどね。特にデルフィナは、恐らく昇格する事になると思うから、オーダーズコートを仕立て直しても仕方がないと思うわ」
真子とマナの意見に、あたしも賛成だわ。
ミランダさんはロイヤル・オーダーだからPランクだけど、デルフィナさんはGランクで、特に役職についてた訳でもない。
だけどエンシェントオーダーを放置するなんて、国にとって損失でしかないから、少なくともデルフィナさんが昇格するのは確定してると言える。
さすがにOランクオーダーは無理だと思うけど。
「多分オーダーズギルドも、ハンターズギルドに倣ってランク制度を変更する事になると思うわ。大和やミーナを含めると、7人もエンシェントオーダーがいるんだから」
その方が良いかもしれないわね。
ハンターズギルドに倣ってとなると、追加されるランクはエメラルライト、ディライタイトになる。
どちらもAランクより上、Oランクより下になるけど、新しいランクが2つ増えれば、オーダーの功績にも報いやすくなるわ。
だからライ兄様は、今頃新しいオーダーズランクを思案してるんじゃないかしら?
こっちもどうなるか、ちょっと気になってるのよね。
「オーダーズランクも変更か。となると、他のギルドもそうなる可能性がありそうだな」
「あるでしょうけど、ヒーラーズギルドは無理じゃありませんか?使える魔法の問題がありますから」
確かにリディアの言う通り、ヒーラーズギルドだけはランク制度の変更は難しいわね。
「いえ、ハイクラスやエンシェントクラスへの進化を考えれば、不可能って事もないと思うわよ」
「あ、そっか。ハンターズギルドと同じように、進化したら1つ上のランクに昇格させちゃえばいいんだ」
あー、確かにその手があったわね。
ハイヒーラーだろうとエンシェントヒーラーだろうと、治療費はランクで決められているから、進化していようといまいと、報酬で受け取れる金額は変わらない。
だけど進化を条件に1つ上のランクに昇格させる事が出来れば、報酬を上げる事が出来る。
問題は、1つ上のランクに昇格するとなると、
「それもまた、面倒な話だよな。そう考えると、クラフターズギルドやトレーダーズギルド、バトラーズギルドは何とかしやすいかもな」
「確かにね。特にバトラーズギルドは、ハイバトラーやエンシェントバトラーへの進化がランクアップの条件になってる事もあるから、変更するにしてもそこまで大変じゃなさそうだわ」
ウイング・クレストには、4人バトラーがいる。
でもそのバトラー達は全員がハイクラスに、エオスなんてエンシェントクラスに進化してるわ。
バトラーズギルドの昇格条件は試験と経験だし、ハイバトラーは少なくないから、進化しても無条件に昇格って事にはならないけど、それでも変更はしやすいと思う。
「クラフターズギルドも、進化を絡めれば行けそうな気がするわね。トレーダーズギルドは微妙だけど」
サヤさんの言う通り、クラフターズギルドの制度変更も、難しくはないかもしれない。
それに大和、フラム、ルディア、サヤさん、アイゼンさんと、エンシェントクラフターが5人もいるし、ハイクラフターだってあたしが知ってるだけでも7人いるから、クラフターズギルドだって考えないワケにはいかないでしょう。
問題となるのはトレーダーズギルド、そしてプリスターズギルドね。
プリスターズギルドはバシオンがアミスターに復領した関係もあるけど、最上位のOランクプリスターはグランド・プリスターズマスター、そのすぐ下のAランクプリスターはアソシエイト・プリスターズマスターになる。
今でも教皇、枢機卿と呼ばれてはいるけど、それはバシオン教国の指導者としての位階でもあるから、プリスターズギルドとしてはその位階は廃止する方向だと聞いているわ。
プリスターズギルドは宗教組織でもあるから、ハイクラスだろうとエンシェントクラスだろうと、待遇に違いはない。
違いを出す意味がない、と言い換えても良いわ。
プリスターズランクはプリスターの位階でもあるから、制度変更も簡単じゃないし、する意味もないわね。
トレーダーズギルドも、プリスターズギルドと大きく違いはない。
ハイクラスやエンシェントクラスだからって商才があるワケじゃないし、知識があるワケでもない。
お金を稼ぐだけならハンターになった方が稼げるから、ハイクラスがトレーダー登録をするのは、ユニオンで必要があった時ぐらいね。
トレーダーズランクの昇格は、研究内容や納める税金で決まるから、これも変更する意味は薄いと言わざるを得ないわ。
「確かにプリスターズギルドとトレーダーズギルドは、無理に変更する必要はないわね」
「というより純粋な商人と研究者は、分けた方が良い気がするのよね」
「それは俺も思う。同じランクのトレーダーでも、納めた税金と研究内容で異なる事があるみたいだし、研究費用の問題だってあるからな」
あたしも同感よ。
商人は商売をしてお金を稼ぐけど、研究者は研究のためにお金を使うから、同じトレーダーでも真逆の性質を持っていると言える。
それならいっその事、新しいギルドを作って研究者を分離させてしまっても良い気がする。
研究内容によってはハンターやクラフターが関与する事もあるから、トレーダーズギルドだけが負担するのも、何か違う気がするしね。
「そういえば大和さん、以前フロートでお話ししていた総合学校の件は、どうなったんですか?」
「ああ、あれか。状況が変わってきてるから、まだそんな案があるって程度だな」
すっかり忘れてたわ。
以前大和は、全てのギルドを纏めて、総合学校を作ったらどうかって提案した事があるの。
その時は提案だけだったけど、ライ兄様も乗り気になっていたから、グランドマスター達に話をしてみるとか言ってたはずだわ。
「研究者をトレーダーズギルドから分離させるなら、そこに教育者も含めてしまって、学校の運営も任せてもいいんじゃない?スカラーズギルドって事で」
「むしろ完全に分離させた方が、トレーダーの関与を防ぎやすくなるな」
学校の運営を任せるなら、完全にトレーダーズギルドの関与を防ぐ事は出来ないし、むしろ関与してもらわないといけないんだけど、どのトレーダーと取引をするかは学校側、仮称スカラーズギルドが選べるから、悪徳トレーダーを遠ざける事も出来なくはないでしょう。
「それでしたらホーリナーズギルドも、オーダーズギルドに編入させてしまった方が良くありませんか?」
ミーナはミーナで、ホーリナーズギルドをオーダーズギルドに編入してしまったらどうかと提案してくる。
悪くないと思うけど、ホーリナーズギルドの特性を考えると、ちょっと厳しくない?
「ホーリナーズギルドはバシオンを守る聖騎士団だったし、プリスターズギルドを守る騎士団でもあるから、プリスターズギルドの下部組織でありながらもオーダーズギルドの下部組織ってことにした方が良いかもね」
そうなの?
「そうなんですか?」
「ああ。バシオンの運営から離れた事でプリスターズギルドも改変が行われてるし、ホーリナーズギルドも半数以上がフロートに移動してるからな。主任務はプリスターズギルドの警備だが、だからといってフロートの警備をしなくてもいいって訳じゃないだろうし、そうなるとオーダーズギルドとの間で問題が起きることも考えられる」
ああ、そういう事か。
バシオンがアミスターに復領した事で、プリスターズギルドはフロートに新たな総本部を建立することになった。
その総本部とグランド・プリスターズマスター、アソシエイト・プリスターズマスターの護衛や警備のために、ホーリナーズギルドも半数ほどがフロートに移動している。
オーダーズギルドと協力してフロートの警備も行ってるそうだけど、これはホーリナーズギルドの立ち位置が微妙なこともあるから、仮の処遇でもあるって聞いた覚えがあるわ。
さらに新しい総本部を建立するということで、アミスターが新しい装備を寄付という名目で進呈しているから、ホーリナーズギルドも
「それはまた、ものすごく面倒な話ね」
「ちなみにホーリナーズギルドのコートは、オーダーズギルドとは別のデザインになっています」
フラムが見せてくれたのは、大和の刻印具にあったデザインを、マリーナがマイナーチェンジさせたコートだった。
青く裾の長いロングコートと銀色の手甲と足甲だけど、手甲がシールディングが使えるデザインになってるのはともかく、コートは法衣に近い感じがするわ。
「これはグランド・ホーリナーズマスター用だな。コモン・ホーリナーはこれ、ホーリナーズマスターとかはこっちになる」
大和がテーブルに広げたデザインを見ると、コモン・ホーリナー用は普通のコートに見えるけど、装甲は全て内側に着込むタイプで、肩甲の分だけ肩が大きく見える。
ホーリナーズマスターのコートはグランド・ホーリナーズマスターのコートに似てるけど、装飾は控えめになっていた。
「これがホーリナーズギルドのコートなのね」
「ああ。もう完成してるはずだから、着用してると思う」
バシオンがアミスターに復領して1ヶ月以上経ってるから、確かに仕上がっててもおかしくはないわね。
「こんなデザインもあるのね。私も見せてもらったけど、すごく参考になるわ」
サヤさんだけじゃなく、アライアンスのみんなも大和の刻印具からデザインを選んで、それをマイナーチェンジさせてるものね。
サヤさんのコートはプラチナム・オーダーズコートと似ていて、装甲は内側に着けるタイプだから、グランド・ホーリナーズマスターのコートが一番近いかも。
だけど装飾の少ないシンプルなデザインだし、動きやすそうな感じだわ。
いえ、あたし達のクレスト・ディフェンダーコートも動きやすいし、着心地も良いし、見た目も気に入ってるわよ?
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