マイライトの石碑

Side・プリム


 フィールに戻ってから一夜明けて、あたしと大和、リディア、ルディアの4人は、マイライト山脈に向かった。

 マナとユーリ、アテナはリカさんと一緒に領代にご挨拶、ミーナはレックスさんがローズマリーさん、ミューズさんと結婚したからってことでお祝いに、フラムとマリーナはクラフターのお勉強、エドはレックスさん達3人のための剣の製作、フィーナは大和と一緒にデザインした獣車の細部を煮詰める作業、ラウス、レベッカはキャロルのハンター登録後に近場で狩り、マリサ、ヴィオラ、ユリア、エオスは、母様の護衛をしながらヒーラーズギルドとバトラーズギルドにってことで、みんなそれぞれの予定を入れちゃってるから、マイライトにはあたし達4人でってことになったの。

 今回は久しぶりにジェイド、フロライトに乗って飛んでもらってるから、2匹もすごく嬉しそうだわ。

 大和の後ろに乗ってるルディアもだけど、じゃんけんの結果だし、帰りはリディアが乗ることになってるから、あたしからしたら羨ましいのよね。


 マイライトの山頂には、ジェイドとフロライトのおかげで無事に到着できた。

 イデアル連山みたいに高ランクモンスターが大量にいたり、ソルプレッサ連山のように終焉種が巣を作ってるようでもなかったから、警戒してたあたし達としては拍子抜けだったわね。


「そんなことを言えるのは、プリムさんと大和さんだけですからね?さすがに終焉種はいないと思ってましたが、それでもイデアル連山みたいに、とんでもない数の魔物がいることは覚悟してたんですから」


 あたしの後ろに乗ってるリディアは、心底安心したって顔してるけど、確かにそれが普通の感想か。


「時間がないわけじゃないけど、それでも魔物がいない方が手間が省ける。今回は狩りじゃなくて、調査が目的なんだからな」


 確かに大和の言う通りだわ。

 狩りが目的なら、マイライトは魔物がうようよいるんだから、別に山頂に来る必要もないしね。


「石碑、石碑……ああ、あれだね」

「っぽいな。周囲を警戒しながら降りてみよう」


 大和の後ろに座ってるルディアが目当ての石碑らしき物を見つけて、大和が探索系の刻印術を使いながらジェイドに降りるように指示した。

 あたしも続かないとだから、フロライトに降りるように指示をしないと。


 マイライト山脈の宝樹はイデアル連山と違って木々に囲まれ、近くには小さいながらも湖があった。

 マイライト山脈は標高が7,000メートル近くあるのに、思ってたより寒くないわね。

 クレスト・アーマーコートに付与されてる魔法のおかげもあるんだろうけど、今の季節が秋になったばかりということもあるかもしれない。


「これだけ標高があるんだから、山頂は夏でも極寒だと思ってたんだが、普通に緑が茂ってるし、気温もけっこう高いな」


 刻印具を取り出して何かを見てる大和だけど、何を見てるのかしら?


「大和、何見てるの?」

「ああ、刻印具の気温計アプリを見てるんだ」


 刻印具って、そんなことも分かるのね。

 でも気温が高いって、どういうこと?


「真夏のフィールで27度ぐらいだったんだが、ここは18度だな。俺の世界にも標高7,000メートルの山はあるが、そこは真夏でも極寒なんだ。だから驚いてな」


 なるほど、大和の世界じゃそうなのね。

 ヘリオスオーブでも似たような山はあるけど、山頂の気温は40度以上もある高温の山もあるから、特に珍しいとは思わなかった。

 あたしも少しは寒いかもしれないって思ってたけど、極寒の世界かどうかは判断できなかったから、18度っていう気温は予想より随分と高いわね。


「世界が違うと、山頂の気温も違うんだね」

「気温だけじゃなく、生態系も違うけどな。それでも役に立つ知識はあるから、参考にはなる」


 それは確かにね。

 でもマイライトの宝樹には魔物がおらず、気温も思ってたより高かったけど、誰も降り立ったことがないのが不思議だわ。

 空を飛ぶ従魔がいれば来ることは難しくないのに、誰も見たこともないようだったし、何か理由でもあるのかしら?


「ん?」

「どうしたの?」

「ソナー・ウェーブに何か引っかかった。宝樹に何かいるぞ」


 ソナー・ウェーブに引っかかった、しかも宝樹にって、どう考えても魔物じゃないの。

 何がいるのかは分からないけど、それがマイライトの主ってとこかしらね。


「あれは……鳥か?」

「鳥?鳥型の魔物ってこと?」

「イーグル・アイで見る限りじゃな。マイライトにいる鳥型の魔物は、確かウインド・ロックだったか?」

「ええ。マナのアイス・ロック シリウスの亜種ね。それでいてマイライトの主になれそうなってことになると……もしかしてルドラ・ファウルかしら?」


 ソルプレッサ迷宮で倒したイグニス・バードと同じく、M-Cランクの災害種ね。

 確かにルドラ・ファウルならマイライトの主になることは難しくないし、誰もここに降り立てなかった理由も納得だわ。

 マイライトは魔物も多いから餌にも困ることもなく、人里を襲うこともなかったってことなんでしょう。

 もっとも、だから情報が一切なかったんだけど。


「他はいないの?」

「ああ、どうも1匹だけっぽいな。元々群れない性質の魔物らしいから、不思議じゃないのかもしれないが」


 確かにね。

 だけどルドラ・ファウルがいるってことなら、倒さないと石碑の調査はできないわね。


「そろそろ動きそうだな。出てきたら一気にやるとするか」

「そうしましょうか」


 ジェイドとフロライトに降りてもらい、あたし達は戦闘態勢を整える。

 リディアとルディアもソルプレッサ迷宮での経験が活きているのか、しっかりと武器を構えているし、未完成とはいえ固有魔法スキルマジックも開発しているから、油断しなければ大丈夫でしょう。

 大和がしっかりと護衛してくれるだろうから、何も心配してないけどね。


Side・大和


 マイライトの宝樹に巣を作っていたルドラ・ファウルを倒してストレージに収納してから、俺達は石碑の調査を開始した。

 ルドラ・ファウルとの戦闘はどうなったのかって?

 俺がアイスエッジ・ジャベリンをぶちかましたら、それだけで終わっちまったよ。

 運が良いのか悪いのか、1発脳天に直撃したからな、それが決定打だった。

 変に長引かせたりすると、俺とプリムのクレスト・アーマーコートがさらに痛むから、相手が何であろうと瞬殺を心掛けている。


 それはいいとして、石碑には事前に聞いていた通り、俺の世界の文字が刻まれていた。


「やっぱり日本語か」


 日本語だという予想は立てていたが、実際に目にするまでは不安だったから助かった。

 英語やフランス語なら何とか読めなくもないが、他の言語だったりしたら詰んでたからな。

 まあその場合、刻印具の翻訳機能を使うって手があったりするんだが。


「大和の世界って、国によって言語とか文字が違うの?」

「ああ。だから勉強も大変なんだよ」


 実際、フランス語の勉強は途中で投げ出しそうだったからな。

 英語はそれなりに話せるが、実家が神社ってこともあって日本語の古語とかも勉強する必要があったから、マジで大変だった。


「それは本当に大変そうですね。言語が違うなんて、考えたこともありませんでしたよ」


 ヘリオスオーブは、アバリシアでさえ共通語らしいからな。


 ……あれ?

 じゃあなんで、俺は普通にヘリオスオーブでも会話できてるんだ?

 文字だって普通に読み書きできるんだが、なんでだ?

 異世界召喚とか転移系によくあるスキルとか神様が~ってのもなかったんだぞ?

 ……まあ不便を感じてるわけじゃないし、それどころか助かってるから、それは後で考えよう。


「それで、なんて書いてあるの?」

「『資格を有し石碑を動かせし者、さらなる資格を授けん』だな。何のことやら、さっぱりだ」


 資格ってのは、多分ガイア様が認め、日本語を読むことが出来ることだろう。

 石碑を動かせし者ってあるから、多分この石碑は簡単に動かせるんだと思う。

 だけどさらなる資格って、なんのことかさっぱり分からん。


「それだけ?」

「いや、一応続きはある。だけど『彼方に浮きしアルカへ誘わん』って一文がよく分からないんだよ」


 文面から察するに浮島ってことで、アルカっていうのがその浮島の名前なんだと思う。

 だけど彼方ってどこだよ?

 それに誘うって、連れていってくれるとでも言うのか?


「何それ?」

「俺が聞きたいよ」

「文面から察するにこの石碑って動かせるんだろうけど、どうやるのかしら?」


 それも俺が聞きたい。

 なにせこの石碑、けっこうデカいからな。

 1メートルは確実にあるぞ。

 って、ちょっと待て。

 なんか不自然なヒビが入ってないか?

 いや、これはもしかしたらヒビじゃなくて……。


「どうしたんですか、大和さん?」

「いや、もしかしたらと思って」


 最初に見つけたヒビは、石碑の中央付近にあった。

 だけどそのヒビは、所々欠けたりしてるわけじゃなく、真っすぐだった。

 もしかしたらと思って石碑を触ってみると、俺の予想通りだったことも分かった。

 なるほど、こういうことか。


「え?」

「よっと。おお、綺麗に取れたな」


 驚くリディアをよそに、俺は石碑の一部を取り外した。

 ヒビじゃなく嵌め込んだ跡だったんだから、そりゃ綺麗に見えるわな。


「石碑って、それで良いの?」

「さあ?いや、良いみたいだ」


 疑問を浮かべたプリムに首を捻って返した瞬間、俺はこれが正しいと理解できた。

 なにせ足下に、魔法陣が浮かび上がってきたんだからな。


「トラベリングに似てるってことは、これでアルカってとこまで連れてってくれるってことだろうな」

「なるほど、転移か。面白そうだわ」

「確かに興味ありますね」

「だね」


 おっと、ジェイドとフロライトも魔法陣の中に入れておかないと。

 幸いにも近くにいたから、2匹はすぐに魔法陣に入ってきた。

 それを待っていたかのように、魔法陣は俺達をアルカへと誘うように起動した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る