クラフター登録

Side・フラム


 ハンターズギルドで旅の報告、魔物の買取、解体依頼を出し終えた後、私達はクラフターズギルドへやってきました。

 理由は私と大和さんのクラフター登録と、新しい獣車の製作依頼を出すためです。

 クラフター登録はともかく、獣車はフィーナさんがメインで製作してくれることになっています。

 ですが新しい獣車は船のような外観をしていますし、ミラールームの内装を整えてもらう必要もありますから、フィーナさんだけでは手が足りません。

 ですから正式に、クラフターズギルドへ依頼を出すことになっているんです。


「これでクラフター登録は終わりだよ。規則や工芸魔法クラフターズマジックなんかはこれに書いてあるから、時間がある時にでも読んでおいてくれ」


 ですが私達のクラフター登録は、何故かクラフターズマスター ラベルナさんがやってくださいました。


「この後、獣車製作依頼もあるんだろう?それなら受付より、私がやった方が話が早いよ」


 それは確かに。


「だけど君達の獣車って、1ヶ月ぐらい前に完成したばかりだろう?なのになんで、新しい獣車を依頼するんだい?」

「それも面倒なことに、俺とプリムの魔力のせいなんですよね」

「ああ、それは面倒だね。ということは木材から厳選することになるけど、そうなると桜樹を取り寄せることも考えないといけないか」


 木材も多くの種類がありますが、エンシェントクラスの魔力に耐えられるような物となると、桜樹ぐらいしかありません。

 その桜樹はフィールでは植樹していませんから、使うとなると取り寄せなければいけませんし、伐採は春先に行われますから、秋と言ってもいいこの時期に、獣車を作れるだけの量を買い付けることは、かなり難しいです。

 もっとも、今回はその心配はありませんけども。


「それなんですけど、桜樹はメモリアで買ってきましたし、俺への褒賞ってことで、天樹の枝を下賜されたんで、材料の心配はいらないですよ」

「……はい?って、えっ!?天樹の枝!?」


 ラベルナさんは最初何を言われたのか理解できていませんでしたが、理解が追い付いた瞬間にものすごく驚かれました。

 天樹の枝は天樹城の補修や王連街にしか使われませんし、下賜されたことも初めてだそうですから、この反応も無理もありませんけど。


「ですが初めて尽くしになりますから、最初は普通の木材で、試作を作ることになっているんです。聞いてますか、クラフターズマスター?」

「え?あ、ああ、ごめん、フィーナ。まさか、天樹の枝なんて物を下賜されてるとは思わなくてね。だけど大和君とプリムちゃんの功績を考えれば、当然といえば当然だったよ」


 ラベルナさんは大和さんとプリムさんのやらかし……ゴホン、功績を正確に知っていますから、納得がいったようです。


「それで初めて尽くしってことだけど、それはどういうことなんだい?」

「まだ仮ですけど、これが図面になります」


 フィーナさんが仮図面を、ラベルナさんの前に出されました。

 仮図面はメモリアからエオスさんに飛んでもらっている間に決めたこともあって、大雑把な内容になっています。

 ですが外観や大和さんの意図は書き込まれていますから、大きな問題もないと思います。


「これは……なるほど、確かに初めて尽くしだね。これだと木工師だけじゃ手に余るし、構造的に船大工にも声を掛ける必要がある」

「はい。それにコネクティングを上手く使う必要もありますから、試作でも完成までにどれぐらいかかるか分かりません」

「だね。だけど意図はわかるけど、何も船体に車輪を付けるような格好にしなくてもいいんじゃないかな?」

「と、言いますと?」

「いやね、船体に車体を乗せるのは分かるよ。これならドラゴニアンが保持しやすいだろうし、船としても悪くないと思う。それに獣車として使う場合も、デッキを活用することで獣戦車みたいに使うこともできるだろう。だけど乗り降りに手間が掛かりすぎるよ」


 それは私達も思っていたんですが、乗り降りしやすいように出入り口を設えると、水に浮かべた際にそこから浸水してきますから、そうせざるを得なかったんですよ。


「いや、車体を別に用意するっていう発想があるんだから、船体も別に用意すればいいだけじゃないかい?もちろんドラゴニアンが運びやすいだろうこの形は維持したままで、安定のために一回り大きい船体に錨を付けておけばいいと思うよ?」


 目から鱗が落ちた気分です。

 そうですよ、確かにコネクティングで車体と船体を繋ぐわけですから、船として使う場合は船体部を別に用意して、コネクティングで繋げるようにしておけば、安定度も増します。

 なんで思いつかなかったんでしょうか?


「その手があったか……」

「はは、よくあることだよ。ともかく、話は分かった。船大工達には、私からも伝えておく。だけど図面の修正も必要だろうから、続きは日を改めて、だね」

「ですね。とはいえ大幅に変更するつもりはないんで、基本はこのままになると思います」


 エオスさんの意見も必要ですが、確かに大幅にデザインを変える必要はないですね。

 ウイング・クレストの弓術士は私と妹のレベッカだけですが、私達だけではなく皆さんも、大和さんとプリムさんが纏めたアロー系やランス系の魔法を使うことができますから、獣戦車とはいかなくても、デッキは使えるようにしておいた方がいいと思います。


「分かったよ。それじゃあこの話は、一度ここで区切らせてもらうよ」


 そう言ってラベルナさんは、マリーナさんに視線を向けました。


「マリーナ、フロートから通達があった。マリーナがデザインしたオーダーの新装備は、かなり好評だそうだ。もちろんフィールでもね」

「それは良かったけど、元々は大和の世界のデザインで、あたしはそれをマイナーチェンジさせただけですよ?」

「それは陛下もグランド・クラフターズマスターもご存知だ。だがマイナーチェンジであれ、最終的にデザインをしたのはマリーナだからね。だからマリーナ、君をG-Sランクに昇格させることが決まったよ。本格的なGランクへの昇格は、もう少し経験を積んでからになるけどね」

「えっ!?」


 マリーナさんだけではなく、私達も驚きました。

 クラフターズランクは、試験を受けることで昇格できます。

 ですがGランク以上は、クラフターとしての経験も必要になりますから、試験資格を貰うのも大変だと記憶しています。

 エドさんはP-Gランクですが、こちらはメルティングという新工芸魔法クラフターズマジックの奏上に翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネという合金の開発が評価されてという特例になっていますね。


「驚くようなことじゃないだろう?一国の騎士団の装備をデザインして、実際に使用している者達からも高い評価を得ているんだ。それに高ランクモンスターの素材も使っているんだから、経験が不足しているとは思えない。本音を言えばGランクに昇格させたかったんだが、Sランクに昇格したのが最近だからね。さすがに無理だった。だけど早ければ、年明けには正式に昇格させることができるよ」

「いやいや、ちょっと待ってってば!確かにエドは特例で昇格したし、それだけのことをしたって分かるよ!だけど、なんであたしまで!?」

「言った通りの理由だよ。国もグランド・クラフターズマスターも認めてるんだし、私だってそうさ。それにこれも特例ではあるけど、規約にも明記されている。国が認める成果を出した者は、条件次第で昇格を認めるってね」


 そんな規約があったなんて、知りませんでした。

 ですが国が認めるほどの成果ともなると、誰でも出せるわけではありませんし、何が認められるかも分かりません。

 確かにマリーナさんはオーダーズギルドの装備を、天騎士アーク・オーダーの装備を含めてデザインされ、実際に使われているのですから、国が認める成果という項目には当てはまっています。


「それじゃあ条件っていうのは?」

「それは人によって異なるけど、君の場合はグランド・オーダーズマスターやグランド・クラフターズマスターからの推薦だね。さすがにグランド・マスター2人からの推薦が来たら、誰だって断れないよ」


 納得です。

 グランド・クラフターズマスターはエドさんのお父様ですが、それを差し引いてもグランド・オーダーズマスターからの推薦があるのですから、もしかしたらそれだけでも十分だったのかもしれません。


「そういうわけだからマリーナ、ライセンスを出して」

「え?あ、ああ、はい」


 マリーナさんは戸惑いながらも、嬉しそうにクラフターライセンスをラベルナさんに手渡しました。

 ランクとしてはSランクのままですが、Gランクの昇格試験免除で、早ければ年明けには正式に昇格できるわけですから、嬉しくないわけがありません。


「これで終わりだ。ああ、そうだ。ついでってわけじゃないけど、大和君はGランクとPランクへの昇格試験の免除が決まっているよ」

「はあっ!?」


 マリーナさんの昇格手続きを終えたラベルナさんから、爆弾発言が飛び出しました。

 いきなり矛先を向けられた大和さんですが、先程より大きく驚かれていますね。


「当然だろう?君の提案があったからこそ、メルティングに翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネが完成したんだ。さらに君は、ステータリングにイークイッピングの奏上まで行っている。これだけでも十分過ぎる成果だよ」


 こちらも納得です。

 メルティングはエドさんが奏上した工芸魔法クラフターズマジックですが、大和さんのアドバイスがあったから成功したと聞いています。

 インゴットや合金の精錬以外にも、冷めた食べ物を温めたりとか、衣服に付与させることで寒さから身を守ることができたりとか、用途も金属関係に限定されているわけではありません。

 翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネについては言わずもがなです。

 さらにステータリングは、工芸魔法クラフターズマジックどころか天与魔法オラクルマジックも連動させることができますし、イークイッピングは戦闘用装備に限らず、普段着用している衣服ですら瞬時に着脱できますから、どちらもクラフターにとっては重要な魔法と言っていいでしょう。

 ですからこれらの成果を持っている大和さんが、GランクとPランクへの昇格試験を免除されるのは、ある意味では当然と言えるかもしれません。


「もっともSランクまでは、普通に試験を受けてもらう必要があるけどね。だけどSランクにさえ昇格できれば、1つ上のランクの教本を読むことができるようになる。実際エドはPランクの教本を買ってるし、マリーナだってGランクの教本を読めるようになったからね」


 教本には各ギルドのランクに応じた知識や技術が書かれているのですが、試験のためだけに使えるわけではありません。

 ですから試験が終わっても、大切な財産になります。

 しかもその本は、該当ランクの人にしか読めないような魔法が使われているそうですから、該当ランク以下の人はもちろんクラフター以外の人が読むことはできないそうです。


 該当ランクというのは、昇格試験を受けることができるようになった人になります。

 マリーナさんはSランククラフターですが、まだGランクの昇格試験資格を得ていませんでした。

 ですから読める教本はSランクまでだったんですが、試験資格を得られると、試験用のGランクの教本を買えるようになります。

 さらにマリーナさんの場合はG-Sランクに昇格し、昇格試験が免除されることになっていますから、Gランクに昇格していないと買うことができない教本を買うことができるようになったんです。


「フラムはよく勉強しているね。その通りだよ。だけどさすがに2ランク上の技術を使うのは問題だから、大和君はSランクに昇格したらG-Sランクに、Gランクに昇格したらP-Gランクってことになるよ」


 そういうことになるんですね。

 大和さんは現在Mランクハンター、Oランクオーダー、そしてTランククラフターということになっていますが、Sランククラフターになりさえすれば、経験を積むことでPランククラフターへの昇格が約束されています。

 もちろん経験を積むことは容易ではありませんが、エンシェントヒューマンの大和さんには、ノーマルクラフターよりも長い時間があります。

 ですからいずれは、ランクに見合った経験を有するようになるでしょう。

 私もTランククラフターになりましたが、大和さんに負けないよう、しっかりと経験を積んでいかないと。

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