王都での結婚儀式

 プリスターズギルドに着くと、1台の獣車が止まっていた。

 俺達の獣車が停止すると同時にドアが開いて、中から人が降りてきたんだが、その人はアソシエイト・オーダーズマスターだ。

 今日、娘のミーナと結婚させていただくわけなんだから、お父様を招待しないわけがないでしょ?


「良い天気だ。結婚にはうってつけと言ってもいいだろう」

「おはようございます、アソシエイト・オーダーズマスター」

「ああ、おはよう。陛下、殿下方、おはようございます」

「おはよう。だが今日は、互いに新婦の親族だ。奥方達も、気を楽にしていてほしい」

「ありがとうございます。大和殿、紹介しておく。レックスの母でエルミナ、ミーナの母でアンナだ」


 ああ、兄妹なのに微妙に似てないと思ってたら、母親が違ったのか。

 どっちもヒューマンだけど、エルミナさんの方はクラフター、アンナさんの方はヒーラーなんだとか。

 あれ?お義兄様は?


「レックスは自分のことで手一杯でな。妹の結婚だというのに、薄情な奴だ」

「仕方ないだろう。明日にはフィールに戻ることになっているし、ミューズとのこともあるのだから」


 あー、そっちで一杯一杯ってことですか。

 確かにミューズさんもフィール支部に移動が認められたけど、引継ぎとかもあるから、実際に赴任してくるまで1ヶ月ぐらいかかるらしい。

 その間にローズマリーさんと結婚して、ミューズさんを迎え入れる準備を整えておくって、昨日の立食パーティーで言ってたな。

 幸いにもレックスさんは、ミーナと一緒に一軒家を借りていたし、そこそこの広さはあるから、特に問題はないだろう。

 だけど婚約の短剣も準備しなきゃいけないし、オーダーズマスターとサブ・オーダーズマスターが結婚なんてことになったら、新しいサブ・オーダーズマスターを任命しなきゃいけないらしいから、そっちの方でも手続きとかが必要なんだとか。

 幸いにもイリスさんがPランクオーダーになってるし、何より今回一緒に王都まで来てるわけだから、ローズマリーさんの後任を押し付けるつもりらしいが。


 俺はというと、マナとユーリにも婚約の短剣を渡してある。

 ユーリとの婚約はほとんど確定してたから先に打っておいてもらったんだが、余計な気を利かせたエドが何本か余分に作って俺に渡してきやがったもんだから、不本意ながらもマナに渡せる短剣もあったりするんだよ。

 しかも、まだ残ってるんだぞ?

 あいつは俺を何だと思ってやがるんだ?


 まあ、婚約してすぐに短剣を貰えるとは思ってなかったみたいだから、マナはもちろん、ユーリにもすげえ喜ばれて、俺も嬉しかったんだが。


 それはそれとして、イリスさんの旦那さんも大変なことになるんだろうなぁ。

 なにせ奥さんがバトラーズマスターとフィール最強オーダーで、さらにそのオーダーがサブ・オーダーズマスターになるかもしれないんだから。

 確かイリスさんの旦那さんは、普通の農民だったはずだ。

 一応Sランクトレーダーで、フィールの畑を管理している人の1人ではあるんだが、地味で大人しめの人って聞いてるから、どうやって出会って結婚までしたのかはフィールでもトップクラスの謎となっている。


 アミスターの王都フロートにあるプリスターズギルドは、荘厳で立派な石造りの建物だった。

 印象的には古代ギリシャ風って感じだな。

 フィールのプリスターズギルドも立派だと思ったが、さすがは王都ってとこか。


「ふわぁ……すごいですねぇ」


 レベッカも王都のプリスターズギルドに来たのは初めてだから、目を丸くして驚いている。


「ここって、確か父なる神以外の女神様の像があるんですよね?」

「ええ。だからってわけじゃないけど、一部は一般開放もされているわ」


 プリスターズギルドは神殿なんだから、ギルド登録者や信徒以外お断りなんてことは、さすがにできないよな。


 他にも簡単にプリスターズギルドの案内をしてもらいながら、俺達は中に入っていった。


「ようこそいらっしゃいました、新王陛下、マナリース殿下、ユーリアナ殿下、エリス殿下、マルカ殿下」

「ヘッド・プリスターズマスター、本日はよろしくお願いする」


 受付に要件を告げると、すぐにオーガのヘッド・プリスターズマスター ニコラス総司教がやってきた。

 Mランクプリスターの男性でもあって、アミスターのプリスターズギルドのまとめ役でもある。


 昨日の式典や立食パーティーにも参加してたから、俺達が今日結婚の儀式を行うことは、しっかりと通達済みだ。


「プリムローズ様、ウイング・クレスト様方、トライアル・ハーツ様方、儀式の間へご案内致します」


 今回はミーナとフラムだけじゃなく、マナとも儀式を行う。

 だからヘッド・プリスターズマスターが取り仕切ってくれることになったんだが、マナに言わせれば俺の結婚って時点で、ヘッド・プリスターズマスターがやってくれることは確定してるんだとか。

 マジ勘弁なんですが?


 儀式の間までの僅かな時間、ニコラス総司教はラインハルト陛下と何やら話をしてたみたいだが、俺はそんなことを聞いているような余裕はない。

 結婚の儀式は二度目だが、今日は一度に3人とだし、親族の方もいらしてるわけだから、緊張するなっていう方が無理だ。


 王都のプリスターズギルドにある儀式の間は、フィールのプリスターズギルドより一回り以上も広く、しかも全部で12部屋あるそうだ。

 多い時だと1日に10件以上の結婚儀式があるそうだし、同時刻も多いから、どうしても儀式の間の数が必要になるんだとか。

 他にも各宗教の儀式も行われるから、部屋の数はあっても困らないらしい。

 ちなみにバシオン教国教都エスペランサにある総本部は、王都より一回り小さく、儀式の間も6部屋しかないそうだ。


「それでは大和様は結婚の女神像の正面に、プリムローズ様は大和様の右側にお立ち下さい」


 はいはいっと。

 儀式の進行はニコラス総司教がやってくれるが、今回は重婚儀とやらになるから、俺はもちろん、プリムも俺と一緒に最後までってことになっている。


 2人目以降の場合は、最初の妻、初妻ういづまっていうそうだが、その初妻も一緒に立って、誓いの言葉を告げるんだそうだ。


「最初はミーナ様からですね。大和様の左側にお立ち下さい」

「は、はい!」


 3人の中で最初に儀式を行うミーナが、ガチガチに緊張している。

 婚約した順番はミーナ、フラム、マナではあるんだが、ミーナもフラムもお姫様より先に結婚するのは恐れ多いってことでマナを最初に推してたんだが、マナはマナで後から入ってきたんだから、ずっと待っていた人達より先に結婚するわけにはいかないって言って、ひと悶着あったんだよ。

 結局ラインハルト陛下も取り成してくれて、婚約した順番でってことに決まったんだが、俺としては順番に拘りはない。

 結婚することに変わりはないからな。


「それでは、始めさせていただきます」


 プリスターズマスターがそう宣言すると一礼し、結婚の女神像の前に進んだ。


「汝、新たな妻を娶りし者、ヤマト・ハイドランシア・ミカミ」

「はい」

「汝、新たな妻となりし者、ミーナ・フォールハイト」

「はいっ」

「汝、新たな妻を迎え入れし者、プリムローズ・ハイドランシア・ミカミ」

「はい」

「汝ら、聖なる女神へ祈りを捧げたまえ」


 ニコラス総司教の言葉に従って、3人で女神像に祈りを捧げる。


「ミーナ・フォールハイト、汝が彼の者の新たな妻になることを、新たなる名と共に女神像に告げよ」

「私ミーナ・フォールハイトは、ただ今よりミーナ・F・ミカミとなることを誓います」


 結婚の女神像が光に包まれ、ミーナのライブラリーが表示された。

 そこにはたった今告げた名前が表示され、俺との結婚が正式に結婚の女神に祝福されたことを示していた。


「ミーナ・F・ミカミ、汝はこれより、新たな妻を迎え入れし者となる」

「はい」


 プリスターズマスターの宣言に短く答えたミーナが、プリムの隣に移動し、フラムが俺の隣に立った。

 ヘリオスオーブじゃ普通のことなんだが、俺からしたら重婚自体が初体験だから違和感あるな。


「汝、新たな妻を娶りし者、ヤマト・ハイドランシア・ミカミ」

「はい」

「汝、新たな妻となりし者、フラム」

「は、はいっ」

「汝ら、新たな妻を迎え入れし者、プリムローズ・ハイドランシア・ミカミ、ミーナ・F・ミカミ」

「はい」

「はいっ」

「汝ら、聖なる女神へ祈りを捧げたまえ」


 なるほど、これが重婚儀なのか。


「フラム、汝が彼の者の新たな妻になることを、新たなる名と共に女神像に告げよ」

「私フラムは、ただ今よりフラム・ミカミとなることを誓います」


 ミーナ同様、フラムも光とともに祝福されて、ライブラリーが開いた。

 それを確認してから、ニコラス総司教がフラムをミーナの隣に移動させ、最後にマナが俺の隣に立つ。


「汝、新たな妻を娶りし者、ヤマト・ハイドランシア・ミカミ」

「はい」

「汝、新たな妻となりし者、マナリース・レイナ・アミスター」

「はい」

「汝ら、新たな妻を迎え入れし者、プリムローズ・ハイドランシア・ミカミ、ミーナ・F・ミカミ、フラム・ミカミ」

「はい」

「はいっ」

「はいっ」

「汝ら、聖なる女神へ祈りを捧げたまえ」


 もしかしてこれって、嫁が増えるたびに呼ばれる名前が増えるってことか?

 今回の儀式で俺の嫁さんは4人になるが、次に結婚することになるのは、多分リディアとルディアだ。

 できればバレンティアのプリスターズギルドで儀式をしたいが、難しいようならフィールか王都になるだろう。

 それは仕方ないんだが、そのたびに妻を迎え入れし者の人数も増えるってことだよね?

 祈りを捧げながら、俺はそんなことを考えていた。


「マナリース・レイナ・アミスター、汝が彼の者の新たな妻になることを、新たなる名と共に女神像に告げよ」

「私マナリース・レイナ・アミスターは、ただ今よりマナリース・A・ミカミとなることを誓います」


 マナもライブラリーが開き、光の祝福を受ける。


「以上で、結婚の儀式は終了となります」


 ニコラス総司教に促され、俺達以外の全員が儀式の間を出ていった。

 ヘリオスオーブじゃ婚儀の直後に、儀式の間で神官や参列者が声をかけることは、それが祝福の言葉であっても縁起が悪いとされているが、地球でも式の最中は厳かにって雰囲気があるから、分からんでもない。

 俺も近所の神社で結婚式を見たことがあるが、余計な声を掛けようとする人いなかったし、たまたま参拝に来た人達ですらそうだったからな。

 写真は撮りまくってたが。


「これで私達も、大和さんの妻になったんですね」

「はい。これからもよろしくお願いします、大和さん、みなさん!」

「急な話だったのに、受け入れてくれてありがとう」

「こっちこそ、改めてよろしくね」

「俺からも、改めてよろしく。そしてありがとう」


 これで俺は、正式に4人の嫁を持つことになった。

 まだ婚約者も4人いるが、早くても1年近く先だから、それまではプリム、ミーナ、フラム、マナが俺の家族ってことになる。

 地球、日本にいる家族とはもう会えることはないが、それでも新しい家族ができたんだから、俺としても嬉しい。


 だからってわけじゃないんだが、マナとミーナには、それぞれの家名を名前に残して、家族を大切にしてもらいたいって意味を込めている。

 ミーナのFはフォールハイト、マナのAはアミスターの略だ。

 フラムは元々家名がなかったから仕方なかったんだが。


 もっとも、名前を賜ることもあるし、マナの場合は家名そのものが変わる可能性があるから、その場合はその都度相談ってことになってる。

 万が一の話だが、終焉種討伐が公表されるようになったら、俺も家名が変わるかもしれないとは言われてるんだけどな。


 俺は1人ずつ、プリムから結婚した順番に抱き締め、もう一度感謝の言葉を贈ることにした。


「ありがとう、プリム、ミーナ、フラム、マナ。これからもよろしくな」

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