エトラダでの騒動
サンダー・スクイドはたまに出るし、エクレール・ドルフィンはほぼ確実って言われてたからこっちはいいんだが、クラーケンやサイス・テンタクラーがいるとは思わなかった。
だが海の魔物は食えるのが多いから、異常種のこいつらもきっと美味いことだろう。
足の一本ぐらいは竜王家に献上してもいいが、残りは確保する所存だ。
ついでってわけじゃないが、エトラダのハンターズギルドにもクラーケンやサイス・テンタクラーの足は2本ずつ売ってある。
特にクラーケンは30メートル以上ある巨体だから、足2本でも相当な量になって、ハンターズギルドもホクホク顔だったな。
オーシャンライト・ファルコンは、しばらくはエトラダに滞在するそうだ。
大丈夫だとは思うが、ハイドラゴニュートの2人はアミスターでそれぞれ
どうやって手に入れたのかと思ってたんだが、フェザー・ドレイクの革を運搬してきたクラフター達を助けたことがあって、そのお礼に格安で譲り受けたってことらしい。
「せっかくだし、もうしばらく滞在してはいかがですかな?」
「いやいや、私の領地で歓迎しましょう。案内として娘をつけますぞ」
そして今は、たまたまエトラダに来てた貴族に捕まっている。
アミスターじゃこんなことはなかったから、完全に油断してたな。
「せっかくだけどお断りしますよ。
「でしたらドラグニアまでは、私の妹に案内させましょう」
「いやいや、私の娘を」
こんな感じで、自分の妹や娘を俺に嫁がせようって魂胆が見え見えだ。
アミスターならビシッと断るんだが、ここはバレンティアだから、そこまで言い切っていいのかが判断できず、けっこう難儀している。
「悪いけど、もう貴族は間に合ってるのよ。邪魔だからどいてくれる?」
「そうね。それに案内はもういるんだから、必要ないわよ」
「竜王陛下にもお会いしなければなりませんから、このような些事で時間を取っている暇はありませんので」
そこにプリム、マナ、ユーリが笑顔でやってきた。
笑顔なんだけどすげえ怖い。
「小娘は黙っていろ!」
「我々に対して、なんだその口の利き方は!」
邪魔とか些事とか言われて、貴族達も頭に来たか。
それは分からんでもないが、嫁さんや婚約者にそんな口の利き方されたら、俺だって黙ってはいられないな。
「利己主義者って、俺が一番嫌いなんだよ。とっとと失せろ」
「ひっ!」
「ユーリ、あなたのライセンス見せてあげたら?」
「そうですね」
「!?」
俺の圧力とユーリのライセンスを見て、真っ青になる2人の貴族。
特にユーリがアミスターの王族だってことを知ると、震えながら平伏しやがった。
「も、申し訳ございません!」
「アアア、アミスターの王女殿下とは知らず!」
「知らなければいいというワケではありません。そもそも私達は、こちらの大和様の妻であり婚約者でもあります。私はまだ未成年ですから結婚していませんが、それでもお姉様、バリエンテのプリムローズ様と結婚したことは公表されていますし、バレンティア大使からもドラグニアに報告されているはずです」
マナじゃなくユーリのライセンスを見せた理由は、マナは俺と結婚して、家名が変わったからなんだよな。
そのことはマナ本人が一番わかってるみたいだから、今回はユーリのライセンスをってことなんだろう。
「行きましょ。ああ、あんた達の妹とか娘とかは、願い下げだから」
「むしろバレンティアの評価を下げる一因ね。竜王陛下からも、しっかりと処罰を受けなさい」
いや、確かにこいつらの妹や娘を受け入れるつもりは微塵もないが、俺との縁が欲しかっただけなんだし、これが貴族としては普通じゃないかとも思ってるから、そこまでバレンティアの評価は下がってないし、竜王に伝えるつもりもなかったんだが?
「見せしめは必要よ。そうしないと、バレンティアで動きにくくなるもの」
「それにリディアとルディアのこともあるから、しっかりと貴族達に釘を刺しておかないと、面倒なことになりかねないわね」
そうなの?
「2人のお父様が竜爵でも、元は一般の出だそうだから、妬んでる貴族は絶対にいるのよ。だから貴族の中には、リディアとルディアの婚約すら認めないって言ってくる馬鹿が出てくるかもしれないわ」
「いや、結婚は本人達の意思だし、そもそもなんで、貴族に認められなきゃならないんだよ?」
「貴族の中には、そういった考えをする者もいるってことよ」
面倒な。
そんな奴らは無視だ無視。
あんまり酷いようなら、こっちも黙ってないが。
「殺さなきゃいいわよ。さすがにそんなことになったら、なんで大和が手を出したのかも含めて調べられるでしょうし、貴族だってタダじゃ済まないでしょうからね」
殺さなきゃいいって、それは実力行使アリってことかよ。
いや、確かにやられたらやり返すけどさ。
「それに私達が報告しなくても、竜王陛下のお耳には入ります。ここはアミスターとの玄関口ですから、何かあればアミスターとの国際問題に発展してしまいますから」
そういやそうだった。
アミスターとの定期船が行き来してるんだから、竜王直属の部隊なり人員なりがいてもおかしくはない。
バレンティア竜騎士団は確かに精強だけど、その強さは竜化したドラゴニアンの力が大きいから、バレンティアに非がある場合は協力してくれないって話だからな。
ユーリに平伏してる貴族を尻目に、そんなことを話し合ってる俺達だが、いつまでもこんなとこで無駄な時間を使ってる場合じゃないから、さっさと獣車に向かおう。
「ん?」
「なんか獣車の方が騒がしいけど……」
「イヤな予感がするわね……」
まったくもって同感だ。
そしてその予感に違わず、騒ぎが起きてるのは俺達の獣車だった。
「邪魔だからどきなさいよ!」
「そうです。出られないじゃありませんか!」
「連れないこと言うなって。俺達がエトラダを案内してやろうって言ってんじゃねえか」
「そうだぜ?人の好意を無碍にするなんて、ひでえよなぁ」
絡まれてるのはミーナとフラムか。
処刑確定だな。
というか、ラウスはどうしたんだ?
あいつならハイクラスが相手でもない限り、大抵の連中は何とか出来るはずなんだけどな。
「大和、あそこ!」
「なっ!」
プリムに示された方を向くと、ラウスが倒れていた。
しかも剣を盗られてるじゃねえか!
「へっ、ガキの分際で、良い剣使ってやがる」
「俺達が使ってやるから、ありがたくおも……げはあああっ!!」
「何してやがんだ、てめえらは」
アクセリングで加速して、ラウスの剣を持ってるドラゴニュートの男に拳をねじ込む。
こいつらは処刑確定だ。
「て、てめえ!何しやがんだ!」
「こっちのセリフだ。人の弟子をボコボコにしただけじゃ飽き足らず、武器まで奪いやがって。生きて帰れると思ってんのか?」
「ひっ!?」
ついでに獣車でミーナとフラムに絡んでる奴らにも、魔力強化して威圧する。
「な、なんだよ、てめえは!俺達が誰か知ってるのか!?」
「クズのことなんか知るわけねえだろ」
「ぎゃああああっ!!」
ラウスの剣を奪ったドラゴニュートの腕を折り、剣を取り戻す。
その後でレベッカとキャロル、ユリアを取り囲んでたクズどももまとめて吹き飛ばす。
「キャロル、ラウスを頼む」
「は、はい!」
ラウスの怪我は酷いが、幸いにも後遺症が残る心配はなさそうだ。
駆けつけてきたプリムにこの場を任せ、俺は獣車に向かった。
「人の嫁さんを口説いてるんじゃねえよ」
「ひいっ!!」
さっきから威圧してたこともあるが、アクセリングを使ってきたから、傍から見れば突然現れたように見えて驚くよな。
知ったことじゃないが。
「無事か、ミーナ、フラム?」
「はい」
「ありがとうございます。その、ラウスは?」
フラムにとってラウスは弟なんだから、心配するのは当然だな。
「大丈夫だ。よってたかってやられてたみたいだから気を失ってるけど、キャロルが治してるから大丈夫だろう」
「良かった……」
それにしても、ラウスはレベル39だし、魔力の使い方だって上手い。
なのにいくら人数がいたからって、あそこまでボコボコにされるもんかね?
そういや、リディアとルディアは?
「ミーナ、リディアとルディアはどうしたんだ?」
「先にエトラダで待っているはずの大使様を探しに行っています」
なるほど。
確かに駐アミスター大使は俺達がバレンティアに行くことを知って、道案内を申し出てくれてたな。
ゆっくり行くつもりだったから断ったが、それでも準備とかもあるから、先にエトラダで待ってると聞いている。
その大使を探しに行ったのか。
「動くな!貴様ら、何をしている!」
衛兵が何人か駆けつけてきたが、遅すぎじゃないか?
「あ、あいつがいきなり、俺達を脅してきやがったんだ!」
「ぶ、武器だって盗られた!早く捕まえてくれ!」
おいおい、そんなチンピラの言う事を信じるのかよ?
って信じてるよ!
衛兵さん、俺達を囲んでらっしゃるよ!
「これ、バレンティアにケンカ売られてるって考えてもいいのか?」
「わかりませんが、そう判断するのは早いかと」
ラウス達の方はマナとプリムがいるから、あっちは大丈夫だろう。
「おとなしくしろ!抵抗するようならこの場で切り捨てる!」
「こちらの言い分を聞く気は?」
「賊の言い分など、聞くに値せん!」
チンピラどもがニヤニヤしてやがるから、この衛兵どもはグルってことか。
仕方ない。
「これを見ても、そんなこと言えるのか?」
声を上げた衛兵に向かって、俺はライセンスを放り投げた。
これでも何か言ってくるようなら、バレンティアを敵認定しなきゃならなくなるぞ。
「ライセンス?こんなものが……!?ま、まさか……あなたが報告にあった……!」
真っ青になる衛兵さん。
「遅かったか……」
そこにやってきたのは、駐アミスター大使ラグナック・エクレアードを連れてきたリディアとルディアだ。
なんか衛兵さんも多くね?
「た、大使殿!?」
「衛兵長!」
「はっ!あの者達を捕らえよ!」
衛兵長とやらの命を受け、衛兵達がチンピラとグルになってた衛兵を次々と捕らえていく。
「な、なんで俺達まで!?」
「貴様達がそいつらとグルになっていたこと、知らないとでも思っていたのか?ましてやアミスターの王族に言われなき罪を着せるなど、言語道断にも程がある。この罪は、貴様達だけで償えるものではないと心しておけ!」
俺達を囲んでいた衛兵達がガックリと肩を落として項垂れるが、アミスターとの国際問題になる寸前だったんだから、確かに罪は重いよな。
家族に責が及ぶのはどうかとも思うが、それほどの重罪ってことか。
「ラグナック殿、こいつらは?」
「申し訳ありません。こやつらはドレイク・ペインというハンターで、素行が悪く、ドラグニアから追い出されたのです。最近エトラダへ移ってきたと聞き、急いで戻ってきたのですが……」
ああ、準備ってのはこいつらを何とかするってことだったのか。
結局間に合わなかったが、結果的に捕まえることが出来たんだから良しとしとくべきだろうな。
「ドレイク・ペインですが、リーダーはレベル44のハイドラゴニュートです。どうやらあなたが無力化したようですが、あなた方に手を出したのですから、死刑は免れませんな」
ハイドラゴニュート?
ああ、俺が腕を折った奴か。
なるほど、だからラウスがやられたってことか。
確かにハイクラスが相手じゃ、ラウスには荷が重い。
そのハイドラゴニュートはさっきまで抵抗してたが、プリムとマナが手を貸したことで気を失って連行されている。
「あの衛兵達は?」
「ドレイク・ペインから賄賂を貰い、便宜を図っていたのでしょう」
そんなとこだとは思ったけどな。
「エトラダはアミスターから来る者も多いのに、さすがにこれは問題よ?」
マナとユーリも来たか。
王女としては見過ごせない問題だよな。
「申し訳ございません。早急に竜王陛下にご報告し、治安の回復に努めます」
「お願い。それと、私達に絡んできた貴族だけど、あっちとの関連も調べておいてくれる?」
「貴族、ですか?それに絡まれたとは?」
そっちは報告がいってなかったか。
「さっき大和に、娘とか妹を押し付けようとしてきたのよ。すぐに断ったけど、獣車に戻ってきてみたらこんなことになってるんだから、無関係とは思えなくてね」
無関係って可能性もないわけじゃないが、それでもタイミングが最悪だったからな。
「そんなことが……。まことに申し訳ございません。その貴族はすぐに捕らえ、事実関係を洗い出します」
「お願いします。それと、私達は明日の朝、ドラグニアに向かうつもりでいますが、それは構いませんか?」
「無論です。こちらの不手際でご迷惑をおかけしているのですから、それぐらいは何の問題もございません」
それは助かる。
こんなとこで足止めなんて、さすがに勘弁だったからな。
その後すぐに解放された俺達は、アミスター王家の常宿に入った。
ラウスもすぐに目を覚ましたけど、不甲斐ない自分に腹を立ててるみたいだったな。
武器も取り返してはいるが、すぐにでもハイクラスに進化したいって言ってきたぞ。
レベッカとキャロルを守るためって言われたら、俺としても折れるしかないんだが。
取り調べの結果、ドレイク・ペインはエトラダだけじゃなく、他の街でも似たようなことをしていたそうだ。
しかも妹を押し付けようとしてた貴族とも繋がりがあって、そいつらが後ろ盾になってたから今まで発覚しなかったことも分かった。
後日、その貴族家は取り潰しになり、一家諸共処刑された。
ドレイク・ペインのハイドラゴニュートも同じくだ。
他のハンターと賄賂を貰っていた衛兵、その家族は犯罪奴隷となって、
娘を押し付けようとしてた貴族は、たまたまエトラダ来てただけだったので、無関係ってことで解放されたんだが、後にアミスター王家に無礼を働いたため、降爵の上で領地削減っていう処罰が下っている。
バレンティア上陸早々にトラブルに巻き込まれたが、いかにアミスターが平和だったかがよく分かる。
というか、これが普通なんだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます