王連街

 キャロルの侍女も無事に決まり、買い物も済ませた。

 キャロルの侍女になったユリアっていうCランクバトラーにも、既にストレージバッグは手渡し済みだ。

 リディアとルディアがハイドラゴニュートに進化したことで2人のストレージバッグが空いた形になるから、その分がキャロルとユリアに回った形だな。

 キャロルもユリアもそんな物を渡されるとは思ってなかったようで、目を丸くして口をパクパクさせてたが。


 契約書にも明記してあるが、期間はCランクバトラーを雇える限度の3ヶ月。

 そんなに時間を掛けるつもりはないが、これからバレンティアに向かうわけだから、いつフィールに戻れるかがわからない。

 帰りは王都には寄らず、リカさんの領地であるアマティスタ侯爵領領都メモリアまで船で行って、そこから獣車ってことになってるから、20日ぐらいはかかるな。

 バレンティアへの滞在が1ヶ月を超えるようなら、バレンティア国内にあるバトラーズギルドか、場合によってはメモリアで契約ってことになるだろう。


 ちなみに正式契約の場合は、ウイング・クレストに加入してもらうことになる。

 キャロルの侍女はもちろんだが、俺達が家を買った場合、その維持もしてもらうことになるな。


 そんなわけでユリアも、俺達と一緒に天樹城に来ている。


「はい?サユリ様が俺を?」

「はい。同じ客人まれびとということで、バレンティアへ発たれる前にお話をしたいそうです」


 天樹城の城門を守る衛兵さんに、そんなことを言われた。

 キャロルに侍女を付けるってことは陛下達も知ってるから、ユリアが増えてても衛兵は何も言ってこなかったんだが、代わりにサユリ様からの言伝を預かっていた。

 だけど、俺としてもサユリ様とはゆっくりと話をしてみたかったから、丁度いい機会だ。


「分かりました。場所はどこですか?」

「サユリ様の屋敷と伺っています」

「分かりました」


 サユリ様の屋敷って、確か引退した王や王妃が居を構えてる区画だったはずだな。

 サユリ様以外だとラインハルト陛下やマナ、ユーリの祖父や祖母に当たる人達もいるし、王代陛下達も移動済みだったはずだ。

 ロイヤル・オーダーががっちりとガードを固めてるから、王家以外は招待されない限り立入禁止で、代々の王家が居を構えてるってこともあるから、許可がない限りは正装が基本だとも聞いている。

 俺の正装となるとアーク・オーダーズコートになるが、さっそく着ることになるとは思わなかった。


客人まれびと同士の会話か。興味あるわね。あたしも行ってもいい?」

「それなら私も聞いてみたいです」


 プリムとミーナに続いて、嫁さんや婚約者達が次々と手を上げる。

 俺は構わんが、王家の者としてはどうなの?


「別に良いんじゃないかしら?サユリおばあ様だって、賑やかな方が良いでしょうし」

「私もそう思います。せっかくですし、ウイング・クレストのみんなで行ってみませんか?」


 マナとユーリがあっさりと許可を出したことで、エド達やラウス達も来ることになった。

 それでも正装でってことだから、女性陣はドレスに着替えているが。

 イークイッピングのおかげで普段着でも一瞬で着替えれるから、短時間で準備が済むのも良い。

 エドとラウスはクレスト・アーマーコートのままだが、こいつらは正装なんて持ってないし、これだって十分だって陛下からも言われてるから、特に問題はないか。

 俺は俺で、アーク・オーダーズコートに着替えてるぞ。


 そして天樹城の奥にある王家専用区画に到着し、ロイヤル・オーダーとも挨拶を交わし、サユリ様の屋敷へ案内してもらう。

 この区画には初めて来たが、これはマジで凄い。

 話には聞いていたが、ペントハウスみたいだ。


「凄いでしょ?天樹にある虚を利用してるのよ」

「王位を継ぐと、ここに屋敷を建てることを許されるんです。退位するまで住むことは出来ませんが利用することは出来ますから、休暇などにはここで心と体を休めるそうです」


 虚を利用してるにしては、滅茶苦茶広いぞ。

 なにせ既に3軒の屋敷が立ってるし、さらに1軒が工事中だ。

 王位を継ぐと建てられるってことだから、多分ラインハルト陛下達の屋敷なんだろうが、それでも貴族の屋敷より一回り小さいぐらいだし、それを合わせてもまだ何軒か同じサイズの屋敷が立つぐらいの広さがあるぞ。


「あたしは二度目だけど、いつ来ても凄いわよね」

「話には聞いたことがありましたけど、ここが天樹城にある王連街なんですね」

「王連街、ですか?」

「アミスター王が退位した後、天樹城の中に建てた屋敷に住まうことは他国でも有名です。そこは代々の王だけではなく、王妃や王配となった方々も住まうそうですから、王に連なる者達の街として知られているんです」


 俺もフラム同様初めて聞いた言葉だが、リディアが詳しく説明してくれた。

 屋敷の住人が全員亡くなれば取り壊され、更地になるそうだが、ハイクラスやエンシェントクラスに進化すれば寿命は延びるから、何代か前の王や王妃、あるいは王配が住むこともあり得る。

 だからそれなりの広さは必要ってことか。


「だから王連街ですか。納得ですけど、まさか天樹の中に、こんな場所があったなんて……」

「私も噂は聞いたことがありますが、ここまでとは思いませんでした」


 ラウスとキャロルも驚いてるが、俺も驚いてる。


 虚は天樹の海側にあるため、そこに建てられた屋敷は海に面している。

 最大で12軒の屋敷が立てられるそうだが、屋敷の大きさはマチマチだ。

 一応大きさは決められているそうだが、その大きさを超えなければ特に制限はないんだとか。

 屋敷はバトラーが住み込みで管理しているため、いつ来ても快適に過ごせるようになっているらしい。


 虚が絶妙な角度でできてることもあって下からは見ることができないし、上からは天樹に咲き誇ってる桜のような花で埋められているから、遠くからでも王連街を確認することは出来なくなっている。

 だから空から襲われる危険性は少ないが、ロイヤル・オーダーの本部はこの王連街にあるから、万が一攻められたとしてもすぐに鎮圧されるだろう。

 ロイヤル・オーダーは約50人だから本部はけっこう大きいんだが、それでも屋敷よりは小さいな。

 だけど城門からけっこうな距離があるし、高さもスカイ・ツリー並なんだが、いくらロイヤル・オーダーがハイクラスだからって、出勤するのも大変じゃないか?


「ロイヤル・オーダーって、ここに詰めていたんですね」

「代々の国王や王配が住む区画なんだから、警備が厚いのは当然ですけど、まさかここが本部だったとは……」

「この虚が一番大きくて、侵入しやすいってこともあるからね。それと移動だけど、天樹は迷宮ダンジョンになってるから、天樹城内にある詰所と本部は転移扉で繋がってるわ」


 天樹って迷宮ダンジョンだったのかよ。

 教えてくれたら入ったのに。

 というか、転移扉なんてあるのか。

 しかもロイヤル・オーダーの本部と詰所にあるってことは、万が一の脱出路にもなってそうだな。


「正解よ。私達も緊急の連絡がある時は、その転移扉を使ってるわ。だけどその転移扉、騎士魔法オーダーズマジックで起動させてるから、ロイヤル・オーダーにしか使えないのよ」


 そうなのか?

 なら俺にも……いや、アウトサイド・オーダーは騎士魔法オーダーズマジックが制限されてるって聞いてるから、多分無理だな。

 実際、そんな魔法があるなんて聞いてないし。


「ああ、だからアミスター王家は、オーダーズギルドにも登録出来ないんですね」


 リディアが何かを納得したが、王家がオーダーズギルドに登録できない理由?

 なんじゃそら?


「そういや王家ってバトラーズギルドだけじゃなく、プリスターズギルドとオーダーズギルドにも登録できなかったな」

「だね。バトラーズギルドとプリスターズギルドは何となくわかるけど、オーダーズギルドまでとは思わなかったな」


 エドとマリーナも知らなかったのか。

 バトラーズギルドは当然として、プリスターズギルドにも登録できない理由は何となくわかる。

 だけどオーダーズギルドは、さっぱり分からんぞ。


「プリスターズギルドは、言わば宗教でしょう?客人まれびとの世界じゃ宗教が政治に絡んだせいで、面倒なことが度々起こって、大きな戦争まで起きたって話まであるから、国政に宗教を絡ませないようにってことで登録出来なくなってるのよ。これは神々にも認められて、正式に神託が下りたそうよ」


 やっぱりか。

 実際、宗教戦争は凄惨だったからな。

 神託まで下りたんなら、いくら王家が登録を望んでも、プリスターズギルドは全力で断るに決まってる。

 なにせヘリオスオーブには、神が実在してるって話だからな。


「それとオーダーズギルドだけど、オーダーズギルドは国王直属の組織でしょう?そこに王家が登録すると、指揮系統が混乱しちゃうのよ」


 オーダーズギルドはグランド・オーダーズマスターがトップではあるが、国王直属の騎士団でもあるから、グランド・オーダーズマスターの上に国王がいることになってるな。

 ああ、なるほど。

 王家がオーダーになると、グランド・オーダーズマスターの下ってことになるが、その人物が王位を継ぐと国王の方が上になるから、確かにややこしいな。

 国王でありながらグランド・オーダーズマスターの下であり、グランド・オーダーズマスターの下でありながら国王でもあるってことになると、国王とグランド・オーダーズマスターの意見が異なった場合、現場が混乱する可能性がある。

 それはアウトサイド・オーダーでも変わらないから、それを防ぐために、最初から登録できないようにしてあるのか。

 転移扉を使えるのはロイヤル・オーダーやグランド・オーダーズマスター、アソシエイト・オーダーズマスターだが、ロイヤル・オーダーは近衛騎士だから、王家の者がなれるわけがないし、Cランクオーダーに顎で使われるロイヤル・オーダーってのも外聞が良くないから、そっちの意味もあるわけだ。


「つまりラインハルト陛下やマナがハンターズギルドに登録したのは、オーダーズギルドには登録出来ないから、強くなるためにはハンターズギルドしかなかったからってことか」

「そうなの。もっともお兄様は、仮にオーダー登録が出来たとしても、ハンターを選んでたけどね」


 マルカ様のことがあるもんな。


「あれ?ということはマナ様やユーリ様は、ここに屋敷を立てられないってことなんですか?」


 突然ラウスが疑問の声を上げたが、そういや王位を継いだらっていう条件があるんだから、既に王位継承権を放棄したマナ、現在は王位継承権一位だが余程の事がない限り王位を継ぐことのないユーリは、確かにここには住めないってことになるな。


「そうなのよ。遊びに来ることは出来るから、それで我慢しなさいってことね」


 遊びには来れるのかよ。

 いや、確かに住んでるのはほぼ確実に身内なんだから、それぐらいは出来てもおかしくはないんだが。


 王代陛下にも姉が1人、妹が2人いるそうだが、その方達は他家に嫁いだりクラフターやトレーダーとして活動してたりと、人生を謳歌してるらしい。

 たまに天樹城に、夫や子供を連れて遊びに来るそうだが、それが許されるってのも凄い話だな。


 とりあえず言えることは、俺がしっかりとマナやユーリを養いなさいってことだ。

 今の所は不自由なく過ごせるだけの金もあるが、嫁さんと婚約者が合わせて8人もいるし、どこかのタイミングで子供も出来ることは間違いないから、そっちの養育費もしっかりと確保しておかないとだな。

 そうなると、俺もバトラーを雇うことを考える必要が出てくる気がする。

 いや、家を建てるとしてもユニオンで使うことが前提にだから大きくなるし、そうなると当然バトラーだって人数が必要になってくるだろうから、雇うことは確定してるようなもんか。


 とはいえ、家はフィールに戻ってからじゃないと決められないし、バトラーだって家の大きさ次第だから、その時になってから、みんなで決めるべきだよな。

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