イスタント迷宮

Side・ラインハルト


 試作獣車をエオス嬢が抱えること1時間少々、私達はトルティスマリン侯爵領北部にあるイスタントという街に到着した。

 イスタントは10年程前に生まれた迷宮ダンジョンを中心に町が広がっているが、まだまだ建造中の建物も少なくない。

 だから仕事の需要は多く、迷宮ダンジョンからも収入が得られるため、訪れる人は多岐に渡る。

 特にハンターが多いのだが、イスタント迷宮は第4階層の時点でMランクモンスターが確認されたため、全容は未だに不明だ。

 イスタント迷宮は少数階層だと予想されているが、その理由は第1階層からBランクモンスターが出てくるためだ。

 本当にそうなのかは、守護者ガーディアンの間を確認してみないことには分からないが、私は10階層もないと予想しているし、ハンターズギルドも同意してくれている。

 だが予想は予想でしかないから、実は20階層以上あったと言われても、それはそれで納得できてしまう。

 それが迷宮ダンジョンなのだから。


 イスタント迷宮に入る前にひと悶着あったが、王である私が来たのだから、これは仕方がない。

 領主や代官にも報せは行くだろうが、今回は休暇を利用してハンターとして来たのだし、その旨も伝えてあるから、どちらも何か言ってくるようなことはないだろう。


「第1階層は沼地かよ。いきなり面倒な」

「本当にね。とはいえ水辺は見当たらないから、湿地帯って言うべきかもしれないわ」


 大和君とプリムがイヤそうな顔をしているが、イスタント迷宮の第1階層は湿地帯だ。

 普通なら階層の情報は事前に仕入れるものだが、今回のイスタント行きは急だったこともあるし、イスタント迷宮の階層に関しては私が知っていたから、大和君達はハンターズギルドで情報を収集せず、試作獣車の完成と野営の準備を優先させていた。

 ある意味では、役割分担が出来ていたと言えるかもしれないな。


 イスタント迷宮は、第2階層が荒地、第3階層が草原、第4階層が山岳地帯ということは分かっているが、第5階層以降は分からない。


「第1階層に出てくるのはマーシュ・ホッパーにマッド・ウォーム、クレイ・ボアでしたっけ?」

「それらが多いというだけで、他にもいる。マッド・フライやマッド・パペット等だな」


 ラウス君が上げた3種がBランクモンスターで、私が上げた2種はCランクモンスターになる。

 マッド・ウォームの革は獣車の車輪に使われることが多いから、需要は高い。

 そのため第1階層では、マッド・ウォームが最も高値で売れる魔物だ。

 対象的にマッド・パペットは魔石ぐらいしか使い道がないし、Cランクモンスターということもあって買取額は最低だったと思う。


「本当に虫系が多いわね。クレイ・ボアがいるから食肉の供給はなんとかなるんでしょうけど、ハンターからしたら旨みが薄くないかしら?」


 プリムがボヤくように、実はマッド・フライとマーシュ・ホッパーも、あまり素材になるような部位はない。

 マーシュ・ホッパーはBランクモンスターではあるが、死ぬと体表が脆くなるため、鎧などには一切使えなくなるという特徴を持っている。

 だからマーシュ・ホッパーも魔石ぐらいしか買い取ってもらえないのだが、Cランクモンスターのクレイ・ボアは、イスタントでは一般的な食肉になっているため、こちらの方が買取額が高かったはずだ。

 マッド・フライは羽が透き通った羽を加工品として使うことができるが、他に狩りやすく使いやすい魔物の羽が出回っていることもあって、買取額は低い。

 しかもこの2種はかなり多いという話も聞いているし、マーシュ・ホッパーはBランクモンスターなのだから、ノーマルハンターでは倒すことも容易ではない。

 まさに労多くして益少なしだ。


「なら第1階層は省略してもいいか」

「そうしましょう」


 大和君とマナが第1階層を省略することを決定したが、私も同意見だ。

 そもそもウイング・クレストのハンターは、最近ハンター登録をしたというキャロルを除き、全員がハイクラスに進化しているし、大和君とプリムに至ってはエンシェントクラスだ。

 CランクどころかBランクモンスターでさえ、大した手間もなく狩ることができてしまう。

 私達も、エリスはまだ進化していないが、私とマルカはハイクラスだから、他のハンターの邪魔をしてまで第1階層で狩りをする理由は見つけられない。


 そうと決めた私達は、マナのウォー・ホース スピカとミーナのバトル・ホース ブリーズが引く獣車で、先に進む。

 余計な狩りをするつもりはないが、魔物には私達の都合など何の関係もないから何度か襲撃を受けたし、逆にマーシュ・ホッパーの大群に囲まれていたハンターの救援を行いもした。


 大群に襲われる理由は様々だが、倒すのに手間取った結果他の魔物に発見されただとか、魔物が大量に出現する罠に引っ掛かってしまっただとかがある。

 前者はハンターの実力不足なのだが、問題なのは後者だ。

 なにせその階層にいない魔物が罠として現れることもあると聞いているから、ハンターの実力云々の話ではない。

 その罠モンスターズ・トラップに引っ掛かってしまうと、多くの場合は命を落とすことになるし、現れた魔物はそのまま残るため、迷宮ダンジョンの罠の中でもトップクラスの危険度として認識されている。

 先程のマーシュ・ホッパーの大群に襲われていたハンターは、前者だったようだが。


 ともあれ私達は、襲ってきた魔物を倒し、襲われていたハンターを助け、そのまま第2階層に入った。


 イスタント迷宮第2階層は、最もハンターが多いと言われている。

 Sランクモンスターも出てくるためノーマルハンターには厳しいが、それでも倒せないわけではないし、数としてはBランクモンスターの方が多い。

 ランド・ボアやメルト・バッファロー、ウインド・ロックのように、そこそこの高値で買い取ってもらえる魔物が多いことも理由だろう。


「獣系が増えてきたけど、ここもスルーかしらね」

「だね。第4階層までは地図があるし、そこまではスルーでいいんじゃないかな?」

「ハンターも多いですしね」


 第2階層のセーフ・エリアで、プリム、ルディア、ミーナが第4階層まではスルーしたいという意見を口にした。

 第3階層はGランクモンスターも出てくると聞いているから、多少は狩りをしてもいいと思うのは私だけだろうか?


「第3階層って、Gランクモンスターが出て来なかったっけ?」

「そんな話ですね。だけど出てくる魔物はイデアル連山と同じっぽいから、別にここで狩る必要もないかなと」


 そう言われてしまうと、確かにそうかもしれないな。

 マルカも私と同じことを思っていたようだが、出てくるGランクモンスターがイデアル連山でも狩れるということなら、わざわざ迷宮ダンジョンで狩る必要もない。

 事実として大和君達は、以前イデアル連山の宝樹で、大量の魔物を狩っているのだから。

 とはいえエド達やフィーナの妹達の戦闘訓練も兼ねているのだから、全くのスルーというのも問題になりはしないだろうか?


「今回は3日と決まってますから、どうせやるなら深層の方が都合が良いと思いまして。それに他のハンターもいなくなるから、周囲の目を気にする必要もなくなりますし」


 なるほど、そういうことか。

 確かに今回は迷宮ダンジョン内で2泊し、3日目はある程度探索してからエスケーピングで外に出ることになっている。

 迷宮ダンジョン内では長距離転移魔法トラベリングは使えないため、もう一度迷宮ダンジョン探索を行う場合は第1階層からになってしまうが、こればかりはどうしようもない。


 深層の方が都合が良いという言葉は、非戦闘員の戦う姿を見せたくないからだろう。

 私達の時もそうだったが、大和君とプリムが魔物を引き付けている隙をついて攻撃するのだから、他人に見られない方がいいに決まっている。

 しかも完全に攻撃を引き受けるわけではなく、ある程度はこちらにも被害が及ぶように立ち回るのだから、こちらとしても必死になる。

 もちろん魔物の攻撃が届くことはないし、ダメージを負うこともないのだが、それでも攻撃を食らうかもしれないという恐怖はあるから、必死になって魔物を倒せるように魔力も高める。

 だからこそ、レベルが上がるのだろう。


 ともかく、これからの方針は決まった。

 入り口のオーダーの話では、いくつかのレイドが協力し合い、第5階層を目指しているという。

 だが第1階層からBランクモンスターが出てくる迷宮ダンジョンということもあり、第4階層以降はほとんどハンターがいなくなる。

 イスタント迷宮第3階層は草原地帯であり、出てくる魔物も対処しやすいこともあって、それなりに人がいるようだが。


 だが第3階層も省略するというのなら、このペースで進めば今日中には第4階層には到達できるだろう。

 第5階層を目指しているハンターがどこにいるかは分からないが、入ったのは昨日という話だから、第3階層か第4階層のいずれかにいる可能性が高い。

 魔物に対処しながら進む必要もあるから、おそらくは第3階層ではないかと思うが。


 食事を終えた私達は少しの食休みを挟み、再び獣車で第2階層を進むことにした。


Side・大和


 無事に第3階層に到着しました。

 まあイスタント迷宮第2階層は狩りやすいってことでハンターが多いから、魔物と遭遇することも2回ぐらいしかなかったことも、2時間弱で突破出来た理由なんだが。

 あとソルプレッサ迷宮と比べると、第1階層も第2階層も狭いように感じたな。

 草原地帯の第3階層も人気があるみたいだから、ここも思ってたより早く抜けられるかもしれない。


「って言ってたのに、なんでこうなるんですか!」

「俺が知るか!ともかく1匹でも多く、魔物を倒せ!」


 そう、ラウスが叫んでいるように、俺達はモンスターズ・トラップに引っ掛かった。

 正確には俺達の前方で戦ってたハンターが引っ掛かったんだが、まさか通路の近くにあるとは思わなかったぞ。

 ちなみに現れた魔物はGランクが多かったが、エビル・ドレイクやソード・ドレイクもいたし、アミスターにはいないはずのサウルス種 ティタノサウルスが5匹にメガロサウルスが7匹、P-Rランクのマクロナリア、果てはP-Cランクモンスター デモンズ・ドレイクまで出やがった。

 前方で戦ってたハンターも頑張って戦っているが、俺達が通りかからなかったら死体になってたことは想像に難くない。


「さすがにキツいな、これは!」

「さっさと殲滅しますか?」

「やれるところまではやる。だが無理だと判断したら、その時は頼む」


 ラインハルト陛下はエリス殿下やマルカ殿下と共に、マクロナリアを相手取っている。

 Pランクのマクロナリアとデモンズ・ドレイクは1匹ずつしか出てきてないのが救いだが、まさか国王がマクロナリアと戦うことを選ぶとは思わなかった。


「大和、こっちは終わったわよ」

「ああ、こっちも終わってる」


 プリムはもう1匹のPランクモンスター デモンズ・ドレイクを、フレア・ペネトレイターで貫いたところだ。

 俺もアイスエッジ・ジャベリンでエビル・ドレイクとソード・ドレイクを倒してあるが、デモンズ・ドレイクは災害種、エビル・ドレイクとソード・ドレイクは異常種だから、優先的に仕留めさせてもらった。

 通常のランクより1つ、あるいは2つ上相当って見なされてる魔物だから、放置してたら何をしてくるか分かったもんじゃないからな。

 マナ達はティタノサウルスやメガロサウルスを倒していっているが、問題なのはモンスターズ・トラップに引っ掛かったハンター達だ。

 元々Gランクのスパイク・タートルと戦っていたのに、モンスターズ・トラップに引っ掛かって大量の魔物が沸いたせいで、大きく態勢を崩してしまっている。

 見た感じ武器は魔銀ミスリル金剛鉄アダマンタイトっぽいから、ハイクラスがいたとしても苦戦は免れない。

 もちろん俺が援護として、ニブルヘイムを使ってあるが。


「ありゃマズいぞ。武器より盾の方が持たねえ。あと2,3発攻撃を受けたら砕けるぞ」


 スパイク・タートルと戦っているハンターを見て、エドがそんなことを言った。

 盾の方がヤバいってことは、それだけ攻撃を受けてるってことになる。


「仕方ない。プリム、頼んでいいか?」

「構わないわよ。倒さないように注意しないとね」


 そう言ってプリムは、極炎の翼を広げた。

 俺が行ってもよかったんだが、ラインハルト陛下達の援護が疎かになる可能性があるから、俺は動けない。

 他のみんなは魔物の相手をしているから、動けるのはプリムしかいないっていう理由もある。

 あのハンター達が助太刀をどう思うかは分からないが、今のままじゃ怪我で済むかも怪しいから、邪険にされるようなことはないだろう。


「大和君、ごめん!エリスをお願い!」


 おっと、マルカ殿下の切羽詰まった声が聞こえるな。

 特にエリス殿下が攻撃を受けてる様子はないが、あの様子じゃそういう意味じゃなさそうだ。

 だとすると、考えられることは1つしかない。


「了解です」


 エリス殿下は一歩下がり、魔力の感触を確かめているように見える。

 実際魔力は間違いなく増えているから、やっぱりハイエルフに進化したみたいだな。


「ってえええいっ!」


 マルカ殿下が2丁の手斧それぞれに風と炎を纏わせ、マクロナリアの足に向かって思いっきり叩きつけた。

 マルカ殿下だけじゃなく、エリス殿下の細剣、ラインハルト陛下の片手直剣も瑠璃色銀ルリイロカネ製だから、お三方の魔力に負けるようなことはない。

 さらにマルカ殿下の、左右の手斧を交差させた一撃によって、マクロナリアの右前足を切断させるまでに至っている。


「これで終わりだ!」


 右前足を切断されたことで倒れたマクロナリアに向かって、ラインハルト陛下が刀身を氷で作った刃で巨大化させ、さらに雷を纏わせながら、大上段から斬り付けた。

 マナの固有魔法スキルマジックスターリング・ディバイダーに似ているが、あれがラインハルト陛下の固有魔法スキルマジックなんだろう。

 その雷と氷の一撃を受けたマクロナリアは、頭をかち割られて絶命した。


「ふむ、上手くいったな。マルカはどうだ?」

「こっちも上々だよ。元々考えてた固有魔法スキルマジックだし、今までやってたことの延長だしね」


 なるほど、固有魔法スキルマジックは今までやってたことの延長でもいいのか。

 確かにそっちの方が手間はかからないし、使い勝手も変わらないはずだな。


「私も同じようなものだな。エリス、体調はどうだ?」

「さすがに戸惑ったけど、大丈夫よ。マルカの気持ちがよく分かったわ」

「でしょ?大和君がいる時に進化できて、本当に良かったよ」


 いや、俺はほとんど何もしてませんけどね。

 マクロナリアっていうP-Rランクモンスターを3人だけで倒せたんだから、エリス殿下だけじゃなくラインハルト陛下やマルカ殿下もレベル上がってる気もする。


 っと、他のみんなは……ああ、あっちも終わりそうだな。

 みんなそれぞれの固有魔法スキルマジックを使って、メガロサウルスやティタノサウルスを倒し終わっている。

 ラウスも、魔獣魔法を組み込んだ固有魔法スキルマジックヘビーファング・クラウドを完成させたみたいだ。

 ヘビーファング・クラウドは魔獣魔法で作り出した風や雷の狼の群れを放つ魔法だが、群れの長となる狼だけは風と雷を纏った5メートル近い巨狼となっている。

 ソルプレッサ迷宮でのミスを教訓に、魔物の大小に関係なくダメージを与えられるよう、風の狼は切断力に、雷の狼は貫通力に特化していて、巨狼は両方の特徴を持っている。

 その巨狼を長とした狼の群れは、しっかりとティタノサウルスにダメージを与え、倒すにまで至った。

 雷属性魔法サンダーマジックは、ラウスがハイウルフィーに進化した際に得た適正だが、状況に応じて他の属性を追加することも考えているそうだ。

 やっと完成したばかりだから、そっちはおいおいだな。


「大和、こっちも終わったわよ」

「ああ、ご苦労さん」


 プリムの援護を受けて、ハンター達もスパイク・タートルを倒せたみたいだ。

 横目で見てた限りじゃプリムが攻撃を引き付けて、リーダーと思われる女性が頭に剣を突き刺していたが、甲羅は無事だから十分な成果になるだろう。


「すまない、助かった」

「セイクリッド・バードがモンスターズ・トラップに引っ掛かるとは、イスタント迷宮の罠はなかなかに凶悪だな」

「そちらは……へ、陛下!?」


 どうやら陛下の知り合いのハンターだったらしい。

 セイクリッド・バードっていうレイドは知らないが、第3階層にいるってことは、少なくともリーダーのエルフはハイクラスに進化してるだろう。


「お恥かしいところをお見せしましたが、なぜ陛下がイスタント迷宮に?」

「久しぶりに休暇が取れたのでね。彼らがバレンティアにあるソルプレッサ迷宮のような迷宮ダンジョンを探していたから、情報を提供する代わりに同行させてもらったんだ」

「彼ら、ですか?若いように……いえ、マナリース殿下もおられるということは、彼が噂のエンシェントヒューマンであり、Oランクオーダーなのですね?」


 自己紹介しようかと思ってたら、必要なかったでござるの巻。

 Oランクオーダーになる際に、俺がエンシェントヒューマンだってことを大体的に広めるって話だったから、既にハンターの間じゃ知られててもおかしくはないんだが、自己紹介ぐらいはさせてくれよ。


「ああ、そうだ。大和君、彼女はセイクリッド・バードのリーダーでハイエルフのシャザーラ・ウッドルードだ。シャザーラ、紹介はいらないかもしれないが、彼がヤマト・ハイドランシア・ミカミ。エンシェントハンターであり、Oランクオーダーでもある」


 内なる葛藤を抱えていたら、ラインハルト陛下に互いを紹介されてしまった。


「どうも」

「ああ、よろしく。まさかこんな所で会えるとは思わなかったよ」


 シャザーラさんに同意するように、俺も頷く。

 セイクリッド・バードはハイハンター4人、ノーマルハンター13人と、レイドとしては中規模になる。

 イスタントの街にはトレーダーも2人いるらしいから、レイドじゃなくてユニオンになるが、クラフターやヒーラーはいないらしい。

 武器は魔銀ミスリル金剛鉄アダマンタイトのままだが、どうやらこれはイスタント迷宮で活動していたことが大きな理由らしく、他にもイスタントにはクラフターが多くないという理由もあるみたいだ。


「それが噂の合金ですか」

「ああ。ハイクラスはもちろん、エンシェントクラスの魔力にも耐え得る。シャザーラ達も、先に手に入れた方が良いと思うぞ」

「やはりですか。私達は噂程度でしか聞いたことがなかったものですから、一度フロートに戻るか迷っていたのです。ですが噂が事実だったということなら、レイドの武器を更新するためにも、フロートに戻った方が良さそうですね」


 俺もその方が良いと思う。

 セイクリッド・バードのハイクラスは、シャザーラさんのみがGランクハンターで、他の3人はSランクらしい。

 だけどハイクラスってことに違いはないから、武器は予備も含めて、何本でも必要になる。

 しかも今回は、スパイク・タートルと戦ってる最中にモンスターズ・トラップが発動なんかしたもんだから、さっきまで使ってた武器は、予備も含めてほとんどが既にスクラップになってしまったみたいだから、早急に新しい武器を用意しなきゃならない。


「フロートまで戻らなくても、アクア辺りまで行けば手に入るんじゃない?」

「そうね。イスタントじゃ手に入らないのは驚いたけど、アクアは大きいし、何よりトルティスマリン侯爵領の領都なんだから、扱ってないわけがないわ」


 マルカ殿下、エリス殿下は、フロートまで戻る必要はないんじゃないかって言っているが、俺もそう思う。

 特に領都はオーダーズコートを仕立ててたんだから、翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネを扱えないわけがない。


「私もそう思う。だが今はハイクラスでも紹介状が必要だし、ノーマルクラスは購入を禁止している。数が用意しにくいという理由もあるが、所有しているノーマルクラスを襲って、武器を手に入れようと考える愚か者もいるだろうからな」


 ああ、今って合金の購入を制限してるのか。

 だけど確かに、他人の合金製武器を奪おうって考える馬鹿は出てくるし、それがソレムネやレティセンシアのスパイっていう可能性も捨てきれないんだから、ノーマルクラスに売れないっていう理由は分かる。

 合金を精製できるのは、晶銀クリスタイトを扱うことができるようになるSランククラフター以上で、そのランクのクラフターともなると仕事を任されることもあるから、合金の数が不足気味っていう理由もあるらしい。

 だからなんだろうが、紹介状が必要って話は初耳だ。

 さすがに購入するために紹介状が必要になるとは思わなかったらしく、セイクリッド・バードの面々の落胆が激しいな。


「心配しなくても、君達への紹介状は私が用意しよう」


 そう言ってラインハルト陛下は、ストレージから1通の書状を取り出した。


「これでいい。これをクラフターズギルドに持っていけば、優先的に用意してもらえるだろう」


 紹介状は既に用意されていて、後は陛下のサインとセイクリッド・バードのレイド名を記入するだけだったみたいだ。


「あ、ありがとうございます!」

「礼には及ばない。本当なら紹介状も不要にしたかったし、ノーマルクラスでも購入できるようにしたかったんだ。だがさっきも言ったように、問題が起きるのは間違いないからな。だからすぐに発行できるよう、トレーダーズギルドに紹介状製作の依頼をしていたんだ」


 なるほど、そうだったのか。

 貴族の中にも同じ手段で紹介状を用意している人がいるそうだし、合金に限らず紹介状を使う機会は少なくない。

 だからトレーダーズギルドにも、この手の依頼はよくあるんだそうだ。


 その後、倒した魔物をセイクリッド・バードと分配することになった。

 セイクリッド・バードが倒したのはスパイク・タートルだけだが、ハイクラスどころかノーマルクラスの武器もボロボロだったため、メガロサウルスとティタノサウルスも2匹ずつ持っていってもらうことにした。

 すげえ恐縮されたが、武器を買い替える必要もあるし、モンスターズ・トラッブとはいえサウルス種が出てきたんだから、そっちの報告をしてもらう必要もあるからな。

 俺達が倒したせいでクエスティングじゃ確認出来ないから、現物を持っていった方が手っ取り早いし。


「それでは陛下、申し訳ありませんが、私達はここで失礼させていただきます」

「わかった。フロートにしろアクアにしろ、道中は気を付けてな」

「はい。救援並びに紹介状、ありがとうございました。それでは失礼致します」


 礼を述べてから、シャザーラさんがエスケーピングを使った。

 トラベリングと同じように魔法陣が宙に浮かび、その中をセイクリッド・バードの獣車が通り抜ける。

 実際に見たのは初めてだ。


「運が良かったのか悪かったのか、微妙なとこね」

「まったくだが、運が良かったと言っていいんじゃないか?命も助かったし、合金を買うための紹介状までもらえたんだからな」


 俺達が通りかからなかったら、全滅とまではいかなくても、犠牲者が出ていたことは間違いないからな。

 さらに合金を買うための紹介状まで貰えたんだから、運が悪いってことはないと思う。

 モンスターズ・トラップに引っ掛かったのは運が悪いが、それが転じた形だな。


「それじゃあ魔物を回収して、俺達も先に進みましょうか」

「そうだな。おっと、遅れてすまない。エリス、ハイエルフへの進化、おめでとう」

「ありがとう、ライ」


 そうだった、エリス殿下もハイエルフに進化したんだった。

 俺と同じ理由で進化させたいって言っていたから、ラインハルト陛下も喜色満面だ。

 俺達からもお祝いとして、何かした方がいいかもしれない。

 そうだな、エオスとユリアに頼んで、今晩の飯を少し豪勢にしてもらうか。

 幸いにも食材は山のようにあるから、それを使えばいい。

 せっかくだし、ゴールド・ドラグーンとディザスト・ドラグーンがいいかな。

 あれ、すっげえ美味かったし。

 やべ、思い出したら涎が出てきた。

 うん、今晩はそれで行こう、そうしよう。

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