国王の狩り
サユリ様とお会いしてから2日後、俺、プリム、マナ、リディア、ルディアは、ラインハルト陛下、エリス様、マルカ様と共に、イデアル連山の宝樹へやってきた。
ミーナ、フラム、ラウス、レベッカは急性魔動症の影響でまだ狩りはできそうもないし、リカさんはバレンティアにいくために領主や領代としての仕事をこなさないといけないし、ユーリはサユリ様に
そろそろバレンティア行きの準備もしなきゃだな。
船旅だから買い溜めしとかないといけないのが面倒だが、ストレージに突っ込んでおけばいいんだから、その点は楽か。
ストレージといえば、バレンティアはリディアとルディアの故郷なんだから、自家用船でも作っておくのもアリなのかって考えも、チラホラと頭をよぎるが。
あ、昨日は無事に、処刑は終了しましたよ。
マリアンヌ王女は最期の最期で死にたくないって泣き喚いてたし、サーシェスは死の恐怖に耐えられずに何度も失神してたし、バルバドスはマリアンヌ王女やサーシェスに責任転嫁してたし、レティセンシア大使は泣きながら命乞いをしてきてたな。
処刑はギロチンだったから、落とした首は防腐処理を施した後で、しばらくは天樹城前広場に晒しておくらしい。
レティセンシアから来た使者は猛抗議してきたが、例のドナート・ベルンシュタイン伯爵家長女キャロル嬢の拉致未遂もあるから、そっちも護衛を含めて身柄を確保されている。
皇都には使者を送ることになるが、皇王とは面会しないどころか皇都の入り口でアミスターからの書状を渡して、そのまま帰ってくることになってるそうだ。
意趣返しというか、報復として使者が殺されることは確定なんだから、それぐらいはありだと思う。
どうせ話も通じないんだろうしな。
「うわぁ……すごいねぇ」
「本当に。しかもイデアル連山の山頂だから、見ようによっては天樹より大きく見えるわ」
シリウスの背中の上で、宝樹を見て感激している王妃様お2人。
確かにイデアル連山の山頂ってことを考えると、平地にある天樹より立派で勇壮に見えなくもないな。
「感動してるところ悪いけど、お出迎えよ」
「あれは……スカイ・サーペントか」
こないだ狩ったばかりだから、さすがにグリフォンはいないみたいだな。
だけどスカイ・サーペントが3匹程、宝樹の枝からこっちに向かって飛んできてるから、あれを倒してから降りるとするか。
「そうしよう。空の上では、さすがに行動が制限されすぎる」
「だね」
イークイッピングを使って装備を身に着けながら、陛下が決断を下す。
では遠慮なく。
「ジェイド、やれ!」
「クワッ!」
短く鳴いたジェイドが、
何本かは避けられてしまったが、それでも1匹は頭を貫かれて即死したし、残りの2匹も胴体を貫通してるから、かなり動きが鈍ってる。
「フロライト!」
「クワアアアッ!!」
そこにフロライトの
「すごいわね。Gランクモンスターのスカイ・サーペントを、あんなにあっさり倒すなんて」
「ランクだけが強さってわけじゃないですけど、それでもランク相当の強さは発揮できてる感じね」
「もっとも、まだ生まれて数ヶ月ってとこだから、まだまだ強くなると思うわよ?」
忘れがちだが、ジェイドもフロライトも、まだ生後数ヶ月なんだよな。
生まれて1年もすると巣立ちして、番いとなった個体と一生添い遂げるそうだが、言い換えると1年経たないと成体になったとは言えないから、成体になるまではあと半年ぐらいかかるんじゃないかって考えられている。
「これほどの強さでまだ成体ではないとは、さすがに信じられないけどね」
「この2人の従魔だからって考えると、納得もできるけどね」
陛下とマルカ様がそんなことを言ってくるが、何を言ってもみんなから反論が飛んでくるから、今回はスルーしておこう。
ちなみにだが、今回は俺の後ろにリディアが、プリムの後ろにルディアが乗っていて、国王ご夫妻はマナと一緒にシリウスに乗って移動している。
「大和、スカイ・サーペントは絶対に確保しといてね」
「わかってる。サユリ様へのお土産だろ?」
「ええ。イデアル連山に行くなら、食べられる魔物を狩ってきてってリクエストまで受けてるから」
Oランククラフターでもあるサユリ様は、仕立師や裁縫師としても一流だが、もっとも名を馳せているのは調理師としての腕だ。
フィールにもある異郷の都をアミスター全土に展開してるし、様々な地球の料理も再現してるから、調理師でサユリ様を知らない者はいない。
そのサユリ様、天樹城では度々料理を作られている。
城の料理人からしたらどうなんだって気もするが、Oランククラフターのサユリ様と一緒に料理ってのはすげえ勉強になるから、むしろ大歓迎だって話だな。
そんなわけなので王都でも滅多に食べられないスカイ・サーペントは、絶好のお土産になる。
「あと食べられる魔物となると、ヘビーシェル・グリズリーぐらいか」
「そうだな。他の魔物も食べられないわけじゃないが、好んで食べたいとは思わない」
高ランクの魔物ほど肉質は良いんだが、食べられない魔物は高ランクになっても変わらない。
虫系は論外だし、ストーム・ライガーやサンダー・レパードだって凄く不味いって聞いてるな。
「少し離れるけど、フェザー・ドレイクとかは?」
「確かにあれは美味いが、大和君からウインガー・ドレイクが贈られることになってるから、さすがに劣るだろう」
だな。
もちろんウインガー・ドレイクだけじゃなく、アビス・タウルスの肉も贈る予定でいるぞ。
Oランククラフターの料理なんて、滅茶苦茶美味いに決まってるんだからな。
「となると、あとはエビル・ドレイクとかグランディック・ボア辺りになっちゃうのか」
「いや、気軽に言ってるが、どちらも異常種だからな?」
マルカ様にラインハルト陛下のツッコミが入るが、いたらいたで喜んで狩りまっせ?
なにせ、どっちも美味いって話だからな。
実際、フィールで食ったエビル・ドレイクは美味かったし。
「回収完了っと。こないだとは少し場所が違うか」
「それは仕方ないでしょ。それに同じ場所だと、魔物が出て来ないこともあり得るしね」
それもそうか。
「ふむ、こうして見ると、宝樹以外は何もないんだな」
「そうですね。ただ山頂に、宝樹がそびえ立っているだけっていう印象でしたから」
イデアル連山の山頂は、宝樹以外は何もない。
そのせいで遠くから見ると、山の天辺に桜が咲いてるようにしか見えないんだが、近付くと意外と広いことに驚く。
それだけ宝樹がデカいってことなんだが、おかげで山側は隠れるようなとこもないから、魔物が襲ってきてもすぐに分かる。
宝樹は完全に魔物の巣になってるから、こっちは要警戒だが。
っと、言ってるそばから、ヘビーシェル・グリズリーが飛び降りてきやがったか。
「これがヘビーシェル・グリズリーか。実物を見たのは初めてだ」
「だね。ライ、あたしとエリスは援護に徹するけど、いいよね?」
「そうしてくれ。大和君達も、すまないが援護を頼めるかい?」
「了解」
まずは自分達でやってみたいってことか。
ラインハルト陛下は俺が贈った
エリス様の細剣は、刀身を倍の長さにまで伸ばせるんだとか。
どうやってんだと思ったら、
伸ばすと全体的に刀身が細くなるが、マナリングによる強化が出来るから、簡単に折れたりはしないそうだ。
マルカ様の手斧は、片刃の丸みのあるデザインだが、手斧っていう割には大きい。
しかも柄尻を合わせることで風車みたいな使い方もできるから、そのために
「それじゃ、少し動きを鈍らせますか」
バインド・ストリングとアレスティングを使ってヘビーシェル・グリズリーを拘束し、動きを鈍らせる。
「せいっ!」
最初に攻撃したのは、細剣を伸ばしたエリス様だった。
一番間合いが広いから、アウトレンジからでも攻撃できるのは強みだよな。
しかもプリムと同じく
「おっと!そこだっ!」
ヘビーシェル・グリズリーの右からの振り下ろしを避けたラインハルト陛下は、サンダー・アームズを使って胴を薙いだ。
「どっせえいっ!」
大きく振りかぶった手斧にウインド・アームズを纏わせたマルカ様は、陛下を攻撃したヘビーシェル・グリズリーの腕を目掛けて振り下ろした。
「かったぁっ!」
一撃で切断には至らなかったが、それでも腕は使い物にならないぐらい破壊されてるから十分だろう。
「せやっ!」
その血だらけの腕を目掛けて、エリス様が再び細剣を突き入れた。
そして命中した瞬間、腕が爆発したように吹き飛んだ。
おお、すげえな。
「たあっ!」
予期せぬ攻撃に大きくのけ反るヘビーシェル・グリズリーだが、その隙を逃さず、ラインハルト陛下が心臓辺りに剣を突き刺し、素早く引き抜くと首筋を斬り付けた。
首こそ繋がったままだが、ヘビーシェル・グリズリーはゆっくりと倒れ、そのまま二度と動かなかった。
「これは、本当に凄いな」
「だね。
「本当にね。しかも硬度も
魔物によっては、膂力だけで武器を折ってくるやつもいるからな。
もちろん、いくら
「そっちも凄いが、やはり魔力疲労がないことが一番凄い。相手が相手だから今まで以上に魔力を込めたが、魔力の淀みが一切感じられない。先日は狩り慣れた魔物だったから、おそらくは無意識のうちに魔力を制御していたこともよく分かった」
ああ、格上を相手にすることで、初めて本当に理解できたってことか。
狩り慣れた魔物でも魔力の淀みが感じなかったんなら大丈夫だとは思うが、普段からの習性みたいなもんだから、簡単には直らないのも無理はないか。
「それはお兄様にしかわからない感覚ね。私達は使ってる最中に進化したから、逆にそっちの感覚の方が分からないもの」
「そうですね」
「あたしと姉さんなんて戦闘中に進化しちゃったから、そんなこと考えてる余裕なんてなかったもんね」
合金が出回れば、こう感じるハンターやオーダーも増えるんだろうな。
一度ぐらいは
「そうかもしれないな。だがいずれは私達も、無意識下でも普通に使えるようになるだろう。そのためには、格上の魔物を相手にするのが一番良い。頼れる護衛がいるなら尚更だ」
だから俺達と一緒に、イデアル連山に来たかったってことか。
最初は国王がこんなとこにって思ってたけど、逆に国王だからこそ、早期にその癖は直してもらっておいた方が良い。
いざって時に魔力を制御してしまうかどうかで、文字通り命の有無が変わるからな。
最初からそう言ってくれれば喜んで協力したんだけど、逆に俺達に頼るってことが前提だから、言いにくかったってことかもしれない。
「そういうことなら、援護は任せて、ガンガン狩ってください」
「そうさせてもらうよ。こんな楽しい狩りは久しぶりだからね」
その後俺達は、3時間程狩りを続けた。
スカイ・サーペントとヘビーシェル・グリズリーはかなり狩れたし、グリフォンも1匹だけ出てきたから、こっちも遠慮なく倒させてもらった。
こないだは見なかったが、テンタクルホーン・コングっていうPランクモンスターも3匹ほど狩れたから、今日も大量だ。
さらにラインハルト陛下はレベル50に、エリス様はレベル37に、マルカ様はレベル46になってハイアルディリーにも進化できたしな。
俺とプリムは変わってないが、リディアとルディアも1つずつレベルアップしたし、十分満足できる結果だ。
後は王都に戻って、買取とかもしてもらって、みんなに見舞いも買って帰らないとな。
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