砂漠の神殿
Side・エド
大和とプリムがルーン・ワルキューレを倒し、アライアンスがウェヌス・アマゾネスを半分ぐらい倒したってのに、ウイング・クレストはまだ10匹程度しかシェル・セイレーン倒せていない。
俺やマリーナ、フィーナ、フィアナにレイナ、ユーリ様とキャロル、ユリアも魔法で援護しているが、効果はほとんどないと言ってもいい。
バトラーのマリサ、ヴィオラ、エオスは近接戦を挑んでいるが、ハイドラゴニアンのエオスはともかく、マリサとヴィオラはまだ進化できてないから、牽制が精一杯ってとこか。
それでもジェイドやフロライトがフォローしてくれてるから、致命傷は負っていない。
「大和が加わったから大丈夫だと思うけど、やっぱりあたし達には経験が足りないね」
「そうですね。ミーナさんやフラムさん、ラウス君とレベッカちゃんは慣れてきていますが、それでもこんな大規模戦闘だと経験の無さが浮き彫りになっている感じがします」
マリーナとフィーナが、ウイング・クレストの経験の少なさを口にする。
それについては大和も認めてたからなぁ。
その経験をなんとかするためにソルプレッサ迷宮に入って、さらにはこのイスタント迷宮にも来たんだが、それでもGランクの亜人の群れってのは、さすがに厳しいもんがある。
さらに援護している俺達はノーマルクラスだから、援護らしい援護になってないのも問題だ。
「大和様はそれも織り込み済みだと思いますが、私としては忸怩たる思いで一杯です」
「お気持ちは私もよく分かりますが、だからといって今すぐにどうにかできるわけではありませんから」
「分かっていますよ、キャロル。だから牽制程度でも、今の私にできることをしようと思います。ね、ラクス?」
ユーリ様の右肩で、ユーリ様の魔法を援護している水の精霊ラクスが、コクンと頷く。
ユーリ様の
さらに短杖エレメント・ケインには精霊魔法の天魔石も使ってるから、今は
「フィアナ、レイナ、大丈夫?」
「う、うん……」
「
フィアナとレイナも魔法を撃ってはいるが、やっぱり怯えちまってるな。
上の第5階層はアンデッドオンリーだったし、わけのわからんことを抜かす馬鹿までいたからな。
そいつはアライアンスが処断したって聞いてるが、フィアナとレイナには詳細は伝えていない。
幸いなことにフィアナとレイナは、その馬鹿を見てないからな。
それを差し引いても、ただでさえアンデッド階層で怯えてたってのに、ここにきて亜人の群れとか、普通なら悪夢でしかない。
俺達はソルプレッサ迷宮で、これよりひでえ戦いを経験してるから大丈夫だが、さすがにフィアナとレイナには刺激が強すぎる。
「大丈夫だよ。確かに
「そうよ。それに大和さんとプリムさんがいるから、獣車にまで被害が及ぶことはないわ」
マリーナとフィーナが、フィアナとレイナを慰める。
俺もそうしないといけない気がしてくるな。
「そういうことだ。だから今の自分に出来ることを、精一杯やってみろ」
「私達に、出来ること?」
「そうだ。何でもいいから、精一杯魔法を使って、外れてもいいから撃ってみろ」
「で、でも、みんなに当たっちゃったら……」
それは確かに心配だが、俺達の魔法じゃあいつらには効果が薄いし、大和やプリムに至っては食らったことすら気付かねえんじゃねえか?
こんな乱戦で誤射なんてしちまったら、それこそ命取りにしかならねえから、そこは大和が何とかするだろう。
なにせあいつ、俺達が魔法を撃つ時は、さりげなくフォローしてくれてるからな。
「う、うん、分かった」
そういって魔力を高め、レイナはウインド・ランスを撃ち出した。
っておい!
ウインド・ランスの先にいるのってラウスじゃねえか!
いや、ラウスがレイナのウインド・ランスでダメージを食うとは思えねえが、それでも気は逸らされるぞ!
「あっ!」
レイナも気が付いたか。
まさに誤射って言葉がピッタリだが、レイナは今にも泣き出しそうだ。
「え?」
「マジか?」
だけどラウスは、周囲に展開させていたヘビーファング・クラウドの長にレイナのウインド・ランスを咥えさせ、そのままシェル・セイレーンを斬り裂きやがった。
いや、なんだよ、それは。
土とか氷とかなら質量があるからまだ分かるが、なんで質量どころか目で見ることすら難しいウインド・ランスにそんなこと出来んだよ?
そう思ってたら、こっちを向いたラウスが、レイナに向かって軽く手を振ってきた。
あいつ、レイナが撃った魔法だってことも分かってたのかよ。
「ラウスでしたら、あのぐらいは出来るでしょうね」
「そうですね。確かに風に実体はありませんが、ラウスさんのヘビーファング・クラウドは、周囲の風や雷を取り込むことも出来るんですから」
周囲の風や雷も取り込むってことは、
さすがに何でもかんでも出来るわけじゃないだろうが、自分よりレベルが下のレイナの魔法なら、何の苦もなく取り込めるってことか。
「良かったよぉ……」
「泣かないで。あなたが悪いわけじゃないから」
レイナはキャロルに抱き着いて泣いている。
ラウスがダメージを受けるとは思わないが、たじろぐ可能性はあったから、そうなったら危なかったからな。
「さて、そういうわけでフィアナもやってみるか?」
「え?あ、は、はい!」
レイナの失敗を見て怖気づいていたフィアナだが、誤射を恐れていたらいつまでたっても何も出来ないままだ。
それにラウスはこっちの様子も気付いていたから、他の連中も気付いてるんじゃないかと思う。
よくよく考えてみれば、フラムとレベッカは隙をついているとはいえ、矢を射掛け続けているんだから、こっちの様子も気にしてないと、あの2人の矢を受けることになっちまうからな。
そのフィアナは、俺と同じく
それでも作り出したアース・ランスは、イメージが追い付いていないのか、どう見ても質量が不足しているな。
まだ不慣れだから仕方ないんだが、アース・アローと大差ないぞ、これは。
俺は自分でもアース・ランスを作り出し、それをフィアナのアース・ランスに付与魔法マルチリングを使って付与させた。
「え?こ、これって……!」
「魔法付与だ。付与させた魔法はそれを使う者の魔力に反応するから、これでアース・ランスはフィアナの魔法になった。あいつらが使う
「あ、ありがとうございます!えいっ!」
フィアナは礼を言ってから、俺が付与させたアース・ランスをシェル・セイレーンに放つ。
フィアナの一撃はシェル・セイレーンに直撃したが、予想通り効果は無かった。
それでも小さい傷は出来てたから、まったく無意味だったわけじゃない。
そのシェル・セイレーンはこっちを向いたが、その隙をついたミーナに切り伏せられていた。
経験が足りない俺達ではあるが、その分やること全てが経験になる。
今は大和とプリムに頼りっきりだが、いずれはそれも経験になるんだろうな。
Side・プリム
ルーン・ワルキューレを倒し、大和にみんなの援護を任せたあたしは、アライアンスの援護に向かうことにした。
だけどさすがベテラン・ハンターで構成されたアライアンスだけあって、あたしの援護は必要なかったわね。
もちろん手早く倒す必要があったから、あたしも何匹かは倒したけど。
程なくしてウェヌス・アマゾネスは全滅させて、それから少ししてからシェル・セイレーンも全滅したから、あたし達は急いで死体を回収し、奥にある神殿に向かった。
獣車が1台だけだと、全員が乗り込めば進めるから楽だわ。
複数の獣車で行動してると、どうしてもそれぞれで準備しなきゃいけないものね。
しかも先に獣車を進ませてから併走してもらって、デッキに飛び乗ってもらうってこともできるから、箱型獣車より撤退はしやすいわ。
「1台の獣車での行動が、こんなに楽だとはな」
「ええ。さすがに個人でこれ程の獣車を用意するのは大変だけど、ハンターズギルドなら用意できると思うから、これも報告しておいた方が良いわね」
「レイドとしても、何とか所有しておきたい性能だけどね。というかこの獣車、どれぐらいの費用が掛かっているんだい?」
スレイさん、エルさん、シーザーさんからの評価も高い。
だけど費用のことを聞かれても、まだ試作だから何とも言えないのよね。
「これは試作で、クラフターが思いつく限りの装備を詰め込んでることもありますから、多分500万エルは超えてるんじゃないかな?」
「500万!?」
「あとは付与されてるミラーリングが50倍だから、それだけでも神金貨が飛ぶんじゃないかしら?」
「50倍?ミラーリングの最大値は、確か10倍だったんじゃありませんか?」
ミラーリング付与を口にしたマナにフラウさんが疑問符を浮かべてるけど、それは間違いないわよ。
「まだ確定じゃないんだけど、ハイクラフターなら30倍、エンシェントクラフターなら50倍の付与ができるみたいよ。私達は大和がいるから自前でできるけど、みんなからしたらそうじゃないでしょう?」
「なるほど、確かに。ですがハイクラフターにエンシェントクラフターまで自前で用意できるとは、ウイング・クレストは随分と手広くやっているんですね」
感心するプラムさんだけど、元々大和がハンター登録をしたのは、あたしや母様の都合もあったのよね。
手っ取り早く稼ぐことも理由だったけど、大和としてはクラフターにも興味があったから、登録することは以前から決まっていたの。
「ミラーリングの10倍付与は、確か10万エルだから、多分30倍で30万エル、50倍なら50万エルってのが妥当じゃないかな?」
「どうでしょうか。ハイクラフターは私の他はサユリ様しかすぐには出てきませんし、エンシェントクラフターは大和さんしかいませんから、もう少し高額になる可能性もありますよ」
「そうでもしないと、大和やフラムの負担が大きくなるものね」
それが一番の問題なのよね。
あたしもすぐに思い浮かぶハイクラフターはフラムとサユリ様しかいないし、エンシェントクラフターは大和だけ。
30倍でも今までより広い空間を使えるのに、50倍ともなると屋敷並の広さになってしまうから、今までと同じ大きさの獣車で、今までより多い人を運ぶことも出来るようになる。
貴族の移動は使用人や護衛も同行するけど、それでも10倍付与の獣車が数台連なることがあるから、50倍付与なら1台で済む可能性も出てくるわ。
もちろん軍の移動にも、大きな効果を発揮する。
だから当面は、そうね、ライ兄様辺りの許可が必要なことにしておいた方が良いと思う。
「ふむ、それはそうかもしれないな。だが私としては、オーダーズギルド用として発注するつもりだったんだがな」
「それぐらいなら構いませんよ。さすがに数が多いし、まだまだ試作だから、いつになるって断言はできないですけど」
「それはな。あとハンターズギルドにも、アライアンス用に話を持ち掛けるつもりでいた。私はアライアンスに参加したことはなかったが、今回は偶然とはいえ、合流することができた。それで思ったよ。移動はそれぞれの獣車より、この試作のような獣車の方がいいとね」
スレイさん達も大きく頷いている。
スレイさん達はそれぞれのレイドが所有している獣車で、第5階層まで移動していたそうよ。
だけどノーライフ・キングに、全て破壊されてしまっている。
だからこの試作獣車に同乗してもらっているんだけど、そのおかげで貴重な意見を貰えているから、けっこう助かっているわ。
これも一種の評価依頼になるのかしらね?
そんな話をしながら進むこと30分、あたし達は神殿の前に到着した。
遠目でも感じてたことだけど、やっぱりこの神殿って
しかもここ、セーフ・エリアじゃない。
「こんな所にセーフ・エリアがあるとは思わなかったが、そうなるとこれはやはり……」
「どこの
理由は分からないけど、それは
その特殊性とは、
もちろん本当に
あたし達としては攻略するつもりはなかったんだけど、ここまで来た以上、攻略しておくべきでしょうね。
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