バシオン派遣アライアンス
ソレムネの蒸気戦列艦に襲われていたバリエンテの西にあるオヴェスト、その街を救った後、オヴェストの領主ネージュ王爵から、俺達はバリエンテの真実を聞かされた。
もちろんネージュ王爵の言ってる事が事実だって断定するのは危険だが、嘘だとも言い切れない。
その理由の1つが、獣王がプリムの亡命を認めた書状だ。
あの書状には、プリムの身を案じ、生きてた事を喜んでいた雰囲気も感じられた。
そのプリムは、黙ってネージュ王爵の話を聞いていたが、今は何か決意したような顔をしている。
だけど突然飛び出すような素振りも見せてないし、そんな雰囲気もない。
だから俺も安心していられる。
そして緊急性が高いと判断したラインハルト陛下に従って、俺達は一度アミスターに戻ることにした。
天樹城に戻ってすぐ、ラインハルト陛下はグランド・オーダーズマスターやロイヤル・オーダー達が呼び集め、50人いるロイヤル・オーダーの内30人をバシオンに派遣することを決定された。
バシオンを攻める予定の艦隊がいると仮定してだが、多分オヴェストを攻めていた艦隊と同時に出航しているだろうから、最大限見積もっても3日程度しか猶予がない。
それまでにバシオンに派遣するオーダーなりハンターなりを選出しなきゃいけないんだが、オーダーズギルドはレティセンシアや反獣王組織を警戒するために動員されているし、トラレンシアにも500人弱が派遣されている。
だからラインハルト陛下はロイヤル・オーダーを動かす事を決定したんだが、まさか半数以上のロイヤル・オーダーを派遣するとは、思い切った事をするな。
今回は急ぎということもあって、ロイヤル・オーダーは俺達の獣車に同乗してもらって、アテナに運んでもらうことになっている。
エオスは今日は一度竜化してもらってるから、あんまり無理をさせるわけにはいかないからな。
オーダーズギルド専用の試作獣車はまだ5台あるから、バシオンでの移動にはそちらを使ってもらうことになる。
この後ハンターにも声を掛ける予定だが、そのハンター達にも使ってもらうつもりらしい。
「大和としては、どのレイドに声を掛けるつもりなの?」
「スノー・ブロッサムとワイズ・レインボー、セイクリッド・バード、後はライオット・フラッグだな。俺が知ってるハンターはそんなに多くないから、どうしても限られる」
ロイヤル・オーダーをエスペランサに送り届けた夜、アルカで声を掛けるハンターをどうするかを話し合ってるんだが、マジでどうしたもんかと思う。
他にもいくつかのレイドは知ってるが、Sランク、じゃなくてGランクハンターが1人しかいなかったり、そもそもハイクラスがいなかったりっていうレイドばかりだから、さすがに荷が重い。
「あたしもなのよね。マナはフロートのハンターに顔が利くんだから、マナが決めてもいいと思うわよ?」
「そりゃ名前ぐらいは知ってるけど、私だってあんまり交流は無かったわよ。私の立場が立場だったから」
それを言われてしまうと、俺としても何も言えないな。
フロートでハンターとして活動していたマナだが、アミスターの王女っていう立場もあって、気軽に他のハンター達と組む訳にはいかなかった。
だからトライアル・ハーツやホーリー・グレイブと行動してたぐらいだ。
もちろん他のハンターと組んだ事が皆無ってわけじゃないが、それだってホーリー・グレイブと一緒にだったって聞いてるし、そのハンターも王女様とって事で緊張してただろうから、頻繁に交流ってのも難しいだろうな。
「大和さんの上げたレイドも一流以上の実力と実績をお持ちですから、バシオンに派遣するのは問題ないと思いますけど、これで10ものレイドがアミスターから出てしまう事になるわけですから、アミスターとしてもかなりの戦力低下になりませんか?」
「それなのよねぇ。でもバシオンに援軍を派遣しないっていう選択肢はないから、この際仕方ないわ」
確かにミーナの言うように、アミスターのトップレイドが軒並み他国に派遣される訳だから、アミスターの戦力は低下している。
俺達はアルカを経由する事ですぐにアミスターに戻って来れるし、いざとなったら派遣しているハンターやオーダーもそうする事になってるから、今回の大規模派遣が叶った面もあるが、だからといって戦力的に許容出来るかは別問題だ。
「後はアルジャン公爵も、トラレンシアから移動してもらった方が良いかもしれないわ。トラレンシアに渡ってもらってるとはいえ、今は海氷があるから襲撃もないでしょう。それならいっそ、バシオンに移動してもらうべきだと思うのよ」
確かに真子さんの言う通りだな。
海戦のエキスパートでもあるアルジャン・モントシュタイン侯爵は、海氷で覆われているトラレンシアの海でもソレムネが攻めてくる可能性を考慮して、ラインハルト陛下の指示で派遣されている。
今の所はそんな気配はないが、だからといって簡単に移動してもらう訳にもいかない。
だけど今はトラレンシアよりバシオンの方が危険だから、移動してもらった方が良いかもしれない。
「そうね。そうなると護衛も必要だから、誰かに来てもらう必要もあるわ」
だな。
スリュム・ロードを討伐出来たおかげで、トラレンシアもセリャド火山への警戒度は下げられる。
だからオーダーも、1分隊ぐらいは護衛に付けられる気がするし、出来る事ならそうしてもらいたい。
「ともかく明日だな。スノー・ブロッサムはフィールだけど、ワイズ・レインボーやセイクリッド・バードはフロートだし、ライオット・フラッグはポラルだ。狩りに出る事も考えられるから、朝一で行動しないと」
「そうですね、手分けしましょう。私はルディアやアテナと一緒に、ポラルに行きます」
「じゃあ私とミーナさんはフィールで」
「お兄様に伝える必要もあるし、私とユーリはフロートね」
「じゃあ私とプリムはリオか。大和君はフロートに行ってから、転移を繰り返してもらう事になるのかしら?」
そうなりますねぇ。
真子さんも転移石板を使えると思うが、その転移石板はまだマイライトの山頂で手に入れた物しか持ってないんだよな。
セリャド火山にも宝樹はあるが、そっちはスリュム・ロードがいなくなったから、手に入れやすくなってるはずだ。
今度時間が出来たら、取りに行かないとな。
翌日、スノー・ブロッサム、ワイズ・レインボー、セイクリッド・バード、そしてライオット・フラッグは、手分けして声を掛けた事が功を奏し、全員が協力を快諾してくれた。
ラインハルト陛下からも正式に指名依頼として処理され、報酬はトラレンシアに派遣されたハンターと同じ獣車も提案されている。
さらにリオからは、アルジャン公爵と、護衛として第3分隊が派遣される事も決まった。
既に第3分隊はアルカで待機してもらっているが、ハンターはこれからアルカを経由してバシオンに派遣する事になるから、正式な依頼手続きが終わった今、アルカに転移するために移動をしている最中だ。
「初めて乗ったが、本当に凄いな」
セイクリッド・バードとライオット・フラッグが試作獣車に乗ったのは、これが初になる。
イスタント迷宮ではモンスターズ・トラップから助けた後、すぐに地上に戻ったから、乗る機会はなかったんだよ。
「セイクリッド・バードもイスタント迷宮で助けてもらったって聞いたけど、乗ってはいなかったのか」
「ああ。私達はモンスターズ・トラップから助けてもらってすぐ、陛下から合金を手に入れるための紹介状を頂き、地上に戻ったからな。せっかくだからって事でフロートに戻り、そこで手に入れたと思ったら、いきなりトラレンシアに派遣を打診されたから驚いたよ」
「それは私達もよ。でもあんまり多くトラレンシアに派遣するのもどうかと思って、私達は残ることにしたんだけど、そしたら今度はバシオンに行けって、本当に人使いが荒いわよね」
セイクリッド・バードのリーダー、シャザーラさんと、ワイズ・レインボーのリーダー、フラウさんが、俺を見やりながら笑みを浮かべている。
人使いが荒いっていう自覚はあるが、緊急事態なんだから容赦してあげてください。
「分かってるよ。トラレンシアじゃ大変だったみたいだけど、今回もまた大変みたいだからね」
「ああ。万が一バシオンが落ちたりすれば、
ライオット・フラッグのリーダー、ラークさんと、スノー・ブロッサムのリーダー、プラムさんも、ソレムネの侵攻からバシオンを守る事の重要性を、しっかりと理解してくれている。
ハンターが政治に関わる事は無いが、政治的な判断が下せない訳じゃない。
特にGランク以上のハンターは、国と関わるような依頼を受ける事だってあるから、それぐらい出来ないとやっていけないし、万が一の際は最前線に立つ事にもなっているから、現在の世界情勢がどうなっているかは常に調べているし、場合によっては自主的に対処することだってある。
「ところで大和君、スリュム・ロード討伐の褒賞として、トラレンシアの女王陛下とも結婚するんだって?」
げ、プラムさんが意地の悪い笑みを浮かべてやがる。
「ああ、その噂、やっぱり本当だったのね」
「オーク・エンペラーやオーク・エンプレスに続いて、今度はスリュム・ロードか。相変わらずとんでもないね」
スリュム・ロード討伐の報は、既にアミスターにも届いているし、同時にオーク・エンペラーやオーク・エンプレスの討伐も公表されている。
疑っていた貴族もいたそうだが、魔石どころか剥製まで見せたら黙ったって話だし、そのおかげで俺達への褒賞が過剰だっていう意見も吹き飛んだらしい。
さらにスリュム・ロード討伐の褒賞として、俺とヒルデの結婚も公表されている。
さすがに結婚はヒルデが退位してからになるが、それでもこの方々が知ってても何の不思議もない。
「まあ、そういうことになりましたねぇ」
とはいえヒルデは、スリュム・ロード討伐戦の事後処理があるから、まだアルカには来れていないんだよな。
一応
まあセイバーズギルド・クラテル支部も、アルベルトさんがスリュム・ロード討伐戦の褒賞として
「アミスターの王女殿下が2人に侯爵家当主、アソシエイト・オーダーズマスターのご令嬢、元とはいえバリエンテの公爵令嬢、バレンティア最強の竜爵の双子のご令嬢、
「普通の村娘のフラムちゃんが、よく気後れせずいられるって感心できるものね」
「わ、私ですか?」
ここで流れ弾が、フラムに飛んだ。
確かにプリムはバリエンテの元公爵令嬢だし、王位継承権まで持っていた。
マナとユーリは、言わずもがなアミスターの王女様。
リカさんは侯爵家当主だし、ミーナだってアソシエイト・オーダーズマスターの娘になる。
リディアとルディアはバレンティア最強の竜騎士と言われているフレイアスさんの双子の娘だし、アテナなんて
さらにトラレンシア女王っていう肩書を持つヒルデが加わるんだから、プラダ村で普通に育っていたフラムには目上過ぎる人種のオンパレードだ。
ヘリオスオーブじゃ平民と結婚する貴族だって珍しくないんだが、それでもこれだけの肩書や立場が並ぶと、普通に気後れする。
フラウさんもそう思ってるようで、フラムに同情しつつも意地の悪い視線を向けている。
「え?い、いえ、そのっ!」
しどろもどろになるフラムには悪いが、俺にもどうすることも出来んぞ。
とはいえ生贄に差し出すのも躊躇われるから、何か話題を変えないと。
あ、獣車!
俺は4つのレイドの報酬となる獣車の外観や内装をどうするかを聞く事で、話題を逸らす事に成功した。
こちらの皆様も俺の世界のクルーザー系の外観をご希望されているが、なんでハンターはクルーザーを希望なさるんだろうか?
いや、俺もそうだから、人の事は言えんのだけどさ。
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