エレファント・ボア討伐

Side・プリム


 まさかあたしと大和の魔力で、獣車にガタがき始めてたとは思わなかったわ。

 まだ大丈夫ってことだけど、何があるか分からないんだから、新しく獣車を作ることになるのは仕方がない。

 新しい獣車が出来てからになるけど、この獣車はライ兄様に献上することにもなったから、マナにも協力してもらって、内装も少しいじらないといけないわね。


「大和様、マナ様。エレファント・ボアの群れを見つけました」


 獣車について、フィーナを含めて話し合ってると、エオスが対象を見つけてくれた。

 バレンティアは荒野が多く、森は少ない。

 エレファント・ボアは大きいから、空からだと見つけやすいのよね。


「分かったわ。それじゃあ刺激しない位置に降りてくれる?」

「かしこまりました」


 エオスもよく分かってるようで、エレファント・ボアの群れから500メートルぐらい離れた位置に着陸してくれた。

 ここからはオネストに獣車を引いてもらって、群れの近くまで進んで、それから討伐開始ってことになるわね。


「よろしくね、オネスト」


 母様に頭を撫でられて喜ぶオネスト。

 オネストは戦闘には加わらない予定だから、あたしやジェイド、フロライトと一緒に獣車の護衛をすることになっている。

 ブリーズはミーナと一緒にロングノーズ・ボアを、ルナ、スピカ、シリウスはマナと一緒にエレファント・ボアを相手にすることになってるから、今回はブリーズとスピカに獣車を引いてもらうわけにはいかなかったのよ。


「それじゃ、行くか」


 大和の合図で、獣車を引いて歩きだすオネスト。

 エレファント・ボアは10メートル以上の巨体だし、ここは何も遮るものが無いから、既にあたし達の視界に入っている。

 そろそろあっちも気付くだろうけど、できれば先制攻撃と行きたいところだわ。


「気付かれたみたいね」

「だな。とはいえ群れを守ることを優先してるっぽいから、仕掛けてくる気配はなさそうだ」


 気付かれちゃったか。

 この時期は子供が巣立ちする直前ってこともあってか、群れの規模はかなり大きくなるって聞いている。

 もしかしたらあのエレファント・ボアは、まだ子供だったりするのかもしれないわね。


「この辺りが限界かな」

「そうね。これ以上近付くと、多分エレファント・ボアが襲い掛かってくると思うわ」

「分かった。それじゃあ獣車はここに置いていこう。プリム、悪いが頼んだ」

「分かってるわよ。気を付けてね」


 あたしは獣車を護衛しなきゃいけないから、ここから動けない。

 とはいえ、エレファント・ボアはあたし達の存在を認識してるから、みんなが少しでも進んだら、多分襲い掛かってくるでしょう。

 ロングノーズ・ボアがどうするかは分からないけど、大和は逃がすつもりはないから、多分逃げようとした個体は優先的に仕留められると思う。

 しかも今気が付いたけど、ジャンボノーズ・ボアも何匹かいるじゃない。

 ジャンボノーズ・ボアのお肉は美味しいから、お肉だけは引き取って、他は売ってもいいかもしれないわね。


 おっと、そんなこと考えてたら、もう戦闘が始まってたわ。

 ジャンボノーズ・ボアはもちろん、ロングノーズ・ボアも全部来てるみたいね。


 マナ、リディア、ルディアの3人は、予定通りエレファント・ボアに立ち向かっていってるけど、さすがに巨体だからか、攻めあぐねてる感じね。


 ジャンボノーズ・ボアは、驚いたことにラウスが1匹仕留めてるじゃない。

 レベッカとキャロルを守るために強くなりたい、進化したいって言ってたけど、この戦闘で念願叶うんじゃないかしら?

 あ、さらに1匹、ラピスライト・シールドの刃で頭を貫いてるわ。

 残り3匹だけど、この分なら任せても大丈夫そうね。


 ミーナは襲ってきてるロングノーズ・ボアの攻撃を、シルバリオ・ソードとシルバリオ・シールドで堅実にいなし、フラムがラピスフェザー・ボウで射た矢が的確にロングノーズ・ボアに刺さって動きを止め、リカさんの風を纏ったラピスライト・レイピアとアテナの槍が正確に眉間を貫いていってるから、こっちも見てて不安はない。

 レベッカはラピスライト・ボウエッジの穂先でロングノーズ・ボアの鼻を切り落とし、その個体にヴィオラが双剣で斬り付け、マリサが両手持ちの斧を叩き付けてトドメを刺す。

 1匹こっちに抜けてきそうになってたけど、土属性魔法アーズマジックの槍を体に纏わせたブリーズが突っ込んでいったから、あれも終わってるわね。


「ラウス君、強くなってるわね」

「本当ですね。B-Rランクモンスターをああも簡単に倒すなんて、ハイクラスでも難しいはずなのに」


 丁度ラピスライト・ソードとラピスライト・シールドの刃を、同時にロングノーズ・ボアに突き刺してトドメを刺したラウスを見て呟いた母様に、フィーナが答える。

 魔力が増えた気がするから、進化してるっぽいわね。


「ん?ラウスの動きが変わったか?」

「っぽいけど……もしかしてラウス、進化したんじゃ?」


 エドとマリーナも気が付いたか。

 感触を確かめるようにゆっくりとした動きに変わってるし、なのに力強くジャンボノーズ・ボアの攻撃を受け流しもしてるから、確実にハイウルフィーに進化したわね、あれは。


「みたいね。相手がジャンボノーズ・ボアだから、いきなり強くなったフィジカリングやマナリングの感触を確かめてるんでしょうね」


 リディアやルディア、マルカ姉様だって、似たような感じだったからね。

 もっともその3人は、Gランク以上の魔物を相手にしながらだったから、今のラウス程の余裕はなかったけど。


 そのラウスは、最後のジャンボノーズ・ボアの攻撃を正面から受け流し、その勢いでクルッと横に一回転して、遠心力の乗った一撃を首筋に叩き込んだ。

 おお、首が飛んでいったわ。


「ジャンボノーズ・ボアは、ラウス1人で討伐完了か。あいつも人外の域に足を踏み入れやがったな」

「B-Rランクモンスターだから、そこまでじゃない気もするけどね」


 ハイクラスなら、S-Rランクモンスターぐらいまでなら単独討伐も不可能じゃない。

 しかも今は合金もあるから、Gランクぐらいまでなら単独で倒せるようになってるかもしれないわね。


「ロングノーズ・ボアは……ああ、あっちももう終わるな」

「ユーリ様も援護してたみたいだけど、ホントにみんな、強くなるのが早いよねぇ」


 エドとマリーナが呆れたように口を開くけど、悪い事じゃないでしょ?

 それにエトラダでガラの悪いハイクラスに絡まれたし、さっきもハンターズギルドでだったから、余計な騒動を遠ざけるためにも、みんなには少しでも強くなってもらった方が良い。

 とは言っても、ミーナとフラムは強くなっても、力で解決なんてことはできない気もするけど。


 最後のロングノーズ・ボアに、ユーリとユーリの精霊ラクスのアクア・アローが命中し、ミーナがシルバリオ・ソードを突き刺してトドメを刺す。

 後はエレファント・ボアだけど、あっちはどうなってるのかしら?


Side・リディア


「このっ!」


 ルディアがエレファント・ボアの牙をドラグラップルの手甲を使っていなしていますが、10メートルを超える巨体から繰り出される突進と相まって、無傷とはいっていません。

 それでも動きはしっかりと見えていますから、掠り傷程度で済んでいるでしょう。


「シリウス!」


 マナ様がシリウスに氷属性魔法アイスマジックを使わせ、エレファント・ボアの足を氷り付かせました。

 突進の勢いが強かったため、シリウスの氷では完全に止めることはできませんでしたが、それでも大きくバランスを崩していますから、これはチャンスです。

 大きく息を吸い込み、竜精魔法エーテル・ブレスを吐くことで、さらにエレファント・ボアの動きを封じるよう試みます。

 あ、私は氷竜ひりゅうのドラゴニュートですから、竜精魔法で使える属性は氷になります。

 ルディアは火竜かりゅうですから火になりますが、私の竜精魔法はエーテル・ブレス、ルディアはエーテル・バーストと、使える魔法系統は異なっているんです。

 竜精魔法にはエーテル・ブレス、エーテル・バーストの他にもいくつかありますが、使えるのは1人につき1つ、ハイクラスに進化すれば2つになるんですよ。


「せやあああっ!」


 私のエーテル・ブレスも完全には氷り付きませんでしたが、それでも動きを止めることには成功しました。

 そのエレファント・ボアに向かって、ルディアがドラグラップルの手甲で殴りつけ、左側の牙を叩き折ることに成功しています。

 私も一気に接近して、ドラグ・ソードで右側の牙を傷つけましたから、もうあの牙で攻撃はできないでしょう。


「ルナ!」


 さらにカーバンクルのルナが、光属性魔法ライトマジックで作り出した光の槍が命中し、エレファント・ボアは氷を砕きながらその場に倒れました。


「スピカ、行くわよ!」


 そのチャンスに、スピカの背に乗ったマナ様が、ラピスウィップ・エッジを構えながら突っ込みました。

 スピカは土属性魔法アースマジックで自分とマナ様を包み込み、マナ様の風属性魔法ウインドマジックで加速すると、起き上がりかけているエレファント・ボアに向かって全力で突っ込み、再びエレファント・ボアを吹き飛ばし、地面に倒しています。

 スピカはCランクのバトル・ホースのはずなんですが、S-Iランクのエレファント・ボアを吹き飛ばすことが出来るとは、さすがに思いませんでした。


「これで終わりよ!」


 地面に倒れたエレファント・ボアを踏み台にして高くジャンプしたスピカの背で、マナ様は伸ばしたラピスウィップ・エッジに魔力を流し、その刀身をスピカの土属性魔法アースマジックが補強、シリウスの氷属性魔法アイスマジックが刀身を形成、ルナの光属性魔法ライトマジックがラピスウィップ・エッジとスピカ、シリウスの魔法を一体化させ、そしてマナ様自身の風属性魔法ウインドマジックで切断力を強化させた巨大な刀身を作り出しました。

 マナ様が召喚獣達の属性魔法グループマジックを刀身に集めることで、攻撃力不足を解消するために作り出した固有魔法スキルマジックスターリング・ディバイダーです。

 ドラグニアまでの道中で、何匹もの魔物が一刀両断にされていましたから、攻撃力は十分です。

 隙は大きいですが、スピカに乗って移動することで最小限になっているみたいですし、何よりエレファント・ボアは地面に倒れているんですから、ロクに反撃もできません。


 そのエレファント・ボアにマナ様がスターリング・ディバイダーを叩き付けると、激しい衝撃とともに濛々と土煙が立ち上っていきます。

 土煙が晴れると、首から右前足までが切断されたエレファント・ボアの死体が現れましたが、異常種まで真っ二つにできるとは思いませんでした。

 以前より魔力が増えてませんか?


「ヒヒ~~~~ン!!」


 着地したスピカが嬉しそうに嘶いて、マナ様も嬉しそうに撫でていますが、何かあったんでしょうか?


「お見事。俺のアシストは必要なかったな」

「大和が控えてくれてるってだけで、十分なアシストだけどね」


 それは間違いなくそうです。

 イデアル連山でも、そのおかげで命の危険は感じなかったんですから。


「ルディアの言う通りよ。よっと。きゃっ!ちょっとスピカ、落ち着いてよ」


 スピカが珍しく、マナ様に甘えていますね。

 ブリーズはよくミーナさんに甘えていますが、スピカは凛としたイメージがありましたから、かなり珍しいです。


「マナ、スピカがどうかしたのか?」

「ええ。スピカがウォー・ホースに進化したの。スピカも嬉しいらしくて、さっきからこんな感じなのよ」


 バトル・ホースは上位種にデュエル・ホースがいますから、ウォー・ホースということはS-Rランクモンスターに進化したってことじゃないですか!

 従魔や召喚獣の進化は珍しいですから、すごいことですよ、これは。


 従魔や召喚獣も進化することがありますが、通常種から上位種に進化することは無いそうです。

 これは仮説なのですが、上位種は通常種の亜種ではないかと言われていますね。

 ですから通常種の従魔・召喚獣が進化すると、希少種になるみたいです。


「おお、おめでとう。いずれ進化するんじゃないかって言われてたが、思ってたより早かったな」

「私もそう思うわ。魔力の相性は良かったけど、いつ進化するかまでは分からなかったから、私としても本当に嬉しいわよ」


 スピカはホーリー・グレイブと一緒に受けた依頼でソフィア伯爵の領地に赴いた際、お互いに一目惚れで召喚契約を結んだと聞いています。

 ですから性格の相性はもちろん魔力の相性も抜群で、スピカはCランクモンスターのバトル・ホースでありながら、Bランクモンスターすら倒せたそうです。

 そのスピカがS-Rランクモンスターに進化したということは、おそらくですがGランクモンスターが相手でも、力負けはしないんじゃないかと思えます。

 つまりスピカは、今まで以上にマナ様の役に立てることが嬉しいというワケなんですね。


 ルナとシリウスも、祝福してるかのようにスピカに頬擦りしていますから、見ていてとても微笑ましい光景です。

 私も従魔契約を結びたくなってきてしまいますね。

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