マイライト山脈の現状
Side・エド
天樹製多機能獣車が完成したことで、俺達がソレムネに殴り込む準備は整ったと言ってもいい。
あとはアミスターやトラレンシアの準備が整えば、アルカを経由してリベルターに転移し、そこからソレムネに向かって進軍開始だ。
今回は俺達クラフターも、後方支援を担うつもりでいる。
いつまでも大和達に頼りっぱなしってのも、良くないからな。
それにだ、実はフィーナの妹フィアナも、俺と婚約しちまったんだよ。
フィアナは鍛冶師になりたいらしいから、俺が色々と教えてたら、いつの間にかってやつだ。
マリーナとフィーナも歓迎してくれてるから、フィアナが成人したら結婚する事になる。
ちなみにフィーナとフィアナの妹のレイナは、ラウスにぞっこんだ。
レイナはイスタント迷宮で、ラウスにウインド・ランスを誤射しちまった事があるが、ラウスはあっさりとそれをいなし、逆に利用してシェル・セイレーンを倒していた。
さらに先日、リヒトシュテルンに現れたキャナル・リノセロス討伐で、リヒトシュテルン大公家令嬢セラス様がラウスに惚れちまった事で、自分もって事でレベッカとキャロルに頭を下げていたな。
なんでレイナは、ラウスの婚約者って事になっちまった。
バレンティアにあるウィルネス山で
とりあえず俺はあと2人、ラウスは2,3人枠があるから、またひと悶着ありそうな気がして怖ええよ。
いや、ラウスの場合は、ガイア様の予知夢で分かる範囲じゃ、その3人目は3年後ぐらいまでは分からねえみたいだが。
「ただいまー!」
「おう、お帰り」
アルカにある日ノ本屋敷の本殿2階のリビングで寛いでると、ラウス達が帰ってきた。
確かラウス、レベッカ、キャロルの3人で狩りに行こうとしてたら、レイナもハンター登録したいとか言い出して、一緒について行ったんだったな。
そのレイナが喜び勇んで帰ってきたって事は、無事に登録出来たって事か。
「レイナ、登録出来たの?」
「うん!ほら!」
そう言って姉のフィーナに、ユニオンライセンスを見せるレイナ。
レイナ
12歳
Lv.26
妖族・ハーピー
ユニオン:ウイング・クレスト
クラフターズギルド:アミスター王国 フィール
クラフターズランク:カッパー(C)
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:アイアン(C-I)
無事に登録出来てるな。
というかIランクに昇格してるって事は、ついでに何か依頼を片してきたのかよ。
「ラウス、何狩ってきたんだ?」
「グリーン・ウルフです。最近、また増えてるみたいなんで」
マジかよ。
いや、確かに元々、フィール周辺にグラス・ウルフは多い。
Iランク最上位の魔物って事で登録したばっかのハンターには荷が重い上に、素材も練習ぐらいにしか使えないから、強さに反して旨みは薄い魔物だ。
グリーン・ウルフはそのグラス・ウルフの上位種でC-Uランクモンスターだから、グラス・ウルフよりはまだ素材の用途は多いが、それでも大してデカくもないから、単体じゃ素材としては使いにくい。
しかもC-Uランクのくせにそれなりに数がいるから、少し経験を積んだ程度のルーキー・ハンターじゃ相手にもならねえ。
そのグリーン・ウルフが、レイナの初依頼の魔物かよ。
「いえ、本当はグラス・ボアを狙っていたんです。ですが私達が狩ろうとしていたグラス・ボアは、運の悪い事にグリーン・ウルフの群れに狩られてしまいまして」
「ああ、それでそのまま、グリーン・ウルフとの戦闘になったのか」
「はい」
こういう時、キャロルはしっかりと説明してくれるからありがたい。
ラウスも説明はしてくれるんだが、時々要点だけかいつまんで話す事があるし、レベッカはそもそも向いてねえのか、大雑把に結果だけ報告して終わりだからな。
ハンターは討伐内容を報告する必要もあるんだから、そこはしっかりしとけよと思う。
「その群れって、どれぐらいいたの?」
「13匹ですね。全部がグリーン・ウルフでしたから、放置する訳にもいきませんでした」
それはまた多いな。
しかもグリーン・ウルフだけの群れとか、ヤバすぎじゃねえか。
まあラウスもレベッカもキャロルもハイクラスだから、グリーン・ウルフ程度じゃ何匹いても相手にならねえんだが。
「結構いたんだね」
「しかも上位種だけの群れって、それ、希少種もどっかにいるって事にならない?」
「ハンターズギルドで聞いたんですけど、いたらしいですよ」
「エスペランサに派遣される前に、スノー・ブロッサムがグリーン・ファングを討伐したって話です。その時にウインド・ウルフも、3匹程討伐したと聞いています」
マリーナとフィーナが、希少種のウインド・ウルフもいるんじゃないかって話してるが、ラウスとキャロルはあっさりと認めやがった。
既にいたのかよ。
というか、またグリーン・ファングが生まれてやがったのか。
「前のグリーン・ファングやブラック・フェンリルは、魔化結晶で進化したって考えられてますからねぇ」
「ああ、そうか。魔化結晶は魔物を無理矢理進化させるから、スノー・ブロッサムが倒したグリーン・ファングの方が、自然に進化した個体って事になるのか」
「そう考えられてますね」
面倒な話だな。
「ただいまー」
「ん?おう、お帰り」
「お帰りなさい」
そんな話をしてたら、今度はプリムとマナ様、真子が帰ってきた。
今日は3人でマイライトに行ってたはずだが、こいつらは3人ともエンシェントクラスだから、マイライトの魔物程度じゃ相手にもならねえ。
マナ様は少し心配だが、ゴルド大氷河じゃホーリー・グレイブのファリスさんと2人でA-Cランクモンスター アバランシュ・ハウルを倒したらしいから、いらん心配かもしれねえが。
「マイライトはどうでしたか?」
「今日は平和だったけど、オーク・プリンスがいたから狩ってきたわ」
なんて言うプリムだが、ちっとも平和じゃねえだろ。
オーク・プリンスって、G-Iランクモンスターじゃねえか。
いや、プリムや真子からすれば、大した事ねえ相手だけどよ。
「また異常種がいたの?最近多くない?」
「そうなんだけどね。でも終焉種が番いになってたワケだから、オークに関してはこんなものじゃないかしら?」
ああ、そっちの問題か。
終焉種は異常種を産むって言われてるし、終焉種が産む子は1日足らずで成体になるとも言われている。
しかもマイライトにいた終焉種はオーク・エンペラーとオーク・エンプレスの番いだったから、普通より異常種が多く生まれててもおかしくはねえ。
「また面倒だね」
「本当にね」
ウイング・クレスト、ホーリー・グレイブ、スノー・ブロッサムがソレムネとの戦争に駆り出されてるせいで、マイライトの調査も捗ってないらしい。
今フィールにいるハイハンターはGランクが6人、Pランクは1人だから、それも無理もない話だ。
オーダーズギルドもレックスさんとローズマリーさん、ミューズさん、ルーカス、ライラの5人がトラレンシアに派遣されてるから、大規模な山狩りは難しいしな。
大和との戦闘訓練でハイクラスは結構増えてるから、出来ない訳じゃないが。
「明日はフロートに行かなきゃいけないから、今度はいつマイライトに行けるかしらね?」
「明後日……は微妙ね。そろそろ進軍の準備も整うだろうから、しばらくは難しいかもしれないわ」
そこは確かに、難しい所だな。
ソレムネの帝都デセオまでは、陸路で向かう事になっている。
デセオ寄りにあるリベルターの橋上都市デネブライトに転移し、そこのソレムネ軍を殲滅してからになる予定だが、デネブライトからデセオまでは、獣車でも2週間は掛かっちまう。
途中でソレムネ軍との戦闘もあるだろうから、下手すりゃ1ヶ月近く掛かるんじゃねえか?
「幸いなのは、マイライトの麓辺りは雪が深いから、オーク達も下りてきにくいことでしょうね」
「ああ、オーク・プリンスを倒したのって、山頂近くだったんですね」
「山頂というか、中腹辺りね」
アミスターは山が多いせいか、冬になるとドカ雪が降り積もる。
フィールの周辺も例外じゃなく、プラダ村に行くだけでも丸一日掛かるし、マイライトに行く道も雪で封鎖されちまうから、この時期マイライト側の魔物は滅多に下りてこない。
マイライトの中腹以上は雪が積もらねえみたいだから、魔物は山頂付近で越冬してるようだ。
オークも同様で、たまにはぐれが単体で討伐されるぐらいだな。
「ですがそれだと、春にはまたオークの数が増えてる事になりませんか?」
「そうなのよね。異常種や災害種がどれだけ残ってるかも分からないから、ライナスさんからもなるべく間引いて欲しいって言われてるんだけど、かといってソレムネを放置する事も出来ないから、結構悩ましいのよ」
確かにそれは、かなり悩ましいな。
この時期は麓から登るのはキツいから、空を飛べる従魔がいないとマイライトの探索は難しい。
だけどプリムはフロライトと、マナ様はシリウスと従魔・召喚契約してるから、その問題はクリアされている。
それ以前に、大和や真子の転移石板を使えば山頂の宝樹まですぐに飛べるから、調査自体はいつでも可能だったりする。
だがソレムネに進軍するとなると、そういう訳にはいかねえ。
特にこの3人と大和はエンシェントクラスって事で間違いなく主力になるんだから、いくら転移出来るからって、勝手に離れる訳にもいかねえしな。
「ソレムネの問題が片付いたら、全員で調査するしかないでしょうね」
「それしかないか」
マイライトの事は、確かにソレムネとの戦争が終わってからにするしかないだろうな。
「ところで大和は?」
「大和?フラムやルディアと一緒に工芸殿にいたぞ」
ルディアもSランククラフターに昇格出来たから、3人で
ハイハーピーに進化したフィーナもだが、フラムもルディアも、1日に10本以上の
大和はエンシェントヒューマンだから、30本以上作っても魔力が尽きる気配はなかったが。
俺とマリーナもハイクラスへの進化を目指しちゃいるが、そこまで急いでる訳でもない。
いや、フィーナが進化しちまったから、なるべく早く進化したいとは思っちゃいるけどな。
「なるほどね。じゃあご飯が出来たら、無理矢理にでも引っ張って来ないといけないわね」
真子のセリフは、俺やマリーナ、フィーナの耳にも痛い。
俺達も工芸殿に入り浸る事が多いが、晩飯時だけは無理矢理連れ出されたからな。
しかも大和の奴やミーナ、アテナが念動魔法を使ってきやがるから、どうやっても逃げられねえ。
それでも、キリの良いとこまでは待っててくれたけどな。
「ところでレイナ、武器はどうする?」
話が一区切りついたとこで、フィーナが妹に武器をどうするか尋ねた。
忘れてた訳じゃねえが、ハンター登録をしたレイナにも武器は必要だからな。
クレスト・ディフェンダーコートは全員分が仕上がってるから、レイナだけじゃなくフィアナも着用しているし、俺達も同様だ。
フラムに
さすがに微調整は必要だから、それはそん時になってからの予定だが。
「ああ、レイナもハンター登録するって言ってたっけ」
「はい、さっき登録してきました!」
ユニオンライセンスを見せながら、初依頼の様子を語るレイナ。
まだ12歳だし、登録したばかりでもあるから、しばらくは無茶な狩りに出る事もないだろう。
いや、イスタント迷宮やセリャド火山にも連れて行かれてるから、絶対ないとは言い切れねえか。
「なるほどね。話を聞く限りじゃ、ユーリや真子みたいに、魔法での支援が良い感じかしら?」
「その方が良いですね」
「うん、あたしもそのつもりです。だから武器は、アリアさんみたいなのが良いかなって思ってます」
アリアみたいなっていうと、星球儀っていう武器だか装飾品だかわからんアレか。
アリアの武器スターライト・オーブは、とても武器とは言えない見た目をしている。
だがムーンライト・ドラグーンの魔石を加工したバカみたいな性能の天魔石を核にしてるし、防御力だって高い。
作るのは大変だったが、結構面白かったんだよな。
「それは構わないんだが、ガスト・ドラグーンの魔石はもう無いぞ」
レイナはハーピーだから、種族特性として
だから出来ればガスト・ドラグーンの魔石を使ってやりたかったんだが、1つは王家に献上してるし、1つはイスタント迷宮でフラムが腐臭対策で使っている。
残りの1つは天樹製獣車の結界の天魔石に加工しちまってるから、もう残ってないんだよ。
ハーピーは
ダーク・ドラグーンやポイズン・ドラグーン、サンダー・ドラグーン、アイス・ドラグーンの魔石ならあるんだけどな。
後はイスタント迷宮で手にいれたアンデッド、スリュム・ロード討伐の報酬で貰ったアイスクエイク・タイガーの魔石か。
「悩ましい所ね。でもポイズン・ドラグーンの魔石なら、毒への耐性も上げられるんじゃない?」
「それは出来ますけど、あまりハーピーと相性が良いとは言えません。まだサンダー・ドラグーンやアイス・ドラグーンの方が良い気がします」
「というかさ、グリフォンの魔石があるから、それで良いんじゃない?」
「「「あっ!」」」
綺麗さっぱり忘れてたぜ。
イデアル連山やイスタント迷宮で、大和はグリフォンを倒してたじゃねえか。
プリムやマナ様も忘れてたみたいだが、グリフォンだってMランクモンスターだ。
ほとんどはアイヴァー様に献上してるが、それは革とか爪とかだから、魔石は全部こっちにある。
そのグリフォンの魔石は風属性だから、十分使えるじゃねえか。
「星になる魔石もあるから、性能的にはアリアのスターライト・オーブと変わらないのが出来るよ。あとはデザインかな」
だな。
こればっかりは大和がいねえとデザインが決めれねえから、飯時にでも聞いてみるか。
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