総合学校腹案
Side・ラインハルト
「……お話は分かりました。陛下がイデアル連山に赴かれたことは、国としては大問題ですが、ハンターとしては自己責任の範疇ですから、深くはお聞き致しません。ましてや、これほどまでに大量の魔物をお持ちいただけたのですから、ハンターズギルドとしては申し上げることはございません。私個人としては、色々とございますが……」
ハンターズギルドで本日の成果を報告すると、ヘッド・ハンターズマスターのシエーラが頭を抱えた。
気持ちはわかるし済まないとも思うが、これほどまでに大量に狩れたのは初めてだし、内訳もGランク付近の魔物ということもあって、楽しくなって途中で止められなかったのだ。
「もうちょっと狩ってれば、ライ兄様は昇格できたかもね」
そう、私のレベルは50になった。
できればGランクに昇格できる51にまで上げたかった思いもあるのだが、魔物が襲ってこなくなってしまったのだから仕方がない。
残念ではあるが、Gランクへの昇格は持ち越すことで、今日は帰路につくことにしたわけだ。
「だがマルカがハイアルディリーに進化できたし、エリスもレベル37にまで上がったから、結果としては満足だよ」
「確かにマルカ様は、いつ進化してもおかしくありませんでしたからね。それを差し引いても、レベルが上がりすぎですが……」
それも否定できないな。
マルカは狩りに行く前はレベル43だったが、今は46になり、ハイアルディリーにも進化している。
レベル44になった時点で進化していたのだが、先日のリディア、ルディアと同じように戦闘中に進化してしまっていたため、本人は感覚を掴むのに戸惑って、スカイ・サーペントの一撃をもらってしまうところだった。
大和君がしっかりとフォローしてくれたから事無きを得たが、あの時は肝が冷えたものだ。
そしてエリスだが、彼女はレベル32だったのだが、一気にレベル37にまで上がっている。
さすがにこのペースを維持するのは難しいが、それでもハイエルフへの進化が見えてきたから、できれば進化はさせておきたい。
なにせハイクラスに進化すれば、寿命が50年程延びるのだから、今のままではエリスだけが先に逝ってしまうことになる。
どちらかが先に逝くことは仕方ないが、愛する妻達とは1日でも長く一緒にいたいのだから、是非ともエリスも進化し、私と共に人生を歩んでもらいたい。
急なレベルアップの反動、急性魔力変動症が怖いが、サユリ曾祖母殿の話では、一度くらいなら特に問題はないが、数度続くと回復が追い付かなくなる病だと聞いているから、しばらく体を休めれば大丈夫だろう。
「そして、先日ハイドラゴニュートに進化したばかりのリディアとルディアもレベルが上がって、45ですか。これほどまで簡単にレベルを上げられるなんて、多くのハンター達から妬まれるわよ?」
それも懸念事項だな。
幸いというか、ハイクラスは合金製の武器を使えば、遠からずレベルを上げる者も増えるだろう。
だがノーマルクラスは今までと変わらないわけだから、妬む者は必ず出てくる。
ノーマルクラスがレベルを上げられない理由は、
「今までだって上がる人は上がってたんだから、文句言ってくるような奴はただのバカでしょ?」
「そうね。そもそもそういう輩に限って、
ルディアとプリムの言う通りだ。
結局のところ、文句を言ってくるような者はレベル30前後で伸び悩んでいる者が多く、さらには問題行動の常習者でもあるから、ハイクラスだって
こういった者達がハンターの評判を下げているのも事実だし、ハンターズギルドやハイクラスも注意しているし、度が過ぎればオーダーズギルドが捕縛しているのだが、一向に数が減らないのもまた事実だ。
これはハンターズギルドだけではなく、国としても頭の痛い問題だな。
「つまり
「そうなるね。あたし達も見かけたら注意してるんだけど、ハンターズギルドにはしっかりと装備を整えてくるから、一見しただけじゃあたし達が王家の者だって分からなくて、突っかかってくる奴もいるんだ」
大和君の総評にマルカが答えるが、私もそんな目に会ったことは一度や二度ではない。
幸い私はハイエルフに進化しているから、そのような者達は問題なくあしらえるが、当時は進化していなかったマナやマルカ、そしてハンターとしては平均的なレベルだったエリスは、手を上げられそうになったこともある。
もちろんトライアル・ハーツが止めてくれていたが、それでも面白い話ではない。
特にエリスは、私との婚約が成立した直後に、一度だけ手を上げられたことがあるからな。
知らなかったとはいえ、王太子の婚約者に手を上げたということで、その者達は犯罪奴隷に落とすことになってしまったが、もし知っていたら死罪は免れなかっただろう。
「面倒な。ああ、だからサユリ様やカズシさん、シンイチさん達は、ハンターの養成学校みたいなものを作らなかったのか」
「そう聞いているわ。オーダーやバトラーは養成校みたいなものがあるけど、この2つのギルドは教養も大事だし、そういった問題とは無縁に近いから、オーダーズギルドはシンイチ様が、バトラーズギルドはカズシ様が養成校を整備されたのよ」
どちらも有名な話だ。
トラレンシア王家に入られたカズシ・ミナト・トラレンシア様は、トラレンシアに総本部を置くバトラーズギルドにバトラー養成所を設立され、バトラー達の質を大きく引き上げられた。
それまでは仕える家のバトラーやバトラーズギルドで講習をしていただけだったそうだが、バトラーの質には大きなバラつきがあったため、問題を起こすバトラーも少なくなかったと聞いている。
だがカズシ様がバトラー養成所を開設されてからは、Tランクの3年間でしっかりとバトラーとしての基礎を学び、実技も行われるため、問題は大きく減ったそうだ。
それがバトラーの質の向上にも繋がったため、今ではバトラーズギルドには養成所が併設されるまでになっている。
カズシ様は王家に入られていることもあるが、バトラーズギルドからは大いに感謝され、オナーズ・バトラーズマスターの称号を贈られている。
この称号はギルドから贈られる最高位のものになっていて、ギルドへの貢献が高くなければ授かることはできない。
だからギルドに登録していなくても、授かれることができるようになっている。
事実、オーダー養成所を開設されたシンイチ・ミブ様には、オナーズ・オーダーズマスターの称号を、当時の国王が直々に贈られていると記録がある。
オーダー養成所の在籍は1年だが、それでもオーダーの質が向上したそうだからな。
その後、バシオン教国を建国することになり、結婚相手の巫女と共にバシオンに向かわれたが、その巫女が初代教皇に就任したため、シンイチ様は亡くなるまでバシオンを守り続けられており、バシオン聖騎士団となるホーリナーズギルドも設立されたと記録が残されていたな。
シンイチ様がオーダーズギルドに負けないような騎士団を目指されていたこともあり、自らがグランド・ホーリナーズマスターに就任され、鍛えたため、オーダーズギルドに勝るとも劣らない精鋭揃いとなっている。
私も今代のグランド・ホーリナーズマスターとは面識があるが、シンイチ様の直弟子だけあり、礼儀正しく、信仰心にも篤い立派なホーリナーだった。
ちなみにヒーラーズギルド設立者のサユリ曾祖母殿は、オナーズ・ヒーラーズマスターの称号をお持ちだ。
「となると、総合学校みたいなのは難しいのか」
「クラフターやヒーラー、トレーダーなら可能だと思うが、ハンターやプリスターは難しいな」
「そうね。サユリおばあ様だって総合学校は考えたことあるそうだけど、当時は今より治安が悪かったこともあって、結局断念したって言ってたし」
サユリ曾祖母殿がヘリオスオーブへ来た頃は、ハンターは今よりも荒っぽかったそうだ。
ハイクラスやエンシェントクラスはそんなことはなかったのだが、ノーマルクラスの粗暴さが目立ち、転移してきた直後のサユリ曾祖母殿も襲われかけたと聞いたことがある。
半数ほどは返り討ちにしたそうだが、多勢に無勢、さらには仲間を倒されたこともあってハンター達も気が立っていたから、たまたまフロートに来られていたシンイチ様が仲裁に入らなければ、どうなっていたことか。
そのシンイチ様が護衛していたのが、当時王太子だった私達の曽祖父殿だというから、縁というものはどこに繋がっているかわからないものでもあるが。
「うーん、となるとオーダー、ヒーラー、バトラー、クラフター、トレーダー、プリスターで学校を作って、ハンター志望者はオーダー教程を受けてもらうってのがベストか?」
「それは悪くないと思うけど、プリスターも巻き込むの?」
「ええ。どのギルドに登録するか迷ってる人もいるだろうから、それを学校で教えて、それから決めてもいいんじゃないかと思いまして」
エリスの疑問に答える大和君だが、確かにその発想は無かったな。
オーダーとしての教程をこなせば、ハンターになったとしても無茶なことをする者は減るだろうし、どのギルドに登録するか迷っている者が多いのも事実だから、最初の数年は全てのギルドについて教え、その後で選ぶことができれば、他のギルドについての知識も残るから、ギルド間での揉め事も減るだろう。
さらに魔物に対する知識は、どのギルドでもあって困るものではないから、こちらも教えることができるようになる。
「悪くない案だが、もう少し詰める必要があるな」
「そうですね。ハンターズギルドとしては関われる部分は少ないですが、それでも粗暴なハンターが減ることは、ハンターズギルドとしても歓迎です」
さすがにいきなりは難しいし、ギルド総本部とも話をしなければならない。
教程内容をどうするかという問題もあるから、一度グランドマスター達とも話をしてみたいな。
結果次第ではフロートに、いや、彼らが拠点にしているフィールでも良いな。
そのどちらかに何人かの子供達を招いて、実施検証を進めてみるのも良いかもしれない。
「ライ、考えるのもいいけど、まだ査定中よ」
「ああ、すまない。ヘッド・ハンターズマスター、申し訳ない」
各ギルド登録者の質を、さらに上げられるかもしれないと思い、つい気が逸ってしまった。
ランクアップ手続きが無いとはいえ、持ち込んだ量が量だから、査定にも時間がかかってしまうのを忘れていた。
「いえ、陛下のお立場からすれば、無理からぬことです。ではお手数ですが、第十鑑定室までお願い致します」
理解が得られて何よりだ。
そしてやはり、第十鑑定室に行くことになるのか。
持ち込んだ量を考えれば仕方ないことだが、鑑定室の中でも使われることが少ない部屋だな。
ハンターの訓練場にしようかという案もでているんだが、遠征に出ているハンターが大量に持ち込むこともあるし、アライアンスでは必ず使うから、どうするべきかはハンターズギルドとしても悩ましい所だろう。
今回はいくらかの魔物はこちらで引き取る予定だが、それでも一度の狩りで得られる数ではないことは間違いない。
「今回もグリフォンがいるとのことですが、やはり買取はされないのですか?」
ああ、グリフォンか。
先日ウイング・クレストが買取に出した分は既に完売していると聞いているし、それどころか次回はいつ入荷するのかとの問い合わせまで殺到してるとか。
グリフォンはMランクモンスターの中でも最上位と言っても過言ではない魔物なのだから、普通は次回入荷など絶望的だ。
だが大和君とプリムは、笑えるぐらいあっさりとグリフォンを狩ってしまっていたから、次回入荷も絶望的とは言えない。
というか、依頼を出せば狩ってくるだろうな。
「すまないがグリフォンを狩ったのは私達ではないから、そちらは大和君に聞いてくれ」
Mランクモンスターと会敵したのは初めてだが、それでもどうにかなるとは思えなかった。
動きが予想以上に早かったし、空を飛んでいる上に羽を飛ばしてきたりファイア・ブレスを吐いたりと、空の上から一方的に攻撃をされていたのだから、弓術士がいなければ倒すことは不可能だろう。
もっとも大和君とプリムも自在に空を飛んでいたし、ジェイドとフロライトもグリフォンとそう変わらない動きをしていたから、見ていて切ない気持ちになってしまったが。
「そうですか。大和君、ダメよね?」
「すいません。実は王代陛下に俺がグリフォンを2匹持ってたことを知られまして、1匹献上してるんですよ。なので今回は、その分の穴埋めにしたいなと」
父上がバカみたいに喜んでいたが、それが理由だったのか。
グリフォンを丸々1匹献上させるなど、いくら王代といえど無茶が過ぎるのではなかろうか?
「グリフォンを使って、
「はい?」
「
「ええ。幸いというか、ウインガー・ドレイクの革は鞣してる所だったから、タイミングが良いのか悪いのかは微妙ね。でも
そういうことか。
というか、グリフォンの革を使ったコートとなると、とんでもない物ができるぞ。
最高級の革で有名なのは、
そのPランクモンスター レッサー・ドラグーンは、稀に討伐に成功し、ハンターズギルドに持ち込まれるが、さすがにドラゴン種の革だけあって普通に神金貨で取引されており、それでもすぐに完売してしまう程だ。
だがPランクモンスターということもあって、先日大和君とプリムが狩ったP-Cランクモンスター アビス・タウルスには一歩劣ってしまっている。
なにせレッサー・ドラグーンはブレスも吐かないし、攻撃速度もPランクの中では遅い方なので、熟練のハイハンターからすれば避けることは難しくない。
鱗は硬いから防御力は高いのだが、それでも腹部が脆いという弱点まであるのだから、複数のレイドが協力し、準備をしっかりと整えれば、それほどの被害を出さずに狩ることができてしまう。
これがMランクのフレイム・ドラグーンやアイス・ドラグーンともなると、そんなことは無いのだが。
翻ってグリフォンは、れっきとしたMランクモンスターだ。
しかも防御力は低いとされているが、Mランクモンスターの中ではという注釈が付いているから、Pランクモンスターより防御力が高いのは間違いない。
つまりグリフォンはレッサー・ドラグーンより強く、素材としての価値も上になっているわけだ。
その革を使ったオーダーズコートとなると、当初予定されていたウインガー・ドレイクはもちろん、レッサー・ドラグーンの革より高い防御力を有することになるだろう。
「確かに俺も
「当然でしょう。
「確かにね。というか、Oランクオーダーが正装の1つも持ってないなんて、さすがにどうかと思うわよ?」
大和君が正装を持っていないことは知っているが、今も着用しているアーマーコートでも十分過ぎるとは私も思う。
だがマナやプリムの言うように、
バレンティアに行くのは5日後だから、それまでには仕上げてくれるだろう。
気の毒なのは、
アライアンスでの活躍が評価されて
デザインは彼も知っているし、
フィールにはホーリー・グレイブもいるから、久しぶりに一緒に狩りに行くのもいいかもしれないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます