緊急討伐依頼

Side・マナリース


 竜王城で大和とアテナの婚約、私とエオスの竜響契約を伝えた後、私達はハンターズギルドにやってきた。

 アテナのハンター登録はもちろん、エオスもウイング・クレストに入ってもらうから、その手続きのためよ。


「おい、ガキ。ここはてめえらみてえなのが来るとこじゃねえんだよ。命が惜しけりゃ金と武器、それから女置いてとっとと消えな」


 なんだけど、ハンターズギルドに入った瞬間、複数の男達に大和、エド、ラウスが囲まれてしまった。

 パッと見ハンターに見えない恰好してるから、登録に来たばかりの新人だって思ってるんでしょうけど、見た目に騙されると命がいくつあっても足りないわよ?


「こんな連中、マジでいるんだな」

「登録した日のこと、思い出すなぁ……」

「あれよりはマシ……いや、どっちもクズってことに違いはないか」


 大和達も頭痛いでしょうね。

 それでも自分のライセンスを突き付けてるから、大和にしては穏便な対応だわ。


「エ、エンシェントヒューマン!?」

「しかもMランクハンターってだけじゃなく、アミスターのOランクオーダーでもあるのかよ!!」


 絡んできたハンターが一目散に逃げ出していき、驚きがハンターズギルド内に伝播していくけど、何人かは大和のことを知ってるはず。

 それでも止めに入らなかったのは、大和がどんな対処をするのか知っておきたかったってことでしょうね。

 別に珍しいことじゃないけど、中には止めに入ってくるお人好しもいる。

 恩を着せるためにやるクズもいるけど、アミスターはお人好しが多いから、そんな輩は滅多にいなかったけど。


「ああいうクズって、どこの国にもいるのね」

「こればっかりはね。それでも、手を出してこないだけマシだと思うわよ」


 プリムとリカの言う通りだけど、ああいった行動に出る輩がいるってだけで大問題なのよね。

 大抵はBランクに昇格したばかりの手合いだけど、稀にハイハンターがやってることもあって、迂闊にケンカを買っちゃうとこっちが痛い目を見るから、見極めが難しいんだけど。


「レミー」

「あ、ルディア。皆さんも。今日はどうされたんですか?」


 そのまま受付のレミーの前に行くと、レミーがすごく警戒した表情で私達を迎えてくれた。

 半ば強引に私達の担当にさせられてるから、その気持ちはわからなくもないわ。


「ハンターズマスターに報告したいことがあるんだ。取り次いでもらってもいい?」

「すぐに行ってきます!」


 言うが早いか、レミーはすぐに階段を駆け上がっていった。

 ハンターズマスターに丸投げできるって考えてるんでしょうけど、あなたも関与することは確定なのよ?


 幸い、ハンターズマスター カナメはマスタールームにいるみたいだから、すぐに通されることになった。

 もちろんレミーも同席した上で。

 そこで私達は、大和とアテナの婚約、私とエオスの契約を伝え、アテナのハンター登録とアテナ、エオスのウイング・クレストへの加入手続きを行うことになった。

 手続きはレミーがやってくれたけど、さすがにドラゴニアンが2人もいるユニオンなんてドラゴネス・メナージュ以外はないし、それが他国のとなると初めての事らしいわ。


「これで手続きは終了です。ご確認下さい」

「これがボクのライセンスなんだね!」


 レミーからハンターズライセンスを手渡され、嬉しそうに確認するアテナ。


 アテナ・ウィルネス・アースライト・トマリ

 84歳

 Lv.34

 竜族・ドラゴニアン

 竜名:アースライトドラゴニアン

 ユニオン:ウイング・クレスト

 ハンターズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア

 ハンターズランク:ティン(B-T)


 エオス・ウィルネス・グリーン

 117歳

 Lv.52

 竜族・ハイドラゴニアン

 竜名:グリーンドラゴニアン

 ユニオン:ウイング・クレスト

 バトラーズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア

 バトラーズランク:ゴールド(G)

 ハンターズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア

 ハンターズランク:ゴールド(G)


 登録したばかりだからTランクだけど、本格的にレベルやランクを上げるのはフィールに行ってからでいいでしょう。

 武器もこれからエドが打つことになってるから、しばらくはプリムのストレージに死蔵されてたミスリルスピアを使うことになってるしね。

 エオスは手斧2丁っていうマルカ義姉様と同じ戦闘スタイルだけど、ハイドラゴニアンに進化してることもあるから、優先度はこちらの方が高い。

 大和の刻印具から好みのデザインを決めて、マリーナがマイナーチェンジさせてるから、既に製作作業に入ってくれてるわ。


「アテナ嬢とエオスもアミスターに行くという事は、フロートにも寄ることになるのよね?」

「やっぱりその方が良いですかね?」

「そりゃあね。ガイア様のご令嬢と婚約したわけだし、マナリース殿下はハイドラゴニアンと竜響契約を結ばれているんだから、国王陛下に直接報告すべき内容だと思うわよ?」


 やっぱりそうなるか。

 私や大和、プリムは手紙で伝えるつもりだったんだけど、ユーリやリカから直接報告すべきだと言われているから、どうするべきか悩んでいたのよ。

 フロートに行くことが問題なんじゃなくて、単純に面倒事に巻き込まれそうだから敬遠したいっていうのが私達の本音なんだけどね。


「面倒ではあるが、仕方ないか。ローザリーさんに頼んで、先に手紙を送ってもらおう」

「そうしましょうか。フィールに行くのが遅れるけど、エオスが飛んでくれるだけで十分時間は短縮できるから、言う程遅くなるわけじゃないし」


 エオスはフィール辺りまでなら、2日もあれば飛べるそうだしね。

 メモリアにも寄るからもう1日余分に掛けることになるけど、それでも普通に船や獣車を使うよりは断然早いわ。


「それじゃ今日は、適当な依頼を受けてアテナのランクを上げて、後は大使館に手紙を頼むってことかしら?」

「そうしよう。ああ、それと……」

「ハンターズマスター!緊急事態です!」


 プリムの意見を採用した大和だけど、何か続けようとしたところで突然マスターズルームの扉が乱暴に叩かれた。

 緊急事態ってことだけど、何かあったのかしら?

 カナメが許可を出すとすぐにリクシーの女性職員が部屋に入ってきたけど、相当焦ってるわね。


「先程報告が入りました。エレファント・ボアが確認されたそうです!」

「なんですって!」


 エレファント・ボアはロングノーズ・ボアの異常種で、確かS-Iランクモンスターだったはず。

 大和がB-Rランクモンスターのジャンボノーズ・ボアを何匹かまとめて狩ってたから、もしかしたらっていう可能性はあったけど、既に生まれてたのね。


「場所は?」

「ノルテの近くだそうです。最初はそちらに報告が行ったそうですが、ノルテにはハイクラスがいませんからドラグニアに回ってきたんです」

「それはまたマズいわね。詳しく報告して」

「はい。確認されたのは昨日の夕方で、Bランクレイド ホワイト・スノウがサーベル・ライガーを襲っているエレファント・ボアを目撃したそうです。ロングノーズ・ボアも数匹いたということですから、おそらくは群れを襲ったサーベル・ライガーが返り討ちにあったのでは、と報告されています」


 サーベル・ライガーにとってロングノーズ・ボアは格好の獲物だから、群れを襲ったっていう話は分かる。

 だけどその群れにエレファント・ボアがいたっていうのは、サーベル・ライガーからすれば運の悪い話だわ。

 エレファント・ボアは異常種だから1つ上のGランク相当の魔物ってことになるし、体も大きいから、Sランクモンスターのサーベル・ライガーでも、さすがに太刀打ちできないわね。


「それがノルテから30分程の位置とのことですから、現在ノルテではハンターや衛兵を集め、防衛体制を整えています。幸いワイバーンがいたこともあり、先程ノルテの衛兵が緊急ということで竜王城に向かわれ、そこから伝令が来たことで判明しました」

「ということは、竜王陛下もご存知ということね?」

「はい。既に竜騎士に、討伐準備を整えさせているそうです」


 さすがに動きが早いわね。

 ノルテっていうのはバレンティア最北の街だけど、同時にバリエンテやトラレンシアとの玄関口でもあったはずだから、万が一にも被害を出させるワケにはいかない。

 ノルテにも結界があるからエレファント・ボアが入ってくることはないと思うけど、それでも絶対じゃないから、竜騎士を動員してでも早期に討伐しないと、経済的なダメージは大きくなるわ。


「カナメさん、俺が行きましょうか?」

「行ってくれるなら助かるけど、報酬を用意するのに少し時間がかかるわよ?」


 大和が名乗りを上げたけど、緊急討伐依頼だし、Mランクハンターでもあるんだから、大和への報酬は少なく見積もっても50万エルは下らない。

 しかもPランクのプリム、Gランクのエオス、Sランクでハイクラスの私やリディア、ルディアまでいるんだから、どう考えても200万エルは必要になってしまう。

 そんな大金、いくらハンターズギルドでもすぐには用意できないわよ。


「それなんですけど、魔石を含むエレファント・ボアの死体全部ってことにしてもらえますか?」

「魔石を含むって、さすがにそれは……」


 大和の提案に言い淀むカナメ。

 異常種の魔石は王家や領主に献上されるのが常だけど、エレファント・ボアはそれなりに現れてる魔物でもあるから、竜王家も既に所有しているはず。

 それでも異常種の魔石ともなると利用価値は高いから、それだけで数十万エル、ランクによっては数百万エルの価値がある。

 皮も分厚くて硬いから、防具としては一級品だし、肉だって美味なんだから、すぐにでも買い手が現れるでしょう。

 長い牙も素材に混ぜ合わせることで、鞭や多節剣の長さを倍ぐらい伸ばすことが出来るようになるそうだから、人によっては喉から手が出る程欲しがる素材だわ。

 というか、私が欲しいわよ。


「金銭的な報酬はいりません。異常種の素材は、俺達としても必要になるんで」


 大和が異常種の素材に拘ってる理由は、今着てるウインガー・ドレイク製のクレスト・アーマーコートが、大和とプリムの魔力に耐えられなくなってきてるからなの。

 ウインガー・ドレイクはS-Rランクモンスターだけど、ハイクラスの私達には何の問題もなく使えている。

 だけど大和とプリムはエンシェントクラスだから、マナリングで強化すると魔力が澱んだ感覚がしてきてるらしいわ。

 最初の頃はそうでもなかったんだけど、イデアル連山の宝樹に行った辺りからそんな感覚がし始めたってことだから、S-Rランクモンスターの素材じゃエンシェントクラスの魔力に耐えられないってことなんでしょう。


 幸い、と言っていいのかはわからないけど、プリムはバリエンテの問題があるからそこまで派手に戦うことはないし、大和はフロートで下賜された、グリフォンの革を使ったアーク・オーダーズコートがある。

 グリフォンはMランクモンスターだから、十分に大和の魔力を受け止められてるみたいだわ。


「そういうことなら、私としても首を縦に振るしかないわね。報酬を取られて、さらに素材まで持っていかれたんじゃ、ハンターズギルドとしても大赤字にしかならないんだから」


 そうなるわよね。

 異常種は普通のハイハンターが狩っても、ある程度は素材になる部位が手に入るし、魔石は必ず手に入るんだから、赤字になったとしてもそこまで酷い物じゃない。

 だけど大和にとって、エレファント・ボアは普通の魔物と変わらないだろうから、素材だって気にしながら討伐できてしまう。

 その素材を持っていかれてしまうと、報酬も含めて、ハンターズギルドは大赤字になってしまうわ。

 もちろん異常種の出す被害に比べたらマシなんだけど、それでもその素材が復興資金の足しになってたりもするし、異常種の素材なんて高値でもすぐに売り切れるんだから、できれば確保しておきたいっていうのがハンターズギルドの本音でしょう。


 だけど大和やプリムの防具の問題があるから、私達としても素材は必要になる。

 万が一にもないことだけど、戦闘中に魔力疲労で防具が壊れたりして、大和やプリムが大怪我したり死んだりしたら、そっちの方が後々の問題が大きくなるんだから、カナメとしても認めざるを得ない。


「彼らに緊急依頼を出すから、あなたはすぐに竜王陛下に報告を。その際、異常種の素材は魔石を含めて全てが報酬になることも、忘れずに伝えてね」

「わかりました!」


 リクシーの職員はすぐにマスタールームを出ていった。


「それじゃレミー、依頼書をお願い」

「わかりました」


 緊急討伐の指名依頼ということで、大和の前に討伐対象や報酬内容を記載された依頼書が用意し、それに大和がサインする。

 プリムが羨ましそうな顔してるけど、ここでエレファント・ボアなんて倒しちゃったりしたら、おそらくレベルは上がるだろうから、面倒な話になる。

 だからプリムには、もうしばらく自重してもらわないといけないわ。


「これで受注は完了です。ご武運をお祈りします」


 これで契約成立ね。

 急いでノルテの近くまで行って、エレファント・ボアを探さないとだわ。

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