拠点決定
一度フィールに戻った俺達は、アプリコットさんを含む全員を連れて、再びアルカにやってきた。
俺、プリム、リディア、ルディアの中じゃアルカを拠点にし、日ノ本屋敷をユニオン・ハウスにすることは決まってるんだが、他のみんなの意見も聞きたいし、早く見せてやりたかったからな。
「す、すごいわね……」
「マジで空の上なのかよ……」
「あ、天樹が!」
面倒なことに、石板を使ったのはマイライト山頂だったから、アルカから転移したらそこに出てしまった。
幸い魔物に襲われることはなかったが、これはマズいと思ったね。
まあここから転移することは、もうないとも思うけどな。
シリィ達も出てきて、本殿に案内してもらう。
そこで昼間に聞いたことを、アバリシアのことを除いて説明すると、予想通りここを拠点にすることが満場一致で決定された。
「じゃあ本殿は、俺達が使っていいんだな?」
「当然だろ。このユニオンのリーダーはお前なんだからな」
今は本殿と4つある副殿のどこを住居にするかを話し合ってるんだが、俺はあっさりと本殿ってことに決まってしまった。
俺がユニオン・リーダーってこともあるが、アミスターの王女でもあるマナやユーリもいるからって理由も後押しされた感じだな。
日ノ本屋敷は日本の城を模して建てられてるようで、本殿は安土城、副殿は北東が名古屋城、北西が姫路城、南東が熊本城、南西が松本城、客殿は東が岡山城、西が小田原城、従魔殿は首里城、工芸殿が高知城、そして湯殿は大阪城によく似ているから最初は驚いた。
あと副殿は4棟、客殿は2棟あるから、せっかくだからってことで名前も俺がつけることになってしまった。
なので副殿は、北東が
それぞれの城の別名だが、悪くないんじゃないかと自画自賛している。
「あたし達は深志殿にするよ」
エド達が選んだのは、南西の深志殿だった。
理由は湯殿と工芸殿に挟まれてるからってことだから特に意外でもなく、むしろ当然の選択だと言えるな。
「じゃあ俺達は、こっちの金鯱殿にします」
ラウス達は北東の金鯱殿か。
湯殿からは一番遠いが、副殿の最上階にはそれぞれ半露天風呂、眺望風呂だったか?があるから、そっちからの景観を選んだらしい。
そっちは天樹もよく見えるから、景観っていう意味じゃ一番だろうな。
「思ったよりあっさりと決まったわね。母様はどうするの?」
「お邪魔じゃなければ、本殿の一室を借りさせてもらおうかしら。さすがに私1人じゃ、副殿は広すぎるから」
アプリコットさんは本殿か。
確かに副殿は4階建てだし、1人じゃ広すぎるよな。
それに俺にとっては義母になるんだし、本殿も部屋は多いから、そっちの方が良いかもしれない。
「私は構わないわよ。プリムのお母様だしね」
「あたしも賛成」
マナとルディアに続いて、みんなも快諾してくれた。
アプリコットさんには、本殿3階の一室を使ってもらおう。
「これで住居は決まったけど、問題は明日からどうするかね」
「ああ。ゲート・クリスタルが完成すれば問題ないんだが、それまではどうしても、な」
今晩はアルカに泊まることも決まっているし、エド達は早速工芸殿で作業をする気満々だ。
従魔や召喚獣達もアルカが気に入ったようで、今はアルカを好きに散策している所だろう。
だけど移動するためには、今のところ俺が持ってる石板を使うしかない。
フェザー・ドレイクなら3匹ストレージに死蔵されてたから、それと回収してきた石碑とエドが持ってた
「ゲート・クリスタルが出来るまでは仕方ないけど、でもフィーナの家族を迎えに行くのは楽になるわね」
「確かにね。行きはエオスに頼むことになるけど、帰りはアルカ経由だから、見つかるリスクも減らせるよ」
プリムとマリーナの言う通りでもあるので、明日はフェザー・ドレイクやウインガー・ドレイクを狩ることにしているが、明後日はフィーナの生まれ故郷ロリエ村に行くことに決まった。
クラフターズギルドに依頼してる解体は、明日には何体か終わるってことだから、それを受け取る必要もあるからな。
そう考えると石板は自由度が高いが、ゲート・クリスタルみたいに位置を固定できるわけじゃないから、いちいちフィールに戻ってから使わないといけないのが難点か。
「大和さんに出向いてもらうなんて、申し訳ないです……」
「気にするなって」
「そうよ。同じユニオンの仲間なんだし、私達にとっても無関係じゃないんだから」
フィーナは申し訳なさそうな顔をしているが、マナの言う通り、俺達にとってもフィーナの家族の安否は無関係じゃない。
なにせプリムに対する人質に取られてしまったら、俺達の動きが封じられるばかりか、プリムがどうなるか分かったもんじゃないからな。
「トライアル王爵領はバレンティアにも近いですから、プリムお姉様がエンシェントフォクシーに進化したことは知られている可能性がありますからね。ですがフィーナが身請奴隷になったことを、ギルファ・トライアルが知っているとは思えません」
「同感ですね。トライアル王爵領は悪い噂が堪えないと聞いていますし、身請奴隷になった者も少なくないとか。しかも何人かはアミスターに来ているとも聞いていますから、その中からフィーナを特定することは、仮に出来たとしても時間が掛かるでしょう」
それに関しては、俺もユーリやリカさんに同意だ。
圧政に耐えかねて夜逃げした家族もいるらしいから、尚の事特定は難しいだろう。
「それでも急いだ方がいいのは間違いない。特定される恐れはないだろうが、ギルファは父親と兄貴を殺して爵位を奪ったって言われてるんだろ?」
「ええ。噂でしかないけど、十中八九その通りだと思う。はっきり言って、あいつの存在は害悪でしかないわ」
断言するプリムだが、実際にギルファが裏切ったせいで親父さんが処刑されたんだし、トライアル王爵領は治安も良くないって話だから、無能とはいかないまでも、それに近いクズであることは間違いないだろう。
「本当にありがとうございます」
「だから気にするなって。それにまだ、ロリエ村には行ってないんだからな」
「そうだよ、フィーナ。お礼を言うなら、終わってからの方が良いよ」
いやマリーナ、礼はいらないし気にするなって言ってるんだから、話を蒸し返すな。
「分かりました。それでは今は、獣車とユニオン・ハウスのことを決めてしまいましょう」
いやフィーナさん、分かったってどっち?
だけど獣車とユニオン・ハウスそれぞれの図面を持ち出されてしまったから、ツッコむタイミングを逃してしまった。
「アルカは素晴らしいけど、ゲート・ストーンがあれば街中にも転移できるようになるから、フィールにもユニオン・ハウスは必要だわ」
「そうですね。ですが日中はともかく、夜はどうするんですか?緊急の連絡が来ても、私達はアルカにいるわけですから、連絡がつかないんじゃないでしょうか?」
それが一番の問題なんだよな。
日中でも問題になりかねないから、できるだけ早く通信機を開発したいもんだが、代わりになるようなもんがアルカにあったりしないだろうか?
「コンル、何か使えそうなものがあったり……は、しないよなぁ」
「え?ありますよ?」
ほらなぁ。
「って、あるのかよ!」
「はい。少し時間をいただくことになりますが、イリュージョン・ノッカーにゲート・クリスタルを組み込めば、幻影とノックの音を本殿に届かせることは可能です」
「マジか……」
エドも驚いてるが、気持ちは分かる。
イリュージョン・ノッカーはドアに付ける魔導具で、来客を知らせるための物だ。
ドアがノックされると幻影が浮かび、ノックの音と共に一番近くにいる人に来客を知らせるそうだ。
幻影はノックの音とともに現れるが、突然現れることも間違いないから、家の者が混乱したりしないように小型の魔物や子供なんかが使われることが多いとか。
そのイリュージョン・ノッカーにゲート・クリスタルを組み込み、本殿の1階をユニオン・ハウスの一部として設定することで、ユニオン・ハウスに人がいなくてもアルカに来客を知らせることができるようになるんだそうだ。
「はい。ですがユニオン・ハウスはもちろん、本殿1階にもゲート・ストーンが必要になります。これは転移用ではありませんから余分に用意することになってしまいますが、よろしいですか?」
お手軽かと思ってたが、それなりのコストはかかるのか。
だけど俺達からすれば、大した出費じゃない。
これは是非とも作ってもらわないといけない魔導具だな。
「それぐらいなら問題ない。ユニオン・ハウスを建てるのはもう少し先になるけど、ウインガー・ドレイクは早めに狩ってくるよ」
「分かりました」
大きな問題が、1つ解決したな。
とはいえユニオン・ハウスを建てるのはまだ先になるから、今は獣車の方を決めてしまおう。
「獣車ですけど、私なりに考えてみたんですが、本体、車体、船体を独立させようと思います。本体にはアテナさんやエオスさんのためのベルトや車体、船体を収納するためのスペースを、ミラーリングかストレージングを付与させて作ろうかと考えています。ですから本体底は、お2人が竜化した際に保持しやすいよう、少しならさせてもらいました」
フィーナが書いた図面には、本体の両側と後部に小さな収納スペースが設けられていた。
両側の収納にはドラゴニアン用のベルトを、後部収納には車体と船体を、ミラーリングかストレージングを付与させて格納させておくことで、誰かが保管しておく手間を省こうってことか。
底も船底みたいな形じゃなく、台形に近い形に変更されてるな。
だけどその分全高も低くなる感じだから、こっちの方が使いやすそうだ。
「なるほどな。車体は俺が保管しておくことも考えてたんだが、獣車本体に格納しておけるなら、そっちの方が良いな。だけどミラーリングじゃ車体はともかく、船体は厳しくないか?」
「そうなんです。それに車体の方も予備を格納しておきたいので、できればストレージングが望ましいと考えています」
なるほど、予備か。
確かに車輪は魔物の革に空気とゴムを入れて作ってるわけだから、パンクすることはあるし、使い方によってはすぐに擦り減って使えなくなることもある。
そのための予備ってことなんだから、あった方がいいのは間違いないな。
「わかった。じゃあこれで頼むよ」
「はい。後は本体ですが、基本デザインは変えていません。ですが両側に収納式のステップを設け、コネクティングを使ってデッキに増設した扉と連動させることにしました」
コネクティングを使った連動式収納ステップか。
最初の案だと船底になるからってことでいじれなかったが、ラベルナさんのアドバイスを受けて船体は別に用意することになったから、本体の方は自由に使えるようになった。
だから扉を開けることで、収納されたステップが出てくるようにしたってことか。
ミラーリング付与もすることで、ミラールームへの影響も最小限にしてくれてるから、これなら乗り降りも問題なく行える。
何より基本デザインは変わってないんだから、これも即採用だ。
「最後に船体ですが、こちらは本体底を完全に覆うのと安定性を出すために、双胴船底を取り付ける形になります」
なるほど、双胴船底の上に本体を乗せて、コネクティングで固定する形か。
これも悪くないが、安定性を出すなら三胴船の方が良いんじゃなかろうか?
「検討はしたんですけど、双胴船底は天樹ではなく桜樹を使う予定でいます。ですが桜樹の量が不足が、双胴船底でもギリギリだったんです」
申し訳なさそうに説明するフィーナだが、船体は使用頻度も高くないだろうし、破損した場合の修理のこともあるから、桜樹を使うことにしたそうだ。
確かに天樹は二度と手に入らないだろうから、桜樹を使うことにしたのは分かる。
「それなら桜樹じゃなくて、
そう提案したら、不思議そうな顔をされてしまった。
「大和さん、いくら
「というか、
何言ってんだこいつ、って顔をしたエドにもツッコまれたが、ヘリオスオーブには金属船はないのか。
「いや、この獣車の元になった船って、金属製だぞ?」
正確には違うみたいだが、それが何なのかは俺には分からないし、調べようもない。
だけど軍艦とかはマジで金属製だから、鉄より軽い
「は?いや、マジでか?」
「ああ。地球の軍艦なんかは、ほぼ全てが金属製だな。それも1つの村並にデカいぞ」
全長100メートルクラスの軍艦なんて、珍しくもないからな。
空母とかになると、300メートルを超えてた気もする。
「俺もうろ覚えだが、確か金属を薄く延ばせば水に浮いたはずだ。だから鉄より軽い
「た、確かに
「ホントに出来るの?」
フィーナは純粋に驚いてるが、マリーナは懐疑的だな。
実際に試してみれば分かると思うぞ。
「それもそうだね。ならフィーナ、あたしも手伝うから、後でやってみようよ」
「え?あ、はい、そうですね。幸いここは湖もありますから、テストを行うには最適です。でもいきなり
「そうだね」
その後フィーナは、マリーナに手伝ってもらって工芸殿で作業を行ったんだが、翌朝満面の笑みで俺の元にやってきた。
実際に作ったのは、人1人が乗れるぐらいの小型の船だが、マリーナが乗っても沈まなかったそうだ。
もちろん獣車に使う船体は重さも大きさもマリーナとは比べ物にならないから、普通の鉄と木材を使って、形と大きさを整えただけの模型を作ってみるとも言ってたな。
マリーナも手伝うそうだし、エドは剣の製作中だから、クラフター3人は工芸殿に缶詰めが決定した瞬間だ。
工芸殿の設備はクラフターズギルド以上だったらしいから、テンション上がってるのも理由だろうな。
それはいいが、しっかりと飯は食って、ちゃんと寝といてくれよ?
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