激闘を終えて
俺達がスリュム・ロードの討伐を終えて戻ると、既に他のみんなも戦闘を終えていた。
無事に全て討伐できたようだが、それでも犠牲者は多い。
だけど俺達が無事にスリュム・ロードを討伐した事を伝えると、氷河が震える程の大歓声と勝鬨の声が上がった。
涙を流してるセイバーまでいたぞ。
その後、みんなが周囲の警戒や遺体の回収を行っている中、俺、プリム、真子さん、マナ、ヒルデガルド陛下、ファリスさん、アルベルトさん、レックスさん、デルフィナさんは、俺達の獣車の貴賓室に集まり、被害状況の確認を行っていた。
その席でマナがエンシェントエルフに、ファリスさんがエンシェントフェアリーに進化し、2人でアバランシュ・ハウルを倒したことも報告されたが、俺も含めてみんなが驚いていたな。
既に知ってたプリムだけは別だったが。
「259名中、四肢断裂を含む重傷者158名、死者はセイバー18名、オーダー27名、ハンター12名、計57名。終焉種討伐の結果として見れば極めて少数と言えますが……」
「そうですね……。ですがスリュム・ロードは、大和様とプリム、真子さんによって討伐されました。これでトラレンシアを長年苦しめてきた脅威は去ったと言えます」
アライアンス・リーダーを務めるGランクセイバーのアルベルトさんとヒルデガルド陛下の会話からもわかるように、今回の討伐戦で57人もの人が命を落としてしまった。
アバランシュ・ハウルの1匹を食い止めるために奮戦していたトライアル・ハーツも、全滅に近い被害を出してしまい、ハイハンターの5人はかろうじて生きてたけど、ノーマルハンターは3人も命を落としてしまっている。
他にもグレイシャス・リンクスで2人、ブラック・アーミーで7人ものハンターが命を落としている。
「四肢断裂を含む重傷者は、ウイング・クレストの真子嬢を始めとしたヒーラーによって治療が施されましたが、こちらも全員が無事とは言えません」
「ええ。私もですが、四肢を食われてしまった者も少なくありませんから」
重傷者は158人も出てしまったが、それでもヒーラーが頑張ってくれたおかげで、とりあえずは回復している。
だが真子さんも激しい戦闘を終わらせた直後ってこともあって、血液を回復させるブラッド・ヒーリングにまでは手が回らなかったから、その重傷者は獣車の中で安静にしてもらうしかない。
さらにトライアル・ハーツだけじゃなく、第7分隊ファースト・オーダーのデルフィナさんも、右手首から先をアイスクエイク・タイガーに食われてしまい、治療する事が出来なかった。
同じように完全に四肢を食われてしまった人は、50人を超えている。
「四肢を失った者に関しては、トラレンシア中のAランクヒーラーに招集をかけ、治療を依頼します。なるべく早く招集致しますが、それまでは不自由をお掛けすることになります」
「恐れ入ります。ですが終焉種討伐に参加した身としては、命があっただけでも奇跡だと思っております。落命した者には申し訳ありませんが」
「ええ。ですが彼らも、死は覚悟の上で参加したのです。残された我々に出来る事は、彼らの名誉を称え、冥福を祈る事ですよ」
確かにアルベルトさんの言う通りかもしれないが、それでも仲間を失ったショックは計り知れない。
そんなに親しくなかった俺でさえそうなんだからな。
「……そうですね。大和様、此度の討伐戦、あなた様がいてくださらなければ、トラレンシアは滅んでいたでしょう。本当に、心より感謝致します」
被害の大きさをしっかりと見つめつつも、ヒルデガルド陛下は俺に向かって頭を下げた。
「いえ、ここにいる人達がいなかったら、どうにもならなかったと思います」
これは本当にそう思う。
アイスクエイク・タイガーもアバランシュ・ハウルも、単体ならそこまで苦労せずに倒せる自信はあるが、あれ程の大群で、しかもスリュム・ロードまでいたとなると、俺達でも危なかっただろう。
特にファリスさん達アライアンスがこっちに来てくれた事にレックスさん達第1分隊が参加してくれた事は、俺としても本当にありがたかったし心強かった。
オーク・エンペラーやオーク・エンプレスを倒して調子に乗ってたつもりはないが、あいつらは終焉種に進化したばかりだって推測されていたし、今回の戦いで本当にそうなんだろうと思えた。
だから他の終焉種も、最低でもスリュム・ロードと同等だと考えておく必要がある。
「さすがにスリュム・ロードの討伐は隠せないから、この機会にオーク・エンペラーとオーク・エンプレスの討伐も公表することになるわ。お兄様からも許可は得てるから、まずはクラテルからになるかしら?」
そっちはもう許可出てんのかよ。
いや、ラインハルト陛下も、俺達がスリュム・ロード討伐戦に参加することは知ってるんだから、討伐に成功した場合のことぐらいは考えてても、おかしなことはないんだが。
「は?」
「で、殿下、それはいったい……?」
だけどアルベルトさんとデルフィナさんは、俺達が終焉種を倒してた事は知らないから、何のことかわかっていないみたいだ。
「あなた達は知らなくても仕方がないんだけどね。デルフィナ、4ヶ月前に、フィールでアライアンスが組まれた事は知ってるわよね?」
「無論です。オーク・キングとオーク・クイーンが番いになり、上位種や希少種まで多数生息する集落を殲滅したと聞き及んでいます」
「表向きはね。ここにいるレックスとファリスも参加していたんだけど、その集落で番いになっていたのはオーク・エンペラーとオーク・エンプレスで、キングやクイーン、プリンス、プリンセスも複数いたそうなの。そうよね、レックス、ファリス?」
「殿下の仰る通りです」
「あれ程の絶望感は、味わったことがありませんでしたね」
「で、では、その時に彼らは……!?」
「ええ。だからこそ、私やユーリが嫁いで尚、功績に見合った褒賞とは言えないのよ」
事あるごとに言われ続けてたが、だからこそ俺に天樹の枝が下賜されたんだよな。
対外的には過剰すぎるって言われてるそうだが、真相を知ってる宰相や貴族、グランド・オーダーズマスター、アソシエイト・オーダーズマスターは逆に不足してるんじゃないかって言ってたから、けっこう面倒な事態になりかけたらしいが。
「わたくしもフロートへ赴いた際、両終焉種の魔石を拝見させて頂きました。とても禍々しい魔石でしたが、だからこそそれが終焉種の魔石であると理解せざるを得ませんでした」
「そ、それでは……彼らにとっては、これで2例目になる、と?」
「真子が転移してくる前だから、真子は初になるわね」
だな。
「それで真子、その仔虎、スリュム・ロードの子供なんですって?」
「ええ、スリュム・ロードに託されました。既に召喚契約も結んでますから、危害を加えることはありませんよ」
「それは構わないよ。スリュム・ロードを倒した立役者なんだから、それぐらいの権利はある」
そして話は、真子さんの腕の中で寝息を立てている仔虎 白雪に向けられた。
「そうですね。スリュム・ロードの仔という事実には思うところが無い訳ではありませんが、アイシクル・タイガーと契約している者も少なくありませんから」
「そもそもセルティナ様からして、フリーザス・タイガーと契約してる訳だしね。召喚契約を結んでいる以上、大きな問題にはならないでしょう」
俺達もそう思ってるし、この仔に罪はないからな。
「可愛い寝顔ね。生まれたばかりって事だけど、普通に歩けそうだわ」
「歩くどころか、多少なら戦えそうですね。もちろん無理をさせるつもりはありませんけど、誇り高い虎の王の仔ですから、そこらの魔物に負けないよう、しっかりと育てます」
そう言って魅力的な笑顔を浮かべる真子さん。
真子さんと召喚契約を結んだ白雪は、アイシクル・タイガーからスノーミラージュ・タイガーという種族に進化している。
上位種なのか希少種なのかは分からないが、フリーザス・タイガーより上位になる事は、多分確実だろう。
託されたという意味じゃジェイドやフロライトと同じだから、白雪もさらに進化する可能性があるな。
「分かりました。ではクラテルには、明日の朝食後、そして出来得る限りの治療後に戻ります。戻り次第お披露目も行いますが、解体はベスティアで行う事にします」
これはそうなるだろうな。
アイスクエイク・タイガーの魔石は3つ所有しているが、アバランシュ・ハウルはもちろん、スリュム・ロードの魔石はどこの国も持っていない。
だからスリュム・ロードとアバランシュ・ハウルの魔石は白妖城で保管され、国宝となる事が確定しているが、アバランシュ・ハウルは2匹いたから、1匹は丸々アミスターに進呈するそうだ。
アイスクエイク・タイガーは、報酬っていう意味も込めてハンターはレイドで2匹ずつ、俺達は3匹で、アミスターにも3匹を進呈し、トラレンシアは残った2匹ということになった。
M-Iランクモンスターだから、売るにしても自分達で使うにしても、十分過ぎる報酬だ。
「怪我人ですが、セイバーはクラテルで療養して頂くことになりますが、オーダーやハンターはベスティアで療養して頂こうと思います。スリュム・ロードの討伐成功により、ゴルド大氷河の警戒度は下げられますから」
確かにそうだな。
セイバーズギルド・クラテル支部の戦力はかなり落ちてるが、オーダーの第6と第8分隊がいるから、治安維持に関しても魔物討伐に関しても、何とかなるだろう。
「ですが陛下、第6分隊のハイクラスは、臨時で我が第1分隊に編入しております。その者達もベスティアで療養となりますと、クラテルの防衛に問題が出てくるかと思われます」
「確かにレックス卿の仰る通りですが、そこはセイバーズギルドに無理をさせることになりますが、対応は可能だと思っております」
ああ、確かに第6分隊のハイクラスは第1分隊に臨時で編入されてるから、ハイクラス的にはオーダーも減ってるんだった。
クラテルに派遣された分隊はハイクラスの割合が多めだが、第7分隊もベスティアで療養ってことになるんだから、さすがにちょっと厳しいか。
「いえ、スリュム・ロードの討伐に成功したことで、ゴルド大氷河の生態系が変わる恐れがあります。ですからリオから、第2分隊を派遣させて頂ければと思っています」
あー、そういやマイライトでも、終焉種がいなくなったせいで生態系が変わってるとか言われてたな。
オークの数は相変わらず多いが、それでも終焉種がいなくなったことで、他の魔物も動きやすくなったから、行動範囲が広がってるとか聞いた覚えがあるぞ。
「よろしいのですか?」
「無論です。我らオーダーズギルドは、トラレンシアを守るために派遣されているのです。ソレムネの脅威はもちろんですが、魔物の脅威も見過ごす事は出来ません」
力強く答えるレックスさんに、同意の意味を込めて頷くデルフィナさん。
確かに俺達も、トラレンシアを守るために派遣されてるんだから、生態系が変わる可能性が高いゴルド大氷河を無視するわけにはいかないか。
ってことは、一度ハンターとオーダーを連れてベスティアに飛んで、そっからリオに行って第2分隊をクラテルに移動させるってことか。
転移石板は俺しか使えないから、当然俺がやるしかない。
「感謝致します、レックス卿。大和様、あなた様にも動いて頂くことになりますが、お願いできないでしょうか?」
祈るような姿をして目尻に涙を浮かべて、上目遣いでお願いしてくるのは止めてくれませんかね?
「大丈夫ですよ。急ぐ必要がありますからね」
まあ、断るつもりもないんだが。
クラテルの警戒度は下げられるって言っても、ゴルド大氷河に隣接してるんだから、無警戒なんて真似は自殺行為と同じだ。
だけどセイバーズギルドはかなり戦力ダウンしてるし、派遣されたオーダーも3分隊中2分隊が大きな被害を受けてるんだから、リオのオーダーを派遣するのが戦力増強には手っ取り早い。
「ありがとうございます。それからアルベルト、あなたにも説明をして頂く必要がありますから、ベスティアまで同行して下さい。あなたの休暇も兼ねますから、ご家族の同伴も許可します」
「ありがとうございます」
アルベルトさんは27歳って聞いてるが、奥さんは2人いて、子供も1人いるそうだ。
その奥さん子供も同伴可ってことは、本当にベスティアでゆっくりとして貰うつもりなんだろう。
「ヒルデ姉様、ベスティアでもお披露目はするのよね?」
「もちろんです。終焉種討伐隊が終焉種討伐を成功させたのは、初の事例になりますから」
終焉種討伐だけなら俺とプリムがやってるが、あの時のアライアンスは災害種討伐隊って事で出陣したから、確かに終焉種討伐隊としてだと今回が初になる。
今までの終焉種討伐戦は、生還者は多くても2割にも満たないって話だったから、7割以上が生還し、さらには終焉種そのものの討伐まで成功させているんだから、大成功どころの話じゃない。
だけどお披露目はともかく、問題が無い訳でもないんだよな。
「陛下、ベスティアのハンターには、話すらされていないはずです。なのに他国の私達が参加していた訳ですから、トラレンシアのハンター達のプライドを大きく傷つける事になりますが?」
「いえ、実はベスティアを拠点にしているトラレンシアのトップハンター達は、ソレムネの蒸気戦列艦という脅威を知り、自発的にリオや近くの街で警戒を行ってくれているのです。リオに移動したハンターは、あなた方が派遣されれば戻ってくると言っていましたが、そういう訳ですので、今のベスティアにはスリュム・ロード討伐を依頼できるようなハンターはいないのです」
なるほど、そういう事なら、ベスティアのハンターが蔑ろにされたって事にはならないで済むか。
ということは、トラレンシアにとっては運が良かったって言えるかもしれないな。
「陛下、ということは、そのお披露目というものは、私達も出席することになるんですか?」
お披露目の意味が、いまいち理解できてない真子さんが口を開いた。
うん、そうなるんです。
「いえ。ベスティアでのお披露目は白妖城のテラスから行う予定ですから、全員は参加できません。ですがこの場の皆やレイドリーダーの方は、できれば参加して頂けたらと思っています」
全員参加できないってことならバックレられると思ってたのに、この場の全員は参加?
マジで?
「いや、当たり前だろう?特に君達3人は、終焉種討伐の立役者じゃないか。他のみんなはともかく、君達が出席しなかったらお話にならないよ?」
「またあたし達に、晒し者になれっての!?」
レックスさんのセリフに声を荒げるプリムだが、俺も全く同じ気持ちだ。
フィールでのお披露目の、あの何とも言い難い雰囲気は、マジで二度と味わいたくねえよ。
「あれはフィールだから、ああなっただけだろう?ベスティアの人達は君達の功績を知らないんだから、普通に驚いてくれるよ」
「というか、本当にお披露目って何なんですか?」
俺とプリムが心の底からイヤそうな顔をしているせいか、真子さんがすげえ不安そうな顔で聞いてくる。
それを懇切丁寧にマナとヒルデガルド陛下が説明するが、その説明が終わると真子さんも俺達と同じ顔をした。
だけどどれだけイヤでも、実際にスリュム・ロードを倒したのは俺達3人だから、それを言われてしまえば俺達に返せる言葉は無いし、抗う事も出来ない。
せめて少しでもいいから、驚きをもって迎えてくれるといいなぁ。
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