ユニオン・ハウス構想

 まさかクラフター登録をした直後に、あんなことを言われるとは思わなかった。

 確かに翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネは俺が提案したようなもんだが、元々は瑠璃色銀ルリイロカネを作る過程で、エドが魔力を節約するために考えた結果出来上がった物でもある。

 メルティングだって、金属を加工する工芸魔法クラフターズマジックデフォルミングに火属性魔法ファイアマジックを重ねたらどうだってアドバイスこそしたが、実際に色々と考えて奏上までしたのも、これもエドだ。

 ステータリングとイークイッピングは、こんなことができたらいいなぐらいの軽い気持ちで奏上しただけだから、俺としてはラッキーぐらいにしか考えてなかったぞ。

 なのにこれらが認められて、GランクどころかPランクへの昇格試験まで免除って、大盤振る舞いというかやりすぎじゃなかろうか?

 いや、試験勉強はめんどいから、ありがたいんだけどさ。


「明日だけど、私とユーリ、リカ、それからアテナは領代と話し合いがあるんだけど、みんなはどうするの?」


 獣車でリカさんの屋敷に移動中に、マナが明日の予定を聞いてきた。

 リカさんは領代だし、1ヶ月近くもフィールを空けてたんだから、話し合いがあるのは当然だ。

 マナとユーリも、俺と結婚、婚約してフィールに住むことになったから、こちらもやることがあるのは分かる。

 アテナも俺と婚約しているが、アテナの場合はドラゴニアンで、さらには聖母竜マザー・ドラゴンガイア様の娘っていう立場もあるから、こっちもそうなるのは仕方ないか。


「私はクラフター登録をしたばかりですから、試験勉強ですね」

「私とラウスは、キャロルさんと一緒に近場で狩りをして、進化した感触を確かめてみようかとぉ」

「だからというわけではありませんが、私もハンター登録をしようと思いまして」


 フラムはクラフターのお勉強、ラウスとレベッカはキャロルのハンター登録をした後で、進化した感触を確かめるために狩りか。


「私は兄さんが結婚したばかりですから、改めてお祝いに行こうかと思っています」


 ミーナはレックスさん、ローズマリーさん、ミューズさんのとこにお祝いか。

 さすがに新婚夫婦のとこに長居はしないだろうが、元々ローズマリーさんはミーナのことを実の妹のように可愛がってたし、ミューズさんも義姉になったんだから、無碍にされるようなことはないだろう。

 ちなみにマリサさん、ヴィオラ、ユリア、エオスは、フィールのバトラーズギルドに行くことになっている。

 特にCランクバトラーのユリアはフィールで登録し直しておかないと、再契約の度にフロートに行く羽目になるからな。


「俺は、そのオーダーズマスター達の剣作りだな」

「私はそのお手伝いですね」

「あたしはGランクの教本で勉強かな。まさかG-Sランクになるとは思ってなかったから、予習なんてしてないんだよ」


 エドとフィーナはいつものごとく製作作業だが、マリーナは勉強か。

 俺も試験勉強ぐらいはしておいた方がいい気もするが、マイライトの宝樹にも行ってみたいんだよな。


「あたしは特に決めてないから、大和に付き合うわよ」

「あたしもかな。何があるのか気になるし」

「私もです」


 プリム、リディア、ルディアは特に予定なしか。

 マイライトの山頂がどんなとこかは分からないが、この4人なら何とでもなる気がする。


「じゃあ俺達は、マイライトに行くか」

「了解よ」

「羨ましいけど、リカとの結婚に役立つ物って話だし、早めに手に入れておいた方が良いか」


 マナだけじゃなく、ユーリやリカさん、ミーナにフラムも羨ましそうな顔をしている。

 アテナはそんなことないが、それでも興味はありそうだ。


「どんなとこだったのか、帰ってきたら教えてくださいね」

「ああ」


 ラウスも興味ありそうだな。

 だけど今の自分の実力がどんなものかを知っておくことも重要だし、それを分かってるからこそ、近場で狩りをすることにしてるんだろう。


「移動はジェイドとフロライトだね」

「そうなるわね。久しぶりのマイライトだし、喜んで飛んでくれそうだわ」


 ジェイドもフロライトも、マイライトの生まれだしな。

 それに最近は、アテナやエオスに獣車ごと運んでもらってたから、俺達を乗せて飛ぶ機会は減っている。

 寂しそうにしてたから、今回は喜んでくれるだろう。


「その明日からだけど、私の屋敷を拠点にしてもらっても構わないのよ?」


 リカさんがそう言ってくれるが、さすがに領代の屋敷をハンターが拠点にするのは、いくら婚約者だっていってもよろしくはないだろう。

 だから明日の夜からは、前と同じように魔銀亭に泊まることにしている。

 今回からはプリムの実母アプリコットさんも一緒になるな。


「さすがにハンターが、領代の屋敷を拠点にするわけにはいかないわよ。もちろん婚約してるんだから問題はないんだけど、領代や領主はハンターと会う機会は多いんだから、余計なトラブルを呼び込むことになりかねないわ」

「それに、あなたが領代の任期を終えた後をどうするのか、っていう問題もあるしね。幸いというか、ソルプレッサ迷宮で狩った魔物のおかげで蓄えはあるから、早めにユニオン・ハウスを建てた方が良いわ」


 俺もプリムとマナの意見に賛成だ。

 もちろん家一軒建てることになるわけだし、どんな家にするのかも決めないといけないし、数日で建つわけじゃないから、しばらくは宿屋暮らしになるが。


「それこそ、焦っても良いものじゃありませんしね」

「そうですね。それに、店舗を設けるかどうかも考えないといけませんし」

「それがあったね」


 店舗か。

 一応ユニオン・ハウスの構想としては、各人の個室を作るのはもちろんだが、食堂や工芸作業場なんかも作る予定になっている。

 だけど収入はハンターの狩りだけっていうのが現状だから、これはちょっとよろしくない。

 幸いにもマリーナがトレーダー登録をしているから、店舗も併設させて魔石や魔物の素材、武具なんかを売っても良いんじゃないかと考えている。

 もちろん武具はどうするか考える必要があるし、生活雑貨とか魔導具なんかも作れたら売れると思うんだが、どこまでの範囲にするかっていう問題もあるから、こっちはまだまだ考えないといけない。


「そっちも大切ですけど、一番大切なのは土地ですね」

「そうですね。中央広場は賑わっていますが、酒場や娼館も近いですから」

「かといって北側も、アルベルト工房があるから大変じゃない?エドの腕も上がってきてるけど、それでもリチャードじいさんはもちろん、タロスさんにも及ばないんだから」


 確かにな。

 エドの腕は確かなんだが、師匠で祖父のリチャードさん、兄弟子のタロスさんより経験が浅いこともあって、2人の作った武具に比べると、どうしても見劣りしてしまう。

 もちろん2人に比べるとだから、普通より良い性能の武具を作れるのも間違いないんだけどな。


「場合によっては店舗は作らず、トレーダーズギルドに納品した方が良いかもしれないわね」

「それも良いですけど、そうなるとあたしの作業時間が減っちゃいますよ?」

「分かってる。だからその場合は、私もトレーダー登録をするわ。マリーナの作業時間を減らすと、私達としても困ったことになるしね」


 マナの意見を採用すると、マナもトレーダー登録をするってことか。

 ウイング・クレストのトレーダーはマリーナだけだが、マリーナがトレーダー登録をした理由は漁をするためだから、積極的に商売をする予定はない。

 だけど作った物をトレーダーズギルドに納品するってことになると、トレーダーのマリーナに頼ることになるから、マリーナの作業時間は大幅に減ってしまう。

 マリーナにはドラグーンを使ったコートを仕立ててもらうことになってるから、そんなことになったらアテナやエオス、ユリアのコートがいつ仕上がるか分からないし、何より魔力の問題でアーマーコートが痛み始めている俺やプリムが魔力を制限しなきゃならないままになってしまう。

 これは非常によろしくない。

 だからマナがトレーダー登録をして、マリーナの代わりにトレーダズギルドとの折衝を担うってことになるか。


「店舗を構える場合でもトレーダーは必須だし、あたしもトレーダー登録しようかしら?」

「でもプリムお姉様は、ヒーラー登録をするかでも悩んでいらっしゃいますよね?」

「そうなのよね。幸いにもヒーラーはユーリとキャロルがいるけど、あたし達に治癒魔法ヒーラーズマジックを使うと、魔力をごっそりもっていかれるでしょう?それに場所によっては2人を連れていけないこともあるから、あたしもヒーラー登録をしといた方が良いかもって思ってるのよ」


 プリムもユニオン登録を考えているんだが、ヒーラーズギルドかトレーダーズギルドかで悩んでいる。

 理由はプリムの言った通りだ。

 ユーリとキャロルはヒーラーだし、キャロルはハンター登録もする予定だが、ハイクラスに治癒魔法ヒーラーズマジックを使うと、かなり魔力を消耗する。

 もちろん緊急事態の場合は仕方ないんだが、ハンターになるキャロルが魔力を消耗すると、命の危険に繋がる可能性が高い。

 ユーリはバレンティアでレベルこそ上がっているが、それでも戦闘経験は一番少ないから、危険地帯に同行させるわけにはいかないし、緊急時に連れ出すことも難しい。

 だけどプリムがヒーラー登録をすると、諸々の問題は解決できる。

 エンシェントフォクシーってことで魔力は有り余ってるし、戦闘力も高いから少々の危険地帯はものともしない。

 さすがにプリム1人でそんなとこに行かせるつもりはないが、フロライトもいるから機動力もあるってことで、ヒーラーズギルドからも喜ばれるだろう。


「焦って考えても仕方ないわよ」

「そうですよ。それにトレーダー登録でしたら、私も考えていましたから」


 リディアもトレーダー登録を考えてたのか。

 だけどマナもリディアもハンターが本業だから、店舗を任せるわけにはいかない。

 クラフター3人は作業があるし、バトラー4人はユニオン・ハウスの管理を任せることになるから、店舗までは手が回らないはずだ。

 店員を雇うのも手だが、その場合はトレーダーズギルドに派遣してもらうことになるから、店舗を構える意味が薄くなる。

 もちろん普通に雇うこともできるが、その場合はトレーダーズギルドのサポートは受けられなくなるから、場合によっては面倒なことになりかねない。

 これはマジでしっかりと考えないとだな。


「そっちも大切ですけど、どこに建てるかの問題が解決してからで良いんじゃないですか?」

「ですねぇ。それに従魔のことも考えないとなんですから、まずは場所の下見をして、それから店舗をどうするか決めるべきだと思いますよぉ?」


 ラウスとレベッカの言う通りだな。

 ジェイド、フロライト、ブリーズ、ルナ、スピカ、シリウスの従魔・召喚獣達も、ユニオン・ハウスの敷地内で放すつもりでいる。

 さらにアプリコットさんもユニオン・ハウスに住んでもらうつもりでいるから、オネストもそこに加わるし、他のみんなも従魔契約をするだろうから、土地も広くしないといけない。

 店舗の問題よりも、こっちの方が重要度が高いか。


「急ぐことでもないし、ゆっくりと考えましょうか」

「だな。先に獣車を何とかしてからにしよう」


 結局はそう結論付けるしかないんだよな。

 獣車は移動のために必要だから、できるだけ早く製作に取り掛かりたい。

 ラベルナさんから助言ももらったから、それを踏まえれば、数日で設計し直せるだろう。

 リカさんの屋敷に着いたら、しっかりとデザインし直さないとな。

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