第十章・帝国決戦

リオへの移動

 スリュム・ロード討伐戦から1週間、長めの休養ってことで、ハンターやオーダーはベスティアに滞在していた。


 その間俺とレックスさんは、リオに派遣されていたオーダー第2分隊をクラテルに派遣したり、アミスターから何人かのAランクヒーラーを連れてきたり、レイドリーダーやデルフィナさんを連れてアミスターの天樹城でスリュム・ロード討伐戦の報告をしたりと、あんまり休めた記憶がない。

 解体が終わって白妖城に献上されたスリュム・ロードの魔石を見るために、ラインハルト陛下を連れてきたりもしたしな。

 ちなみにスリュム・ロードの魔石は氷属性だから白系になるんだが、くすんだというか濃いというか、グレーっぽい感じに近かったな。

 アバランシュ・ハウルの魔石は純白だったから、オーク・エンペラーやオーク・エンプレスの魔石のこともあるし、終焉種の魔石は色が強くなり過ぎたってことになるんだろう。


 さらにヒルデの武器とコートもエド達に頼んだし、天樹の枝を使った獣車も製作を開始してもらっている。

 あ、ヒルデガルド陛下とは婚約者っていう間柄になったから、ヒルデと呼ばせて貰うことになったぞ。

 真子さんと同い年だからヒルデさんと呼ぼうかと思ったんだが、妻となる身ですから呼び捨てでお願いしますと言われてしまい、ヒルデと呼ぶことになってしまったんだよ。


 ちなみにアルベルトさんとブリュンヒルド殿下の結婚儀式は先日終わったから、アルベルトさんの奥さんやお子さんも、今は白妖城にある王家の居住区に移り住んでいて、ブリュンヒルド殿下が即位したら、雪妖城ゆきあやしのみやに移るんだそうだ。


 後はエド達クラフターの戦闘訓練を再開したぐらいか。

 クラフターの戦闘訓練では、エドやマリーナのレベルを追い越して、ついにフィーナがハイハーピーに進化した。

 木工師はミラーリング付与をする機会も多いから、飛び上がって喜んでいたな。

 ヒーラーはヒーラーで、サユリ様について頑張って勉強し、昇格試験も受けている。

 だけどユーリとキャロルはPランクに昇格したが、けっこうギリギリだったらしい。

 なのに真子さんは、あっさりとAランクヒーラーに昇格している。

 エクストラ・ヒーリングが使えるエンシェントヒーラーってことで、ラインハルト陛下やヒルデだけじゃなく、トラレンシアに派遣しているオーダーやハンターまで諸手を上げて歓迎していたし、ベスティアで昇格記念の宴会まで開いてくれたぐらいだ。

 スリュム・ロード討伐戦で、エクストラ・ヒーリングの重要性はみんな理解したからなぁ。


 そのハンターとオーダーの第1と第7分隊は、傷も魔力も回復したこと、これ以上は腕がなまるってことで、今日の昼にリオに向かうことになった。


「ここがリオか」


 ブラック・アーミーのリーダー シーザーさんは、今回の派遣で初めてトラレンシアに来たそうだ。

 リオの街並みは、石造りの建物が多い大きな港町といった感じだった。

 フィリアス大陸に最も近いため、トラレンシアへの玄関口としても機能している。

 ゴルド大氷河は近いが、クラテルのように隣接してる訳でもないため、魔物の脅威はそこまで高くはない。

 それでも近いのは間違いないから、たまにSランクモンスターが討伐されるらしい。


「Sランク?Gランクじゃなくてかい?」

「ゴルド大氷河まで行けば出てくるけど、リオ近辺じゃSランクが一番手強いらしいよ」


 ゴルド大氷河はリオから1時間ぐらいの距離だが、川を渡る必要がある。

 だからなのか、リオの近辺じゃGランクモンスターは出ないそうだ。

 稀にゴルド大氷河から迷い込んでくるのがいるらしいが、そいつらの討伐はリオのハンターが総出で行ってたんだとか。


「それはちょっと拍子抜けだな。いや、ゴルド大氷河まで出向けばいいだけか」


 だけどこのアライアンスからすれば、Sランクモンスターは苦も無く狩れるし、Gランクだって単独で狩れる。

 なにせ連携することで、M-Iランクのアイスクエイク・タイガーを、それぞれのレイドで倒してるんだからな。

 しかもアライアンス・リーダーを務めてるファリスさんはエンシェント・フェアリーに進化してるんだから、G-Iランク辺りまでなら単独で倒せるようになってるんじゃないだろうか?


「その辺は好きにしてもらって構わないんですけど、派手な事はなるべく控えてくれって言われてますね」

「いや、大和君に言われたくはないんだが?」

「そうよね」


 あんまり高ランクモンスターばかり狩ってくると、それが標準になってしまって、後が面倒で大変なことになりかねないから、ラインハルト陛下やレックスさんからの伝言を伝えただけなのに、そんなことをスレイさんに言われてエルさんが同意し、他の方々も深く頷いてらっしゃる。


「納得いかねえってツラしてるけどな、お前がやらかした事を考えりゃ、当然の反応だろ?」

「そうよね。フィールじゃ希少なはずの高ランクモンスターの素材が、普通より安く売ってたんだもの。驚いたわよ」


 クリフさんとリリー・ウィッシュのリーダー サヤさんが、俺にとって致命的な一言を投げかけてきた。


「あー、まあ俺達はフィールを拠点にしてますから」

「それでもよ。フェザー・ドレイクなんて、ほとんど投げ売りだったわよ?」


 サヤさん達リリー・ウィッシュはサユリ様の護衛をする事も多く、自分達の出身でもある孤児院があることから、拠点はフロートだ。

 アミスター1と言われてるようにBランクのフェザー・ドレイク程度なら、数匹ぐらいなら苦も無く殲滅できる実力がある。

 だけどフロート近郊で狩ろうと思ったらイデアル連山に登る必要があるから、好んで狩りに行くことは無い。

 他のハンターも同様だから、フェザー・ドレイクは高級品って事で、それなりの高値で売られているのが普通だ。


 だけどフィールじゃ、俺達がアホみたいに狩りまくった事もあるから、Cランクの魔物素材並に値崩れを起こしていたりする。

 だからって訳じゃないが、リリー・ウィッシュはフィール滞在中にフェザー・ドレイクを購入して、装備のバージョンアップを図ったそうだ。


「ま、まあ装備が強化出来たんだから、それでいいじゃないですか」

「そうなんだけどね。それで、ゴルド大氷河に行くのは構わないのよね?」

「ええ。ただ移動とか野営は、獣車が完成するまではそれぞれで用意ってことになりますよ?」


 トラレンシア派遣の追加報酬には、俺達が使ってる試作獣車の完成品を全てのレイドが希望し、既に製作にも入っているが、完成まではあと数日掛かるらしい。

 しかも驚いた事に、スリュム・ロード討伐戦に参加して功績を立てたってことで、部分的にではあるが天樹の枝まで使われる事になったから、製作を請け負っているフィールのクラフターズギルド乗造部門のテンションはうなぎ登りだ。

 本来ならフロートのクラフターズギルドで製作するべきだと思うし、そっちの方が早く完成するんだが、今回の獣車には俺がミラーリング50倍付与を行ってるから、あまりその情報を広めるべきじゃないって判断されて、俺が拠点にしているフィールのクラフターズギルドが請け負う事になったという事情もある。

 既に外観は完成してミラーリング付与も終わらせてあるから、後は内装だけだったはずだ。

 その代わり俺達の獣車が後回しになってしまっているが、俺達は試作とは言え2台、さらに別に1台所有してるから、これは仕方がない。


「あと数日で完成するって聞いてるから、それぐらいなら問題ないよ」

「だな。っと、大和、頼む」

「わかりました」


 そんな話をしてたら、リオの街に到着した。

 御者を務めているクリフさんに呼ばれて、俺はアミスター国王、トラレンシア女王連名の書状をストレージから取り出して、門番の衛士さんに挨拶と説明をするために獣車から降りた。


「久しぶりね。待っていたわ」


 リオに入ってセイバーズギルドに到着すると、レックスさんと第2分隊のファースト・オーダーに代わって指揮を執っている第3分隊ファースト・オーダーで女性ハイフォクシーのソロさんと、セイバーズギルド・リオ支部のセイバーズマスター、ハイフェアリーのセキアさんが出迎えてくれた。


「ええ、お久しぶりです」

「お帰りなさい、ジェネラル・オーダー。スリュム・ロード討伐戦、お疲れ様でした」

「ありがとうございます」


 ソロさんにも、俺達がスリュム・ロード討伐戦に参加した事は伝えられている。

 なにせリオから第1分隊を派遣させた上に犠牲者だって少なくないし、スリュム・ロードも討伐にも成功したんだから、仮に報告が無くても必ず耳に入る。

 アライアンスのリオ派遣も遅れたしな。


「急な事だったとはいえ、10日近くもリオを不在にしてしまい、申し訳ありませんでした」

「何を仰いますか。どう考えても、クラテルの方が優先されるべき問題でしょう。まあ陛下から、討伐成功の書状がワイバーンで届けられた時は、かなり驚きましたが」


 セキアさんがレックスさんを労うが、まあ、普通はそうでしょうな。


「ご挨拶が遅れましたね。私はセイバーズギルド・リオ支部セイバーズマスター セキア・マナティアルと申します。此度の援軍、感謝致します」


 そういってセキアさんは、俺達ハンターに頭を下げた。


「いえ、予定より10日近くも遅くなってしまいましたからね。私達も心苦しく思っていましたよ」

「あなた方もスリュム・ロード討伐戦に参加されていたのですから、それは当然です。むしろそちらにも参加して頂けたのですから、我々としても感謝しかありませんよ」


 リオのセイバーズギルドでも、クラテルに援軍に行くべきだという意見は少なくなかったそうだ。

 だけどリオは、ソレムネの上陸を阻止するための最終防衛線でもあるから、相手が終焉種だろうと戦力を減らすわけにはいかない。

 それでも本当に討伐に成功するとは、セキアさんも思ってなかったそうだが。


「それで帰還した第1分隊と第7分隊は、このままリオに駐留していただくことになると?」

「はい。人数は減っていますが、全員が少なからずレベルを上げていますから、全体的な戦力は変わりないはずです」


 セキアさんとリオの防衛について話を進めるレックスさんだが、確かに第1分隊も第7分隊も、全員がレベルを上げてるんだよな。

 なにせレックスさんとミューズさんはレベル60、ローズマリーさんはレベル56、デルフィナさんだってレベル58だし、俺達と仲の良いルーカスはレベル55、ライラもレベル52になってるんだし、他にもレベル50を超えたハイオーダーは多い。

 殉職者もいるから数としては減っているが、全体的な戦力としては上がっていると言ってもいい。

 さすがに他のオーダーを蔑ろにする発言だから、口が裂けても言わないが。


「それとアライアンスは、普段は自由にしてもらって構いません。ですが通達通り、泊りがけの場合は申請して頂くことになりますし、門のオーダーやセイバーに、だいたいで構わないので行先を告げて下さい」

「ああ、分かってるよ。私達だって、ソレムネとの戦争のためにリオまで来てるんだからね」


 面倒ではあるが、アライアンスに参加している6つのレイドは、街を出る場合は必ずオーダーやセイバーに報告する事になっている。

 理由はファリスさんが言った通りで、勝手にリオを、しかも長期間離れてる間にソレムネが侵攻してきてしまった場合、場合によっては敵前逃亡と判断される恐れがあるからだ。

 仮に敵前逃亡と思われなくても、リオを離れてる間にソレムネが攻めてきて、しかも勝敗に限らず戦闘が終わってしまったら、何のために来たのか分からないからな。


「それからマナリース殿下、ファリスさん。遅くなりましたがエンシェントクラスへの進化、おめでとうございます」

「ありがとう」

「ああ、ありがとう」

「ところでソロさん、リオの周辺だけど、魔物はどんな感じなんですか?」

「割と平和ね。出てくるとしてもCランクが多いわ。ああ、一昨日はSランクのロングフット・イヤーサイスが出たわよ」


 ロングフット・イヤーサイスか。

 1メートル弱のウサギ型モンスターだが、後ろ足が異様に長く、そのせいかジャンプ力は垂直飛びでも50メートル近く出せるらしい。

 それだけの脚力があるから、蹴られたらハイクラスでも深刻な怪我を負うし、両耳は鎌のような切れ味を誇ってるとも聞く。

 しかも雑食で人間だって食うらしいから、見かけたら早期討伐が望まれているんだが、ノーマルクラスどころかハイクラスだって敬遠するハンターがいるって話だな。


「ほう。で、どうだった?」

「どうも何も、私に飛びかかってきた所を、正面から斬り捨てて終わりよ」


 まあ、そうだろうな。

 ソロさんはレベル52のハイフォクシーだが、装備が一新されてから、翡翠色銀ヒスイロカネの剣を地元のクラフターズギルドでオーダーメイドしている。

 その剣を使い、レベルを2つほど上げているらしいし、その際に何度かSランクモンスターも倒していたそうだ。

 だからロングフット・イヤーサイスも、特に苦労することなく倒せたらしい。

 ソロさんに限らず、レックスさんやローズマリーさん、ミューズさんにデルフィナさんだって同じ感じで倒せるだろうし、アライアンスのハイハンターだって同様だ。


「Sランクモンスターが相手となると、昔はけっこう大変だったんだけどね」

「それは同感だ。だが今は合金製の武器もあるし、何より大和君のおかげで私達のレベルも上がっているからな」

「だねぇ。おかげでリオでは楽が出来そうだよ」


 なんてファリスさん、スレイさん、シーザーさんが言い合ってるが、それはどうだろう?

 いや、確かに魔物に関しては、SランクどころかGランクが出てきてもどうにでも出来るから、確かに楽か。

 ソレムネの動きは注視しておかなきゃいけないが、俺とプリムが50隻以上の蒸気戦列艦を沈めてあるから、すぐにどうこう出来るとも思えない。

 それでも全部沈めれたとは思えないし、まだ何か新兵器が無いとも限らないから、油断は禁物だな。

 さすがに飛行機とかはないだろうが。

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