迷宮攻略の褒賞
ソルプレッサ迷宮を出た直後にニズヘーグ竜騎士団が難癖つけてきたが、一応想定できてた事態だった。
とはいえ、マジでアミスターのお姫様相手に剣を向けるとは思わなかったからオーダーとして対処することにしたんだが、面倒なことにならなきゃいいんだけどな。
まあ一国の姫に剣を向けたんだから、バレンティアに非があるってことで押し通せるんだが。
そのニズヘーグ竜騎士団の団長を捕らえて、ライトニング・バンドとアレスティングでロープを補強して獣車の下に吊るしてからエオスにドラグニアまで飛んでもらったんだが、こっちも予想通り大騒ぎになって、ナールシュタットの耳にまで届いちまったらしい。
「ではナールシュタット公爵、あなたは
「当然です!あれは我がニズヘーグ公爵家の物!それをいくら王家といえど、エンシェントヒューマンを使って横から掻っ攫うなど、許されることではありません!」
というのが、ナールシュタットの言い分だ。
竜王城の謁見の間に集まった貴族達からも白い目で見られていることにも気づいていないのか、ナールシュタットは自分の意見が100%正しいと信じて疑っていない。
ナールシュタット側の貴族でさえ、激しく動揺してるのにだ。
そもそも
なんでも王城以外だと、迷宮氾濫を抑制しきれないんだとか。
プリスターズギルドが言うにはそれが神々の加護ってことらしいから、貴族が
迷宮氾濫の際には高ランクモンスターどころか異常種や災害種が出てくることも珍しくないから、どれほどの被害を受けるかは予想がつかないため、王家が管理することで、被害を未然に防ぐことになっていると説明された。
「そういうわけですからナールシュタット公爵、あなたが言っていることは妄言以外の何物でもありません。そもそもこれは、有史以前から定められている啓示なのですよ?にも関わらずそのようなことを口にするとは、いったいあなたは何を考えて……いえ、だいたいの予想はつきます」
「だがナールシュタット、それを口にした瞬間、どうなるかは分かっていような?」
フォリアス陛下とハルート王子がナールシュタットに詰め寄るが、確かに口にした瞬間に反逆罪が成立するんだから、いくらナールシュタットが頭悪くても、さすがにこんなとこで口にするわけがない。
「……黙れ。大人しくしていればつけ上がりおって!もうよい!この場で暗愚な竜王家を滅ぼし、この国は私が貰う!」
そう思ってたら、そんな頭の悪いことを口にしやがった。
立ち上がったナールシュタットは、懐から何かを取り出そうとしている。
懐から?
剣はもちろん、短剣だって隠せるとは思えないんだが、いったい何を取り出そうってんだ?
「大和!」
「あれは!」
ナールシュタットが取り出したのは、1つの結晶だった。
普通ならそんなもんを出した所で状況が変わるわけがないんだが、俺達はナールシュタットが手にしている結晶が何かを知っている。
俺は即座にコールド・プリズンを発動させ、ナールシュタットを氷り付かせた。
「なっ、何が!?」
「ナールシュタットが……氷っただと!?」
「申し訳ありません、俺の魔法です。陛下の御前で無礼とは思いましたが、あれをナールシュタットに使わせるわけにはいきませんでしたので」
一国の王の前でこんなことをしたんだから、普通なら無礼だってことで処罰されても文句は言えない。
だけどあれを使わせるわけにはいかないんだから、マジで勘弁してくださいって心境だ。
「あれというと、ナールシュタットが持っていた結晶か?」
「あのようなもので、我々をどうこうすることができるとは思えませんが?」
ハルート王子にヘルトライヒ公爵が疑問を呈するが、それが普通の感想だろうな。
「いえ、可能です。何故なら、あの結晶こそが魔化結晶。魔物を異常種や災害種に進化させ、アミスターを裏切ったハイハンターがエンシェントクラス並の魔力を手にした、アバリシアが作り出した禁忌の結晶です」
マナの説明に、謁見の間が騒然となった。
「あ、あれが魔化結晶だと!?馬鹿な!なぜ我が国に、そんな物があるのだ!?」
最初に声を上げたのはハルート王子だ。
「おそらくとしか言えませんが、ナールシュタットはアバリシアに通じていたということでしょう。バレンティア東部はアミスターの南に位置していると言えますから、北と南から攻めることで疲弊させ、最後にアバリシア自らが動くことで、アミスターを制圧することが目的ではないかと」
これはマナの予想だが、俺もそう思う。
いかにアミスターのオーダーズギルドが精強でも、南北から同時に攻められたりしたら戦力を分散させなきゃならないんだからな。
そこに魔化結晶なんてのを使われたりしたら、いくらオーダーズギルドでも対応しきれないだろう。
「そうか。アバリシアは何度かフィリアス大陸に兵を派遣しているが、全て連合軍によって退けられている。そしてその連合軍の中核は、アミスターが派遣したオーダーだ。つまりアバリシアはアミスターを最大の脅威とみなし、このようなことをしているという事か」
ヘルトライヒ公爵が納得したように口を開くが、バレンティアの竜騎士だって中核戦力を担ってたって話だから、バレンティアの国力を下げるっていう狙いもあると思う。
「そういえばアバリシアには、レティセンシアやソレムネのような隷属の魔導具以外の隷属手段があるという噂があったな。それを使い、ドラゴニアンを隷属させることで、我が国も同時に滅ぼそうという魂胆か」
「あり得ますね。そしてナールシュタットはこの地を治め、無理矢理ドラゴニアンを使うことでアミスターを攻めるつもりだったということでしょう。どうりでドラゴニアンを従魔扱いしているはずです」
ああ、そういやそうだったな。
ナールシュタットはドラゴニアンを隷属させたいんじゃないかって言われてたが、魔化結晶なんて代物を持ち出した以上、確実に隷属させる手段があったって考えてもいいはずだ。
そんなことになったらエオスやガイア様はもちろんアテナだって危なかったんだから、未然に防ぐことができて良かったって言うべきか。
そう考えると、なんか腹立ってきたな。
「大和、落ち着きなさい。気持ちは分かるけど、ナールシュタットにはまだ聞きたいことがあるんだからね?」
「わかってるよ」
俺の怒りに比例してコールド・プリズンの強度が上がってたが、マナが止めてくれたおかげでナールシュタットを砕かずに済んだ。
最近沸点が低くなってきてる気がするから、嫁さんや婚約者のためとはいえ、もう少し落ち着けるようにしとかないと周りに大きな迷惑をかけそうだし、何とかしないといけないな。
「ともかく、まずはこの場を治めましょう。ニズヘーグ公爵家は改易を申し渡し、領地は王家が召し上げます。そして一族郎党は処刑し、首は城の前で晒します」
「そうですな。ですが陛下、それだけでは済みませんぞ?」
ニズヘーグ公爵家はお取り潰しの上、一族全員が処刑か。
まあ知らなかったって言い訳も通用するわけがないし、明確な国家に対する反逆行為なんだから、これは当然か。
だけどヘルトライヒ公爵、家名剥奪に領地没収、さらには一族処刑ってことなんだから、さすがにもう何もないんじゃないですかね?
あ、改易って何のことか分からなかったんだが、どうやら爵位や役職の剥奪に領地や私財を没収した上で、身分を平民に落とすってことらしい。
刻印具の辞書で調べたら日本でも江戸時代に同じ処罰があって、蟄居よりは重いが切腹よりは軽いってあったな。
「あるわよ」
「そうですね。お忘れですか?ナールシュタットに付き従っていた東側の貴族達のことを」
あ、そういやそうだった。
リカさんとユーリに言われるまで、完全に忘れてたぞ。
東側の貴族の多くは、ナールシュタットの配下って言っても過言じゃない状態だったんだった。
そうなると当然、そいつらだって調べられることになるし、場合によっては改易された上で処刑ってこともあり得る。
「この場にいる以上、事の重大さは分かっているでしょう?身の潔白を示したいのであれば、大人しく指示に従いなさい」
ナールシュタットに従ってた貴族達が膝をつき、フォリアス陛下の指示を受けた近衛竜騎士に連れ出されていく。
大人しく連行されていくとこを見るに、フォリアス陛下の言うように事の重大さを理解してるってことなんだろうな。
実際、ナールシュタットが魔化結晶を持っていた以上、アバリシアとの内通だけじゃなく王家暗殺未遂の嫌疑がかけられることになるんだから、身の潔白を示したければ大人しく指示に従うしかないか。
「彼らは後程、
「いえ、これはバレンティアの問題ですから、そこまで私達に気を遣っていただく必要はございません」
マナの言う通り、これはバレンティアの問題だから、アミスター所属の俺達がおいそれと口を出していい問題じゃないし、出せる問題でもない。
これからのバレンティアがどうなるかは分からないが、そこはフォリアス陛下次第だろう。
「分かりました。ですが我が国を揺るがす国難を未然に防いでいただいたのですから、相応の謝礼はさせていただきます」
それはそうかもしれないが、俺にとっても無関係な問題じゃないどころか発端だったようなもんなんだから、気にしなくてもいいんだけどな。
「恐れ入ります。では僭越ですが、希望を述べさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、勿論です」
とはいえ国の面子だってあるんだから、褒賞無しってわけにもいかないか。
ここはマナに丸投げが正解な気がするぞ。
「ありがとうございます。私どもの希望は、ソルプレッサ迷宮の
なるほど、ゴールド・ドラグーンの魔石か。
ディザスト・ドラグーンも同じAランクモンスターではあるが、こちらは異常種とはいえ
だけど
もちろん他の部位は討伐者が好きにしていいんだが、こちらも一部は献上することが多いらしい。
だから先に
もちろん魔石は国宝となり、王城の宝物庫で厳重に保管されることになる。
「なるほど、魔石ですか。兄上、ヘルトライヒ公爵、どう思いますか?」
「俺は構わんと思う。確かにゴールド・ドラグーンの魔石ともなれば、国宝の中でも第一級の代物だが、そのゴールド・ドラグーンを討伐したのは彼らだ」
「そうですな。これが迷宮攻略の褒賞としてでしたら、さすがに無理と言わざるを得ませんでしたが、国が滅びかねない難事を未然に防いでいただいたのですから、バレンティアとしても相応の褒賞を出さなければなりません。それに元々所有していなかった物なのですから、こちらとしても国庫を傷めずに済みます」
ヘルトライヒ公爵が生々しいセリフを吐くが、それはそれでどうなのかとも思う。
「国庫云々はともかくとして、私もそう思っています。とはいえ国宝級の代物なのですから、何か代わりになるような魔物はいただきたいところですね」
代わりになる魔物か。
ドラグーンなら大量にあるが、それでよければ丸々1匹献上するのは吝かじゃない。
というか、それぐらいはしないといけない気がする。
「ドラグーンでよろしければ献上させていただけます。そうですね、光属性と闇属性のドラグーンを1匹ずつ、ということでいかがでしょうか?」
そう思ってたら、マナが光属性と闇属性を1匹ずつ、計2匹献上するとか言い出したが、対価としては順当かもしれない。
確か光属性はムーンライト・ドラグーンにスターダスト・ドラグーン、オーロラ・ドラグーン、闇属性はポイズン・ドラグーンとダーク・ドラグーンを狩ってるが、スターダスト・ドラグーンだけは1匹しかないから、これは除外だな。
「……はっ!いや、ちょっと待て!光属性と闇属性のドラグーンを1匹ずつだと?いくらなんでも、それはそちらの負担が大きすぎるぞ!」
「そ、そうですぞ?光属性に闇属性ということは、Mランクモンスターではありませんか。それを2匹もなど、そちらの成果がほとんどなくなってしまいますぞ?」
呆けた後に声を荒げたハルート王子とヘルトライヒ公爵だが、どうやら俺達の成果をほとんど献上させることに焦ってるようだ。
そこは心配無用ですぜ。
「ご心配には及びません。詳細は省かせていただきますが、こちらの2名にとって、Mランクモンスターなどただの素材に過ぎません。その証拠に、ドラグーンだけで41匹討伐してきておりますから」
いやいや、マナさん、それは言い過ぎじゃね?
確かに俺もプリムも嬉々として狩ってたけど、言う程楽ってわけじゃなかったんだからな?
「よ、41匹……」
「もはや、何と言ったらいいのか分かりませんな……」
「そういうわけですので、ゴールド・ドラグーンの代わり、というのもなんですが、オーロラ・ドラグーンとダーク・ドラグーンを、1匹ずつ献上させていただきます」
「わ、分かりました。その、ありがとうございます……」
若干引きながらフォリアス陛下が謝辞を述べ、めでたくゴールド・ドラグーンは、魔石を含めて俺達の物となった。
その代わりオーロラ・ドラグーンとダーク・ドラグーンを1匹ずつ献上することになったが、闇属性ドラグーンは計4匹、光属性ドラグーンに至っては計6匹も狩ってあるから、何も問題はない。
こいつらだってMランクモンスターなんだから、魔石もけっこうな価値があるはずだし、竜王家としても面子が立つってもんだろう。
その後、竜王城にある竜騎士団の演習場にオーロラ・ドラグーンとダーク・ドラグーンを出し、明後日にはドラグニアを発つことを告げて、俺達は竜王城を後にした。
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