神帝国の謎

 ガイア様の予知夢の話は、俺としても驚きの連続だった。

 嫁が全部で12人ってことは、間違いなくあと4人増えるってことになるんだが、エドから渡された婚約の短剣も全部で12本だったから、あいつまで予知能力があるのかと疑っちまった。

 実際は女神様が12人だから、それにあやかっただけらしいが。


 だが一番驚いたのは、レティセンシアとの戦争の話だ。

 ルクスの死体を検分していたプリスターズギルドからそんな話は上がってきてたが、まさか魔化結晶を使うと、魔族っていう種族に変化するとは思わなかった。

 しかも魔石までありやがったんだから、完全に化け物って言っても過言じゃない。

 その魔石は、G-Iランクモンスターと同程度のランクだったみたいだが、レティセンシアのハイクラスが使用した場合、間違いなくルクス以上に厄介になる。

 それが部隊運用されてるってことは、多分ノーマルクラスも使うってことになるんだろうな。


 そいつらに俺が追い詰められるって話だが、2人のヒューマンに助けられる、か。

 そのヒューマンに関してはガイア様も分からないみたいだが、予想としては神々の誰かってことみたいだ。

 それが誰なのかは、全く予想できないが。

 断言できるのは、神々が出張ってくるってことは、魔族はイレギュラーな存在だってことだな。

 アバリシアが何を考えて魔化結晶なんてもんを作り出したのかは知らんが、マジで狂ってやがる。

 だけどマナが子供を生んで、さらにはプリム、リカさん、フラムも妊娠するって話が出たから、驚きと同時に嬉しさも出てきたな。

 リカさんは後継ぎのために子供を生む必要があるんだが、その子供が出来ることが分かったわけだから、感無量って感じだ。

 一番最初に子供が出来るのがマナってのは俺も意外だったが、子供を生みたいって気持ちも知ってるから、こっちも嬉しい。

 フラムもマナと似たようなもんだが、フィールに戻ったら俺と一緒にクラフター登録をする予定でいるから、子供が出来るとしてももう少し先だと思ってたぞ。

 一番意外だったのは、やっぱりプリムだな。

 プリムも子供は欲しがってるんだが、バリエンテの問題が片付くまでは生むつもりはない。

 そのプリムが妊娠したってことは、バリエンテの問題に決着がついたって考えてもいいはずだ。

 そっちの方は予知夢でもなかったから、ガイア様にもどうなったのかは分からないそうだが、それでも妊娠したってことは、プリムやアプリコットさんからしても悪くない結果になったんじゃないかと思う。


「ガイア様、その予知夢以外にも、もう1つお話があるとのことですが、そちらはどのようなお話なのですか?」


 おっと、いけない。

 ユーリが聞いてくれなきゃ忘れるところだった。

 予知夢以外にも、もう1つ話があるってことだったんだから、そっちも聞かないとだ。


「はい。そちらは大和様に限らず、客人まれびとにはお伝えしていることです」

客人まれびとには?では、サユリおばあ様もご存知ということなのですか?」

「ご存知です。もちろん私の夫ソウヤも、カズシ様やシンイチ様、他にもおりました」


 客人まれびとに伝えてたこと、ねえ。


「宝樹は12本ありますが、そのうちの半分程の根元には、1つの石碑があるのです。いつその石碑が作られたのかはわかりませんが、どうやら客人まれびとの世界の言葉で記されているようなのです」


 俺の世界の言葉?

 しかも宝樹の根元にある?

 イデアル連山の宝樹には行ったことあるが、そんなもんあったっけかな?


「遺跡、とは違うのですか?」

「はい。私も150年程前に、神託によって知りました。ここウィルネス山の宝樹には石碑はありませんが、ソルプレッサ連山にあることは確認しています」


 その石碑があるのはソルプレッサ連山以外だと、ガグン大森林、テメラリオ大空壁、セリャド火山、エニグマ島、そしてマイライト山脈ってことだ。

 イデアル連山にはないみたいだが、見逃してたのかと思って焦ったな。


「マイライトにもあるのね。一度行ってみるつもりだったし、帰ったら行ってみましょうか」

「だな。ですがガイア様、なぜその石碑のことは、客人まれびと以外には伝えないんですか?客人まれびとの世界の文字が記されてるってことですけど、国とかに伝えて石碑を確保させるとか、それぐらいはできると思うんですが?」

「私にも、そこまでは分かりません。神託でそうするように告げられているだけですから」


 神託ってことは神様の意思ってことか。

 そう言われてしまうと、俺としてもこれ以上はツッコめないな。


「ソウヤはもちろん、ハイクラスのサユリ様、エンシェントクラスのカズシ様、シンイチ様もその石碑を見ることはできなかったそうです。いずれも人跡未踏の僻地ですし、難所でもありますから、遠目で宝樹を確認することはできましたが、それが精一杯だったそうです。かく言う私も、ソルプレッサ連山に降り立ったわけではありません」


 マジか。

 イデアル連山の宝樹にはグリフォンがいたが、他の宝樹にも似たような魔物がいるってことなんだろうか?

 確かにそんなのがいたら、空を飛べる従魔がいても近寄れないだろうしな。


「ではガイア様は、空からその石碑を確認されたということなのですか?」

「はい。幸いにもすぐに見つけることができたのですが、宝樹にはテスカトリポカがいますから、私でもそれ以上近付けば命はなかったでしょう」

「テスカトリポカ?」

「それ、ジャガーの終焉種じゃないですか!そんなのがいるんですか!?」


 終焉種がいやがるのかよ。

 確かテスカトリポカは、アステカかどっかの神話の神で、ジャガーの化身だったか?


「そうです。100年程前に生まれたようですが、宝樹があるアムール湖には餌も豊富ですから、人里に下りてきたことはありません。当時の竜王陛下にはお伝えしていますが、次代の竜王陛下が例の愚王でしたから、フォリアス陛下はご存知ありませんでした」


 ソウヤさんの開発した魔導具を独占したっていう馬鹿王か。

 危うく国を割りかけたんだから立派な愚王だが、まさか終焉種の話まで伝えてなかったとは……。


「本当に暗愚だったのね。国を滅ぼしかねない終焉種の話を、次代に伝えてなかったなんて」

「王位を追われたこともありますが、信じていなかったと言った方が正確でしょう。その王は、私達ドラゴニアンを隷属させようとまで考えていたのですから」

「頭悪いにも程があるだろ。ドラゴニアンを隷属なんて、どう考えても国が滅びるぞ」


 エドに同感だ。

 強制的に隷属させようってことは、不法奴隷用の隷属魔導具を使うってことだろう。

 プリスターズギルドが、そんなことを認めるわけないからな。

 エンシェントドラゴニアンはいないみたいだが、ハイドラゴニアンにだって効果は薄くなりやすいし、何よりそれを知ったら、ドラゴニアン達が一斉に竜化して王城を襲ってくるんじゃないか?


「実際、そう考えていたようです。ですからやむなく、私のライブラリーを見せることで牽制することにしたのです」


 そういってライブラリーを見せてくれるガイア様だが、そこにはこう記されていた。


 ガイア・ウィルネス・クリスタル・トマリ

 224歳

 Lv.72

 竜族・エンシェントドラゴニアン

 竜名:クリスタルドラゴニアン

 聖母竜マザードラゴン


 ドラゴニアンって、竜形態の名前も表示されるのか。

 じゃない!

 マジか、これ!


「エンシェントドラゴニアン!?」

「ガイア様がエンシェントクラスだったなんて……」

「し、知らなかった……」


 リディアとルディアも知らなかったのか。

 確かに俺とプリムが進化するまでは、エンシェントクラスはグランド・ハンターズマスターしかいないって言われてたんだから、無理もないのかもしれないが。


「リディアとルディアだけではなく、フォリアス陛下にもお教えしていませんでしたからね。それでも私は、自分がエンシェントドラゴニアンだということを、一度も伏せたことはないのですが」


 伏せたことはないってことは、普通なら気付けるはずってことだよな?

 とは言われても、特には思い浮かばないんだが?


「あっ!」

「クリスタルドラゴニアン……!」

「え?何かわかったの?」


 突然声を上げたリディアとルディアに、マリーナが興味深そうに声を掛けた。

 クリスタルドラゴニアンがどうか……あっ!


「はい。クリスタルドラゴニアンという竜名が、エンシェントドラゴニアンを指していたんです」

「クリスタルドラゴニアンが?」

「ハイドラゴニアンの竜名は、それぞれの属性の色に統合されるだろ?その先のエンシェントドラゴニアンの竜名は、多分宝石とかの名前が付くってことだと思う」


 エンシェントドラゴニアンは過去にもほとんどいなかったそうだし、名前も残っていない。

 だからガイア様が伏せてなくても、気付く人はいなかったってことなんだろうな。


「なるほどね」

「その通りです。過去にはルビードラゴニアン、サファイアドラゴニアンがいたのですが、100年程前に亡くなっています。ですから現在では、誰もエンシェントドラゴニアンの竜名を知らないのでしょう」


 少し寂しそうにそう告げるガイア様だが、そのガイア様もエンシェントドラゴニアンに進化するまで、そのルビードラゴニアン、サファイアドラゴニアンのことは忘れてたらしい。

 だから人の事は言えないって自嘲気味に笑ってた姿が印象的だ。


「で、ですがなぜ、ガイア様がエンシェントドラゴニアンだということを、ご自分の口から公表されないのですか?」

「意味がないからです。エンシェントドラゴニアンとはいえ、私は戦ったことはほとんどありません。それどころか私は、竜族の女神の巫女だと思っています。ですからウィルネス山から下りるつもりはありませんし、その理由もないのです」


 そう言われると、何も言い返せなくなるな。

 とはいえ、1つだけ気になることもあるんだが。


「巫女ということでしたら、なぜプリスターズギルドに登録されていないのですか?」

「そちらも必要がないからです。本来であれば登録するべきだと思いますし、若い頃に登録を考えたこともあります。そのためにバシオン教国にあるエスペランサ大神殿まで赴いたことも。ですが登録の直前、私と初代教皇様に神託が下ったのです」


 だからプリスターズギルドには登録せず、ウィルネス山で暮らしながら巫女として生きてきたってことなのか。

 まさか初代教皇まで関係してたとは思わなかったが、何だってそんな神託が下りたんだ?


「内容は詳しく教えることはできませんが、私は石碑の管理者としての使命を授かった、と言えば分かるのではありませんか?」


 石碑って言うと、宝樹にあるっていうあれか。

 そう言われると分からなくもないが、そうなるとその石碑は、神々が遺した物ってことになるんだよな。

 地球の文字で記されてるってことだが、ヘリオスオーブに来た客人まれびとが全員日本人だってことを考えると、多分日本語だろう。

 なんでそんなものを神様が遺したのか、すげえ気になるな。


客人まれびとの世界の文字ということですが、何故そんなものが?」

「それもわかりません。ですが神託では、世界の崩壊を防ぐには客人まれびとが必要とのことなのです。私も意味は分かりませんが、魔族という種族が人の手で生み出されてしまった、この状況も指しているのではないかと思います」


 魔族か。

 確かに魔化結晶を作り出したのも人なら、使ったのも人だな。

 魔物に使った場合、異常種に進化するまで数ヶ月もかかってしまうが、人に使った場合はすぐに魔族に変貌してしまうみたいだから、こっちの方が正規の使い方なのかもしれない。

 ということは、だ。


「アバリシア、か」

「そうなるんでしょうね。確かアバリシアは、神帝を頂点とした絶対王政の国だけど、同時に神帝はアバリシア正教の最高司祭でもあったはずよ」

「そうらしいわね。200年程前に突然フィリアス大陸に侵攻してきたそうだけど、それまではどこの国も情報を持ってなかったから、当初はどこから来た敵なのかも分からなかったって記録もあったはずだわ」


 それは俺も知ってる。

 フロート滞在中の暇な時間で天樹城の書庫に行ったことがあるんだが、そこでアバリシアのことを記した本もあって、気になって読んでみたんだが、本当に突然侵攻してきてたみたいだったな。

 後になってから偵察と思わしき船がいたことが判明してたが、それでもフィリアス大陸の東に、別の大陸があるなんてことは誰も考えてなかったってことで、各国ともにかなり混乱したとも記されていた。

 ヘリオスオーブの航海術はそんなに発達してるわけじゃないから、これは仕方ない気もする。


「おそらくはそうでしょう。そして、これは私の予想でしかありませんが、アバリシア神帝は客人まれびとなのかもしれません」


 ない、とは言えないな。

 客人まれびとが転移してきた場所は、人によって違いがある。

 俺はバリエンテの国境の街ポルトンの近くだったし、サユリ様はフロートの近くだったと聞いている。

 ソウヤさんはウィルネス山の麓で、直後にガイア様と出会ったそうだ。

 カズシさんやシンイチさん、他の客人まれびとは分からないが、ソレムネの近くに転移した人もいたらしい。

 つまりフィリアス大陸の各地に転移してるわけだから、隣のグラーディア大陸に転移してないと考えるのは少し無理がある。

 引っ掛かるとすれば、アバリシアの初侵攻から200年近く経ってるから、客人まれびとが神帝になってたとしても、エンシェントヒューマンに進化してない限りはとっくに死んでるってことだ。


「確かにそうなのよね。というかエンシェントヒューマンに進化してたとしても、寿命間近のはずじゃないかしら?」

「ああ、それもそうか」


 確かに、何歳で神帝に即位したのかは知らないが、グラーディア大陸の統一も考えると、どれだけ若く考えても230から240歳ぐらいにはなってそうだ。

 エンシェントクラスの寿命はレベル+150年って言われてるから、既に死んでてもおかしくないな。


 とはいえ、レティセンシアに魔化結晶の試作品なんてもんを渡してるんだから、神帝が誰かなんてのはあんまり意味がないか。

 例え客人まれびとだとしても、人間を魔族に変えるような非人道的なことをやってるんだから、明確に俺の敵だって断言できる。

 正義の味方を気取るつもりはないが、立ちふさがるなら倒すまで、ってな。

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