大和の対策
Side・ユーリアナ
大和様との初夜を終えて、3日が経ちました。
あの夜はお姉様と一緒に、皆さんにも迎え入れていただきましたから、最高の夜になりました。
ですが翌日のお昼過ぎ、大和様はある考えを打ち明けてくださいました。
正直、大和様が話してくれた内容は私にとっても驚きでしたが、一番驚いていたのはやはりお姉様でしょう。
あの日、何があったのかは皆さんから伺っています。
ですから大和様や皆さんが、ルクスというハイヒューマンを快く思っておらず、逆に警戒しているのは分かります。
ですがお姉様は、一時的とはいえトライアル・ハーツと行動を共にしていましたから、さぞ心境は複雑でしょうね。
「あたしは構わないわよ。マナやライ兄様には悪いけど、到底信用できないし、もし本当にそんなことを考えてるなら、殺してでも止めないといけないんだから」
プリムお姉様の仰る通りです。
そのルクスというハイハンターは、信じられないことにトライアル・ハーツ、そして我が国を裏切ろうとしているのですから。
しかもフィールで多くの異常種を産み出した魔化結晶を受け取り、お姉様を連れ去るための魔道具まで受け取って……。
とてもではありませんが、許せることではありません。
「でもそいつ、
「確かにそうだけど、ハイクラスが裏切ったという事実が問題になるのよ。しかも彼の企みが万が一にも成功したら、トライアル・ハーツだって処罰せざるを得なくなるから、アミスターは一気に6人ものハイクラスを失う可能性があるの」
フレデリカ侯爵、いえ、リカの言う通りです。
ルクスが裏切ったというだけで、トライアル・ハーツは処罰を免れません。
もちろん奴隷落ちなどということはあり得ませんし、国としても罰金程度で済ませることになるでしょうが、問題はハンターズギルドです。
ただでさえフィールの問題でハンターズギルドは面目を潰されているというのに、ここで国を裏切るだけではなく王家の姫を連れ去るようなことになったりしたら、トライアル・ハーツはハンターズギルドからも大きな処罰を課せられることになってしまいます。
それも罰金などではなく、最悪の場合は命を以て償うことを求められるでしょう。
「だから最悪の場合は、トライアル・ハーツのハイハンターが丸々いなくなってしまうということなんですね」
「あ~、確かに問題だよね、それは。でもさ、それならなんで、ルクスを直接見張らないの?」
ルディアの疑問ももっともですが、誰が、どのようにして、という問題があるのです。
オーダーズギルドは動かせません。
トライアル・ハーツという、アミスターでも上位のトップレイドを監視など、相応の理由がなければできません。
もしオーダーズギルドを動かすなら、大和様がどのようにして情報を入手したのか、その経緯を明らかにしなければなりませんが、探索系という刻印術は安易に広めて良い物ではありませんから、いかに王女である私やお姉様が要請しても、動いてはくれないでしょう。
かといってウイング・クレストが動けば必ず察知されてしまいますし、大和様とプリムお姉様以外は進化していませんから、簡単に排除され、
「だからトライアル・ハーツ以外のハンターに、監視依頼を出すってことか。でもハンターズマスターにも詳しい説明はできないんだから、仮に受けてもらえたとしても、大和の望む結果になるとは限らないんじゃない?」
「それは承知の上だよ。だけどレティセンシアの大使は、一度ルクスと接触している。もし大使が監視に気が付いたら、ボロを出す可能性もあるだろ?あの国は自分達が不利になれば、後先考えずに行動する奴らが多いっぽいから、俺はそれを期待してるんだよ」
なるほど、そういうことですか。
確かにあの国 レティセンシア皇国は、常に自分達が優れていると考え、他国の者を見下しています。
ですが立場や状況が悪くなれば、途端に取り繕うことを止めてしまうんです。
それでも相手を見下していることに変わりはありませんし、自分達の優位を、何の根拠もなく信じていることも変わらないんですが、明らかに挙動不審になりますし、言動も支離滅裂になります。
ですからレティセンシアの大使が、自分が監視されていることに気が付いたら、高い確率で行動を起こすでしょう。
しかも王都にいたレティセンシアのハンターも、既にスパイ容疑で捕らえてありますから、大使が頼るとしたらルクスしかいないわけなんです。
「また面倒なこと考えたわね。でもさ、そんなことしなくても、レティセンシアの大使は、既にオーダーズギルドが監視してるんじゃないの?」
あ……。
「あ……」
大和様もですが、私もその可能性に思い至っていませんでした。
そうです、リカの言う通りです。
フィールであれだけのことをしたレティセンシアの大使を、監視もせずに放置しておくなんて考えられません。
必ずオーダーズギルドが、それも腕利きが派遣されているに決まっています。
「そうなの、マナ?」
「ええ。もしかしたら大使を通じて、マリアンヌ王女の救出に来る可能性があったから、護送されてくる数日前から監視を付けてるわ」
やっぱりですか。
王都はレティセンシアから数日の距離がありますから、私はその可能性はないと思っていたのですが、お父様やお兄様、お姉様は違ったんですね。
「ってことは、もしかしたら既に、陛下に報告が行ってるかもしれないってことか?」
「ない、とは言えないわね。だけど内容が内容だから、お兄様は自分で抱えてるかもしれないけど」
お兄様ならあり得ます。
なにしろご、自分が懇意にしているトライアル・ハーツのことなんですから、お兄様が誰にも話さず、ご自分で解決しようと考えてしまっても無理もないかもしれません。
「なら、ハンターズギルドへの依頼は止めておくべきか……」
「いえ、出しておいて。だけどトールマンにも伝えて、監視しているオーダーにも協力してもらいましょう」
「……いいのか?」
大和様は依頼を出すことを止めようかと考えられたようですが、お姉様は心を決められたようで、トールマンも巻き込もうと提案なさいました。
確かにオーダーが監視しているなら、ハンターがやって来れば怪しむでしょう。
ですが事前に伝えておけば、ハンターが大使の監視に加わったとしても、身元さえしっかりしていれば怪しむことはなく、逆に協力してくれるかもしれません。
「わかった。なら後で、ハンターズギルドに行ってくる。だけど、匿名でっていうのは変わらない」
「それでいいわ」
そして大和様はハンターズギルドに赴き、レティセンシア大使の監視依頼を出されました。
トライアル・ハーツ以外のハイハンターでという依頼に、最初は訝しんだヘッド・ハンターズマスターですが、私がレティセンシアのハンターに命を狙われたことをお伝えすると、納得して依頼を受理してくれましたから、詳しい説明をせずにすんで助かりましたね。
もちろん、後程しっかりとご説明して、そちらでもご理解していただきましたけど。
そして3日間、依頼を受けたハイハンターは、しっかりと目的を果たしてくれました。
ハンターがミスにかこつけて、自分達が監視していることを、不審に思われない程度に晒してくれたのです。
これも依頼の内容に含まれていましたし、指名依頼を受けてくれたハンターズレイド、いえ、ユニオン ライオット・フラッグもレティセンシアの横暴には憤慨していましたから、喜んで協力してくれたんです。
全てをお話ししていたわけではないのですが、ライオット・フラッグにはフィール出身のハンターやヒーラーがいたことも、指名依頼を出せた理由です。
その結果、本日トライアル・ハーツを呼び出し、ルクスの処罰を決めることになったというわけです。
そのためにトールマンやディアノスはもちろん、ヘッド・ハンターズマスターやライオット・フラッグも呼んであります。
もっともライオット・フラッグには申し訳ないのですが、しばらくは控えてもらうことになっているのですが。
「陛下、急な呼び出しということですが、何かありましたか?」
いつもならトライアル・ハーツが登城した場合、お兄様の私室に通されることが多いのですが、今回は謁見の間です。
謁見の間でというのが初めてというわけではありませんが、滅多にないことには違いないので、トライアル・ハーツのリーダー バウトも訝しんでいる様子ですね。
「ああ。緊急に確認しておきたいことができてな」
「緊急、ですか?それはいいんですが、ではなぜ、こんな厳重な警戒を?」
「……バウト、お前は本当に気が付いていないのか?」
「何をでしょうか?」
本当に気が付いていないみたいですね。
いえ、気が付いているのでしょうが、仲間を疑いたくないと思っているのかもしれません。
あの日、マルカお義姉様に暴言を吐いたルクスを止めるために、剣を向けてしまった負い目もあるのかもしれませんね。
「いや、いい。私が確認しておきたいのはルクス、お前についてだ」
「……何でしょうか?」
ルクスがビクッと肩を震わせました。
ここで名前を呼ばれるとは、さすがに思っていなかったでしょうからね。
「オーダーズギルド、並びにハンターズギルドから報告があった。ルクス、お前はこの数日で、2回もレティセンシアの大使と会っていたそうだな。それも、バウト達には内密に」
驚くルクスやトライアル・ハーツですが、対照的にリーダーのバウトをはじめとしたハイクラスは、顔を伏せただけです。
なにしろルクスの仕出かした事の後始末に奔走していたのは、バウトをはじめとしたハイクラスの5人なのですから、ルクスが不審な動きをしていれば、警戒の1つもするでしょう。
「やはりバウト、お前達は気が付いていたか」
「……申し訳ありません。ですが会っていたのが、レティセンシアの大使とは知りませんでした」
報告によればレティセンシア大使館ではなく、貴族の屋敷だったそうですから無理もありません。
いかにオーダーズギルドやハンターズギルドが優れていても、屋敷の中にまで入り込むのは難しいですから。
「仲間を信じたいと思うお前の気持ちは、私にもよく理解できる。本音を言えば、私だってこんなことはしたくなかったからな。だがルクスがレティセンシア大使から受け取った物を考えると、とてもではないが野放しにはできない」
ライオット・フラッグは魔化結晶の実物を見たことがありませんが、もう1つの物は知っています。
なにせ王都でも、何度か発見されたことがあるのですから。
「レティセンシア大使から、ルクスが受け取った物、ですか?」
「そうだ。1つは魔化結晶。魔物に使うことで異常種や災害種に進化させることができる、アバリシアが作り出した結晶だ」
この説明には、さすがのトライアル・ハーツでも顔色を変えざるを得ません。
レティセンシアはアバリシアからもたらされたこの魔化結晶をフィール周辺の魔物に使い、数々の異常種や災害種を産み出し、アミスターに放棄させた上で、自分達が支配しようと企んでいたのですから。
「そ、そんな物を……」
「ルクス、あんた……!」
バウトだけではなく、全員の目に怒りが宿っているのがわかります。
魔化結晶によってもたらされた被害は、Gランクハンターを含むフィール出身のハンター全員の命だけではなく、
幸い、大和様とプリムお姉様のおかげで最悪の事態になる前に解決できましたが、もしお2人がフィールに来て下さらなかったらフィールの放棄だけでは済まず、国が傾く可能性すらありました。
そんなものを受け取るなど、裏切り以外のなにものでもありません。
「そしてもう1つが、隷属の魔導具だ。あれほどマナに固執していたお前のことだ、マナに隷属の魔導具を使い、無理やり連れ去ろうと考えていたのだろう?」
そう、ルクスがレティセンシア大使から受け取ったもう1つの物とは、隷属の魔導具です。
それも身請契約をする際の物ではなく、強制的に隷属させる、アミスターでは不法奴隷を産み出す物として唾棄されているような代物です。
もちろん、所持しているだけでも重罪です。
そこまで言われると、ルクスの顔から表情が無くなりました。
証拠はルクスのストレージの中でしょうが、隷属の魔導具、そして魔化結晶は禁制品として、
ですから
既にオーダーや大和様がスキャニングを使い、ルクスのストレージに隷属の魔導具があることも確認していますから、言い逃れもできません。
「バウト、何か言いたいことはあるか?」
「……1つだけ。俺はどうなっても構いません。ですがレイドの者達には、どうか寛大な処置をお願い致します」
深く首を垂れるバウト。
禁制品を所持しているというだけでも問題ですが、さらに魔化結晶まで所持しているのですから、トライアル・ハーツも処罰を免れません。
「私としても、そんなことをするつもりはない。こんな些事で友を失うなど、あってはならないからな」
お兄様ならそう仰るでしょうね。
実際トライアル・ハーツには、命を助けてもらったこともあるのですから。
と言っても狩りの最中ですから、別に他国の刺客に襲われたわけではありませんよ。
ハンターになられたばかりの頃は、随分と無茶なことをされていたそうですからね。
「陛下……」
「だがルクスは、そういうわけにはいかないぞ?」
「……はい」
力なくバウトとトライアル・ハーツが頷きます。
「……ふざけるなよ。どいつもこいつも、俺の邪魔ばかりしやがって!」
突然、ルクスが激昂しました。
いきなり立ち上がったかと思うと、ストレージから魔化結晶を取り出し、驚いたことに自分の胸に当てているではありませんか。
いったい何をしようというのですか!?
「ここで使うことになるとは思わなかったが、ここは天樹城の謁見の間。つまりアミスターの中枢だ!ここでラインハルト達を殺せば俺は英雄になれるし、マナだって手に入れられる!誰にも邪魔なんかさせてたまるか!」
魔化結晶が光ったと思ったら、ルクスの体内に取り込まれてしまいました。
その途端、すごい魔力がルクスから放たれ、すぐ近くにいたトライアル・ハーツのノーマルハンター達は、それだけで意識を失ってしまっています。
なんてすごい魔力……。
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