獣車改造計画
Side・ミーナ
セイクリッド・バードの皆さんを助けた後、幾度かの戦闘を挟み、私達は無事にイスタント迷宮第4階層に到達しました。
その幾度かの戦闘でウインガー・ドレイクを5匹倒すことができましたから、これでまたコンルさんに、ゲート・ストーンを作っていただくことができます。
ソルプレッサ迷宮で倒したエビル・ドレイクやソード・ドレイク、プレートスケイル・ドレイクでも作れるんじゃないかと思っていたんですが、異常種の魔石をゲート・ストーンに使うと、効果範囲が広くなりすぎてしまうんだそうです。
現在設置してあるゲート・ストーンは、メモリアのアマティスタ侯爵家とフィールのアマティスタ侯爵家別邸で、いずれもリカ様の私室ですが、異常種の魔石を使ったゲート・ストーンを設置してしまうと、下手をすれば屋敷そのものが転移してしまうかもしれないとコンルさんが仰っていました。
さすがにそれでは使えませんから、ここイスタント迷宮でウインガー・ドレイクを倒すことができて良かったです。
「ここまで来ても、深層調査をしてるハンターとは会いませんでしたね」
「ですね。もしかしたらお会いするかと思っていたんですが」
「入ったのが昨日ということですから、この第4階層にいるか、もしかしたら第5階層に入っているかもしれませんね」
リディアさん、フラムさん、キャロルさんが、深層調査のためのハンターのお話をされています。
入り口のオーダーの話では、5つほどのレイドがイスタント迷宮の深層調査のために、ハンターズギルド・イスタント支部の承認を得てアライアンスを組み、昨日から活動をしているそうです。
そのアライアンスはハイクラスのみで構成されており、Gランク5人、Sランク18人という中規模アライアンス並の戦力で調査しているそうですが、それでもMランクモンスターの相手は厳しいです。
合金製の武器を使用していれば、何とかなると思いますが。
それにここは
セーフ・エリアはOランクモンスターであっても入ってくることができないそうですから、逃げ込むことができれば助かりますしね。
「彼らのことは、出会えたら考えるとしよう。私としては、協力したい気持ちもあるがね」
「俺も同感ですけど会えるかどうかも分かりませんから、その時に考えましょう」
陛下と大和さんは、そのアライアンスに出会ったら、少しぐらいは協力してもいいとお考えのようです。
彼らにも安全というメリットはあるのですが、倒した魔物という意味ではほとんど手に入らないでしょうから、その点はデメリットになりますね。
安全の方が大事だとは思うのですが、第4階層はPランクモンスターも出てくるでしょうし、Mランクモンスターまで確認されていますから、魔物の買取額は最低でも数百万エルになります。
一攫千金も狙っているでしょうから、揉めることはないにしても、禍根を残す可能性がないわけではないのが問題です。
大和さんはある程度の素材を確保できればいいと考えていますし、陛下に至っては素材は必要としていませんから、何とかならないわけじゃないんですが。
「アライアンスを組んでここの調査をしているわけだから、そこまでがめつい事は言ってこないだろう」
「それにそんなこと言われても、クエスティングを調べれば、本当に倒したのかどうかは一発で分かるしな」
それは仰る通りですが、そういう輩に理屈は通用しませんよ?
いえ、アミスターのGランクハンターには、そんなことを言ってくるような人はいませんけども。
「それはその時に考えるとして、今日はここで野営だけど、夜番はどうする?」
「そうだな、最初にラウスとレベッカ、キャロル、次がリディアとルディア、エオス、その次がプリムとマナにフラム、最後が俺とミーナ、アテナでどうだ?」
それが無難ですね。
ハンター登録をしたばかりのキャロルさんが少し心配ですが、順番を一番最初にしておけば負担も軽くなりますし、ラウス君やレベッカちゃんと一緒なら不安も抑えられるでしょう。
「いや、私達も夜番ぐらいするぞ?」
「そうだよ。というか今までだって普通にやってたし、護衛だってやったことあるんだからね?」
待ったをかけるラインハルト陛下とマルカ殿下ですが、私達としては陛下方に夜番をしていただくのは恐れ多いと言いますか、申し訳ないと思うのですが?
「それも含めてハンターだろう?むしろその程度のことができなければ、ハンターになってなどいないよ」
確かに陛下の仰る通りです。
それにハンターだけではなく、オーダーも野営をすることはあります。
しかもハンターよりオーダーの方が貴族の割合が高いですし、嫡子がオーダー登録をしていることも珍しくありませんから、その程度の理由で夜番を免除されることなどあり得ません。
ですから陛下も、国王だからという理由で夜番をしないなどという選択はしたくないそうです。
「分かりました。じゃあラウス達の次でいいですか?」
「分かった。まあセーフ・エリアだから魔物は襲ってこないし、下りてくる者もいないだろうが」
「それに展望席やデッキが使えるから、すごく楽そうよね」
陛下の仰る通り、セーフ・エリアにはOランクモンスターすら入って来れませんし、日が暮れてからセーフ・エリアに入ってくるハンターは滅多にいません。
それとエリス殿下が仰るように、キャビンの上に設えられている展望席、後部にある広いデッキも使えますから、獣車を降りなくても警戒できるため、普通よりは楽だと言ってもいいでしょう。
火を起こすことはできませんが、その代わり寒さを防ぐための魔法を付与させてありますから、砂漠の夜でも獣車に乗っている限りは凍える心配もないと思います。
「まだ試作ですが、フィーナが頑張ってくれましたからね」
「試作だからこそ、思いつく限りの装備を搭載させているとも言えますが。乗造部門の人達も予算の上限がないということで、やりたい放題でしたから」
その話を聞いた大和さんは、苦笑していましたからね。
この試作獣車にかかっている費用は、最低でも600万エルだと聞いています。
なにせ御者席や展望席、後部デッキ、キャビンやミラールームにも効果がある温暖の魔石はもちろん、キッチンには最新式のコンロ型魔道具に食べ物や飲み物を冷やすための冷蔵倉庫が、お風呂にはもちろん水を出し、お湯を沸かすための魔石がありますし、シャワーの魔道具も設えられています。
寝室は寝室で、大きなベッドにソファやテーブル、灯りの魔道具にミラーリングを付与させた書棚もありますし、エドさん達の部屋には小さいながらもクラフターの工房が設えられていますからね。
中庭も一面芝生が敷き詰められていて、噴水まであります。
もちろん従魔や召喚獣も、以前より広いということもあって、伸び伸びとしていますよ。
ルナだけは小さいですから、リビングまで入ってくることがありますけど。
「ですが広さに関しては、もう少し何とかしたいと思っています。もちろんこれでも十分な広さなんですが、大和さんもエドもラウス君も、あと数人ずつ奥様が増えますし、従魔も増えることになっていますから」
「ああ、
「はい。普通なら客室を減らせばいいんですが、アライアンスでの使用も考えていますから、減らすとしても1部屋ぐらいです。その分寝室を広くできるんですが、中庭だけはどうしようもありません。エンシェントクラスでも、ミラーリング付与は50倍が限界のようですから」
確かにそれは問題です。
寝室は5つあり、全てが50平米の広さですが、エドさん達やラウス君達はともかく、私達が使っている寝室は現在10人で使っており、さらにあと3人増える予定がありますから、もう少し広くてもいいかもしれません。
中庭は十分な広さではあるのですが、やはりシリウスは羽を伸ばしにくいようですし、ジェイドとフロライトはまだ大きくなると予想されていますから、こちらも今の倍の広さがあってもいい気がします。
「なるほどね、そんな問題があるんだ」
「普通ならミラーリング50倍どころか30倍付与ができるなら、クラフターとしては成功を約束されてるようなものだけどね」
マルカ殿下とエリス殿下の仰るように、普通のミラーリング付与は10倍が最大ですから、ハイクラスの限界である30倍付与ができるだけで、貴族やトレーダーからの依頼が殺到するでしょう。
ですがミラーリングは、元々の広さを拡張する魔法ですから、いくら広くなるといっても限界はあります。
「ということは、試作を作ったことは正解だったということになるか」
「そうですね。やっぱり実物がないと、見えてこない問題は多いですよ」
「確かにな」
その問題を解消するために大和さんとフィーナさんが出した結論は、単純に獣車を大きくする、でした。
この試作獣車より一回りというわけではありませんが、少なくとも後部デッキは伸長し、合わせてキャビンも少し拡大する予定だそうです。
大和さんとしては、できればミラールームは1,500平米にしたいと考えているようですね。
「随分と広くなるけど、従魔のことを考えるとそれ程広いというわけでもないように聞こえるね」
「それだけ翼を広げたシリウスが大きいということね。それにジェイドとフロライトなんて、大人になったら異常種に進化する可能性まであるんでしょう?」
「あくまでも育成師の予想ですけどね」
1,500平米の広さを確保できれば、中庭も倍近い広さにできると思います。
それだけの広さがあれば、シリウスが翼を広げても大丈夫でしょうし、ジェイドやフロライトが進化して大きくなっても大丈夫だと思いますし、何より皆さんが従魔契約を結びやすくなります。
フィールに戻ってからになりますが、ラウス君とレベッカちゃん、キャロルさんはバトル・ホースと契約したいと言っていますからね。
「ただ問題は、船を引いてもらう水棲魔物と契約した場合、どうするかなんですよ」
「ああ、それは確かにそうね。プレシーザーは陸の上を這うことができるけど、それでもある程度の水は必要だわ」
「陸に上がれない魔物もいるから、その場合はさらに面倒だよね」
中庭を作る際の最大の問題が、いずれは従魔・召喚獣契約する予定になっている水棲魔物をどうするか、ということです。
最有力はエリス殿下が仰ったプレシーザーですが、プレシーザーは短距離なら陸の上を這うことができますから、獣車に乗ってもらうことも不可能ではありません。
ですが普段は水の中にいる魔物ですから、中庭にもそれなりの広さの水場を用意する必要があります。
それより問題になるのが、完全水棲の魔物です。
海辺の街を拠点にしているハンターには、稀にですがエクレール・ドルフィンと契約する方がいます。
エクレール・ドルフィンは陸の上を這うこともできませんから、普段は街の港に放されており、海の魔物を狩る際に契約者の乗る船に同行するそうです。
エクレール・ドルフィンはCランクモンスターではありますが、海の中からの援護は効果的のようですし、街に入る船が襲われた場合は魔物を引き付けることもあるそうですから、ある街では人気者になっており、街の人から餌を貰うことも珍しくないんだとか。
「アルカには湖もあるから、そこに放しておけばいいんでしょうけど、1匹だけ連れて行けないっていうのもどうかと思うから、けっこう悩ましいんですよね」
「だがアルカという選択肢が取れるだけでも恵まれている。実際遠征などをする時は、連れて行けないと言っていたよ」
やっぱりそうなんですね。
フロートには港がありますから、許可を得て港に召喚したそうですが、エクレール・ドルフィンということで最初は驚かれたそうです。
ですからそのハンターは、拠点にしている街から動くことはほとんどありません。
陛下はお会いしたことがあるそうで、従魔契約した経緯もお聞きされたそうなのですが、そのエクレール・ドルフィンは子供の頃に拾われたんだそうですから、その方の気持ちも分かります。
そのせいなのかはわかりませんが、実はエクレール・ドルフィンからレイスパーク・ドルフィンという希少種、S-Rランクモンスターに進化しているんだそうです。
エクレール・ドルフィンの希少種は、本来はテンペスト・ドルフィンになるそうなんですが、大和さんやプリムさんと同じような条件で従魔契約を結んだために、同じS-Rランクであってもテンペスト・ドルフィンより強力になっているんだとか。
「異常種のディザスター・ドルフィンならば自在に空を飛べるんだが、希少種は短時間しか飛べない。だがレイスパーク・ドルフィンは、自在とはいかないが、テンペスト・ドルフィンより長時間飛ぶことが出来るらしい。しかもS-Rランクモンスターだから、彼女とレイスパーク・ドルフィンは領主からも頼りにされているんだよ」
そうだったんですね。
そのお話を聞くと、エクレール・ドルフィンもいいかなと思ってしまうのですが、現実的にはやはり難しいです。
誰が契約するかもまだ決まっていませんが、水棲魔物の問題は私達にとっては大切なことですから、一度その街オケアノスに行って、お話を聞かせてもらいたいものです。
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