客人の会話

 天樹城の中に、王連街なんていう街があるとは思わなかったな。

 住んでるのは過去の王、王妃、王配のみだが、屋敷を管理するバトラーが住み込みで働いているし、しかもそのバトラー、夫婦での滞在が許されてるらしい。

 なんでも王連街屋敷の管理は、バトラーにとって最高の栄誉なんだとか。


「ここがサユリおばあ様の屋敷よ」


 マナとユーリに案内されたのは、他の屋敷より一回り小さい屋敷だった。

 というか、どう見ても日本の一般的な和風建築じゃね?

 外観だけって気もするが、それでも久しぶりに見た気がするな。


「貴族のお屋敷とは違った雰囲気がありますね」

客人まれびとの世界の屋敷風って聞いていますから。本当ならこういったデザインの屋敷や家を広めたかったそうなのですが、どうしても街の雰囲気と合わないそうなので、ご自分のお屋敷だけにされているそうです」


 ミーナの感想に補足してくれるユーリだが、サユリ様の気持ちは分からんでもない。

 アミスターの王都フロートの街並みは、中世ヨーロッパって感じの雰囲気がある。

 そこに現代日本の和風建築とかが建ったりすれば、違和感しか生まれないだろう。

 王都ともなると、街の景観は国の顔になったりもするはずだからな。

 個人的なことを言わせてもらうと、和風建築と世界樹はすごく合うと思うんだけどなぁ。


「さ、入りましょう」


 王連街は関係者以外は立入禁止だから、門番もいない。

 だからドアのノッカー型魔導具を打ち鳴らすことで、来訪を知らせるようになっている。

 屋敷のどこにいても、ノッカーの音は聞こえるそうだ。


「これはマナリース殿下、ユーリアナ殿下、ようこそいらっしゃいました」

「ええ。サユリおばあ様はいらっしゃる?」

「はい。ウイング・クレストの大和様をお待ちでございます」


 大人数で押しかけたってのに、さすがは高ランクのベテランバトラーだ。

 顔色一つ変えずに、俺達を中に案内してくれた。


「こちらでお待ちください。ただいま、お飲み物をご用意致します」


 応接室に通され、椅子に腰かけると、バトラーさんは退室した。

 ここに来る時に思ったが、内装は和洋折衷って感じになってるな。

 さすがに床は石畳が敷き詰められてて、土足で歩くことが前提になってたが、それでも木材多めで建てられてることはわかるし、この応接室は大きく開放的な窓がはめられているから絶景だ。


「すごい景色ですね……」

「綺麗ですぅ……」


 フラムとレベッカのウンディーネ姉妹が、見事なオーシャンビューに見蕩れている。

 桜と海を同時になんだから、気持ちは俺にもよく分かるぞ。

 しかも世界樹は枯れることがないから、いつでもこの景色を楽しめるってことだ。

 正直、羨ましいと思う。


「お待たせ。よく来てくれたわね」


 景色に見蕩れていると、サユリ様がやってきた。

 なんか、えらくラフな格好されてません?

 確かにまだ夏って言ってもいい時期だけど、それでも元王妃様とは思えない恰好ですよ?

 タンクトップにショートパンツって、今からマラソンでもするんですか?


「おばあ様!なんてはしたない恰好してるんですか!」

「そうですよ!仮にも元王妃なんですから、相応の恰好をしてください!」


 曽孫2人が悲鳴を上げる。

 俺はアーク・オーダーズコート、エドとラウスはクレスト・アーマーコート、女性陣は全員ドレスという風にしっかりと正装してるから、今からフルマラソンでも走ってきそうな人の恰好とは見事に対象的だ。

 日本でも来客があれば、それなりの恰好に着替えるよな。


「あ、ごめん。ここに身内以外のお客様なんて数年ぶりだから、うっかりしていたわ」


 すぐにイークイッピングを使って、ドレスを身にまとうサユリ様。

 和風ドレス、とでも言うのか?

 足元はちゃんとしたスカートだが、腰には帯が巻かれてるし、振袖みたいな袖もあるな。

 デザインも着物っぽいし、襟とか前合わせは着物そのものって感じもするぞ。


「素敵なドレスですね」

「トラレンシア風?でもなんか違う気が……」

「参考にしたのは、私の故郷の伝統衣装よ」


 サユリ様のドレスに見蕩れるリディアと首を傾げるルディアだが、やっぱり日本風か。

 というかトラレンシアって、もしかして和風な国だったりするのか?


「確かにトラレンシアは和風かもしれないけど、街並みはアミスターと変わらないわよ。でも着物を元にしたデザインの服が一般的だから、最初は違和感あるかもね」


 つまりトラレンシアは、中世ヨーロッパ風の街を和装の人々が歩き回ってるってことか。

 確かに違和感バリバリな組み合わせだな。


「多分大和君も気付いたと思うけど、トラレンシアの一般的な衣服はカズシさん、プリスターズギルドの神官服はシンイチさんの発案よ」

「やっぱりですか。トラレンシアは行ったことないけど、プリスターズギルドには結婚とか奏上とかでお世話になったから、そんな気はしてたんですよ」


 特に女性プリスターが着てる服なんて、まんま巫女服だったからな。

 神社の息子から言わせれば形を似せてるだけだったし、袴の色もけっこうあったが。


「奏上、イークイッピングとステータリングね。こんな魔法、よく奏上できたわね。ゲームの知識があっても、私や他の客人まれびとには出来なかったのに」


 やっぱり試してた人はいたか。

 だけどこれは、ヘリオスオーブに持ち込んだ物の違いが大きいんじゃないかと思う。


「俺はこの刻印具を持ってくることができましたから、それで落としてたゲームを参考にしたところはありますね」

「それ、スマホよね?懐かしいけど、なんで使えてるの?とっくに電池は切れてるはずでしょう?」


 ああ、俺にとっては当たり前だったが、昔のスマホ?ってのは印子での簡易充電ができないから、ヘリオスオーブじゃ使えないよな。


「説明しますよ。その前にサユリ様って、あっちの暦だと何年頃にヘリオスオーブに来たんですか?」

「そうね。確か第三次大戦中で、核がどうとかってニュースで言ってた時期だから……2046年の3月だったはずよ」


 終戦直前か。

 それにその時期だと、確かに核ミサイルを刻印術師が防いだ時期とも近い。

 当時は都市伝説に近い扱いだったそうだから、サユリ様が知らなくても無理もないか。


 俺はその後からの歴史を、サユリ様に伝えていく。

 プリム達にも聞かせることになるが、俺の世界のことを知ってもらう良い機会でもあるな。


「なるほど、今はそんな風になってるのね」

「ほとんど理解できなかったけど、凄いってことだけは分かったわ」

「それに刻印術って、まさか地球にも、魔法と同じような物があるとは思わなかったわね」


 やっぱりサユリ様は、刻印術を知らなかったか。

 カズシさんやシンイチさん、他の客人まれびと達も知らなかったみたいだから、今までの客人まれびとは第三次大戦前後の人って考えても良さそうだ。


「そして、それがスマホがさらに進化した刻印具か。自分の魔力で充電出来るなんて、羨ましいわね。私のスマホは、とっくの昔に電池切れで使えなくなってるし」

「完全にってわけじゃないですけど、それでもこいつがないと刻印術は使えないですからね。戦闘中に電池切れなんて、笑い話にもなりませんから」


 実際は刻印法具を生成すれば使えるんだが、それでも生成者限定だからな。

 刻印術師なら他にも方法があるって話だが、そっちは残念ながら知らない。

 ちゃんと聞いとけば良かったと思うよ。


「刻印術師って、ホントにいたのね。ネットでそんな噂を見たことがある気がするけど、てっきりラノベとかアニメとかの設定だと思ってたわ」

「歴史の表舞台に出ざるを得なかったって時代ですからね。でもそれで世界中に刻印術師がいることが分かって、そこでもひと悶着あったみたいです」

「でしょうね。でも聞く限りじゃ、ちゃんと市民権は得られてるみたいだし、迫害とかもされてる感じはしないから、しっかりと受け入れられてるようね」


 そこは、当時の刻印術師達が頑張ってくれたおかげだな。

 なにせ核ミサイルすら防ぐことが出来たんだから、各国だって警戒しないわけがない。

 噂じゃ刻印神器っていう、刻印法具とは一線を画す法具を生成できる人の仕業って言われてるけど、未だに公表されてないから実際はどうか分かってないんだが。


 あとはやっぱり、刻印具の存在が大きいな。

 刻印術師はもちろん、普通の人だって刻印具があれば刻印術を使えるんだから、刻印術師がどうとかって声も次第に小さくなって、今じゃ滅多に聞かない。

 まあ刻印術師が世界を導くべきだってアホなことをぬかしてる連中はたまに聞くし、俺もそいつらの粛清をしたことがあるんだけどな。


「そして大和君のお父様は、世界中の刻印術師の最高峰である七師皇しちしこうで、パラディン・キングって呼ばれてるわけか」


 母さんはヴァルキリー・クイーンって呼ばれてるな。

 俺と変わらない年の頃はプリンス、プリンセスって呼ばれてて、その頃でも今の俺じゃ勝てないぐらい化け物じみてたって言われ続けてたぞ。

 だけど今なら……いや、無理だな。

 あの化け物どもに勝てる気なんて、微塵もしねえ。


「なんで大和が勝てないの?ヘリオスオーブ来た頃ならともかく、今はエンシェントヒューマンに進化してるのよ?」

「それはあたしも思う。しかも終焉種だって単独で倒せるんだから、いくら七師皇っていうのが大和の世界最強の刻印術師でも、勝てないってことはないんじゃない?」


 マナとプリムはそう言ってくれるが、例え俺がOランクハンターになったとしても、勝てないって断言できる理由がある。


「うちの両親は、神器生成者って呼ばれてるんだ。俺の世界には刻印神器って呼ばれてる刻印法具があるんだが、父さんも母さんもそれを生成出来る。それを使えば、この王都ぐらいなら簡単に吹き飛ばせるし、終焉種だって一撃で倒せるんじゃないかな?」


 魔槍ゲイボルグ、魔剣レーヴァテイン、聖剣エクスカリバー、聖杯カリス、魔弓ガーンディーヴァ、聖剣カラドボルグ、聖弓フェイルノート、そして神槍ブリューナクの8つが確認されているが、昔は魔剣ダインスレイフ、魔剣アゾットなんてのもあったらしい。

 それらが使える神話級刻印術は、誇張抜きに王都なら一瞬で吹き飛ばせるし、終焉種だって一撃で倒せるだろう。


「それはまた……とんでもないわね。でもその刻印神器は8つあるのに、七師皇はその名の通り7人なのよね?」

「それも面倒な話になってるんですよね」


 ゲイボルグ、レーヴァテイン、エクスカリバーの生成者は問題ないんだが、カリスはエクスカリバーとの二心融合術っていう伝説級の刻印術で生成されてるし、ガーンディーヴァも同じく二心融合術だ。

 だけどカラドボルグは父さんが、フェイルノートは母さんが生成し、ブリューナクはそのカラドボルグとフェイルノートの二心融合術って話だから、はっきり言って意味不明だ。


「確かに面倒な話ね。つまり七師皇で刻印神器っていうのを生成できるのは、5人ってことになるわけね」

「そうなってます。同じ国から、2人の七師皇が選ばれることはないので」


 しかもエクスカリバーの生成者はオーストラリア人だが、そのエクスカリバーと自分の刻印法具を二心融合させてカリスを生成する生成者は日本人だからな。

 結婚してオーストラリアに移住してはいるが、その人達の娘が兄貴の恋人で婚約者だから、俺もよく知っている。


「なんていうか、とんでもない話ね。もしその人達がヘリオスオーブに来て、しかも野心なんて持ったりしたら、どの国だって一瞬で滅ぶわよ?」

「そこは心配しなくてもいい。そもそも七師皇は、そういった面倒事が嫌いな人達だからな。うちの両親も、早く引退したいってよくぼやいてたよ」


 プリムの懸念に答えるが、七師皇は刻印術師の頂点であり、世界の調停者でもあるから、簡単に引退なんてできないんだけどな。

 特に神器生成者ともなると、国が秘匿しようとしてもその存在感からすぐに噂になって存在を突き詰められるって話だから、隠すこともほとんど不可能だ。


「そのお父様やお母様に鍛えられたから、ヘリオスオーブに来た時点でハイヒューマンに進化してたってワケか」

「多分な」


 俺はヘリオスオーブに来た時点で、レベル55のハイヒューマンだったからな。


「それはあるでしょうね。私は合気道や空手をやってたけど、それでもヘリオスオーブに来た時はレベル40だったわ。多分刻印術がある大和君の時代の人なら、転移直後にハイクラスに進化できる人も多いでしょうね」


 それは俺も同感だ。

 特に俺の家族や師匠連中は、下手したらエンシェントヒューマンに進化しやがる可能性も低くない。

 少なくとも父さんと母さんをはじめとして、数人は確実だと断言できる。

 なにせ1人は、剣の腕だけなら父さん以上で、カラドボルグを生成した父さんにすら勝ったことがあるらしいからな。

 神話級刻印術は使ってないそうだが、それでもとんでもなさすぎる。

 俺?

 そんな化け物の相手が出来るわけないでしょ?


「だけど俺の予想が間違ってなければ、今後は客人まれびとが、ヘリオスオーブに来ることはないかもしれないですよ?」

「話を聞く限りじゃ、そうかもね。なんで蛇の魔物が地球にいたのかはわからないけど、飲み込まれたと思ったらヘリオスオーブにいるんだから、意味が分からなかったわ」


 サユリ様もだが、俺も蛇の化け物に飲み込まれた結果、ヘリオスオーブに転移してしまっている。

 サユリ様はほとんど不意打ちだったそうだが、俺は致命傷を与えることに成功したから、その蛇の化け物は死んでる可能性も高い。

 もっとも、最後の最後で油断して飲み込まれちまったんだから、大いに反省しなきゃいけないんだが。


「蛇って言うと、こないだ倒したスカイ・サーペントが最初に浮かぶけど、そんなのが大和の世界にもいたの?」


 ルディアの疑問も当然で、俺もスカイ・サーペントを見てその蛇を思い出したぐらいだ。


「いや、そんなのはいないな。大蛇はいるけど、それでもスカイ・サーペントみたいにデカくはない」

「どっちかというと、妖怪とか神獣とかの、神話や伝説系になるかしらね。客人まれびとは日本人のみだから、日本神話だけで考えてもいいと思うけど」


 それでも数は多いし、そもそも蛇系の怪物となると、思い浮かぶのはヤマタノオロチぐらいだ。

 世界中の神話となると、それこそ世界創造から出てきたりもするから、一気に数は増えるんだけどな。


「私も、ヤマタノオロチぐらいしか知らないわね。あとはヒュドラとかナーガとかだけど、そっちは外国の神話だし」


 というぐらいに、ヤマタノオロチは日本人なら誰でも知ってるぐらい有名だし、ヒュドラやナーガだって似たような外観だから、知らない人の方が少ないんだよな。


「ちょ、ちょっと待ってよ!客人まれびとの世界って、そんな頭がいくつもある化け物がいるの!?」

「そんな話、聞いたことありませんよ!」


 ルディアとミーナが驚くが、無理もない話だな。

 なにせヘリオスオーブには、複数の頭を持つ魔物は、それこそ終焉種にすら存在してないんだから。


「地球にもいないわよ。そんな伝説や神話があるってだけね」

「ですね。確かヤマタノオロチのモチーフになったのは、川の支流が反乱を起こして水害に悩まされてたから、じゃなかったかな?」


 だからヤマタノオロチは、水神でもあったはずだ。


「川の支流が首、本流が体ってことなんですね。そう言われると納得できます」

「詳しいわね。さすがは神社の息子ってことかしら?」

「うちには関係ないですけどね」


 うちの主祭神は、天照大神だからな。


 その後、俺が提案した合金や、サユリ様が広めた料理のことに話が広がった。

 合金は他の客人まれびとから近い案は出たそうなんだが、幸か不幸か神金オリハルコンを手に入れることが出来たため、そのまま忘れ去られてたらしい。

 サユリ様もハイクラスに進化した際に、その客人まれびと達から神金オリハルコンを贈られたから、それで作った闘器を使ってるそうだ。

 神金オリハルコン製ってのは憧れなくもないが、瑠璃色銀ルリイロカネを作り出せたこともあって、そこまでじゃないな。

 サユリ様も興味があるみたいだから、エドが持ってた瑠璃色銀ルリイロカネのインゴットを何本か贈らせてもらったが。


「あとはラーメンが作れれば、完璧だと思うんだけどねぇ」


 サユリ様が広めた料理には、うどんやそばもある。

 パスタは元々あったから、麺料理はかなり豊富だと言っていい。

 だけどラーメンだけは、どれだけ試行錯誤しても出来なかったそうだ。

 俺も詳しくはないが、パスタと同じく小麦粉を使うんじゃなかったっけか?


「そうなんだけど、かん水が見つからなかったのよ。だから断念するしかなかったの」

「ああ、そういえば、そんな話を聞いたことがある気がしますね」


 俺の刻印具に料理本はないから、代用品があったとしても全くわからん。


「サユリ様、そのラーメンっていうのを再現したいってことは、すごく美味しいってことなんですか?」


 マリーナが興味深そうな目をしながら訪ねてくる。

 確かに美味いが、好みはあると思う。


「美味しいのは間違いないんだけど、私達の世界じゃ普通に食べられてた物なのよ。だから、久しぶりに食べたいっていう思いはあるわ」


 俺も同感だ。

 なにせ、ラーメンは大好物だからな。

 カレーは再現されてるから食ってるが、ラーメンだけはどれだけ探しても見つからなかった。

 サユリ様でも材料不足で再現出来なかったんだから、ヘリオスオーブには無いってことが確定してしまったよ……。


「一応重曹を使えばそれらしい麺は出来なくもないんだけど、何か違うのよね」

「食べさせてください!」


 脊髄反射で答えてしまったが、食べられるんならそれでもいい!


「いいけど、あんまり期待しないでね?」


 苦笑するサユリ様だが、たまに食べたくなる時があるから、重曹はちゃんと確保してあるそうだ。


 しばらくすると、サユリ様がみんなの分も用意してきてくれた。

 この匂いは、紛うことなきラーメンだ!


「す、すごいこってりとしたスープですね」

「そりゃロック・ボアの骨を、何日もかけて煮込んでるもの」


 しかも豚骨とは素晴らしい!


「ではさっそく……おお、美味い!」


 思ったよりちゃんとしたラーメンだ!

 しかも醤油ベース!

 これ、十分に売り物になるぞ!


 味噌と醤油は、カズシさんやシンイチさんと同時期にヘリオスオーブに来た客人まれびとユカリ・ミナト・トラレンシアさんが、何十年と言う歳月をかけて完成させたため、ヘリオスオーブでもポピュラーな調味料になっている。

 名前からわかるようにカズシさんと結婚していて、ハイヒューマンにも進化していたらしい。

 サユリ様も面識はあるそうだが、お会いしてから数ヶ月後に亡くなったとも聞いている。

 そのユカリさん、偉大なことに鰹節すらも再現してるから、マジで感謝だ。


「ホント、美味しいわね」

「スープも凄く深い味わいです。ロック・ボアの骨を煮込むと、こんなお味になるんですね」

「サユリ様、これ、すげえ美味いですよ!」


 みんなは手放しで褒めるし、俺も同様だ。

 久しぶりに食ったから、嬉しくて涙が出そうだ。

 とはいえ、不満がないわけじゃないが。


「大和君は気が付いたわね。そうなのよ、パスタ麺を重曹で茹でただけだから、どうしてもストレート麺しかできないの。味は問題ないから、尚更気になっちゃってね」

「分かります。でもこれはこれで美味いですし、売りに出したりはしないんですか?」


 ラーメンは縮れ麺が基本だと思ってるが、これはこれで十分アリだと思う。

 特にこの豚骨スープは絶品だ。


「残念だけど、重曹ってけっこう高いのよ。なにせ採れるのは、レティセンシアにある塩湖だけなの。国境封鎖に国交断絶しちゃってるから、今後の入手はほとんど絶望的ね」


 思わず崩れ落ちそうになった。

 重曹はどうやって作るのかは知らないが、レティセンシアにあるミーヌ湖っていう塩湖で豊富に採れるため、レティセンシアの特産品となっているらしい。

 ミーヌ湖はリベルターに近いこともあって、リベルター所属のトレーダーはそれなりに買付に行くそうなんだが、ミーヌ湖でしか採れないのをいいことに足元を見られるのは当然で、酷い時は何日も待たされた挙句金だけ取られて放り出されることまであるんだとか。

 他にも皇都近くの小さな湖からも採れるそうだが、こっちは歯牙にもかけられてないから、放置されてるって話だな。


「レティセンシアを滅ぼせば、いつでも採りに行けるな……」

「気持ちはわかるけど、落ち着きなさい。高値ではあるけど、リベルターのトレーダーからなら買えないわけじゃないと思うから」


 サユリ様が苦笑しながら止めてくる。


 レティセンシアめ、どこまでも俺の邪魔をしてくれるな。

 マジであの国、滅ぼしたいぞ。

 決してラーメンのためだけに、そんなことを思ってるわけじゃないからな?

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