旅の報告

 領代のソフィア伯爵とアーキライト子爵が、オーダーズマスターのレックスさん、ローズマリーさん、ミューズさんを伴って鑑定室にやってきた。

 レックスさんはアーク・オーダーズコートを、ローズマリーさんとミューズさんはイリスさんと同じプラチナム・オーダーズコートを着用しているが、3人ともすげえ似合ってるな。


「ソフィア伯爵、アーキライト子爵、長い間フィールを留守にしてしまい、申し訳ありませんでした」

「気にする必要はありませんよ。聖母竜マザー・ドラゴンからのご招待だったのですから」

「そうですな。それにこの1ヶ月、フィールは平和でしたよ」


 フィールが平和だったのは良いことだ。

 だけど2人とも、何で俺とプリムを見ながらそんなこと言いますかね?


「こればっかりは仕方ないかと」

「そうですね。大和様もプリムお姉様も、フィールに来た1ヶ月で、私達の常識を覆すようなことしかされなかったのですから」


 そんなことした覚えは……。


「ない、なんて言わせないからね?」

「そうですね。聞いた話だけでも耳を疑いましたけど、何より驚かされたのが終焉種のことなんですから」


 それを言われると、ぐうの音も出ない……。


「まあそれはいいとして、この1ヶ月で何があったのか、何をしてきたのかを報告しましょう。私やユーリだけじゃなく、アテナのこともあるしね」

「そうですね。ですが何からお話をしたものか……」

「時系列に沿って、っていうのが一番でしょうね」


 マナやユーリ、プリムが本題を勧めてくれている。

 よし、これで何とかなるだろう。

 そう思ってたんだが、話が進むにつれて全員の顔が引き攣っていき、終わる頃には何かを悟ったような表情になっていたんだが、これはどういうことだ?


「何て言ったらいいのかしらね……?」

「前代未聞とは、彼らのためにある言葉ですな……」


 ソフィア伯爵とアーキライト子爵が額を押さえながら言葉を絞り出す。

 それは言い過ぎじゃね?


「ハンター全員がハイクラスに進化したどころか、マナ様はほとんどPランク。リディアにルディア、エオスっていうドラゴニアンも片足を突っ込んでる状態じゃないか」

「さらにラウスとレベッカまでハイクラスに進化してるんだから、誰でもこうなるぞ」

「俺ら、ハイクラスに進化するのに、30年近くも掛かったってのにな……」

「ホントにね……」


 ファリスさんとクリフさんの意見が正しいと証明するかのように、ハイクラスに進化したばかりのライアスさんとシーラさんが落ち込んでいた。

 どちらも50歳近い年齢で、成人すると同時にハンター登録をしたそうだが、これ以上のレベルアップは無理だと判断し、フロートに戻ったらユニオン登録しているもう1つのギルドの活動を優先させようと考えていたらしい。

 そのタイミングで進化できたものだから2人にはかなり感慨深いものがあったんだが、俺達はハンター登録して僅か数ヶ月でハイクラスどころかエンシェントクラスにまで進化してしまっているから、マジで落ち込みが半端ないな。


 俺達のレベルについては、進化したことも含めて話してある。

 ハイクラスに進化しているかどうかはアライアンスに参加できるかどうかっていう問題も含んでいるから、レベルはともかくとしても進化したことは報告する義務があるからな。


「フレデリカ侯爵も、進化目前ですね。あまり戦いは得意ではなかったと記憶しているのですが……」

「そうなんだけど、一応私もアウトサイド・オーダーだから、まったく戦えないのも問題だっていうことになってね。それでバレンティアでは頑張ってみたのよ」

「頑張っても、普通はこんな短期間で、ここまでレベルは上がりませんよ?いえ、大和さんとプリムさんがおられるのですから、まったく上がらないとは言えませんが……」


 レックスさんとローズマリーさんも、リカさんのレベルに言及している。

 Sランクオーダーへの昇格はハイクラスに進化していることが条件だから、今のペースで行けばリカさんの進化も時間の問題だろう。

 アウトサイド・オーダーを含むSランクオーダーにもアライアンスへの参加義務が発生するが、領主であり領代でもあるリカさんが参加することはないと思うけどな。


「そこはツッコむだけ無駄な気がするわ。確かに頭の痛い事ではあるけど、大和君とプリムさんが絡んでいるんだから、許容範囲ではあるし」

「ですな。むしろ問題なのは、プリムのレベルが73になっちまったことか」

「Mランクに昇格もしているから、バリエンテの動きに警戒しなくてはいけませんからな」


 ソフィア伯爵がオーダーの意見をぶった切り、ライナスのおっさんとアーキライト子爵が問題点を口にする。

 レベル73のMランクハンターに昇格したプリムのことは、ラインハルト陛下も気にしていた。

 もちろん俺もプリムも、バリエンテが何を言ってきても知ったことじゃないんだが、全くの無関係でいられるかどうかは分からない。

 最たるものが、バリエンテのトライアル王爵領に住んでいるというフィーナの家族のことだ。

 フィーナは身請奴隷としてフィールにやってきたが、同じバリエンテ出身という事実に変わりはない。

 だからフィーナの家族を人質にとって、プリムを脅迫するっていう可能性はゼロじゃない。

 まあギルファ・トライアルっていう王爵が、奴隷になった領民のことを一々把握しているかと聞かれると、首を傾げざるをえないけどな。

 しかもその身請奴隷とプリムがユニオンを組むなんて、普通は考えもしないだろう。

 だけど用心に越したことはないから、俺達は数日以内にフィーナの住んでいたロリエ村に向かうつもりでいる。


「その件は了解したわ」

「そうですな。通常であれば、プリムローズ嬢とフィーナがユニオンを組んでいようと、考慮にも価しない。だが悪名高いギルファ・トライアル王爵の関与が疑われ、さらには反獣王組織まで動く可能性がある以上、フィーナの家族を保護することは最優先事項と言ってもいい」


 フィーナの家族はお父さんにお母さんが2人、妹が2人と聞いている。

 身請奴隷になった後のことはさすがに分からないが、それまでは仲の良い家族ってことで、村中に知れ渡っていたそうだ。

 だが数年前に飢饉が起こり、作物が不作となってしまった年があり、にも関わらず税は変わらなかったため、やむなく長女のフィーナが身請奴隷になることで、家族が路頭に迷うことを防いだと聞いている。


 ここまでなら特に珍しくはない話になるそうだが、この話には続きがありそうだ。

 というのも、その不作が原因で税を払えなかったのは、フィーナの家族だけじゃないらしい。

 なのに身請奴隷になったのはフィーナだけ。

 プリムが教えてくれたんだが、バリエンテの税は、村や街ごとに定められているそうだ。

 その総税額を住民の人数で均等になるようにして、貨幣で納めることが義務付けられている。

 だがフィーナ以外の村人が身請奴隷にならなかったということは、フィーナの身請額が村の税に充てられてしまったんじゃないかという疑念に繋がってしまう。

 フィーナの身請額は30万エルだったと聞いているが、実はこの額、ロリエ村に定められている総税額と同額だったりする。

 だからこれに関しては、プリムだけじゃなくマナやエド、マリーナも俺の考えに賛同してくれているし、もしかしたらフィーナも薄々気が付いてるかもしれない。


「後顧の憂いは断っておくに越したことはないし、悪評漂うトライアル王爵領から連れ出すだけでも、意味はあるだろうね」

「とはいえ、住む場所は用意するが、生活の面倒まで見るつもりはないぞ?」

「それは当然ね。こちらの都合でフィールに来てもらうわけだけど、だからといって生活の面倒まで見るなんて、そんな話は聞いたこともないわ。フィーナもそれでいいわよね?」

「はい。十分なご温情を頂き、ありがとうございます」


 確かにフィーナの家族をロリエ村から連れ出すのは、俺達の都合だ。

 だけどだからといって、生活の面倒まで見る必要はない。

 それぐらいはフィーナも十分理解できてるから、深く頭を下げている。

 ロリエ村のフィーナの家族についても領代の承諾を得られたから、住むところは早々に何とかしてくれるだろう。


 さて、次はいよいよお待ちかねだな。


「最初は売る分だけ出すけど、それでいいかしら?」

「もちろん構わねえが、何を持ってきたんだ?」

「見てのお楽しみね」


 プリムはいたずらっぽい笑みを浮かべながら、ストレージに収納されていた魔物を取り出した。

 何を売るかは伝えてないが、ソルプレッサ迷宮を攻略したことは伝えてあるから、そっち系の魔物が多いっていう予想はあるだろうけどな。

 っと、俺も出さないとだった。


「おいおい、マジか、これは……」

「フィールじゃ扱ったことのない魔物が、こんな大量に……」


 俺達が出した魔物は以下の通りだ。

  アーマー・ドレイク1匹

  デザート・ドレイク1匹

  ウインガー・ドレイク2匹

  ヴェロキラプトル6匹

  アロサウルス2匹

  プロトケラトプス1匹

  ブラキオサウルス1匹

  ティタノサウルス1匹

  マクロナリア2匹

  スカイ・スコーピオン1匹

  ウィッパード・モンキー2匹

  ブルーリーフ・エント1匹

  レッサー・ドラグーン1匹

  サンダー・ドラグーン1匹

  アイス・ドラグーン1匹


 亜竜サウルス種はアミスターにはいないし、ドラグーンは迷宮ダンジョンにしか生息していないから、フィールに持ち込まれたのは今回が初になるとか。


「ソルプレッサ迷宮には私達も行ったことあるけど、とんでもないラインナップなんだね……」

「だな。今の俺達ならPランクぐらいまでなら何とかならなくもないが、それでもサウルス種はキツい。そのサウルス種だけじゃなく、ドラグーンまでこんなにあるのかよ……」


 何年か前に、ホーリー・グレイブはソルプレッサ迷宮に入ったことがある。

 もちろん事前情報は仕入れていたが、実際に入ってみて今の自分達には手に余ると判断して、第2階層を少し探索して離脱したそうだ。

 まだバークスさんとクラリスさんはハイクラスに進化していなかったし、サリナさんは加入してなかったってことだから、無理もない話ではあるんだが。

 その後サリナさんが加入し、バークスさんとクラリスさんもハイクラスへ進化したことで戦力的に整ってはきたんだが、それでもソルプレッサ迷宮の厳しさは身に染みていることもあって、攻略済みのアコルダール迷宮で腕試しをすることを選んだ。

 その挑戦で守護者ガーディアンラーヴァ・クロコダイルを倒すことができて、アミスタートップレイドの仲間入りを果たし、その後でマナが同行するようになったっていうのが時系列の流れらしい。


「それと、これはホーリー・グレイブへのお土産です。遠慮なく受け取ってください」


 そう言って俺は、ストレージからオーロラ・ドラグーンを取り出した。

 レッサー・ドラグーンにしようか迷ったんだが、そっちは属性魔法グループマジックなんかを宿してたり耐性があったりするわけじゃないし、精神干渉系魔法への対策にもなるから、こっちをお土産にってことで話が纏まっていたりする。


「ちょ、ちょっと待て!オーロラ・ドラグーンがお土産!?」

「意味分かんねえよ!」


 思いっきり動揺してるクリフさんとバークスさんだが、その反応は予想できていた。


「だから言葉通り、お土産ですって。ホーリー・グレイブがいてくれたから、俺達はフロートやバレンティアまで行けたんですからね」

「私はもちろん、お兄様もお世話になってるから、そのお礼っていう意味もあるのよ」


 先週ラインハルト陛下達がフィールに来た際、護衛も引き受けてくれてたからな。

 ラインハルト陛下やエリス殿下、マルカ殿下は俺の義理の兄姉ってことになったんだから、俺としても感謝を示したい。

 さすがにオーロラ・ドラグーンはやりすぎなんじゃないかとも思うが、付き合いは長くなるだろうし、リーダーのファリスさんはレベル59になってるから、エンシェントフェアリーに進化する可能性も否定できない。

 だから今のうちから高ランクモンスターの素材を使って防具を仕立てておいた方が、後々の手間を考えなくてもいいんじゃないかとも思うんだよ。

 ちなみにオーロラ・ドラグーンはメモリアでも売ってあるが、買取額は2,300万エル、フロートで売った同じ光系のムーンライト・ドラグーンは魔石の買取額を差し引いてもらって2,000万エルだったな。


「エンシェントフェアリーか。憧れがないわけじゃないが、さすがにそれは無理じゃないかな?Pランクハンター達だって、何年何十年とレベルが上がってないんだから、進化は諦めてるって噂だしね」

「合金があるから、今なら可能じゃないですかね?」

「それに進化してからじゃ遅いわよ?実際、あたし達はそれで困ってるんだからね」


 だな。

 そのせいでせっかく仕立ててもらったクレスト・アーマーコートが使いにくくなってきたし、下賜してもらったアーク・オーダーズコートだって、わざわざ仕立て直してもらう羽目になったんだから、先に対策を講じておいた方が良い。

 無駄になる物でもないんだからな。

 それに、他に理由もないわけじゃない。


「多分聞いてると思いますけど、ルクスのことはご存知ですか?」

「ああ、陛下から直接聞いてるよ。トライアル・ハーツばかりかアミスターまで裏切った上に、魔化結晶を使って魔族っていう種族に変わったらしいね。……ああ、そういうことか」


 さすがファリスさん、俺の言いたいことを理解してくれたか。


「なるほど、魔化結晶を使ったルクスは、ハイクラスでありながらエンシェントクラスに匹敵する程の魔力を有するに至った。副作用として天与魔法オラクルマジックは使えなくなるようだが、魔力強化は魔法じゃないから使える。その魔化結晶はアバリシアが作り出し、レティセンシアに供給してる可能性が高いから、俺達ハイクラスでも対応は容易じゃない」


 クリフさんが俺の考えてることを代弁してくれた。

 そう、レティセンシアと開戦するにあたって、唯一の不安要素が魔化結晶だ。

 さらにガイア様の予知夢で、俺は魔族と思われる兵士達に追い詰められることになっているし、マナは子育て、プリムとフラム、リカさんは妊娠中って話だったから、戦力的には心許ない。

 だから可能なら、信頼できるハンターやオーダー限定ではあるが、エンシェントクラスに進化できるものならしてもらいたいという思いがある。

 だからこそ、ラインハルト陛下から依頼されたオーダーの戦闘訓練を快諾したんだからな。


「確かにその話は、私達にとっても許容できるものじゃない。だから進化するかは別にしても、力を付けておきたい考えはあるよ」

「だからって、さすがにこれは受け取り辛いぞ?」

「遠慮はいらないわよ。ガイア様の予知夢の話もしたでしょう?これはあなた達へのお礼であると同時に、レティセンシアとの開戦に向けて備えてもらいたいからでもあるの」

「そういうわけだからラベルナさん、このオーロラ・ドラグーンは、解体が終わったらホーリー・グレイブにお願いしますよ」

「承知したよ。諦めな、ファリス、クリフ。マナリース殿下も、こう仰ってるんだからね」

「分かったよ。だけどそういうことなら、時間が許す限り、私達との模擬戦にも付き合ってもらうからね?」

「勿論ですよ」


 他に信用できるレイドはライオット・フラッグやトライアル・ハーツだが、既にベルンシュタイン伯爵領にいるって話だから、一度向かった方がいいかもしれないな。


「それじゃあ最後ね」

「ま、まだあるの?」

「いや、ただの解体依頼ですよ」

「あたし達が使うっていう理由もあるけど、魔石は献上することになってるから、そっちの意味もあるわね」


 フロートで売った魔物の魔石は、ヘッド・ハンターズマスター シエーラさんに献上してもらうことになっている。

 だけど売らない魔物の方が多いから、俺達が直接献上しなきゃいけない魔石も少なくない。

 だから魔物の解体依頼は必須だ。


「解体師を総出で駆り出しても、かなりの時間が掛かるよ?なにせ、初めて解体する魔物も多いんだからね。ドラグーンなんて、その最たるものだよ」

「それは分かってますよ。もちろん早いに越したことはないですけど、急いだ結果雑になっても困りますからね」

「そうならないよう、細心の注意を払うように伝えておくよ」


 初めて持ち込まれた魔物が多いとはいえ、解体マニュアルみたいなのはあるそうだし、似たような感じの魔物も少なくないから、そこはプロに任せるのが一番だ。


 これで報告も終わったし、解体依頼も終わった。

 買取査定はこれからだが、明日には金額も決まるだろう。

 この後はクラフターズギルドに行って、俺とフラムのクラフター登録と天樹、桜樹を使った獣車の設計依頼を出さないとな。

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