マイライトの探索

Side・ラウス


 フィールに帰ってきた翌日、俺とレベッカ、キャロルさんの3人はハンターズギルドに行って、キャロルさんのハンター登録をしてから、適当な依頼が無いかを確認していた。

 最近またウルフ種の数が増えてきてるみたいで、グラス・ボアやホーン・ラビットなんかの入荷が滞ってるみたいだから、ウルフ種討伐の依頼を受けることにして、無事にその依頼をこなし、グラス・ボアも狩ってきたんだ。

 俺とレベッカはハイクラスに進化してるから、今の自分がどれぐらい強くなったのかを知りたかったっていう理由も大きいよ。

 前より簡単にグラス・ウルフが狩れたから、けっこう驚いたけど。

 ウイング・クレストの担当のカミナさんからは呆れられちゃったけどね。


 あとGランクに昇格したってことで、家名はどうするのかって聞かれたな。

 すっかり忘れてたんだけど、どこのギルドでもGランクに昇格すると、家名を名乗ることを許されるようになる。

 俺はそのGランクに昇格しているから、家名を名乗れるようになったんだ。

 レベッカはSランクハンターだからまだ家名は名乗れないけど、いずれ俺と結婚するからってことで、Gランクに昇格しても家名を名乗らないことに決めてるし、俺はレベッカだけじゃなくキャロルさんとも結婚することになるから、家名はしっかりと考えないといけない。


「そういう訳なんで、何かいい名前ってありませんかね?」


 だからアルカっていう空飛ぶ島に招待された次の日の朝、俺はユニオンのみんなに相談することにしたんだ。


「俺も忘れてたな」

「あたしもよ。思ってたより早く進化して、さらにはGランクハンターにまでなっちゃったんだから、頭からスッポリと抜けてたわ」


 無責任なことを言う師匠2人。

 いや、思ってたより早く進化できたし、Gランクにもなっちゃったから、俺も忘れてたんだけどさ。


「なかなか難しいわね。改名は余程のことがないとできないし、基本的には一生どころか子孫にまで影響する問題だから、悩むのは当然だわ」

「キャロルが嫁ぐこともありますしね」


 マナ様とユーリ様も、難しそうな顔をしている。

 人によっては適当に、身近な物の名前を使うこともあるらしい。

 だけど俺の場合は貴族のキャロルさんとも結婚することになってるから、そんな適当な名前を付けるわけにはいかない。


「私達も考えるけど、少し時間をもらえる?もちろんラウスが名乗りたい家名を考え付いたら、そっちを優先してもらってかまわないから」

「わかりました」


 お姫様に家名を考えてもらうなんて、すっごく恐れ多いけどね。


「家名については保留するとして、昨日の狩りで、ウインド・ウルフを倒したんだって?」

「あ、はい。普通のウインド・ウルフより少し大きい個体でしたから、放置してたらグリーン・ファングに進化してたかもしれないって言われました」


 ウインド・ウルフはB-Rランクモンスターだけど、大きさは2メートルにも満たない。

 だけど俺達が倒したウインド・ウルフは3メートル近くあった。

 それをハンターズギルドに持ち込んだら、以前大和さんとプリムさんが倒したエビル・ドレイクと同じように、進化手前の個体じゃないかって結論付けられたんだ。


「そうなんだ」

「ブラック・フェンリルやグリーン・ファングを狩ったのは2ヶ月ちょっと前だってのに、もうそんなのが出てきてるのかよ」

「それは魔化結晶を使われた疑いが強いから、ラウス達が倒したウインド・ウルフが正常な進化をした個体ってことじゃない?」

「ああ、それもそうか」


 2ヶ月前、大和さんとプリムさんはプラダ村からフィールに向かう道中で、G-Cランクのブラック・フェンリル、S-Iランクのグリーン・ファングっていうウルフ種の災害種と異常種を討伐している。

 だけどその魔物は、レティセンシアが魔化結晶っていうのを使って進化させたそうだから、自然に進化した魔物とは違うって考えられてる。

 俺達が倒したウインド・ウルフは普通の個体より大きかったから、それが正常な進化途中の個体じゃないかって予想されてるけど、大和さんやプリムさんも否定できないみたいだ。

 異常種なのに正常進化っていうのも、意味分からないけど。


「ボア種は10日ぐらい前にお兄様達がグランディック・ボアを討伐しているから、マッド・ボアがプリムに討伐されてることも考えると、おそらく大丈夫でしょうね」

「他の魔物も大丈夫じゃないかとは思うけど、問題なのはやっぱりオークだよね」

「ですねぇ」


 ボア種の異常種は、この辺りだとマッド・ボアにグランディック・ボアの2種なんだけど、マッド・ボアはプリムさんが、グランディック・ボアはラインハルト陛下達がフィールに来られた際に討伐されている。

 他の魔物も複数の異常種や災害種を討伐しているから、こっちも大丈夫だっていう予測に繋がるのはわかる。

 だけどオークだけは、どうなっているのかが全く分からない。

 その理由は、1ヶ月前にアライアンスで討伐された終焉種オーク・エンペラーとオーク・エンプレスの存在だ。

 終焉種は異常種を産むとされていて、それを証明するかのように集落には異常種が8匹、災害種も2匹いたし、それ以外でも何度かオーク・プリンス、オーク・プリンセスが討伐されてるから、魔化結晶が使われた個体を特定することは不可能になっている。


「まだプリンスやプリンセスがいるかもしれないし、キングとクイーンだって存在を否定できないわ」

「終焉種がいたわけですしね。実際ホーリー・グレイブも、この1ヶ月で3体の異常種を討伐していると聞きました」

「あ、昨日もオーク・プリンスを倒したそうですよぉ」


 ホーリー・グレイブとはハンターズギルドで会って、そこで教えてもらった。

 ハイクラスが7人になったこともあるけど、この1ヶ月で合計5匹もオークの異常種を討伐してるんだから、普通ならすごいなんていう話じゃない。

 しかも、誰も怪我しなかったとも言ってたな。

 だけど問題なのは、昨日討伐したオーク・プリンスは、マイライトから降りてきてたってことだ。


「マイライトから降りてきてた?いや、大問題じゃねえか」

「まったくね。話を聞く限りじゃオークの数も少なかったようだし、全部で20匹ってことなら、多分新しい集落を作るための移動だったんでしょうけど」

「ハンターズギルドでもそう言われてました」


 オークに限らないんだけど、亜人の異常種は集落には1匹ってことがほとんどだから、複数の異常種が生まれると新しい集落を作るために、若い方の異常種が移動するって言われてる。

 例外は番いになった場合や終焉種だけど、どっちも滅多にない。

 その滅多にない事態が、1ヶ月前に同時に起こっちゃったわけなんだけどさ。


「そうなると、今日はオークの集落も、見つけ次第潰しておくべきか」

「そうなるわね。レティセンシアがやらかしたことの後始末なんて、気が乗らないけど」


 プリムさんの意見に、同意するように頷く大和さんやマナ様、ルディアさん。

 俺も気持ちは分かるけど、下手したらフィールだけじゃなくプラダ村まで襲われることになるんだから、気が乗らなくてもやるしかない。

 というか、やってください。


「空から探すにしても、マイライトにはヒポグリフはもちろん、ドラゴニアンが着陸できるようなスペースってないわよね?」

「ないわけじゃないが、そこから集落が近いかどうかは別問題だな」


 大和さんとプリムさんが教えてくれたんだけど、マイライトの山林には、そこそこ大きな空白地帯があるらしい。

 だからそこを使えばジェイドとフロライトはもちろん、竜化したアテナさんやエオスさんも着地できるみたいだ。

 だけどオークの集落やフェザー・ドレイクが近いかは別問題だから、どうするべきかが悩ましい。


「仕方ないことだけど、そこは運を天に任せるしかないでしょう」

「だよなぁ」


 オークの集落がどこにあるかとか、フェザー・ドレイクがどこにいるかなんて、行ってみないとわからないから、マナ様が妥協案を出すのも無理もない。


「竜化して飛ぶのはいいけど、何度も竜化と人化を繰り返すと、すぐに魔力無くなっちゃうよ?」

「それも分かってるし、長時間飛んでもらうつもりもないさ」


 竜化はすごい魔力を消耗するそうだけど、移動だけなら何時間でも竜化していられるって聞いてる。

 だけど何度も繰り返すと、すぐに魔力が尽きるみたいだから、あまり多用してもらうわけにもいかない。

 だから一度降りてもらったら、後は自分達の足で探すことになる。

 さすがに山道だと、獣車は使えないからね。


「場所は着いてから探すとして、アルカに残る人はどうする?」

「どうするも何も、俺がいないとアルカから出られないからな。エド達は構わないんだろうが、アプリコットさんはどうします?」

「私もここに残らせてもらうわ。お風呂もすごいし、工芸殿の2階は書庫になってるみたいだから、そこに行こうかと思ってるの」


 書庫って、本があるってこと?

 工芸殿はその名の通り、色々な工具があったりするから、エドさん達はすっごいテンション高かった。

 だから2階もそうだと思ってたんだけど、そっちは書庫だったんだ。


「書庫があったんですね。すごく惹かれますけど、オークの集落を放置するわけにもいきませんし……」


 昨日はクラフターの勉強をしてたフラム姉さんが、すごく悩んでる。

 書庫が工芸殿にある理由は分からないけど、クラフター関係の本もあるはずだから、それを読んでみたいってことなんだろうな。


「そっちに行ってもいいぞ。別に全員で行かなくても、オークの集落ぐらいなら軽く殲滅できるからな」

「確かにエンシェントクラス2人にハイクラス9人なんだから、ちょっとしたアライアンス並ですよね」


 確かにミーナさんの言う通りだ。

 しかも普通のアライアンスは、エンシェントクラスが参加することはないんだから、大和さんやプリムさんの強さを考えると、並のアライアンス以上の戦力じゃないかな?


「いえ、これからここに住むことになるわけですし、オークの集落を放置しておくわけにはいきませんから、今日はそちらを優先させます」


 後ろ髪引かれる思いで決断したフラム姉さんだけど、そんなに気になるなら残ればいいのに。


 その後も話し合いが続いて、アルカに残るのはユーリ様、アプリコット様、エドさん、マリーナさん、フィーナさん、マリサさん、ヴィオラさん、ユリアの8人で、リカ様は領代の仕事があるから、フィールまで送ることになった。

 リカ様を送ってからエオスさんに獣車を運んでもらってマイライトに向かったんだけど、そこで俺達は4つのオーク集落を殲滅させた。

 1つは希少種までしかいない小さな集落だったけど、2つは異常種がいたし、残り1つの集落にはオーク・キングがいたから、他の集落も早めに探し出して、殲滅する必要がある。

 あ、オーク・キングは、俺達ハイクラスが総出で倒したよ。

 P-Cランクモンスターだから簡単じゃなかったけど、最後はミーナさんのメイス・クエイクで吹き飛ばされたところにマナ様のスターリング・ディバイダーとルディアさんのファイアリング・インパクトが直撃して、トドメにフラム姉さんのタイダル・ブラスターが命中してたな。


 あとフェザー・ドレイクだけど、これもオーク集落を探してる最中に見つけることができたし、ウインガー・ドレイクも2匹狩れたから、こっちは全部コンルさんに渡すことになってる。


 ハンターズギルドに戻って買取をお願いすると、オーク・キングがいる集落は予想されてたみたいだったし、倒したのが俺達だってこともあって、特に驚かれることもなかった。

 ハンターズマスターのライナスさんも慣れたもので、簡単に報告したら終わっちゃったよ。


 その後でクラフターズギルドに寄って、解体が済んでいる魔物を受け取った。

 ゴールド・ドラグーンを最優先にしてもらってたから数は少ないと思ってたんだけど、本当に解体師総出でやってくれたらしく、グラン・デスワームやイグニス・バード、フレイム・ドラグーンにディザスト・ドラグーンの解体も終わっていたから驚いたよ。

 グラン・デスワームは獣車の車輪に使うし、イグニス・バードは従魔の装備に、ドラグーン3体は新しいアーマーコートを仕立てるために使うから、俺達としても早い方がありがたい。

 残りの魔物もあと2日あれば全部解体できるそうだけど、フォートレス・ホエールだけは大きすぎることもあって、あと5日は欲しいって言われたな。

 フォートレス・ホエールも獣車に使うことになってるけど、急いで使うわけでもないから、それでお願いしてある。


 その後でアルカに戻ったんだけど、リカ様は領代の仕事があるからってことで、今日は来れないみたいだ。

 だから最初のゲート・クリスタルはリカ様に渡されることになってるんだけど、それだけじゃフィールの中には転移できないから、リカ様の部屋には合わせてゲート・ストーンも設置されることになっている。

 リカ様は嬉しそうだったけど、残念そうな顔もしていたな。

 対照的にマリーナさんとフィーナさんは、今にも踊り出しそうだった。

 まだドラグーンの革は揃ってないけど、それでも現物があるのとないのとじゃ大違いだから仕方ないけど。

 あ、今回解体依頼を出した魔物の肉は、全部食べられるよ。

 だから早速レラさんとエオスさん、ユリアが調理してくれたんだけど、ヤバいぐらい美味かった。

 特にゴールド・ドラグーンは、今まで食べたことがないぐらいだったから、思わず何度もおかわりしちゃったよ。

 フィーナさんの家族を迎えに行ったら、大和さんとエドさんの結婚披露パーティーをするっていう計画があるから、その時に高ランクモンスターの食材も提供することに決まったんだけど、その際にゲート・クリスタルをフロートにも登録させて、陛下達も招待するとか言い出したから驚いた。

 いや、マナ様とユーリ様のご家族なんだし、当然なんだけどさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る