獣車新造依頼・改
Side・エドワード
昨夜はリカ様の屋敷に泊まらせてもらった。
急だったってのにさすがは侯爵家で、飯も美味かったな。
まあ食材は、リカ様の護衛についてったリディア達のストレージに入ってた魔物だったりするんだが。
その後で大和がリカ様の母君エリザベート・アマティスタ様に、リカ様との婚約の挨拶ってのを、すげえ緊張しながらやっていた。
別に結婚してから、結婚しましたって手紙を送るだけでもいいってのに、大和の奴は律儀にもバレンティアまで行ってリディアとルディアの家族に挨拶してたんだから、その点だけは頭が下がる。
翌朝、エリザベート様に見送られて、俺達はハンターズギルド・メモリア支部に向かった。
理由はソルプレッサ迷宮の魔物を、メモリアでも売るためだ。
フロートでもドラグニアでも億単位で売れたもんだから、フィールでもそれに近い額で売れることは間違いない。
だがフロートやドラグニアは国都だから、ハンターズギルドもすぐにそれだけの金額を用意できたんだが、フィールは辺境だから怪しいもんだ。
だからってわけじゃないし、元々メモリアでも売るつもりだったんだが、本来なら昨日中に売るはずだったんだよ。
だけど頭悪いオーダーのせいで、予定が狂っちまった。
まさかメモリアに来てすぐに、フロートまでとんぼ返りする羽目になるとは思わなかったぜ。
ハンターズギルドの職員には、今まで入荷したことのない魔物を大量に持ち込んだってことで驚かれたし、買取額も7千万エルになったが、昨日大和達が大立ち回りしたおかげで俺達に絡んでくる馬鹿ハンターがいなかったことも幸いして、思ったより早く終わったな。
その後でトレーダーズギルドにも行って、桜樹も購入したぞ。
さすがに急な話だったし、時期も時期だからそんなに買えなかったが、それでも普通の獣車2台分は買えたな。
普通なら交渉なりなんなりするとこなんだが、大和の奴が褒賞で天樹の枝を下賜されてるから、急いで用意する必要もないのも楽だった。
だから昼前には、メモリアを発つことができたんだよ。
今はエオスが抱える獣車の中で、大和とフィーナが顔を突き合わせて、獣車の設計図を作成している。
「出来なくはないですし、デッキも使えるようになりますから、この獣車より広くなるのは間違いありません。ですがこの部分とこの部分、それとこれですけど、誰も作ったことがないですから、結構な時間が掛かりますよ?」
「マジか?ああ、でもそれに近いもんの画像は刻印具に入ってるから、参考になるかもしれないな」
そういって刻印具をいじる大和だが、何の話をしてやがんだ、こいつらは。
構想は聞いてるし理由も理解できるんだが、俺だって聞いたこともねえぞ、こんなのは。
「だけどこれ、面白いよね。上手く作れば、移動範囲が広がりそうだよ」
「確かにそうですけど、その分従魔も必要ですよ?私達はまだ従魔契約をしていませんから、そこは何とかならなくはないですけど」
マリーナとフラムも参加してきたか。
ウインガー・ドレイクは使い切り、ドラグーンはまだ解体が終わってないこともあって、マリーナはそれなりに暇ではある。
だがアテナ、エオス、ユリアの3人はアーマーコートを仕立てる前にドラグーンの革を使った新装備をっていう案が出てきちまったから、それまでどうするかっていう問題があった。
だからフェザー・ドレイクの革と
コートの形状は何度も仕立ててきてるから、フィーナも手伝ったことですぐに仕立て始めたんだが、仕上がったのは昨夜だったから、3人は代用品とはいえ、ようやくウイング・クレストの専用装備に袖を通したってことになる。
だからこそマリーナは、今は完全に手透き状態で、大和の話に参加してきてる訳だ。
確かに面白い事にはなるだろうよ。
なにせそんな形の獣車、見たことも聞いたこともねえんだからな。
「そういった使い方も考えてる。だからこそ、これとこれが必要なんだよ」
「それは分かります。だからこそ意外なんですよ。それに全体的な大きさも必要になりますから、バランスも見てみないといけないですし」
「そうだよな。っと、これだ。都合の良いことに、俺が作りたいと思ってた小型のやつが図面ごと載ってるから、フィーナの参考にもなると思う」
フィーナは大和の刻印具の絵を、食い入るように見つめている。
マリーナもそうだったが、あいつの世界のもんは刺激になるし、参考にもなるから気持ちは分からんでもない。
「なるほど、だから車高が高くなっているんですね。だけどこれだと普段は使いにくいから、取り外せるようにってことですか」
「ああ。それでも高さがあるのは間違いないから、ステップは必要だが」
「ですね」
「でもさ、これじゃ従魔が入りにくくない?」
「それこそデッキを使えばいい。だから後方を、少し広めに取ってあるんだからな」
マリーナが問題点を指摘したかと思ったが、大和はそれも織り込み済みだったみたいだ。
確かにそっちには従魔用の入り口を作れるスペースは確保できそうだから、大型のシリウスや最近またデカくなってきたジェイドとフロライトでも何とかなるだろう。
「後は、そうですね、船大工の方にもお話を聞いてみないと、はっきりした納期とかは分からないと思います」
「あー、やっぱりそうだよなぁ。っていうかフィーナは、船を作ったことはないのか?」
「そりゃ私は木工師ですから、お手伝いぐらいならしたことありますよ。ですがやっぱり、本職の方には敵いませんね」
「同じ乗り物でも、獣車とは全然違うもんね」
そりゃそうだ。
なんで獣車を作るって話から船がどうとかって話になってるかって言うとだ、大和が言い出しやがったのが、まんま船だからだ。
正確には船体を台座に乗せて、その台座に車輪を付けたいってことみたいだな。
箱型獣車より船型の方がエオスが持ちやすいんじゃないかとか、空を飛ぶ場合は流線形?とかいう方が抵抗が少なくなるとか言ってたが、そこんとこはよく分からん。
エオスは感心してたしそっちの方が良いらしいから、それじゃあそれでってことに決まったんだが、じゃあどんな船にするのかとか、外装や内装はどうするのかとか、従魔はどうやって乗せるんだって話になるから、フィールに着くまでには多分決まりきらねえだろう。
「刻印具を見る限りだと、デッキの下は居住スペースなんだね」
「ああ。船として使うことも視野にいれてるから、大きさもそんな感じになる」
そんなことも言ってやがったな。
フィールはベール湖に面してることもあって、そっちに生息してる魔物の討伐依頼もよく出ている。
大和やプリムも何度か受けてたが、その場合は湖畔を探索するか、ジェイドとフロライトに乗って空から探すか、どっかのギルドから船を借りてってことだったらしいから、大和としては自分達の船を所有したいって考えがあるらしい。
だからって獣車を船にとか、普通は考えないけどな。
「ほとんど陸を走る船だけど、これなら獣戦車にもなるかな」
「主目的はずっと車内にいるっていう閉塞感を、少しでも払拭するためだな。もちろんその使い方も考えてたが」
色々考えてやがんな。
車体、というか船体は大和の世界のクルーザーってのに似せるらしい。
デッキ前部には御者席を設えるが、キャビンからも行くことができるような設計だ。
昇降口は両サイドだが喫水の問題があるから、大きめのステップも用意する。
従魔の出入りはデッキ後部からだが、こっちは従魔用のステップを出すと、直接ミラールームに直行できるようにするみたいだな。
ミラールームの入口はキャビンに階段を備え付ける予定だが、御者席への通路も兼ねてるから、あまりデカくはできないか。
だがその階段、ミラールームだけじゃなくキャビンの上にまで上がれるようになってるし、キャビンの上は上で展望席になってるから、見張りはもちろんそこから弓なり魔法なりで攻撃することもできるようになる。
当然デッキも広いから、そこに陣取って攻撃してもいい。
下手な獣戦車より、使い勝手は良いんじゃねえか?
それはそれとして、ミラールームは車体?船体?の下部になるから、確実にこの獣車より広くなる。
ミラーリング付与は大和かフラムがクラフター登録して、さらにSランククラフターに昇格してからになるが、従魔のことを考えてなるべく広くってことになると、大和がやるしかねえ気もするが。
「あとは御者席と展望席の幌ですか」
「ああ。雨の対策が一番だから、水系ドラグーンかフォートレス・ホエールってのが無難か」
「これから雪も降ってくるから、スノー・ドラグーンも使うべきだと思うよ」
大和とマリーナが、獣車の幌にドラグーンだとかフォートレス・ホエールだとかぬかしてるが、幌にそんなもんを使ってる獣車は無い。
ソルプレッサ迷宮で俺も感覚が狂ってきてる自覚はあるが、マリーナは重傷だな。
だが質の悪いことに、それが最善だってのも事実だ。
「車体の方は、船体を乗せる感じでいくの?」
「ああ。だからコネクティングを使って、普段は簡単に動かないようにしてほしいんだよ」
「それはもちろんです。ですけどさっきも言いましたけど、多分誰も作ったことがないですから、時間が掛かりますよ?」
「分かってる。車輪の問題もあるからな」
車体の上に船体を乗せて、コネクティングで固定っていうのが大和の構想だが、普通の船は天井や壁から船体を支えられる設備を持つ造船所で作られる。
下は喫水の深い海や湖になってて、ある程度完成したら浮かべて作業するから、船が陸を走ることはないし、そんな話は聞いたこともない。
だから車体の上に船体を乗せて、コネクティングで固定なんて誰も考えたことがないし、作ったこともないから、新技術とまではいかないだろうがそれに近い技術になるのは間違いないな。
さらに、最大の問題が車輪だ。
普通の獣車は独立懸架式で、ある程度の衝撃を和らげることができる。
だが大和達が設計中の獣車はデカいし重いから、普通の獣車と同じ4点独立懸架だと確実に無理だ。
車輪は魔物の革にゴムと空気を詰めた物が一般的になってるが、重量のある物を運んだりすると魔物の革が痛んですぐに使い物にならなくなるから、そっちの方も考える必要がある。
「車輪はグラン・デスワームを使えば解決するんじゃないかと思います」
「グラン・デスワーム?」
「はい。討伐したグラン・デスワームを触らせてもらった時に、車輪の素材としては最高級だと思いました。適度な弾力が有りましたし、何より土属性で地面の中に生息してる魔物ですから、少々の悪路ぐらいで傷はつかないでしょうし」
いや、言いたいことは分かるが、それはそれでどうなんだ?
グラン・デスワームはサンド・ワームの希少種になる。
だがサンド・ワームはGランクモンスターで、更にソレムネにしか生息してないこともあって、討伐されることはほとんど無い。
市場に出回ってるサンド・ワームは全部が
じゃあ何に使われてるのかって言うと、高価なテントとかソファとかだな。
通気性はもちろんほどよい弾力もあるから、特にサンド・ワームの革で作られたソファの座り心地は天にも昇るとかって噂もあるほどだ。
そのサンド・ワームの異常種を、獣車の車輪に使おうってのかよ?
「グラン・デスワームもフォートレス・ホエールもフィールで売ろうかと思ってたが、そうなると売らない方が良さそうだな」
「そうしていただけると助かります」
アテナやエオスに保持してもらうための革ベルトは当然のように標準装備だから、陸海空で使うことになる上に獣戦車より多く弓術士を乗せることもできる。
さらには
ヘリオスオーブ初の多機能獣車ってことにもなるからなんだろうが、フィーナのテンションも高え。
「車輪はフィーナに任せることになると思うが、獣車自体はどうするんだ?」
「基本私がやりますが、船大工の方にも手を貸してもらうことになります。あとは車体ですけど、
マジか?
いや、かなりデカいもんになるわけだし、車体の上にデカい船体を乗せるわけだから、頑丈な方が良いっていう理屈は分かる。
だが
確かにアイヴァー様や親父達には教えてあるし、その理屈でいけばフィールのスミスチーフ ガラバさんだって教えてあるからできなくはないんだが、あんまり広めたくないから、できればそれは避けたい。
「分かった。どっちを使うかは、エドとも相談して決めるよ。細かいことはフィールに戻ってからになるが、後はミラーリング付与か」
「それこそ大和さんとフラムさん次第ですからね。だけど私としては、先に試作を作りたいです」
「試作?なんでまた?」
「初めて作る物ですから、一度実物を作ってみる必要があります。天樹の枝を5本も下賜していただいた上に桜樹も購入しましたけど、それでも限りがありますから」
だな。
それにデッキやキャビン上部を使うっていう発想が広まれば、獣戦車だけじゃなく獣商車だって変わるだろう。
今までの獣車は箱型だったから、見張りともなるとどうしても後方が死角になってたからな。
だけどキャビン上部に展望席なり見張り台なりを設えれば、後方も確認しやすくなるから死角は減る。
死角が減るってことは安全に繋がるってことだから、トレーダーはもちろん貴族だって喜ぶだろう。
「それもそうか。わかった、そっちは任せるよ」
「私達は頑張って、Sランククラフターを目指さないといけませんね」
「だな」
デッキ下部をミラールームにするが、全部使えるわけでもないから、広さは多分20平米前後ってとこだろう。
バレンティアでの構想じゃ50倍付与ってことだったが、実際にハイクラスがどれぐらいの広さまで付与できるか分からんから、フラムがSランククラフターになるまでは検証は無理だ。
大和なら50倍どころか100倍でもいけそうな気がするが、こいつの魔力は規格外だから、何の参考にもならねえ。
それでも大和とフラムがクラフター登録してくれるわけだから、俺達としても少しは楽になるかもしれない。
試験対策ぐらいなら付き合ってやるとするかね。
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