伯爵令嬢

Side・ラウス


 今日は大和さん、プリムさん、マナ様、リディアさん、ルディアさんはラインハルト陛下、エリス殿下、マルカ殿下の護衛として、イデアル連山の山頂にある宝樹に行っている。

 俺達はというと、こないだの無茶な狩りでレベルが上がった反動が出てしまって、昨日から天樹城で安静にしているんだ。

 OランクヒーラーでありOランククラフターでもある3代前の王妃サユリ様が急性魔力変動症っていう病気だって教えてくれたけど、原因は急激にレベルを上げた反動だってことだから俺も驚いた。


 だけど心当たりは思いっ切りあるし、実際にレベルが一気に20近くも上がったのも間違いないから、逆に納得できたよ。

 大和さんとプリムさんは申し訳ないって謝ってきたけど、それでも俺もレベッカもフラム姉さんもミーナさんも、誰も怒ってないし、それどころか感謝してるぐらいだ。

 それに体を休めるのもハンターには大切なことだから、今が休む時だって思えばいいんだから。


 とは言っても、さすがに暇なことは間違いない。

 ここがフィールなら街を歩いてもいいし、買い物をしてもいいんだけど、残念なことにここは天樹城。

 俺達はけっこう自由に中を歩かせてもらってるけど、立ち入り禁止の所はもちろんあるし、そもそも王城なんて気軽に歩けるわけがないんだから、俺達が行く所は庭園か使わせてもらってる客室、あとは今いるサロンぐらいしかないんだよ。

 レベッカは部屋で寝てるし、フラム姉さんとミーナさんはお話し中だから、俺は本当に手持無沙汰なんだ。


「よう、気分はどうだ?」

「あ、エドさん」


 サロンで暇を持て余してると、エドさんがやってきた。

 今はマナ様の侍女のマリサさん、ユーリ様の侍女のヴィオラさんのアーマーコートを仕立ててるんだけど、もしかしてもう出来たのかな?


「大分回復してきたんじゃねえか?」

「はい。やることもなかったから、昨日も今日もおとなしくしてるしかなかったですし。レベッカなんて、まだ寝てるんですよ」


 それでも昼過ぎにはグランド・オーダーズマスターが来てくれたし、サユリ様やヒーラーのロエーナ様まで来て下さったから、凄く緊張したけど。


「一応は病気なんだから、寝ててもいいだろ」

「そうなんですけどね。ところでマリサさんとヴィオラさんのアーマーコートって、もう出来たんですか?」

「おう。今はマリーナとフィーナが試着させに行ってるよ」


 やっぱり出来たんだ。

 それで今は試着しに行ってるってことだから、エドさんは暇を持て余してここに来たってことですね?


「正解だ。それでお前の見舞いにと思ったんだよ。まあ朝も様子は聞いてたし、大事になるようなもんじゃないって話だから、特に心配はしてねえけどな」


 そうなんだよね。

 無理をすると長引くって言われてるけど、それはどんな病気でも同じだし、この急性魔力変動症っていう病気は魔力が体を蝕んでるだけだから、放っておいても数日すれば回復するとも言われてるし。

 それでも体が怠いし、熱もあるから、狩りに行ったら大変なことになるのは間違いないけど。


「そういえば、さっきサユリ様とロエーナ様が仰ってたんですけど、天騎士アーク・オーダー用の鎧って、グリフォンの革を使うことになったんですって?」

「もう聞いてたのか。驚いたことにそうなんだよ。こないだお前らが狩ってきたのを、王代陛下に献上しただろ?そいつを使うことにしたんだと」


 天騎士アーク・オーダー用の鎧って、確かウインガー・ドレイクを使うって話じゃなかったかな?

 そりゃウインガー・ドレイクより良い素材が手に入ったからってのは分かるけど、いくらなんでもグリフォンは一気にランクが上がりすぎなんじゃ?


「幸いなことにグリフォンはデカいから、1匹分あれば丁度3人分は賄えるからな。部分的にウインガー・ドレイクで補強もするそうだから、ヘリオスオーブでも最高級のコートになることは間違いないぞ」


 さらにウインガー・ドレイクも使うんだ……。

 城内の噂で、こないだ狩ったグリフォンは売りに出されると同時に完売したって言われてたけど、多分そっちの革を手に入れた人は、それだけで防具を作るはず。

 というか、さらに高級品のウインガー・ドレイクまで使うなんて、発想自体が出て来ない。

 さらに翡翠色銀ヒスイロカネまで使ってるんだから、もし売りに出したりなんかしたら、神金貨が何枚必要になるか分かったもんじゃないよ。


 あれ?

 天騎士アーク・オーダーって言えば、確かフィールのオーダーズマスター、レックスさんも天騎士アーク・オーダーになってたよね?

 それに3人分ってことは、もしかして大和さんの分も作ってるのかな?


「エドさん、その天騎士アーク・オーダー用のコートって、もしかして大和さんとレックスさんのもってことですか?」

「そりゃ天騎士アーク・オーダーって言ったら、その2人とグランド・オーダーズマスターしかいないんだからな。大和はともかく、レックスさんは気の毒だよ」


 やっぱりか。

 確かにレックスさんは気の毒だな。

 しかも聞いた話じゃ、天騎士アーク・オーダー用の装備ってことで、ラインハルト陛下が直接フィールで下賜されるってことだから、レックスさんが青い顔して滝のような冷や汗を流す姿が目に浮かぶなぁ。


「馬鹿みたいな高級品になるとはいえ、天騎士アーク・オーダーのための装備なんだから、それぐらいは我慢してもらおうぜ」

「そうなんですけどね」


 下賜されるのは俺達がバレンティアに行ってる間らしいし、Pランクオーダー用の装備もその時に手渡されるって話だし、ミューズさんがフィールに赴任されるのもその時らしいから、フィールに戻ったらオーダーの装備が一新されてるわけか。


「あ、いたいたぁ。ほら、あの子ですよぉ」

「ん?ああ、レベッカと……誰だ?」


 え?レベッカ?

 あ、ホントだ。

 部屋で寝てたはずのレベッカが、エルフの女の子と一緒にサロンに来てる。

 というか、あの人って確か……。


「あなたがラウス様ですね?改めまして、初めまして。私はキャロル・ベルンシュタインと申します」


 やっぱりベルンシュタイン伯爵のお嬢様か!

 確かドナート・ベルンシュタイン伯爵が迎えに来て、今は王都のお屋敷に帰ったって聞いてたけど、なんでまた天樹城に?


「あ、はい、初めまして。というか、なんで俺の名前を?」


 名乗り返そうかと思ったら、既に知られてた。

 なんで俺の名前を知ってるんだろう?


「あなたが助けてくれたおかげで、私はこうして無事に、お父様やお母様方の元へ帰ることができました。一時は命ばかりか、女として生きることも諦めていましたから、本当に嬉しくて……」


 あー、そりゃレティセンシアに攫われて、しかも剣で斬られまでしてたんだしなぁ。

 仮に命は助かったとしても、レティセンシアなんかに連れていかれたら不法奴隷は間違いなかっただろうから、どうなってたかなんて誰でも簡単に分かる。


「いえ、助かったのは俺の師匠のおかげです。あの人達がいなかったら、正直どうなってたか」


 大和さんやプリムさんはもちろんだけど、ジェイドに乗れたから間に合ったようなもんだもんなぁ。

 実際、俺が倒したのって1人だけで、しかもジェイドの攻撃が予想外だったから隙を作ってくれたことも大きかったよ。

 その後は俺が大きな隙を作っちゃったから、大和さんに軽く怒られたし。

 まだ受け流しに自信はないけど、それで致命的な隙を作っちゃったんだから、仕方ないんだけどさ。


「エンシェントヒューマンの大和様、そして私の傷を治してくださったのが、その大和様の初妻 プリムローズ様ですよね。もちろん大和様にもプリムローズ様にも感謝していますが、私が一番感謝しているのはあなたなんです」

「俺に、ですか?」


 なんで?

 特に何かした覚えはないんだけどな?


「私ははっきりと覚えています。あなたが1人だと思っていた私は、あなたまで巻き込むことはできないと思い、逃げて、とお伝えしました。ですがあなたは、絶対に助かる、守ると仰ってくれたじゃないですか。その言葉通り、私は助かりました。あなたが守ってくれたからなんですよ?」


 そういえばそんなことを言ったような気もするけど、確か師匠がいるからとも言ったはずなんだよな。


「ほぉ~。やるじゃねえか、ラウス。伊達にあいつの弟子のBランクハンターやってねえなぁ」


 エドさんが訳の分からないこと言ってるけど、どう見ても面白がってるよね?

 いや、エドさんが言いたいことも分かってるよ。

 俺は大和さんみたいに鈍くないんだから。


「え?えっと、ラウス様って、まだ13歳なんですよね?」

「はい」

「私より2つも下なのに、Bランクハンター……。つかぬ事を伺いますが、レベルはおいくつなんですか?あ、私はレベル17のBランクヒーラーです」


 キャロル様って15歳なのか。

 じゃなくて、俺のレベルって、言っちゃってもいいのかな?


「そりゃキャロルちゃんも気になるわよ。別に良いんじゃない?耳の早い貴族は、とっくに知ってると思うし」


 どうしようか悩んでたら、サユリ様とユーリ様もサロンに入って来られた。

 ユーリ様はわかるけど、なんでサユリ様まで?


「急性魔力変動症は最近じゃ滅多に見ないから、ユーリにもしっかりと教えておきたいのよ。臨床試験みたいなもんだし、私もついてるから、そこは心配しないで」


 いや、Oランクヒーラーが診てくれるなんて、俺からしたらありがたい限りです。

 臨床試験ってのが何なのかは分からないけど。


「ラウス、キャロルさんに教えてあげてもいいと思いますよ。サユリおばあ様も仰ってますけど、既に知っている貴族は多いと思いますから」


 ユーリ様までそう言ってくるんだし、それならいいか。


「俺のレベルは39ですね。こないだ無茶な狩りをしたから、それで上がったんですよ」

「レ、レベル39!?ほとんどSランクじゃないですか!」


 やっぱり驚かれたか。

 なんか大和さんの気持ちが分かった気がするけど、あの人はレベル72だし、さらにはエンシェントヒューマンなんだから、俺とは文字通り桁が違うんだよな。


「今のままで行けば、遅くとも成人前には、こっちのレベッカもハイクラスに進化できるでしょうね」

「そうね。だけどハイクラスに進化すれば急性魔力変動症とは無縁になるけど、別の問題もあるのよ?成長期特有の筋肉痛が、けっこう大変なことになったりとかね」


 うげ、それは勘弁だなぁ。


「そ、そうなんですかぁ?」

「ええ。普通の筋肉痛は、激しい運動や急な運動をすると起こることは知ってるわね?」

「はい、経験ありますから」


 大和さん達と狩りに行くと、けっこうな頻度で筋肉痛になるから、最近じゃ慣れてきた気もしなくはないけど。


「それは大人でも普通にあるんだけど、まだ子供の場合だと体が成長していくから、それに合わせて骨や筋肉も成長していくことになるわね。そしてハイクラスは、魔力が骨や筋肉、皮膚にも作用して、老化を遅らせてくれているわ。だから私も100を超えてるけど、20代の頃みたいに若い肌を保ってるってワケなのよ」


 それも有名ですから知ってます。

 エンシェントクラスに進化すると、老化そのものが無くなるって話も含めて。


「だけど子供、それもまだ成長期の12,3歳の子の場合だと、体は成長したがってるのに魔力が今の状態を保とうとするから、その反動で今までより大きな痛みを伴うことがあるのよ。結局は成長が勝つんだけど、それでも成長速度はノーマルクラスより少し遅くなって、成人を迎えても14,5歳に見えることもよくあったわね」


 うわぁ……。

 じゃあ俺とレベッカも、そうなる可能性が高いってことですか?


「今のままじゃ、そうなるでしょうね。だけど普通の筋肉痛と変わらないこともあるみたいだから、どのタイミングで痛みが激しくなるかは臨床例も少なくて、私もはっきりとしたことが言えないのよ。一応ヒーリングとディスペリングで痛みは抑えられるし、成長も通常と変わりなくなるけど、それでも日に数度はかけてもらわないといけないから、ヒーラーが近くにいないと大変よ?」


 それもキツいな……。

 プリムさんやレベッカはヒーリングなら使えるけど、ディスペリングは治癒魔法ヒーラーズマジックだから、ヒーラー登録してないと使えない。

 ユーリ様はヒーラーだけど、お姫様に毎日治療をお願いするなんて、申し訳なさ過ぎて頼めない。

 あ、そういえば騎士魔法オーダーズマジックエイディングはどうなんだろう?


「サユリ様、エイディングはどうなんですか?」

「そっちは外傷の止血や痛み止め程度だから、成長痛とかには効果はないわ。というか、普通にユーリに頼んだらいいじゃない。そのためにユーリに教えてるんだから」

「そうですよ。私はまだウイング・クレストには入れませんが、それでも一員だと思ってるんです。ですから遠慮なく頼ってください」


 ユーリ様がまだウイング・クレストに加入していない理由は、王位継承権の問題があるからだ。

 マナ様は既に放棄されてるけど、それはハンターとして活動するっていう理由が大きいから、ユーリ様も納得しているし、姉妹2人ともが継承権を放棄すると、ラインハルト陛下にもしものことがあった場合、下手をしたら継承争いが起きてしまうかもしれない。

 だからヒーラーのユーリ様は、マナ様も大和さんと結婚されると決まった時から、しばらくはユニオンに加入しないって決めているんだ。


 そのユーリ様がそこまで言って下さってるんだから、ここは甘えてもいいのかもしれない。


「お待ちください、ユーリアナ殿下」


 そう思って口を開こうと思ったら、先にキャロル様が口を開いた。


「どうかしたのですか?」

「お話は分かりました。その役目、僭越ではありますが私にやらせていただけないでしょうか?」


 このタイミングで口を開いたんだから、そう言うんじゃないかって予想はしてたけど、やっぱりなのか。

 エドさんは俺の隣で、今にも笑いだしそうな雰囲気だな。


「あなたが?ですがあなたは、まだBランクですよね?ディスペリングはSランクの治癒魔法ヒーラーズマジックですから、まだ使えないはずでは?」

「仰る通りですが、ラウス様のためにも勉強して、Sランクに昇格してみせます。ですから何卒、私にその役目をお任せいただきたいのです」


 力強い言葉で決意を述べるキャロル様。

 これ、俺って逃げられるんだろうか?


「あなたが本当にSランクに昇格できたら、私は構いませんよ。ですがあなたは、ベルンシュタイン伯爵の正当な後嗣ですよね?ドナート伯爵にはあなた以外の子はいないと聞いていますから、彼についていくことはできないと思いますが?」


 そういやそんな話だったっけ。

 子供がキャロル様しかいないってことは、自動的にベルンシュタイン伯爵を継ぐって決まってるわけだから、俺達と一緒にフィールにってのはさすがに無理か。

 ホッとしたような、残念なような。


「確かに先日までは、殿下の仰る通りでした。ですが先日、母の1人が妊娠していることが分かったのです。王都までの道中で気分を悪くされたため、王都のヒーラーズギルドへ行ったのですが、その時に妊娠していると告げられました」


 そうなの?


「まあ、それはおめでとうございます。あ、ということは、あなたがヒーラーズギルド前で連れ去られたというのは」

「はい。母のために、体に良い物を購入するためでした」


 妊娠ってことはヒーラーズギルドの管轄だったはずだから、妊婦さんの体やお腹の子に良い物もヒーラーズギルドで売ってるんだって。

 だけどキャロル様はヒーラーだから、レティセンシアはそんなことは思ってもなく、単純にヒーラーズギルドに行ったのは試験か勉強のためだって思ってたみたいだ。

 実際、勉強もしてたそうだから、間違いってわけでもなかったのか。


「それは、色々な意味で危なかったわね。最悪の場合、あなたの命はもちろん、そのお母様も母子ともに危険な状態になってたかもしれないわ」

「はい。一番若くて私にとっては姉のような方ですから、そんなことにならなくて良かったと心から思います」


 苦々し気に顔を顰めるサユリ様と、助かったことを心から安堵するキャロル様が対象的だ。


「つまりラウスはあなただけではなく、お母様とお腹の子の命も救ってくれたということなんですね」

「はい!」


 いや、それは苦しくないかな?

 キャロル様にはそうじゃないのかもしれないけど、俺は明確に助けたって言い切れないんだけど。


「助けられた子がそう言ってるんだから、しっかり受け取っておきなさい。だけどそういうことなら、あなたもユーリと一緒に、私について勉強するといいわ」

「よ、よろしいんですか?」

「ええ。いいわよね、ユーリ?」

「もちろんです。ですがラウスについていくつもりなら、あと3日でSランクになってもらわなければなりませんよ?」

「が、頑張ります!」


 なんか俺抜きで話が進んでない?

 というか、なんでレベッカは何も言わないんだ?


「どうかした、ラウス?」

「いや、何でレベッカは何も言わないのかなと思って」

「簡単だよぉ。キャロル様とは少しお話ししたんだけど、本当にラウスに感謝してたし、大和さんやプリムさんがどうとかってことは全然考えてなかったから、貴族からのお嫁さんはこの人がいいかなぁって思ったんだ」


 レベッカがそう言った瞬間、キャロル様が真っ赤になった。

 俺も薄々はそうじゃないかと思ってたけど、やっぱりそうだったのか。

 俺の隣じゃエドさんがソファーの上で苦しそうにしてるけど、あれは笑いを堪えてるだけだから放置でいいや。


「はっきり言う子ね。まだどっちも未成年だし、ドナート伯爵が何て言うかも分からないんだから、その話はもう少し後でも良かったでしょうに」

「そうなんですけど、ベルンシュタイン伯爵領ってレティセンシアとの国境がありますよねぇ?だから大和さんとの縁は、どんな形でも欲しいんじゃないかなぁって」


 レベッカの奴、そこまで考えてるのか。

 それを出されたらドナート伯爵に限らず、ほとんどの貴族は許可するんじゃないか?


「よく考えてるって言いたいけど、それは深読みしすぎじゃない?」

「レベッカなら、それぐらいは考えますよ。だってプリムお姉様を焚き付けたのは、この子なんですから」


 そうなんだよな。

 それもプリムさんだけじゃなく、ミーナさんやフラム姉さんもまとめてだよ。

 アドバイスも的確だったし、アライアンスの祝勝会の席でリディアさんとルディアさんまで、お酒を飲んで迫ったらどうですか?って焚き付けたんだから、場合によってはマナ様にだって何か言ってたかもしれない。


「プリムの結婚にも一枚噛んでるって、とんでもない子ね。というか、マナとユーリ以外は全員じゃないの」

「す、すごいですね……」


 サユリ様は呆れてるし、キャロル様なんて少し引いちゃったよ。

 だけど俺も、気持ちは分かるんだよな。


「だって好きな人と一緒にいられないのって、すっごく辛いじゃないですかぁ」

「そうなんだけど、それでもそこまで的確なアドバイスは、早々できないわよ?まあ、そんなあなただから、キャロルちゃんもってことなんだろうけど」

「はい」


 もう俺が何を言っても、どうにもならないことは確定だなぁ。

 だけどドナート伯爵の許可とSランクヒーラーへの昇格は絶対条件だから、そこは頑張ってもらうしかないか。


「あ、そういや俺、ドナート伯爵ってどんな人か知らないや」

「それは仕方ありませんよ。父は先日の式典でも、レティセンシアへの対応を陛下達とお話しになられていたそうですから」


 レティセンシアとの国境ってことだし、すぐにでもオーダーズギルドを動かさないといけないんだから、それは仕方ないか。

 大和さんなら挨拶ぐらいはしてるかもしれないから、帰ってきたら聞いてみよう。


「それじゃあドナート伯爵が許可を出されて、Sランクヒーラーになることができたら、大和さん達を説得してみますよ。それでいいですか?」

「はい!ありがとうございます!」


 そう言ったら、キャロル様はすごく良い笑顔で答えてくれた。

 年上だけど、すごく可愛いって思っちゃったよ。

 まだどっちも未成年だしどうなるかはわからないけど、レベッカは許可を出してるから、どうなるかは俺次第か。

 なるようになるかな。

 だけどサユリ様が教えてくれるってことだから、Sランクヒーラーにはなれると思う。

 俺は俺で、しっかりと大和さん達を説得しなきゃだな。

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