砂漠の死闘
Side・ルディア
真子や姉さん、リリー・ウィッシュと一緒にトラベリングを使って右翼に転移してきたあたしは、すぐに目の前にいたアントリオン・プリンセスを倒した。
だけど尋常じゃない数だし、それに比例してプリンセスやクイーンもいるみたいだから、油断なんかしたらこっちの身が危ない。
「どきなさい!」
穂先を
「どれだけいるのよ、全く!」
「凡その目算でしかないけど、2,000は下らないでしょうね。しかも異常種や災害種も10や20じゃきかないっぽいから、油断してたら私達でも、あっという間に命を奪われるわ」
サヤさんの予想した数に、あたしは顔を顰めた。
亜人は群れて生活してるけど、多くても100匹単位だったはず。
今まで確認されている最大の群れでも、確か500匹はいなかったと思う。
なのに今回は2,000を超えてて、さらには異常種や災害種まで多数いるなんて、いくらエンシェントクラスが16人いるからって、倒しきるのは簡単じゃないよ。
「聞くんじゃなかったわよ……」
「嘆いてる暇があったら、1匹でも多く倒せって。Wランクも少なくないんだからな」
「はいはいっと」
ぼやきを口にしたシャルロットさんを、ハイドワーフの男性Pランクハンター アイゼンさんが諫めながら、手にした
リリー・ウィッシュは16人のユニオンで、サヤさんがエンシェントラビトリーに、他の人達も全員がハイクラスに進化しているけど、そのサヤさんを含めてもこの場には12人しかいない。
あとの4人は弓術士だから、獣車の展望席から支援攻撃をしていて、同時に本陣の防衛も担っているんだ。
「ここにも弓術士の援護は欲しい所だけど、贅沢は言えないわね」
「仕方がない。まさかこんな事になるとは、予想外も良い所なんだからな」
ハイウンディーネのフロウさん、男性ハイウルフィーのヴォルフさんの言う通り、空を自在に飛べるWランクがいる以上、こっちも弓術士の援護は欲しい。
フライングとスカファルディングがあるから何とかなってるけど、それでも大変な事に変わりはないよ。
「わかってるわよ!てやあっ!」
他の人達も、次々とアントリオンを倒しているし、連携してプリンセスやクイーンまでも倒しているから、あたし達も心強く感じるよ。
「はあああっ!」
裂帛の気合とともに、姉さんが
リリー・ウィッシュの援護を受けたサヤさんの槍が、脳天からアントリオン・クイーンを貫く。
あたしもファイアリング・インパクトを使ってアントリオンを、異常種とか上位種とかの区別なく倒し続けてるけど、数が多過ぎるから、一向に終わりが見えてこない。
大和や姉さんみたいに、広範囲を攻撃できる
「邪魔よ!」
「ひっ!」
サヤさんはソレムネ兵がいるのも構わずに槍を振るい、アントリオンと同時にソレムネ兵も屠っている。
多くはサヤさんに恐れをなして逃げ出してるけど、逃げ出した先にはアントリオンがいるから、次々とソレムネ兵は命を散らし、その数を減らしていく。
対して連合軍は、ノーマルクラスは少し下がってアントリオンやビートル・アントリオンの相手に専念してるけど、ハイクラスは逆に前に出て、ソレムネ兵諸共マンティス・アントリオンを倒している。
エンシェントクラスがいるって事もあると思うけど、これがアミスターのオーダーズギルドに匹敵するって言われてたソレムネ軍とは、とてもじゃないけど思えないよ。
「脇目も降らずに逃げ出して、アントリオンに掴まる、か。哀れなもんだなぁ」
「放っておきなさい。運が良ければ生き残れるだろうけど、そこまでは私達の関与する事じゃないわ」
「そうだな」
アイゼンさんとサヤさんの言う通り、この戦争はソレムネが宣戦布告をしてきたものだし、アントリオン・エンプレスが大群を率いてきたのも、デセオに集められたソレムネ軍を警戒した事が原因だってサヤさん達は言ってたから、完全に自業自得だよ。
それに生き残れたとしても、この戦いを見れば戦う意欲は無くなるだろうから、歯向かうような事もしてこないと思う。
だけど今はソレムネ軍なんかの事より、自分の事を考えないといけない。
多分もう倒したアントリオンの数は100を超えて、200にすら近いと思う。
アントリオンはソレムネ本陣にも攻撃を仕掛けてるし、数としてはそっちの方が多いから、あと200か300も倒せば、あたし達もそっちの援護に行けるんじゃないかな?
連合軍の本隊にはミーナがいるけど、クイーンやプリンセスの数もそっちの方が多いから、あたし達も急いでアントリオンを倒して、救援に行かなきゃ。
Side・レックス
翼を持つアントリオン・クイーンを地面に叩き落とす事に成功した私とミューズは、そのまま2人で相対した。
以前のアライアンスの際、私もミューズもP-Cランクモンスター オーク・クイーンと戦った事があるが、今回のアントリオン・ウイングクイーンはWランクという事もあり、モンスターズランクはP-Wランクになる。
その時は13人のハイクラスが必死の思いで戦い、かろうじて勝利を収める事が出来たが、私もミューズも、その時より余裕があるように感じられる。
「飛ばせるワケがないだろう!」
私が攻撃を引き付けていると、ミューズが飛ぼうとしていたアントリオン・クイーンの翼を斬り付けた。
虫系魔物のように透き通った翼だが、Wランクの翼は翼族と同じように魔力で作られているため、少々の傷ではすぐに再生してしまう。
だが戦闘中に再生させるには、当然だが魔力を使う事になるため、そんな余裕を与えなければいいだけの話だ。
「キュルルルルッ!」
翼を傷つけられた事で怒りに表情を歪ませたクイーンは、右腕にある刃をミューズに向けた。
「『シールディング』!そらっ!」
だがその刃をシールディングを使って防いだミューズは、その腕に向かって剣を振り、斬り落とした。
私、ミューズ、そしてローズマリーの剣は、結婚祝いとして大和君が贈ってくれた物だ。
「キュルラアアッ!!」
ミューズに腕を斬り落とされたウイングクイーンは悲鳴を上げ、憎しみに凝り固まった視線を向けている。
「甘い!」
残った左腕の刃をミューズに向けたウイングクイーンだが、ミューズはその刃を受け流し、左手で構えていた盾を叩き付けた。
盾は
その盾は打撃武器としても使えるため、クイーンは私の方まで吹き飛ばされてきた。
そのクイーンに向かって、私は
「思ったより簡単に倒せたな」
「そうだね。私のアーク・オーダーズコートもミューズのプラチナム・オーダーズコートも、ラインハルト陛下のご厚意で仕立て直して頂いたが、そのおかげもあるだろう」
「私もそう思うが、今後エンシェントクラスに進化するオーダーがいないとも限らないから、素材は少しでも多く用意しておいた方が良い気もするな」
ミューズの心配も、杞憂とは言い切れない。
私のアーク・オーダーズコートはグリフォンを、マリーとミューズのプラチナム・オーダーズコートはレッサー・ドラグーンを使って仕立て直して頂いたが、他のオーダーのコートはフェザー・ドレイクやウインガー・ドレイクが使われている。
私達以外にもエンシェントクラスに進化出来るかもしれないオーダーもいるから、出来る事なら素材は事前に入手し、天樹城で保管しておいてもらう方が良い気もする。
ストレージバッグを使えば素材も痛まないから、私達が中心になって素材を手に入れてくるのも良いかもしれない。
だがグリフォンはMランクモンスター、レッサー・ドラグーンもPランクモンスターだから、おいそれと入手できる素材ではないことが問題か。
「それについては、この戦いが終わってからにしよう」
「それもそうだな。アントリオン・エンプレスは……あちらも終わっているな。では私達は、このまま本隊に合流か?」
「そうしよう」
戦いを終えた大和君達に手を振り、私とミューズは踵を返した。
Side・エル
真子がWランクを倒し、レックス君とミューズがアントリオン・クイーンを引き受けてくれた後、私、大和君、プリムさんの3人は、残ったアントリオン・エンプレスとの戦闘に突入した。
「『シールディング』!っと。せいっ!」
シールディングを使ってアントリオン・エンプレスの攻撃を受け流し、右手の剣で攻撃を加えている大和君。
大和君はドラグーンの革を使って新調したコートを纏っているけど、腕には
大和君は盾を使わないけど、Oランクオーダーだから
元々は盾を破損した時のために、オーダーの標準装備とした手甲だそうなんだけど、その手甲があれば盾を使わない大和君でもシールディングが使えるようになるから、そのためにユニオンのクラフターに作ってもらったそうよ。
同じくGランクオーダーのシーザーも、クラフターズギルドに製作を依頼していたわ。
シーザーは大斧を使ってるから、そのマジック・ガントレットはものすごくありがたいって言ってから。
そのマジック・ガントレットを使ったシールディングで体勢を崩されたアントリオン・エンプレスだけど、さすが終焉種と言うべきか、左手の刃を使って攻撃を受け止めている。
「たあああっ!」
そのアントリオン・エンプレスに、私は大鎌を振り下ろす。
体勢を崩してる上に左手は大和君の剣を受け止めているから、いくらアントリオン・エンプレスといえど私の大鎌を避ける事は出来ず、大きな傷を付ける事に成功した。
終焉種に傷を負わす事が出来るようになるとは、さすがに思った事も無かったわ。
「大和!」
そこにプリムさんが、炎を纏って突っ込んできた。
大和君は慣れたものですぐに離れたけど、アントリオン・エンプレスは避けきれず、左腕と左足が炎によって焼かれ、灰になった。
「2人共、離れて!」
チャンスだと判断した私は、切り札の
今のサイスエッジ・トルネードは、風の鎌を作るのは同じだけど、それをアクセリングを使って自在に操り、竜巻も
エンシェントハーピーに進化してから使うのは初めてだけど、アイスクエイク・タイガーやグラン・デスワームを倒した魔法でもあるから、その時より威力は増してるだろうし、終焉種相手にも効果はあるはずよ。
「キュラアアアアアッ!」
だけど私のサイスエッジ・トルネードを受けたアントリオン・エンプレスは、体表を焦がしながらも炎雷の竜巻から逃れた。
体はあちこちが焼け焦げてるし、傷だって小さくないけど、こんな簡単に抜けられるとは思わなかったわ。
「巨大な隙ありよ!」
でもそのアントリオン・エンプレスに向かって、地上から1本の巨大な炎の槍が襲い掛かった。
プリムさんの切り札、
真下から襲い掛かってきたセラフィム・ペネトレイターによって、腕と足を失っていた左半身にさらに大きな傷を付けられたけど、まだ動けるなんて、どんな体の構造してるのよ。
「トドメだっ!」
アクセリングとスカファルディングを併用して、立体的な動きでアントリオン・エンプレスに近付いた大和君が、アントリオン・エンプレスの首目掛けて剣を振り下ろす。
その剣は寸分違わずアントリオン・エンプレスの首に命中し、胴体から離れていった。
「さすがよね」
「何言ってるんですか。エルさんの切り札があったればこそですよ」
「おかげで大きな隙を晒してくれたしね」
そう言ってもらえると、私としても助かる。
終焉種と直接相対したのは初めてだけど、私1人じゃどうにも出来なかったのは間違いない。
なのに大和君もプリムさんも、終焉種と戦うのはこれが3度目だし、全て倒しているんだから、素直に凄いとしか言えないわ。
そう思いながら辺りを見回すと、レックス君とミューズもアントリオン・クイーンを仕留めたようだし、右翼側にいたアントリオン達もほとんど殲滅出来てるように見える。
数としてはソレムネ本陣に向かったアントリオンの方が多いけど、まだクイーンやプリンセスはいるようだから、急いで本隊と合流しないといけない。
だけど終焉種を倒す事には成功したから、連合軍の負担が減るのは間違いない。
クイーンやプリンセスは、私達が急いで倒せば、犠牲も最小限で済むでしょう。
終焉種相手で神経を擦り減らしたから、出来れば今日は休みたいのが本音だけど、もうひと頑張りするとしましょうか。
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