エンシェントクラス対蒸気戦列艦
俺、プリム、マナ、真子さんの4人は獣車のデッキから飛び降りると、眼下でオヴェストの街に砲撃を続けているソレムネの蒸気戦列艦に向かった。
俺はマルチ・エッジとミラー・リングを、真子さんはエアー・スピリットを生成済みで、さらに俺はアーク・オーダーズコートに着替えてある。
前回もそうだったが、今回もアミスターのOランクオーダーとして動いた方が良いからな。
「な、なんだっ!?」
「ば、馬鹿な……!?」
「空に……浮いてる?」
真子さんのアルフヘイムが砲弾を全て撃ち落とし、俺達4人はオヴェストの街を守るように舞い降りた。
上から来るとは思ってなかったようで、ソレムネの軍人達はかなり驚いてるな。
フライングとスカファルディングのおかげで空でも動けるようにはなったが、どちらも
「降伏するなら命は助けるが、どうする?」
そう言って俺達は、手近な戦列艦にライセンスを投げつける。
「ば、馬鹿な!エンシェントヒューマンだと!?」
「こ、こっちはエンシェントフォクシーだ!」
「エンシェントヒューマンがもう1人!?」
「エ、エンシェントエルフまで!?」
エンシェントクラスが4人も目の前にいるからか、パニックが伝播するのも早いな。
「いいいいい、いかにエンシェントクラスといえど、この蒸気戦列艦を以てすれば、敵ではない!各艦、砲撃用意!目標はエンシェントクラスだ!撃てぇぇぇぇぇっ!!」
どもりながらも俺達を敵とみなし、攻撃してくるか。
「殲滅確定ね。分かり切ってた事だけど」
「まあね。それにしても、凄いわね。アルフヘイムだっけ?全然こっちに砲弾が飛んでこないんだけど?」
「結構面倒なんですよ。だからさっさと沈めましょう」
アミスターとトラレンシアで調べた蒸気戦列艦は、30門ずつの大砲を積んでいた。
片舷12門ずつで、船の前後に3門ずつってとこになるが、それでも20隻いるから、200門以上の大砲に狙われていることになる。
だけど真子さんのアルフヘイムおかげで、砲弾は全くこちらまで飛んでこない。
真子さんは素で半径300メートル以上に広域系を展開できるが、エアー・スピリットやスピリチュア・ヘキサ・ディッパーを生成すれば半径500メートルはいけるそうだから、恐ろしい事に全ての蒸気戦列艦が真子さんのアルフヘイムの領域内に入っており、そのせいで砲弾は撃たれた瞬間に海に落ちていく。
刻印法具を生成しても俺は半径200メートルが限界で、どう頑張っても300メートルは無理だし、何より生活型刻印法具は刻印術の制御能力が俺の装飾型や消費型の比じゃないから、広域殲滅戦だと真子さんが圧倒的に上だ。
それでもかなり面倒らしく、真子さんは早く沈めたがっているが。
「了解。ああ、降伏勧告を無視したんだから、命が助かるなんて思うなよ?」
俺はアイスエッジ・ジャベリンを作り出し、ちょっと距離がある戦列艦に撃ち出し、プリムはフレア・トルネードを、目の前の戦列艦に放った。
「ぎゃああああああああっ!!」
「あ、熱い!熱いよおおおおおっ!!」
アイスエッジ・ジャベリンが命中した戦列艦は、船体に穴をいくつもあけて、ゆっくりと沈んでいくが、やっぱこれだと手間が掛かるな。
だけどプリムのフレア・トルネードの直撃を受けた戦列艦は、船上に炎の竜巻が巻き起こり、甲板どころか船体そのものを溶かしていく。
というかプリムさん、マジでお怒りですよ。
「バリエンテに……オヴェストに攻めてきた以上、生きて帰れるなんて甘い考えは持たない事ね!」
オヴェストを含む西の王爵領を治めているネージュ・オヴェスト王爵は、プリムの従姉で、実の姉にも等しい人だと聞いた。
その人が住むオヴェストに攻めてきたばかりか、既に何発もの砲弾を撃ち込んでるんだから、プリムがソレムネを許す理由はない。
スカーレット・ウイングを構え、フレア・ペネトレイターを纏うと、フライングとアクセリングを使って次々と戦列艦のどてっぱらに大きな穴を空けていく。
「怒るのも無理もないけど、あのままだとプリム1人で殲滅しちゃうわよ?」
「楽でいいんだけど、せっかく降りてきたんだから、1隻ぐらいは沈めておきたいわね」
そう言って真子さんは、プリムと反対側の戦列艦を対象にアルフヘイムの強度を上げ、さらにはムスペルヘイムまで重ねた。
酸素濃度が上がったせいで、ムスペルヘイムの炎がよく燃えるなぁ。
鉄の船体が熱を持つのは当然だが、そのせいで逃げ場がなくなってるぞ。
「私も何か、広範囲に効果を及ぼす
そう言いながらマナも、
マナのスターリング・ディバイダーは召喚獣の
その代わりって事で、自分の
「って、もうほとんど沈んでるじゃねえか!」
3人の暴れる姿を茫然と見ている内に、8割以上の戦列艦が海の藻屑となっていた。
あ、残ってた3隻も、プリムのフレア・ペネトレイターと真子さんのアルフヘイム、そしてマナの融合魔法を纏わせた大剣の直撃を受けて沈んだ。
俺、アイスエッジ・ジャベリンをかました戦列艦しか沈めてないんだが?
Side・エリス
眼下に広がる光景は、果たして何と言ったらいいのかしら?
いえ、蒸気戦列艦が、海の上から一方的にオヴェストに砲撃を加えていたのは見えてたから、それはそれで十分戦慄すべき内容だったわ。
だけど問題は、その後だったの。
エンシェントヒューマンの大和君と真子さん、エンシェントフォクシーのプリムさん、そしてエンシェントエルフに進化したマナ様が、獣車の後部デッキから飛び降りて、フライングやスカファルディングを使って蒸気戦列艦の前に降り立ったまでは良かったんだけど、その後がヒドかったのよ。
「……マナも順調に、人外への道を歩み始めたのだな」
マナ様の兄にして私の夫でもあるアミスター王国国王ラインハルトが、遠い目をしている。
マナ様がエンシェントエルフに進化した事は私達も驚いたけど、大和君と結婚してからは凄い勢いでレベルを上げていたから、時間の問題だとも思っていた。
だけどまさか、30メートル近い蒸気戦列艦を一刀両断に出来るとは思わなかったわ。
進化したばかりのマナ様でもここまでの事が出来るのなら、同じタイミングで進化したけど戦闘経験は豊富なホーリー・グレイブのリーダーでエンシェントフェアリーのファリス、数十年も前にエンシェントウルフィーに進化されているグランド・ハンターズマスターも、同じ事が出来るという事になってしまう。
え?大和君やプリムさんや真子さん?
あの3人だからってことで納得してるけど?
「で、カルロス達の意見は?」
私の同妻であり、頼れる相棒でもあるハイアルディリーの王妃マルカが、私達の護衛として同行している3人のロイヤル・オーダーに、意見を求める。
「……それは蒸気戦列艦についてでしょうか?それとも殿下方についてでしょうか?」
私達と違って大和君達が戦う姿を見るのは初めてだから、ロイヤル・オーダーは私達以上に眼下の光景に戦慄していたの。
今もその衝撃に気圧されたままだけど、それでもマルカに質問を返す事が出来ているから、私としては凄いと思う。
「とりあえず、蒸気戦列艦についてからかな」
マルカの不穏なセリフに怖気づくロイヤル・オーダー達だけど、それでも私達以外の者の意見も欲しいから、私としても興味がある。
「は、はっ。上から見るに、蒸気戦列艦はオヴェストから3キロ程離れているように見受けられます。ですがその距離から、一方的に攻撃を加えているのですから、まさに脅威の兵器と言う他ありません」
「しかも20隻の蒸気戦列艦が、側面に用意されている大砲を一斉に撃ち込むのですから、制圧力は尋常ではないように思います」
「プリムローズ様がフライング、真子さんがスカファルディングという新たな魔法を奏上なさいましたが、その魔法がなければ、どのように対処すべきなのか、私には思いつきません」
ハイエルフのカルロス、ハイヒューマンのリザ、ハイウンディーネのクレアが答えるけど、私も同感だわ。
陸の上だったら何とか出来ると思うけど、海の上ともなると近付く事すらままならない。
プリムさんと真子さんが新しい魔法を奏上してくれなければ、1隻沈めるだけでもとんでもない被害が出ていたでしょう。
「蒸気戦列艦については、私達と概ね同じ意見か」
「それも仕方ありません。初見で対策を講じろと言われても、何も出て来なくても不思議ではありませんから」
ライとユーリ様の意見に、私も賛成するわ。
結界魔法や
大和君はミスリル・コロッサスの魔銀弾を再現したようなものだと言っていたけど、数の面で考えると蒸気戦列艦の方が上だとも思える。
一撃の威力は、ハイクラスなら耐えられるだろうとも言っていたけど。
「まあね。それで、あの4人のエンシェントクラスについては?」
大和君達だけならいくらでも答えられるだろうけど、マナ様もあの中にいるんだから、ロイヤル・オーダーには答えにくいでしょうに。
いえ、私も興味がないわけじゃないんだけど。
「えっと、その……」
「構わないから、好きに答えてくれ。別にその程度で処罰を科す事は無いし、科そうとも思ってないから」
苦笑するライだけど、それはそうでしょう。
この程度で処罰なんてしてたら、普通に暴君の烙印を押されるわよ?
「よ、よろしいのですか?」
「今更だからな。マナもその領域に足を踏み入れた、それだけだ。その結果、評価が人外のものとなっても、ある意味では当然だろう」
私達は大和君達と共にイスタント迷宮を攻略したけど、その大和君とプリムさんは、たった2人でA-Cランクモンスターの
だから、同じくA-Cランクモンスターのアバランシュ・ハウルを、ファリスと2人で倒してしまったマナ様の評価も、そうなっても何もおかしくはないものね。
「そ、それでは、無礼を承知で申し上げます。エンシェントクラスがあそこまでの戦闘力を持っているとは、正直思っておりませんでした。同じ人間だというのに、あそこまで差が出るものなのかと……」
「蒸気戦列艦は鉄船だと聞いておりますが、あれでは木造船の方がマシなのではないかと……」
カルロスの意見に、私も心の底から同意する。
大和君と真子さんは
なのにそのマナ様は、あろうことか鉄船を何隻も一刀両断にしてしまっていたんだから、いつの間にここまで差がついてしまったのかとも思うわ。
クレアの意見も、凄く同意できる。
戦列艦が木造なら、エンシェントクラス4人の攻撃を受けた時点で木端微塵になるだろうけど、その分破片も多く出るはずだから、逆に生存率は上がるでしょう。
だけどソレムネの蒸気戦列艦は、鉄製だからこそ炎が鉄を熱して灼熱の地獄を生み出し、また破片が浮く事もない。
攻撃を受けてしまったら、後は乗組員諸共沈むだけ。
魔力強化もされていない鉄なんてハイクラスでも容易に斬り裂けるんだから、エンシェントクラスにとっては鉄だろうと木だろうと大した違いにはならない。
リザは2人の意見に同意するように深く頷いているけど、他のみんなも同じみたいだわ。
「金属船の、思わぬ弱点を見たな。もっとも木片に掴まったとしても、余程運がなければ魔物に食われる訳だから、絶対に助かるという保証もないが」
確かにね。
でも金属船の弱点、というか欠点が分かっただけでも、ここに来た甲斐はあるわ。
「ああ、既にフィールや総本部、メモリアのオーダーが、彼らの戦闘訓練を受けているのは知っていると思う。近々ロイヤル・オーダーも行う予定だから、しっかりとな」
ライの一言に、3人のロイヤル・オーダーが絶望的な表情を浮かべた。
気持ちは心から理解出来るけど、アミスターを守るためなんだから、私にはしっかりと励んでとしか言えないわ。
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