竜響契約の欠点
Side・マナリース
竜王城でソルプレッサ迷宮の攻略を報告し、
既にこっちにもソルプレッサ迷宮を攻略したことは伝えられてるけど、私達の口から直接報告する必要もあるものね。
「……ソルプレッサ迷宮の攻略は、バレンティアのハンターズギルドとしても朗報なんだけど、成果を聞くと頭が痛くなってくるわね……」
「ですよね……」
ヘッド・ハンターズマスターのカナメと、私達の専属受付嬢にしてリディアとルディアの友人レミーが、目に涙を浮かべながら大きな溜息とともに頭を抱えた。
気持ちはよくわかるだけに、申し訳なくなってくるわ。
「確かに、ちょっと狩り過ぎたかな」
「そうね。まあドラグーン以外は遭遇戦だったし、こんなもんだとも思うけど」
なのに当の大和とプリムは、そんなことのたまってるし。
どうすればこの2人にハンターの標準を教え込むことができるのか、未だに分からないのよね。
誰か教えてくれないかしら?
「あのね、
その気持ちもよく分かるわ。
この2人が終焉種を単独討伐したってフロートで聞いた時は、私も本気で頭が痛かったもの。
「それだけじゃなく、皆さんのレベルが信じられないことになってますよ?」
これについては、私達も信じられないのよね。
特にミーナ、フラム、アテナ、レベッカはハイクラスにも進化したことで、ハンター全員がハイクラスっていうとんでもないユニオンになっちゃったわ。
「そっちは諦めましょう。いちいち驚いてたら、身が持たないわ」
表情を無くした顔でカナメがそう断言し、リカが同意するように大きく頷いた。
アミスターのヘッド・ハンターズマスター シエーラもだけど、フィールの領代、ギルドマスター達も同じような境地に達してるそうだから、誰でもそういう結論になるってことなのかしら?
「そうした方が良さそうですねぇ。それで、ランクアップの手続きはどうするんですか?」
本音じゃやりたくないって顔をしているレミーだけど、そういうわけにはいかないでしょう。
普通なら、だけど。
「色々あるから、それはフィールに戻ってからにするよ」
大和がそう言うと、レミーは安堵の溜息を吐いた。
「事情は聞いてるし、そうした方がいいでしょうね。特にプリムさんは、手続きをしたらMランクハンターになってしまうんだから、バレンティアだって関与を疑われかねないし」
ドラグニアに来てからも、そんな話をしていたわね。
だけど予想通り、プリムはレベル73になってしまったから、ドラグニアでプリムのランクアップ手続きをしたりなんかしたら、高い確率でバレンティアもバリエンテの騒動に巻き込まれてしまう。
私達がバレンティアに来たことは隠せないから、多少は巻き込まれる可能性があるんだけど、ランクアップした場所がどこかっていうことが一番の問題だから、プリムのランクアップ手続きはフィール一択なのよ。
いえ、フロートならできなくもないわね。
「それは本人達の自由だから、私達が強制するようなことでもないわね。それで買取だけど、これでいいのね?」
「ええ、それでお願いします」
買取ね。
ドラグニアのハンターズギルドで買い取ってもらう魔物は以下になる。
アーマー・ドレイク1匹
ウインガー・ドレイク3匹
ヴェロキラプトル10匹
アロサウルス2匹
プロトケラトプス1匹
ブラキオサウルス1匹
ティタノサウルス1匹
マクロナリア3匹
スカイ・スコーピオン2匹
ウィッパード・モンキー3匹
グラン・デスワーム1匹
ブルーリーフ・エント1匹
レッサー・ドラグーン2匹
サンダー・ドラグーン1匹
ケイブ・ドラグーン1匹
さすがにこれだけの魔物を全部アミスターに持ち込むわけにはいかないけど、フィールどころかフロートでも全部を買い取るのは無理だから、小分けじゃないけどいくつかに分散させた方が買い取ってもらいやすいわ。
「アーマー・ドレイクやウインガー・ドレイクだって普通ならすごいのに、このラインナップだと大したことないように見えちゃいますね」
「本当にね。というかレッサー・ドラグーン2匹だけでもすごいのに、サンダー・ドラグーンにケイブ・ドラグーンまでなんて、ものすごい争奪戦が起こりそうだわ」
レッサー・ドラグーンは私達は使う予定はないけど、それでもPランクモンスターなんだから、すぐに完売してしまう。
さらに今回はサンダー・ドラグーンにケイブ・ドラグーンまであるんだから、確かにすごい争奪戦が起こりそうな気がするわね。
Side・大和
ハンターズギルドにソルプレッサ迷宮攻略を報告し、ドラグーンを含む魔物を売った後、俺達はアミスター大使館に戻り、ラウスの誕生日を祝った。
ソルプレッサ迷宮の魔物は解体が済んでないから使えなかったが、それでもストレージにアビス・タウルスやウインガー・ドレイク、ヘビーシェル・グリズリーなんかもあるから、それを大使館で調理してもらったおかげで、かなり豪勢な晩飯になったな。
翌日は再びハンターズギルドへ行き、アテナだけ昇格させてもらうことにした。
元々アテナはハンターズギルドに登録したばかりで、ソルプレッサ迷宮に行く前はIランクハンターだったから、一気にSランクまでランクアップできないっていう理由もある。
だからここでCランクに昇格してもらって、できるようならフロートでBランクに昇格させてもらいたいって考えているわけだ。
他のみんなは普通に昇格できるし、ミーナなんて2ランクアップだから、できればアミスターで昇格してもらった方が、余計な面倒も起きないだろうからな。
そこで迷宮攻略のパレードをどうするか聞かれたが、そっちは丁重にお断りしておいた。
フォリアス陛下にも伝えてあるんだが、パレードともなると何日も先になるし、それまでバレンティアに滞在しなきゃならないからこれ以上時間を取れないっていう理由もある。
まあ最大の理由は、面倒だからだが。
なので俺達がソルプレッサ迷宮を攻略したことは広められているが、パレードは無しってことになった。
竜王家としてもニズヘーグ公爵領のことだけじゃなく、アバリシアのこともあるから余裕がないしな。
その後でハイウインド家に行き、挨拶をしてから、俺達はドラグニアを発った。
行先はウィルネス山だ。
アテナが進化したこともあるし、バレンティアを発つ前にガイア様に挨拶をしておくべきだと思ったんだが、みんなも賛成してくれてる。
今回は近場ということもあって、アテナが竜化して飛んでくれることになった。
さすがに初めてのことだからエオスも竜化してフォローをしてくれているが、アテナは思ってたよりも楽しそうだったな。
ガイア様はアテナだけじゃなく、ミーナ、フラム、ラウス、レベッカもハイクラスに進化したことを祝福してくれたが、俺としてはここで聞いておかなければならないことがある。
「ガイア様、エオスのことなんですが、その……」
「お気持ちは嬉しいですが、エオスはアテナの従者であり、マナリース殿下と竜響契約を結んだ身です。ですからエオスも、それを望むことはないでしょう」
エオスを抱いてしまった俺からすれば責任を取るつもりはあったんだが、ガイア様はエオスはそれを望んでいないと言ってきた。
実際エオス本人からもそう言われてるんだが、ドラゴニアンは数が少ないから子供は産みたいらしい。
「竜響契約のことは、エオスからも説明があったと思います。ドラゴニアンの結婚は、その竜響契約が前提ですから」
その話も聞いている。
ドラゴニアンは竜化すると、Pランクモンスター辺りまでなら単独討伐ができるようになるが、だからこそその力の悪用を企む者も少なくない。
もちろんドラゴニアンがそんな輩と竜響契約を結ぶことはないんだが、そういった輩に利用されないよう、ドラゴニアンの結婚は竜響契約が必須となっている。
つまりマナと竜響契約を結んでるエオスは、俺と結婚することはできないということになる。
「それともう1つ。エオスだけではなくそちらのマリサさん、ヴィオラさんも、あなたと結婚することはありません。大和様とご結婚される方は、別におられます」
エオスだけじゃなく、マリサさんとヴィオラも違うのかよ。
現在俺の嫁はプリム、マナ、ミーナ、フラムの4人で、婚約者はユーリ、リカさん、リディア、ルディア、アテナの5人。
俺の結婚相手は全部で12人らしいからあと3人増えることになるんだが、俺としてはエオス、マリサさん、ヴィオラになるんじゃないかと思ってたんだけどな。
「諦めなさい、大和。私との竜響契約が理由だったとはいえ、手を出しちゃったんだから。それにドラゴニアンは一度しか子供を産めないんだから、他の種族より子供を産みたいっていう思いは強いはずよ」
それはそうなんだが、俺としてはやっぱり抵抗が……。
「それは慣れてもらうしかないけど、エオスだけじゃなくマリサとヴィオラだって子供は欲しいだろうから、手を出すのは構わないわよ」
いやプリムさん、それは抵抗があるって話なんですが?
「それについてはおいおい考えるとしても、エオスのことはしっかりと考えてよね?」
「分かってるよ」
竜響契約が原因で、エオスとは結婚できない。
マナとの契約を解除して俺と再契約すればできるんだが、俺はアテナと竜響契約を結んでるし、ドラゴニアン同士の相性が良くないと複数のドラゴニアンと竜響契約を結ぶことはできない。
アテナとエオスの性格的な相性は悪くないんだが、魔力的な相性は良くないらしく、同時に竜響契約は結べないって言われてる。
ドラゴニアンの結婚は竜響契約が前提だから、マナと契約してる以上エオスが子供を産むには、シングル・マザーになるしかない。
そのエオスは俺の子供を産みたいって言ってるから、こうなってくるとエオスに子供を産んでもらって、俺も育児を手伝うぐらいしか責任を取る方法がない気がしてくるな。
いつまでも先送りできる問題でもないし、アテナやエオスだけじゃなくドラゴニアン全体の問題なんだから、早めに答えを出さないといけないか。
「ところで明日バレンティアを発つとのことですが、あなた方はフィールという街を拠点にされるとか?」
「あ、はい。マイライト山脈の麓にある街です。マイライト山脈にある宝樹にも、近い内に行こうかと思っています」
マイライト山脈の山頂には、ヘリオスオーブに12本ある宝樹と呼ばれる世界樹があると言われている。
先日ガイア様にお会いした際、いくつかの宝樹の根元には石碑があって、地球の、それもおそらく日本語が記されてるって思われてるから、フィールに戻ったら行くつもりでいる。
「そうですか。ソルプレッサ連山の宝樹にはテスカトリポカがいますから、さすがに行けなかったようですね」
「それは当然ですよ。いくら大和とプリムが終焉種討伐の実績を持っていても、好き好んで行きたいとは思えませんから」
リカさんの言葉に全員が頷くが、終焉種が面倒な相手だってのは分かるから、俺も積極的に行こうとは思ってなかったぞ。
「宝樹の石碑が何かは私からお教えすることはできませんが、役に立つ物であることは間違いありません。是非行ってみてください」
役に立つ物、か。
ガイア様はそれが何かを知ってるが、契約がどうとかで教えることはできないらしいから、すげえ気になるな。
しかもリカさんとの結婚のキーアイテムっぽいから、俺としても是非とも欲しい。
とはいえ、石碑が何の役に立つのかは想像できないが。
その後世間話を続け、今日はクリスタル・パレスに泊まった。
そして翌日の昼前、俺達はバレンティアを発ち、アミスターの王都、フロートに向かった。
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