王都のバトラーズギルド

Side・プリム


 アーク・オーダーズコートを着た大和、恰好良かったわね。

 天騎士アーク・オーダーの正装とはいえ3人しかいないからすぐには分からないかもしれないけど、それでもノーマルオーダーはもちろん、Pランク以上のオーダーとも違う鎧なんだし、グランド・オーダーズマスターも同じ鎧を着てるんだから、あれが天騎士アーク・オーダー用の装備だってことは、遠くない内にアミスター中に広まるでしょうね。

 できれば普段使いしてほしいってあたし達は思ってたんだけど、ミーナのクレスト・アーマーコートより重装備だし思ったよりゴテゴテしてるから、狩りに使うのは少し厳しい。

 それに大和はクレスト・アーマーコートに愛着を持ってるから、正装する必要がある場合に着用するって決めたみたい。

 残念だけど、理由も分かるから仕方ないわ。


 そのアーク・オーダーズコートを下賜された翌日、お昼過ぎに無事に王代陛下へのお披露目もすませてから、あたし達はバレンティア行きの準備のために、王都へ買い物に出ることにした。

 なにせバレンティアには大和、あたし、母様、マナ、ユーリ、リカさん、ミーナ、フラム、リディア、ルディア、マリサ、ヴィオラ、エド、マリーナ、フィーナ、ラウス、レベッカだけじゃなく、ベルンシュタイン伯爵令嬢のキャロルも加わることになったし、ドナート・ベルンシュタイン伯爵の希望でキャロル嬢にも侍女を付けることになったから、バトラーズギルドにも行かなきゃいけないのよ。

 そのバトラーを含めると19人の大所帯だし、バレンティアまでは5日程の船旅だから、食料はけっこう多めに用意しなきゃいけない。

 帰りは帰りでフロートには寄らず、リカさんの屋敷のあるアマティスタ侯爵領領都メモリアまで船で向かうから、フィールへのお土産だって買っておかなきゃだわ。

 なにせ、バレンティアに行くのは明日なんだから。


「時間があったってのに、誰も準備してなかったのは問題だよなぁ」

「確かにね。まあ食事は船でも出るから、そこまで多く用意する必要はないと思うけど」

「そうは言っても、バレンティアに着いてからは獣車ですし、それにストレージやストレージバッグに入れていくんですから、あって困る物でもないですよ」


 大和とマナの言うように、今まで準備をせずに狩りに勤しんでたことは、確かに問題だわ。

 エド達はエド達で色んな物を作ってたけど、これはあたし達からの依頼なんだから、こっちは仕方ない。

 ラウス達はラウス達で、まだ急性魔力変動症が完全に治ったわけじゃないから安静にしといてもらわないといけないし、結局はあたし達ハンターが準備を怠った結果になるのよね。

 でもラウスの言うように、食事はあたし、大和、マナ、リディア、ルディアは自前のストレージに、他のみんなは王都で購入したストレージバッグに入れていくことになってるから、腐る心配はない。

 あ、ストレージバッグは安くても10万エルで、容量によっては100万エルにも届くとても高価な魔導具なんだけど、ノーマルクラスのみんなの人数分を、クラフターズギルドで購入してあるわよ。

 腰巻タイプだけど容量はエビル・ドレイクが3匹は入るぐらいあるから、今まで使ってたミラーバッグより使いやすくなってるはずよ。

 お値段は1つ30万エルだったけど、こないだ貰った褒賞金もあるし、王都に来てから狩りで稼いだ分もあるから、そんなに懐は痛んでないわね。


「とりあえず、食料はこんなものかな?」

「けっこう買ったよね」

「というか、1人当たりの予算が多すぎませんか?」


 ルディアとマリーナが食料の購入について話し合ってると、フィーナがそんなことを言い出した。

 そんなことないと思うけど?


「こんなもんじゃないか?別に食い物だけじゃなく、ポーションとか本代とかだって、それに含まれてるんだからな」

「いや、だからって白金貨1枚は多過ぎだ」

「ですよねぇ」


 大和はあたしと同意見なんだけど、エドとレベッカはフィーナに同意してる。


「これに関しては、私もエドワード様やレベッカと同意見なのですが?」


 キャロルまでそんなこと言い出したわ。

 ギルドで本とか工具とかを買えば、白金貨ぐらいすぐに無くなるでしょうに。


「必要なもんは持ってきてあるよ。というか、フィールで買ってきただろ。なのにここに来てこんな大金を渡されたんじゃ、俺達だってどうしていいか困るぞ」

「ドレスとかもフィールで用意しましたもんね」


 あー、そういえば必要だからってことで、フィールのクラフターズギルドでけっこう買い込んだ気がするわ。


「なら普段着とかは?私は普段は狩りに行くから必要性は薄いけど、イークイッピングのおかげで常にハンター装備じゃなくてもよくなったんだから、この機会に何着かは買うつもりだし、余ってもドラグニアで使えば良いんじゃないかしら?」


 ここでマナが、素晴らしい案を出してくれた。

 確かにその通りだわ。

 しかもストレージやストレージバッグに入れておけば、いつでもすぐに着たい服に着替えられるし、奏上魔法デヴォートマジッククリーニングを使えば常に綺麗な状態に保っておけるから、オシャレだって楽しめるじゃない。


「それが無難ですね」

「い、良いのでしょうか?」


 ユーリの意見に全員が同意したけど、キャロルだけはまだ戸惑ってるわね。

 ユニオン加入手続きを終えたばかりだし、あたしが実はエンシェントフォクシーだってことも知ったばかりだけど、早めに慣れておいた方がいいと思うわよ?


「次はバトラーズギルドか。マリサとヴィオラの手続きは終わってるんだったか?」

「そっちはな。だからキャロルの侍女を探さなきゃなんだが、王都のバトラーズギルドなんだし、そんなに時間もかからないだろう」


 大和がマナと結婚しユーリと婚約したことで、2人の侍女をしているマリサとヴィオラもウイング・クレストに加入して、以後も侍女を続けることになっている。

 もちろん2人付きではあるけど、家を買ったらそこの管理も任せることになってるし、待遇もSランクやBランクバトラーからすれば破格だから、そこは頑張ってもらわないといけないわ。

 逆に機密事項が多過ぎて、罰則もとんでもなかったりするんだけどね。


「時間はそんなにかからないでしょうけど、それでも条件を見たら二の足を踏むバトラーは多いと思いますよ?」

「でもエンシェントクラスがいるユニオンに参加ってことにもなるんだから、希望者も多そうだよね」


 リディアとルディアの言う通りなのよね。

 バリエンテとの問題がある以上、あたしがエンシェントフォクシーだってことは最重要に近い機密事項になっている。

 獣王はライ兄様に宛てた書状であたしと大和の結婚を祝ってたし、公文書でもあるからあたしがエンシェントフォクシーだって知っても迂闊に手を出してくることはできない。

 だけど目下最大の問題、バリエンテ元第二王子レオナス・フォレスト・バリエンテはそうはいかない。

 あたしと打倒獣王の旗頭を同時に手に入れるために、あたしとの婚約を捏造することは簡単にしてくるでしょう。

 大和がOランクオーダーだってことも公表されてるから、もしあたしとの婚約を言い出したとしても、それは大和だけじゃなくアミスターそのものを敵に回すことになるから、今のままじゃ馬鹿なことはしないと思うんだけど、あたしがエンシェントフォクシーだってことを知れば、どんなことをしても手に入れたいと考えても不思議じゃない。


 さらにあたしと大和がマイライト山脈で倒した終焉種、オーク・エンペラーとオーク・エンプレスのこともある。

 終焉種が討伐されたのはこれが初めてで、自然死したと思われる終焉種すら死体は確認されておらず、魔石も手に入ったことはない。

 だけどその魔石は先日王代陛下に献上し、今は天樹城の宝物庫で厳重に保管されている。

 公表したところでレティセンシアは信じないだろうけど、ソレムネはどんな反応をしてくるかが分からない。

 表立っては信じないと思うけど、裏ではその魔石を確認するためにスパイを放ち、天樹城に侵入させてくるでしょうね。

 そしてあたしと大和を、どんな手を使ってでも自国に引き込もうと考えるわ。

 グランド・ハンターズマスターから、エンシェントクラスには隷属の魔導具は効果がないって教えてもらったけど、それはあたしと大和だけしか該当しない。

 だから他のみんなが、誰か1人でもソレムネの手に落ちたりなんかしたら、あたし達はソレムネの要求を呑むしかなくなってしまうことも十分考えらえる。

 もちろんそんなことをしたら絶対に許さないし、帝王家にもしっかりと滅んでもらうけど。


 この2つが最重要機密だけど他にもあるから、口の軽いバトラーはどんなにランクが高くてもお断りね。

 そんな高ランクバトラー、聞いたこともないけど。


「ですが高ランクバトラーは、基本的には高齢です。年もキャロルに近い方が良いですから、SランクかBランク、場合によってはCランクで妥協する必要もあるかもしれません」

「私は性格の相性が良ければ、ランクにこだわるつもりはありません」


 ユーリの言うように、高ランクバトラーは私達より年上よ。

 Gランクバトラーは20代の人も多いけど、Pランクバトラー以上は若くても30代前半ね。

 経験が必要な仕事だから、どれだけ過不足なく仕事をこなしたとしても、簡単に認められないのよ。


 バトラーズランクは、登録して養成所に入るとTランクになり、3年間みっちりと勉強することになっている。

 そして養成所を卒業するとIランクになって、技能を習得するとCランクになるんだけど、Cランクバトラーになってようやく、派遣される資格を得られるの。

 だけど派遣される期間は数日から数ヶ月と短いから、継続して雇いたい場合はその都度契約をしなければならない。

 何回か派遣されて、問題なければBランクに昇格できるんだけど、それでも何年もかかることが珍しくないらしいわ。

 だけど契約期間は年単位で決められるから、侍女として雇うならBランク以上が望ましいわね。

 Sランクバトラーへの昇格も同じ条件だけど、こっちは雇用主が解雇しない限りはほとんど永続的に雇ってもらえるから、若いバトラーにとってはSランクに昇格することが目標になるわ。

 その上のGランクバトラーともなると、バトラーとしての経験が求められるから、雇用年数が条件になっているって聞いたわ。

 さらには仕えている家の推薦も必要になってるから、昇格するためのハードルはかなり高い。

 もっともSランクに昇格さえすれば、ほぼ確実に雇用主からの推薦は貰えるから、あとは年数の問題になるって話もあるんだけど。

 マナの侍女マリサはSランクバトラーだけど、Sランクに昇格したのは2年前ってことだから、マナの推薦があってもあと数年は昇格できないらしいわ。


「フィールのバトラーズギルドでも、雇用延長の手続きってできるんだよな?」

「Cランクバトラーの場合ですか?先にフィールのバトラーズギルドへ登録をしなければなりませんが、その後でしたら可能です」


 大和の疑問にマリサが答える。

 Cランクバトラーの雇用期間は最大でも3ヶ月らしいけど、バレンティアに行くことになった理由は聖母竜マザードラゴンに招かれたからっていう理由が大きいから、長く滞在するつもりはない。

 だからそれで雇って、どうしてもダメだったら継続はしないって方法だってあるわね。

 その場合、元の所属支部に送り返さないといけないから、王都まで行かなきゃいけないんだけど。


「それはそれで面倒ね。でもしばらく雇ってみないとキャロルとの相性はわからないんだから、それぐらいは仕方ないか」

「だな。まあ相性が良ければ問題ないんだから、その時に考えればいいだろ」


 マナが面倒だって言うのもわかるけど、相性の問題だからこればっかりはね。


 そうしてるうちにバトラーズギルドに着いたから、あたし達はバトラーズギルドの扉を叩いた。

 バトラーズギルドって貴族とかに仕える侍従を派遣してるから、ギルドも屋敷みたいになってるのよね。


「これはマナリース殿下、ユーリアナ殿下、キャロルお嬢様。大和様、プリムローズ様、ウイング・クレスト様方もようこそいらっしゃいました。ご案内致します」


 バトラーズギルドの職員もバトラーで、しかも引退した人も多い。

 後進の育成のためってことで職員になってるそうだけど、そのせいで貴族の屋敷とか、下手したら王城とかよりすごい対応してくれることがあるのよ。

 あたし達を案内してくれてる人もMランクバトラーで、現役の頃はベルンシュタイン伯爵に仕えていたそうよ。


「ヘッド・バトラーズマスターへご来訪をお伝えして参りますので、こちらでお寛ぎ下さい」


 応接室に通されて、飲み物も用意してもらってから、そのバトラーが退室した。


「美味いな」

「だな。さすがMランクバトラーが淹れた紅茶だ」

「私は久しぶりですね」


 そのMランクバトラー ミカーナ・エレグリスは年齢を理由に引退して、今は弟子がベルンシュタイン伯爵家で侍従長をしているそうだけど、その後でフロートのバトラーズギルドで指導員を引き受けたそうよ。

 レベル34のラビトリーの女性だけど、今は69歳と高齢だから、体力的にも続けられなくなったのは仕方ないわね。


「失礼します。ようこそ、バトラーズギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 思ってたより早く、ミカーナがヘッド・バトラーズマスターでAランクバトラーのエルフの男性、シャイル・ヴィステルテを連れてきたわね。


「ラウス」

「お、俺ですか?」

「そりゃキャロルはあんたの婚約者なんだから、ラウスから伝えるのが筋でしょ」


 大和に促されて驚くラウスに、ルディアが追い打ちをかける。

 賃金はユニオン資金から出すけど、雇い主はラウスとキャロルってことになるんだから、これは当然よね。


「えーっとですね、実は俺、キャロルさんと婚約しまして」

「それはおめでとうございます。なるほど、キャロル様の侍女をお探しということですか」


 婚約したことをバトラーズギルドに報告する必要はないんだけど、その場合は新しい侍女を付けることがあるから、バトラーズギルドとしてもその手の話はよくあることになる。


「そ、そうなんです」

「キャロルお嬢様には、侍女はいませんでしたからね。旦那様の方針で、侍女がいなくても身の回りのことぐらいはできるようにと教育をさせて頂いたものです」


 ギルドへの登録が義務付けられてるアミスターじゃ、特に珍しくない話ね。

 マナやユーリも自分のことは出来るけど、それでも王家の姫だから侍女は必要になる。

 貴族も同じなんだけど、キャロルの場合は父親のドナート伯爵が、自分と疎遠になるんじゃないかって思ってたそうだから、侍女を付けなかったそうよ。

 立派な親馬鹿よね。


「それもありますし、明日からバレンティアに行くことになっていますから、ゆっくりと選んでいる余裕がないんですよ」

「そのお話は伺っております。ミカーナ、候補はいますか?」

「キャロルお嬢様との相性となると、Bランクが2名、Cランクが3名となります」


 さすがに話が早いわ。

 というか、候補だけでも5人もいるとは思わなかったわね。


「1人は私の孫でございます。先日Cランクへ昇格したばかりですので、まだまだ未熟ではありますが」

「もしかしてユリアですか?」

「覚えていておいででしたか。仰る通り、ユリアでございます」


 あ、なんかこれ、もう決定じゃない?

 Cランクに昇格したばかりってことは、まだ一度も派遣されたことがないってことだろうけど、それでもミカーナの孫でキャロルも顔見知りってことなら、相性が悪いってことはないはずだわ。


「キャロル、そのユリアって子、知ってるの?」

「はい。私の1つ下のラビトリーの女の子です。ベルンシュタイン伯爵領にいた頃はまだバトラー登録ができる年齢ではなかったので、もっぱら私の遊び相手でしたけど」


 ってことは今14歳か。

 確かバトラーズギルドは10歳にならないと登録できなかったはずだから、本当にCランクになったばかりなのね。


「ラウス様、大和様、私としてはユリアを連れて行きたいと思っているのですが、よろしいでしょうか?」

「俺は構わない。遊び相手だったってことは、相性もいいだろうからな」

「俺も同じく」


 大和もラウスも、首を縦に振ったか。


「かしこまりました。それではミカーナ、ユリアを連れてきてください」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 再びミカーナが部屋を出ていくと、シャイルさんは部屋の隅に移動し、そこで待機する姿勢を取った。

 バトラーとしては当然なんだろうけど、ヘッド・バトラーズマスターにそんなことされると、逆に戸惑うわね。

 元々部屋にいたバトラー達は空になったカップに新しい紅茶を淹れて、邪魔にならないようにこちらも部屋の隅で待機してるけど、この人達だって最低でもPランクだったはずだわ。


「ユリアは今、何をしているんですか?」

「Cランクバトラー達は戦闘訓練をしている時間帯ですから、そこにいるはずです。確か彼女は剣を使っていたはずですが、バトラーとしてはそれだけでは不十分です。ですから、素手でも戦える技術を身につけるための訓練も行っているのです」


 確かにバトラーが戦うってなったら、素手の機会も多いでしょうね。

 ハイバトラーならストレージングが使えるけど、そうじゃなかったら武器はミラーバッグに入れておかなきゃいけない。

 でもミラーバッグから取り出す間も惜しむことだって普通にあるんだから、素手でも戦えるようになっておく必要があるってことか。

 バトラーにとってミラーバッグは必須の魔導具だから、Cランクに昇格したらギルドから贈られるそうだけど、容量はロック・ボアが1匹入るかどうかだったはず。

 それでも無いに比べたら、全然良いんだけどね。


 しばらくすると、ミカーナがラビトリーの女の子を連れて入ってきた。

 あの子がユリアね。


「ご紹介致します。この子がユリア。私の孫でCランクバトラーです」

「久しぶりですね、ユリア」

「お久しぶりです、キャロル様。私を侍女にと伺いましたけど、そんな大役をお任せ下さって、ありがとうございます」


 丁寧に頭を下げるユリア。

 これなら大丈夫かな?


「では契約に移りましょう。ああ、申し訳ないが、全員退室してください。ミカーナも含めて」

「かしこまりました。では失礼致します」


 孫の正式な契約だっていうのに、部屋を追い出されるとは思わないわよね。

 ミカーナは事情を知らないし、教えるわけにもいかないから仕方ないんだけど、凄いことにシャイルさんから退室を指示されても、特に何を言うでもなく、すぐに退室していったわ。

 すっごく心苦しいわね。


「え?ヘッド・バトラーズマスター、何故おばあ様まで退室を?」

「申し訳ないが、あまり公にできないことが多いんですよ。可能ならば、私も知りたくありませんでしたからね」


 そう言い返してきたシャイルさんに、盛大に顔を引き攣らせるユリア。

 うん、ごめんね。

 基本的にあたしと大和のせいなのよね。


 契約の内容を聞くにつれて、どんどんユリアの顔色が悪くなっていったけど、幸いにもマリサ、ヴィオラとは同じアミスター本部のバトラーということで顔見知りだから、その2人もしっかりとフォローしてくれることになった。

 そしてユリアも、フィールへの移籍も含めて内容を承諾してくれたから、これでキャロルの侍女も決まった。

 一応フィールに戻るまでは試用期間扱いになってるからウイング・クレストへの加入はまだだけど、この様子じゃ多分大丈夫でしょうね。


「獣車に使用人室なんてないのに、3人もバトラーがいるわけだから、何とかしなきゃだよなぁ」


 バトラーズギルドを出ると、大和がそんなことを口にした。

 確かにね。

 客室は2部屋あるけど1つは母様が使うから、残ってるのは1部屋だけ。

 バトラー3人でも問題なく使える広さはあるけど、それでも不便なことに違いないわ。


「フィーナ、後から部屋を増やすことって出来るか?」

「出来なくはないですけど、そうすると厩舎部を圧迫することになります。ジェイドもフロライトもまだ大きくなりますし、アプリコット様のオネスト、ミーナさんのブリーズの他にもマナ様の召喚獣もいるんですから、さすがにそれは良くないですね」


 そうなのよね。

 特にアイス・ロックのシリウスは大きいから、下手に厩舎の大きさを削ったりなんかしたら、獣車に入れなくなる可能性だってあるわ。


「となると、拡張するしかないか。そっちは?」

「やったことないですし、そもそもこの獣車のミラーリングは30倍も付与されてますから何とも言えません。やるにしても、一度試してみる必要があります」


 しかもハーピーのフィーナでも、魔力を使い切るぐらいだったものね。

 大和のアシストがあってそれなんだから、40倍とか50倍なんて付与したら、何日かは寝込むかもしれないわ。


「となると、俺がフィールに戻り次第クラフター登録をして、自前でやってみるってのが一番か」

「そうしてくれ。つっても、ミラーリング付与はBランクへの昇格試験内容だから、しばらくは無理だろうが」


 大和がやるのがベストって考えには賛成だけど、ミラーリング付与ってBランククラフターの昇格試験だったのね。

 クラフターだって知識が必要なことに変わりはないから、それは分かるんだけど、そうなるといつ昇格できるかもわからないんじゃない?


「そんなに時間はかからないよ。早い人は数ヶ月でSランクになるからね。そこから先は経験とか実績とかが必要になるから、何年もかかったりするけど」

「なるほど。なら後でクラフターズギルドにもよって、何冊か本を買っておくか」

「私もそうします」


 フラムもクラフター志望だから、船の中で勉強するつもりね。

 でも大和もだけど、フラムもハンター活動は続けるつもりだから、遠くない内にハイクラフターどころかエンシェントクラフターも抱えることになりそうだわ。

 あたしもトレーダーかヒーラー登録をするつもりではいるけど、どっちにするかはまだ決められてないのよね。

 だけど時間はあるし、焦らずにゆっくりと考えましょう。

 焦っても良いことは何もないからね。

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