天樹製獣車完成

 ベスティアの白妖城で行われたアミスターとトラレンシアの会談で、ついにソレムネへの進攻が決定された。


 派遣するのは、トラレンシアからはセイバーズギルドとハンターを合わせて300名程でヒルデも同行する。

 アミスターからはトラレンシア派遣部隊とバシオン派遣部隊で、ラインハルト陛下、エリス殿下、マルカ殿下、サユリ様も参加し、合計で約1,000人程になる。

 だけどリヒトシュテルンや転移先の街の防衛も必要だから、実際にソレムネに進攻するのは700人程になる予定だ。


 総大将は天騎士アーク・オーダーでありAランクオーダーでもあるレックスさんが内定していて、俺はその補佐っていう事になったな。

 もちろんローズマリーさんとミューズさんも補佐って事に変わりはないが、どうやら俺はハンター側の総大将って事になるみたいだ。

 面倒過ぎてイヤになる。


 移動は獣車になるが、トラレンシアのハンター達にもオーダーズギルド専用の試作と俺達の試作を使ってもらう事になる予定だ。

 トラレンシア派遣部隊のハンターは既に完成品の多機能獣車を受け取ってるし、バシオン派遣部隊のハンターもそれぞれが報酬となる多機能獣車が先日完成したから、それを使う事になる。


 セイクリッド・バードの獣車は、後部デッキの半ばにまで展望席がせり出しており、その展望席の幌は開閉式だ。

 ワイズ・レインボーは、キャビンはミラールームや展望席への移動のみにしか使わないために、他の多機能獣車の半分程しかなく、前部デッキと後部デッキがほとんど一体となっている。

 スノー・ブロッサムは、キャビンと後部デッキが一体となっていて、さらに展望席が伸長式になっているから、展望席の面積は一番広い。

 ライオット・フラッグは、前部デッキがかなり狭いが、その分後部デッキが広くなっている。


 全部で30台近いの獣車で移動になるんだが、ソレムネも1,000人近いの人間が乗ってるとは思うまい。


 参加するユニオンには非戦闘員もいるんだが、非戦闘員はフロートに退避が認められることになった。

 だけど戦えなくても出来る事はあるって事で、誰も退避はせず、うちのエド達も参加を希望している。


 ソレムネ陸軍は1万人程いると目されているから、普通なら無謀な戦いになるんだが、こっちには確定してるだけでもハイクラスが200人を超えているし、エンシェントクラスも5人いるから、10倍程度の戦力差は簡単に覆せる。


 もちろん油断は禁物だから、会談の後でリベルターに飛び、30隻ほど蒸気戦列艦を沈めてある。

 ラインハルト陛下やエリス殿下、マルカ殿下も、喜び勇んで沈めてたな。

 まだいるだろうから、明日以降も様子を見るつもりだ。


 その後フィールに戻り、クラフターズギルドで依頼していた天樹製獣車を受け取った。


「いやぁ、楽しかったわ。天樹の枝を大量に使えた事もだけど、いろんな形の獣車を作れたからね」


 乗造部門ビークル・チーフのマランさんは、すげえ満足気な顔をしている。

 試作も含めると、全部で13台の多機能獣車を作った事になるから、その気持ちは分からんでもない。

 総天樹製の獣車は俺達のだけだが、アライアンスに参加したユニオンの獣車にも、部分的にとはいえ天樹が使われてるから、マジでテンションが半端じゃなかったな。


「何度も仕様変更をお願いして、ホントにすいませんでした」

「そこは気にしないで。それも含めて試作なんだから。私達としても、良い勉強になったわ」


 内装はもちろん、本体の拡張や船体の大型化など、上げればキリがないぐらい変更の嵐だったからな。

 試作だから仕方ないっちゃ仕方ないんだが、それでも乗造部門の人達には迷惑をかけたと思う。


「それじゃあ最終確認をお願いね」

「分かりました」


 マランさんと一緒にベール湖の造船所に赴き、そこで車体に接続済みの天樹製獣車と対面を果たした。


 本体と車体は天樹で作られているが、部分的に翡翠色銀ヒスイロカネで補強されている。

 全長15メートル、幅3メートルと、予定より3メートル伸長したが、これはミラースペースを広くするために止む無く変更した点だ。

 高さは、キャビンまでは70センチ程だが、展望席の幌まで入れると5メートル近い。

 キャビンの扉と連動してステップが出てくるから、乗り降りも楽に出来る。

 車輪は大型の6点独立懸架式で、後輪側に車輪を4つ取り付けてある。

 全てグラン・デスワーム製のため、耐久性も高い。

 風属性魔法ウインドマジックも付与させてあるから、重量もかなり軽減されているし、坂路でのブレーキにもなる。


 キャビンは12平米と、普通の獣車より一回り広く、高さも2メートルあるから、大人でも立って歩ける。

 オーガだと微妙かもしれないが。


 前部と後部にはデッキへ出るためのドアがあり、前部ドアの近くには展望席やミラールームへ行くための、ミラーリングを付与して作った階段室もある。


 さらにキャビンには、天魔石も用意されている。

 従魔用の出入口や車体、船体の接続や格納、車輪の交換なんかに使う念動の天魔石。

 雨風や腐臭、獣車からの落下を防ぐための結界の天魔石。

 フラムがデオドリングとクリーニングを融合魔法で融合させた洗浄の天魔石。

 獣車を補修するための天樹の天魔石。

 念動魔法と結界魔法、水属性魔法アクアマジック風属性魔法ウインドマジックを融合させた操縦の天魔石。

 ロッキングを付与させた施錠の天魔石。

 探索系刻印術を付与させた探索の天魔石。

 以上の7つだな。


 前部デッキは、御者席を含めて8平米と、今使ってる試作より広くなっている。

 キャビンの出入口から御者席までは3メートル近い距離があるが、御者席とキャビンはフォートレス・ホエールとディザスト・ドラグーンの革を使った幌で繋がってるから、そこは気にしなくても大丈夫だ。


 後部デッキは20平米と広く、グラン・デスワームの革を使った収納式ベンチや収納式テーブルも備え付けられている。

 側面は縁から小窓付きの仕切りを伸ばす事で、周囲の視界を遮る事も出来るようになってるぞ。


 最後尾には、従魔用の折り畳み式出入口が収納されていて、展開すると高さ5メートルのデカい扉になる。

 念動の天魔石で展開や収納が出来るようになっているから、出し入れも簡単だ。


 展望席は一部後部デッキにせり出しているため、18平米ある。

 後部デッキ同様、壁に折り畳み式の椅子やテーブルが収納されているから、有事の際は邪魔になる事もない。

 展望席にも幌があるが、こちらの幌はゴールド・ドラグーンとディザスト・ドラグーン、フォートレス・ホエールの革を使ってるから、ちょっとやそっとの攻撃じゃビクともしない。


 キャビンにある階段を下り、ミラールームに入ると、そこもかなり広々としている。

 俺がミラーリング50倍付与をした事もあるが、総面積は1,500平米あり、高さも20メートル程あるから、少しなら従魔が飛んでも大丈夫だ。


 俺の寝室が80平米、エドとラウスの寝室は60平米で、同じ大きさの寝室をあと1つ用意してある。

 俺の寝室が一番広い理由は、俺の嫁さんは12人になるからで、内装はどれも同じく、ベッドにリビング、風呂とトイレがあるぞ。

 しかも俺の寝室は、ベッドだけで20平米占めてるからな。

 基本全員で寝るから、仕方ないっちゃ仕方ないんだが。

 風呂も20平米あるし、リビングは30平米、トイレは10平米使ってるから、下手な宿屋より快適に過ごせる。

 まあ獣車が巨大になったせいで、宿の部屋に持ち込めなくなったのが欠点っちゃ欠点か。


 貴賓室は50平米を3部屋、使用人室は40平米、工房も40平米使って用意した。

 トイレは寝室と貴賓室、使用人室には備え付けてあるが、それとは別に40平米使って用意している。

 小さな風呂も各部屋に備え付けているが、それとは別に90平米使って大浴場も用意してるから、旅先でも大きな風呂に入れるぞ。


 客室は試作2号車と同じような感じで、6平米を50部屋用意することにした。

 5平米にグラン・デスワームを敷き詰めて寝台にしてるから、本当に寝るためだけの部屋になっているが、3人ぐらいまでなら寝れると思う。

 俺達もそうだが、遠征とかに出ると夜の方も解消する必要があるし、そうしないと要らんトラブルを招きかねないってファリスさんやスレイさん、エルさんから忠告を受けたから、試作1号車の客室もこの方式に変更してもらってあるし、各部屋の仕切りには風属性魔法ウインドマジックを付与させて、しっかりと防音対策も取ってあるぞ。

 風呂やトイレはないが、それは共同のを使ってもらえば解決するし、部屋を分けている仕切りは動かす事も出来るようになっていて、最大で5部屋分を使う事が出来るから、状況によって使い分ける事も可能だ。


 リビングは150平米だが、仕切りを使う事で50平米単位で広さを調節出来るようにしている。

 そのリビングに隣接させるように30平米のキッチンがあるから、大人数の料理も作りやすいだろう。

 中庭は400平米あるから、従魔達も伸び伸びと過ごせる広さがある。


 さらに閉塞感を払拭するために、各部屋には小さな小窓があり、外の様子も見る事が出来るようになっている。


 そして船体だが、こちらは総翡翠色銀ヒスイロカネ製で、全長25メートル、幅9メートルと、かなり大きい。

 獣車を船体に乗せる形になるが、デッキは前部後部共にかなり広くなり、俺が開発したハイドロ・エンジンも搭載しているから、魔物に引かせなくても動いてくれる。

 操縦に関しては操縦の天魔石を使い、側部の水流を調整する事が可能だ。

 もちろんハイドロ・エンジンが壊れる事もあり得るから、魔物が引く事も想定しているぞ。


 車体や船体は、本体後部にある収納式ストレージスペースに格納でき、そこには予備の車体や車輪も用意されている。

 普段はロッキングで施錠してあるから、収納式ストレージスペースはもちろん、キャビンに不審者が入ってくるような事もない。


 そして本体には、竜化したアテナやエオスが保持しやすいよう、サポート用としてディザスト・ドラグーンとグラン・デスワームの革で作ったベルトが装備されている。

 本体だけでも3トン近い重さがあるんだが、竜化したドラゴニアンは10トン程度までなら何の問題もなく持てるみたいだし、ハイドラゴニアンに進化しているアテナとエオスは、50トン以上の物でも片手で持てるから、俺達がデッキに出ても問題ないのがありがたい。


「全て注文通りですね。ありがとうございます」

「試作を作ったおかげよ。そうじゃなかったら、後から山のように問題点が出てきたでしょうからね」


 それは俺も思う。

 最初の試作でも十分だと思ってたんだが、後から後から問題が発覚して、その都度仕様変更をお願いする羽目になったからな。

 桜樹製でも作り直すのは大変なのに、この獣車は天樹製だから作り直しなんて出来る訳がないから、マジで試作を作って良かったと思ってる。


「それとハイドロ・エンジンだけど、もうちょっと改良したいって事だけど、あれじゃダメなの?」

「いえ、それは俺の拘りなんで、操縦の天魔石をセットにする分には問題ないですよ」


 ハイドロ・エンジンは船尾の大型噴出口と、左右の小型噴出口の3つから構成されているが、方向転換の際は左右の噴出口の水流を調整しなきゃいけないから、操縦の天魔石は必要になる。

 結界魔法を付与させてあるから水以外は通さないし、念動魔法をカバー代わりに使う事で、微速ながらも後進が可能になっているから、操縦の天魔石が無いとどうにもならないんだが。


「分かったわ。じゃあ早速、使わせてもらうわね」

「了解です」

「ああ、それとグランド・クラフターズマスターには、大和君から直接報告してね」


 俺から?

 いや、そういうのってクラフターズマスターからするもんじゃないの?


「既に報告は上げてるわ。だけど大和君の許可が出ないと、私達も使えないのよ。それにクラフターズマスターが報告書を送るより、大和君が直接行った方が早いでしょう?」

「まあ、それは確かに。それじゃあ明日もフロートに行く予定があるんで、その時にでも報告しておきますよ」

「よろしくね」


 そういう事なら仕方がない。

 マランさんだけじゃなくラベルナさんからも早く許可を出せって催促されてたから、早い方が良いだろう。

 明日はセラス嬢の事でラインハルト陛下やライアー大公を交えて話し合う事になってるから、ついでに報告しておこう。


 後はレッド・ブレスレットのベルデとヴィオレッタ、そして孤児達の姉代わりでもあるカメリアだな。

 ベルデとヴィオレッタは、ノーマルクラスの2人と共にフロートで力をつける道を選んだからまだいいんだが、問題なのはカメリアだ。

 16歳のヒューマンでレベル32のBランクハンターなんだが、ソレムネが攻めてきた日はたまたま孤児院に来ていて、目の前で何人もの孤児達が、理不尽に命を奪われる様を目撃してしまったため、どうしてもソレムネに一矢報いたいらしい。

 気持ちは分かるんだが、カメリアと同レベルのハンターは多く、ハイクラスに進化してる訳でもないから、ソレムネ進攻アライアンスには参加できない。

 どこかのレイドに加入するにしても、既に参加するレイドも決まってるから、割り込むのも難しい。

 ただプリムやフィーナはカメリアの気持ちが分かるって言ってるから、何とかしてやりたいとも言ってたな。


 アミスター、トラレンシアともに準備が整うまでは数日掛かるが、それまでにどうするかを決めなきゃならない。

 ウイング・クレストに加入させるのはいいんだが、事が終わったらさようならっていうのも問題だから、そこもしっかりと確認しなきゃだしな。


 そのカメリアと孤児達は、今はリリー・ウィッシュが出た孤児院に身を寄せてるそうだから、明日はそっちとも話し合わないといけないな。

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