フィールへの帰還
Side・ミーナ
メモリアを発って3時間、私達は約1ヶ月ぶりにフィールへ帰ってきました。
私達がエオスさんの運ぶ獣車で帰ることはフィールにも伝えられていますから、オーダーやハンターから攻撃されるようなことはありません。
フィールのオーダーズマスターは私の兄レックス・フォールハイトですから、間違っても攻撃を仕掛けてくることはなかったと思いますけどね。
その兄が、
「おかえり。バレンティアはどうだった?」
「色々ありましたね。ああ、報告することもありますから、領代やギルドマスターを集めてもらってもいいですか?」
「最初からそのつもりだよ。場所は?」
「売りたい魔物もあるので、できればハンターズギルドの第10鑑定室でお願いします」
「わかった」
兄さんは大和さんから場所の希望を聞くと、領代とギルドマスターを呼ぶようにとオーダーに指示を出しています。
オーダーも新しい装備オーダーズコートを身に纏っていますが、皆さん嬉しそうですね。
特に女性オーダーは。
「そうそう、レックスさん。ローズマリーさんやミューズさんと結婚したそうで。おめでとうございます」
「ありがとう。大和君もマナリース殿下やフラムさんと結婚したそうだね。おめでとう」
お互いに結婚を祝福しあっていますが、誰か抜けていませんか、兄さん?
「兄さん、私も結婚したんですけど?」
「分かってるよ。おめでとう、ミーナ」
「あ、ありがとうございます……」
父さんや母さん達は結婚の儀式に立ち会っていましたし、フロート滞在中に私の実家にも行きましたが、兄さんはそんな余裕がなかったため、実は結婚してから会うのは初めてだったりします。
だからなのか面と向かって祝福の言葉を掛けてもらうと、かなり照れるものなんですね。
「ご挨拶が遅れました。マナリース殿下、ユーリアナ殿下、ようこそフィールへ。長旅でお疲れだとは思いますが、もうしばしご容赦下さい」
本来ならマナ様やユーリ様に最初にご挨拶をするべきなのですが、今回は大和さんがラインハルト陛下から書状を預かっていましたし、そちらを最優先にするよう指示を受けていましたから仕方ありません。
兄さんはその書状に軽く目を通してから、マナ様とユーリ様にご挨拶をされているんです。
「ありがとう。だけど私達としても報告が最優先だから、そこは気にしないで」
「そうですね。それに私達も、これからフィールに住むことになるのですから、そこまで気を遣う必要はありませんよ」
「恐れ入ります。お帰りなさいませ、フレデリカ侯爵」
「ええ、ただいま。予想より長く不在にしてしまった上に、バレンティアにまで行くことになってしまったけどね。何か問題はありましたか?」
「いえ、特には。ハンターの数は増えましたが、まだ多いとは言えないことが問題といえば問題でしょうか」
「こればっかりはね」
兄さんが言うには、現在フィールにいるハンターはBランクユニオン・レイドが4つ、Cランクレイドが7つで、人数的には100人もいないそうです。
私達がフィールを発つ前はその半分もいませんでしたから、増えていることは間違いないのですが、それでも少ないことは間違いありません。
ですからこの1ヶ月、指名依頼の多くは、ハイクラス全員がGランクハンターに昇格したホーリー・グレイブに任されていたとも聞きました。
「そのホーリー・グレイブだけど、彼らも呼んでいいのかな?君達の話を聞きたがっているんだよ」
「構いませんよ。ホーリー・グレイブのおかげで、長期間フィールを離れることができたようなもんですからね」
「お土産もあるしね」
「驚いてくれるかしらね?」
大和さんとプリムさん、マナ様はそう言いますが、兄さんやオーダー達は顔を引き攣らせていますから、間違いなくホーリー・グレイブの皆さんは驚くと思います。
いつまでも入り口で話し込むわけにはいきませんから、私達は先にハンターズギルドに向かうことにしました。
あ、今回は特例で、身分証の確認はしていません。
普通ならあり得ないことなんですが、そちらの件も踏まえて報告がありますから、ラインハルト陛下が一筆認めてくださったんです。
その一文を見た兄さんは、おそらく嫌な予感を感じていると思いますが、こればっかりはどうしようもありませんからね。
久しぶりにフィールのハンターズギルドに来ましたが、やはり閑散としていますね。
何人かハンターはいるのですが、それでも職員の方が多く感じられてしまいます。
「あっ!」
「カミナさん、お久しぶりです」
「お帰りなさい。色々と噂を聞きましたけど、またやらかしてきたみたいですね」
開口一番毒舌を吐くカミナさんですが、私を含めて全員が否定できる要素を持っていませんから、何も言い返せません。
マナ様でさえ、苦笑してるだけですから。
「開口一番やらかしたとは失礼な。俺達は普通に過ごしてただけですよ?」
「普通に過ごしてただけ?まあ、いいですけどね。あ、オーダーから話は聞いてますよ。第10鑑定室の用意も出来てますからどうぞ」
「ありがとうございます」
何か言いたそうなカミナさんが近くの職員に、私達の案内を頼んでくれました。
カミナさんの手元にはけっこうな量の書類がありますから、手を離せないということなんでしょう。
とはいえ、カミナさんも鑑定室に来られることは確定しているんですけどね。
案内された鑑定室には、既にギルドマスター達が待ち構えていました。
Pランクオーダーに昇格されたイリスさんも、同妻であるバトラーズマスター オルキスさんと一緒におられます。
ロイヤル・オーダーと同じプラチナム・オーダーズコートを着用されていますが、よく似合っていらっしゃいますね。
「おかえり。話は聞いてるけど、フロートだけじゃなくバレンティアでもやらかしてきたんだってね?」
開口一番、クラフターズマスター ラベルナさんからそんなことを言われました。
「いや、別にやらかしてはいませんよ?」
「ソルプレッサ迷宮攻略なんて、やらかしの極致みてえなもんだろうが。俺も入ったことがあるが、よくあんなとこ攻略できたな。いや、お前とプリムがいるんだから、不思議でもなんでもねえか」
ハンターズマスター ライナスさんが左手で額を押さえていますが、確かに大和さんとプリムさんなら、何をやっても不思議とは思えないのが凄いです。
「フロートのトレーダーズギルド本部から、ソルプレッサ迷宮の魔物を取引を始めたら連絡をくれと言われてるんですよ。かなりの数の魔物を売ったと聞いていますが、まだあるとも聞いてますからね」
トレーダーズマスターのミカサさんは、既に私達がフロートで魔物を売ったという情報まで得られていましたか。
「確かにありますけど、俺達が使う分もありますからね」
そう言ってクレスト・アーマーコートや獣車に起こっている問題点を、大和さんが隠すことなく告げました。
私達は問題なく使えているのですが、エンシェントクラスのお2人はそういうわけではありませんから、これは仕方ありません。
「ほう、そんな問題が出てるのかい。そういうことなら確かに、全部売ってくれとは言えないね」
「そうですね。ですがドラグーンを仕入れることができるわけですから、噂を聞きつけた貴族やトレーダー、ハンターも大挙してやってきそうです」
「それはそれで面倒ですけどね」
一番怖いのはリベルターにあるトレーダーズギルド総本部な気もしますが、両国の間にはレティセンシアがあり、既に国境は封鎖されていますから、陸路は使えません。
バリエンテからは船が出ていますが、そちらとも事を構える可能性が低くはありませんから、今もかなり高い警戒態勢を敷いていると聞いています。
ですから空路、ワイバーンなどの空を飛ぶ騎獣を使うしか選択肢がないのですが、トレーダーズギルドならそれぐらいはしてきそうですから、直接フィールに乗り込んでくる可能性が捨てきれないんです。
「さすがにそれは止めるわよ。エンシェントクラスにケンカを売るようなものなんだから」
「だろうね。目先の利に目が眩んだ馬鹿はどうしようもないけど、グランド・トレーダーズマスターがそんなことをするとは思えないよ」
それは確かにそうですが、その目先の利に目が眩んだ馬鹿というのが面倒なんですよ。
「その時はその時でしょ」
「だな」
大和さんとプリムさんがどういう対応をするかがわからないから怖い、という理由もあるんですよ?
ですがその時になってみなければ分からないのも間違いありませんから、私としてはそんなトレーダーがフィールにやってこないことを祈るしかありません。
その後少し雑談をしていると、ホーリー・グレイブが鑑定室に入ってきました。
「やあ、おかえり」
「はい。皆さんもお変わりなく。いや、変わりはあるのか」
そりゃあそうですよ。
ラインハルト陛下が兄さんにアーク・オーダーズコートを下賜した際、一緒にマイライト山脈の調査を行い、その際にハイクラス全員がGランクに昇格しているんですから。
「まあ、そうだね。こないだ陛下達とマイライトに行ったんだけど、ってフロートにも寄ったそうだから、その話は聞いてるか」
「一応はね。バークス、サリナ、クラリス、Gランク昇格おめでとう」
マナ様はホーリー・グレイブと一緒に行動されていましたから、心からの祝福を送られています。
「ありがとうございます」
「マナ様もご結婚、おめでとうございます」
「ありがとう。あなた達はどうなの?」
「フロートに戻ってからの予定でいます」
サリナさんとクラリスさんは、バークスさんとご結婚されると聞いていますが、どうやらフロートに戻られてからになるみたいです。
年内はフィールにいてくれますから、ご結婚は年明けということになりますね。
その際にホーリー・グレイブは、アライアンスの褒賞を陛下から下賜されることにもなっています。
「シーラさん、ライアスさん、ハイクラスへの進化、おめでとうございます」
「ありがとう、リディア。でもあなたとルディアも、ハイドラゴニュートに進化したんでしょう?」
「しかも、俺らよりレベルは上っぽいよな」
「あはは~、まあそれは後でってことで」
笑って誤魔化そうとしているルディアさんですが、私達のレベルやギルドランクのこともありますから、領代が来られてから報告する予定になっています。
だけどシーラさんとライアスさんも、ハイクラスに進化されていたんですね。
シーラさんはヒューマンの女性、ライアスさんはドワーフの男性ですが、アライアンスの際はレベル42で、進化もされていませんでした。
アライアンスへの参加はハイクラスに進化していることが条件ですが、必ずしもハイクラスだけで構成されるとは限りません。
ですからお2人ともアライアンスへの参加経験はあるそうなのですが、先日のアライアンスは災害種2匹が確認されていたこともあって、ハイクラスに進化していなければ足手まといになる、フィールの守りを固める必要がある、などの理由で参加することができなかったんです。
「ということは、ホーリー・グレイブにはハイクラスが7人ってことになったのね」
「そうなりますね。陛下やクラフターズマスターのお蔭で2人の武器も合金製にできましたし、マイライトの探索はかなり楽になりましたよ」
「その陛下達もレベルを上げてたし、満足して帰っていったけどな」
その話も聞いています。
特にG-Iランクモンスターのグランディック・ボアは、陛下とエリス殿下、マルカ殿下の3人で倒したようなものだと伺っていますから。
「そういや大和君。君も
「ええ、まあ。だけどこのコートもだけど、ウインガー・ドレイクじゃ俺とプリムの魔力に耐えられないってことがわかったんで、アイヴァー様に仕立て直しをお願いしてる最中なんですよ」
「そうなのかい?」
「ええ。エド達の見立てじゃ、最低でもPランクモンスターの素材を使わないと、エンシェントクラスの魔力を受け止めることはできないんじゃないかって話でね」
魔物の素材は、モンスターズランクが高いほど希少で高価になりますが、それに見合うだけの性能も秘めています。
それもあって市場に出回っている一般的な素材はCランクモンスターが多く、Bランクモンスターの素材は高級品扱いになっています。
私達のクレスト・アーマーコートに使われているウインガー・ドレイクはS-Rランクモンスターですから、素材は希少品になりますね。
Cランクモンスターの素材が一般的になった理由は、ハイクラスの魔力でも問題なく使えていたからです。
Iランクモンスターは素材としては使いにくい魔物が多いこともありますが、ハイクラスの魔力に耐えられないことが分かっていますから。
「Pランクか。ということは以前倒したアビス・タウルスに、ソルプレッサ迷宮を攻略したってことだから、レッサー・ドラグーン辺りを使うのかな?」
「それも後程ですね。ああ、ちゃんとホーリー・グレイブにもお土産がありますから」
お土産という大和さんの一言に、ホーリー・グレイブの皆さんの表情が引き攣りました。
普通なら失礼な行為になるんですが、今回は物が物ですし、何より発言したのが大和さんですから、こうなってしまうのは仕方ありません。
「な、何を持ってきたんだよ……?」
「すっごく怖いんだけど……」
「楽しみにしてなさいな」
マナ様も苦笑しながら告げられていますが、それが逆にホーリー・グレイブの不安を煽っている感じです。
ですがホーリー・グレイブの皆さんのおかげで、私達は1ヶ月以上もフィールを空けることができたんですから、これは私達全員からの感謝の気持ちでもあります。
ですから、是非とも受け取っていただきたいですね。
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