獣車の使用感
多少のトラブルはあったが、授与式典と立食パーティーが終わり、一夜が明けた。
俺のオーダー登録は式典後にグランド・オーダーズマスターのトールマンさんがやってくれたから、既に名実ともにOランクオーダーになっているし、ミーナもアウトサイド・オーダー登録をしてもらっている。
ヤマト・ハイドランシア・ミカミ
17歳
Lv.71
人族・エンシェントヒューマン
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:ミスリル(M)
オーダーズギルド:アミスター王国 フロート アウトサイド
オーダーズランク:オリハルコン(O)
ミーナ・フォールハイト
17歳
Lv.31
人族・ヒューマン
ユニオン:ウイング・クレスト
オーダーズギルド:アミスター王国 フロート アウトサイド
オーダーズランク:ブロンズ(B)
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:ブロンズ(B)
こんな感じで、アウトサイド・オーダーってのも分かるようになってる。
そこでミーナのオーダーズライセンスを見たディアノスさんが、Bランクオーダーになったミーナにすごく驚いてたが。
今日はマナ、ミーナ、フラムと、王都のプリスターズギルドで結婚の儀式を行い、その後はトライアル・ハーツとイデアル連山に入ってすぐの所で狩りをする予定になっている。
俺はいつも通り、プリム、ミーナ、フラム、リカさん、リディア、ルディアに囲まれて、天樹城の一室で目が覚めた。
マナとは結婚してからってことだから、今晩が初夜になるな。
ユーリもマナと一緒を希望してるから、ユーリもなんだが。
言いたいことは分かるが、婚約者同士が結婚前に関係を持つことは、未成年でも珍しくないんだよ。
実際、リディアとルディアだって、成人までは1年近くあるんだからな。
などと心の中で言い訳をしつつ、朝飯を食ってからプリスターズギルドに向かう俺達。
とは言っても、トライアル・ハーツのハイクラスは王代陛下が打ってくれた武器を下賜されるってことで、朝早くから登城してきてたし、ラインハルト陛下達も天樹城に住んでるんだから、既に全員揃ってるわけだが。
プリスターズギルドに着いたらすぐに儀式を行えるから、これはこれでいいか。
ちなみに王代陛下は、トライアル・ハーツに武器を下賜してから、すぐに爆睡体勢に入られたらしいぞ。
国の事はいいのかと思ったら、元々今日は休暇だったそうだ。
クラフターズギルドが合金をアミスター中に公表して、同時にオーダーズギルドがハンターズギルドにロック・ボアの革の収集依頼を出すことになってるし、さらには娘の結婚だっていうのに、それでいいのかとも思うんだけどな。
俺達ウイング・クレストはジェイドとフロライトが引く獣車で、トライアル・ハーツはバトル・ホース2頭立ての獣車で移動しているんだが、今回は乗ってみたいってことでラインハルト陛下、エリス殿下、マルカ殿下も俺達の獣車に同乗されている。
王家の獣車も同行しているが、これは結婚の儀式の後にユーリ、リカさん、アプリコットさん、エド、マリーナ、フィーナ、先王妃になられたロエーナ様、サザンカ様を天樹城に送り届けるためでもある。
リカさんは天樹城で、フィールやアマティスタ侯爵領についての話し合いがあるし、エド達はマナのアーマーコートを作るために、陛下の工房を借りさせてもらうことになったそうだ。
フィーナは木工師だが、エド達の手伝いも何度もしたことがあるから、今回はサポートに徹するんだとか。
そしてユーリだが、彼女も俺達と一緒に、フィールに行くことを希望している。
結婚前にそれはどうかとも思うんだが、本人としては絶対に譲れないらしく、王代になられたアイヴァー陛下を説得する気満々だ。
「う~ん、ヒポグリフが引く獣車って、安定してる感じだねぇ」
「そうね。バトル・ホースも悪くないし、それが標準ではあるんだけど、やっぱり力強さが全然違うわ」
エリス殿下とマルカ殿下は、さっそく満喫のご様子だ。
「それは否定しないが、この獣車はマナとミーナのバトル・ホースが引くこともあると思うぞ。やはりヒポグリフなのだから、空を飛べなければストレスになるだろうからな」
さすがにラインハルト陛下は分かっていらっしゃる。
ジェイドは文句の1つもなく獣車を引いてくれるが、フロライトは空を飛べないこともあって、あまり引きたがらない。
こないだプリムに怒られてからは、それなりに積極的に引いてくれるようにはなってるんだが、それでもあんまり好きじゃないから、すぐに獣車から離すことになる。
ジェイドだって自由に空を飛ばせると喜ぶから、さすがに毎日引いてもらうってのは抵抗があるな。
「今後は私のスピカと、ミーナのブリーズが引くことが多くなるでしょうね。バトル・ホースは飛べないし、獣車を引くことの抵抗もほとんどないから」
それはグラントプスも、似たような感じらしい。
「フロライトはあんまり引きたがらないし、ジェイドも長時間引かせると不満に感じるだろうから、長距離を移動する場合はそうした方が良いかもしれないわね」
「実際、帰りは獣車ですからね」
ジェイドとフロライトに2人ずつ、シリウスに5人乗って飛べるとはいえ、さすがに全員は乗れないから、そうしてもらうしかないか。
幸いバトル・ホース用の獣具は牧場で売ってるから、獣車を引くための道具ぐらいはすぐに手に入れられるしな。
バトル・ホースとグラントプスは、どちらも騎獣としても獣車を引かせる車獣としても優秀で人気も高いんだが、力はグラントプスの方が強く、速さはバトル・ホースの方が上だ。
獣車を引く場合は、グラントプスなら1匹で問題なくても、バトル・ホースなら2匹必要になるからグラントプスの方が好まれているが、騎獣としてなら馬に近く、早く走れるバトル・ホースが人気が高い。
とは言っても、結局は好みや相性の問題もあるから、最終的にはそこに行き着くそうだが。
現在俺達の獣車には、ミーナのブリーズ、マナのルナ、スピカ、シリウスも同乗している。
召喚魔法士でもあるマナは、カーバンクルのルナ、バトル・ホースのスピカ、アイス・ロックのシリウスの3匹と召喚契約を結んでいる。
ルナはマナが小さい頃に、曾祖母のサユリ様から贈られて、ずっと一緒に過ごしてきた一番の相棒だそうだ。
カーバンクルらしく額には紅い宝石、リスのようなフサフサの尻尾をした、翡翠色の体毛を持つ小型犬ぐらいの大きさの魔物だが、それでもBランクモンスターだってことだから、マナがハンターになったばかりの頃は何度も命を助けられたこともあるって聞いてる。
バトル・ホースのスピカは、ホーリー・グレイブと受けた依頼でソフィア伯爵の領地に行った際、互いに一目惚れ状態で契約したんだとか。
魔力の相性だけならルナよりも良いらしく、スピカはCランクモンスターのバトル・ホースでありながら、Bランクモンスターですら倒すことができるようになったって話だから、もしかしたら近い内に進化するかもしれないらしい。
そしてアイス・ロックのシリウスは、3年程前にトラレンシアのゴルド氷河近くで怪我をしているところを助け、その縁で契約した
別に体が氷でできてるわけじゃない。
水色の羽毛を持ち、全長5メートル弱、翼を広げると10メートル以上になる大きな魔物で、最大で5人までを乗せて飛ぶこともできるため、契約してからはシリウスに乗ることも多くなったんだとか。
以上の3匹も加わったことで、獣車内厩舎は早くも手狭になってきた感がある。
特にシリウスがデカい。
翼を広げられると3分の1近くが埋まってしまうから、何か方法を考えなきゃだな。
「ヒポグリフ2頭立てというのも凄いが、私としてはこの内装が目を引くな。まさかミラーリングの30倍付与ができるとは」
「確かにねぇ」
獣車の内装にミラーリングを付与させ、内部空間を拡張する方法は、高値ではあるが一般的でもある。
だがミラーリング付与は10倍が限界とされていたから、広々とした空間を演出するためには、どうしても獣車本体を大きくするしかなかった。
実際、王家所有の獣車は俺達の獣車より一回り大きいが、広さは240平米と半分ぐらいだからな。
「えっと、正確に検証したわけではないのですが、どうやらハイクラスの魔力があれば20倍から30倍、エンシェントクラスなら50倍以上でも付与することができる可能性がでています」
獣車のミラーリング付与に一番詳しいのは木工師のフィーナだから、緊張しながらも頑張って説明してくれている。
「そうなのか?ということは、この獣車のミラーリングは大和君が?」
「いえ、俺はミラーリング付与なんてできませんから、フィーナのサポートとして、魔力を貸したぐらいですね」
それでもフィーナは魔力を使い切ってしまって、翌日まで何もできなくなってしまったんだが。
「うわ~、それは気の毒でしょ。大丈夫だったの?」
「は、はい。ですがそのおかげで、ミラーリングをもっと広くできることがわかりましたから、私としても勉強になりました」
「それは良い話を聞けたって言いたいんだけど、ハイクラフターなんてそんなにいなかったわよね?」
確かにミラーリングで20倍付与ができれば、さらに空間を広く使えるからな。
王家の獣車は、獣車を引く従魔を中に入れることができないが、20倍付与だと広さが今の2倍になるから、獣車の中で寝かせることもできるようになる。
道中の安全を考えると、獣車内にも厩舎はあった方がいいのは間違いない。
もっとも、王家や貴族が夜営するような事態は、滅多にあり得ないんだが。
「ハイクラフターか。私が知っているのは3人程だな」
「私もね」
俺はハイクラフターに心当たりはないが、ラインハルト陛下とマナはそうじゃないのか。
まあ、ヘリオスオーブ在住1ヶ月程度の俺じゃ、比べるべくもないんだが。
「大和にも話はしたでしょ?サユリ様よ」
プリムが教えてくれた。
ああ、王家に嫁いだ
そういや、確かにOランククラフターだって聞いた覚えがあるぞ。
だけど現国王の曾祖母ってことになると、いくらクラフターとは言っても気軽に頼むのは難しいんじゃないか?
「普通にクラフターとしての依頼を出せば、喜んで受けてくれるわよ。ただ問題は、試してもらいたくても、肝心のひいおばあ様が王都にいらっしゃらないということね」
いないのか?
Oランクヒーラー兼Oランククラフターで、ヒーラーの少ない町や村を行脚するのがライフワークだとは聞いているが、今もその旅に出ていると?
それは残念だ。
「俺としては同郷の人だし、できれば会ってみたかったんだけどな」
「それは曾祖母殿も、同じ気持ちだろうな。なにせ30年程前にトラレンシアのカズシ様、バシオンのシンイチ様が相次いでお亡くなりになってから、最後の
そうらしいんだよな。
ラインハルト陛下やマナ達のひいおばあちゃん サユリ・レイナ・アミスター様は、御年107歳だ。
見た目は20代でも十分通用するほどの若づ……ゴホン、純朴そうな容姿をしているそうだが、これもハイクラスに進化した恩恵だな。
21歳の頃にヘリオスオーブに来てしまったそうだが、3年後に当時の国王陛下と結婚し、その5年後にはハイヒューマンに進化したんだとか。
王妃となってからは同妻とともに国王陛下を支え、公衆衛生の改善を目的としてヒーラーズギルドの設立にも尽力されたそうだ。
当時は王妃だということで、グランド・ヒーラーズマスターへの就任は辞退されているし、今もそのつもりはないそうなんだが、現在のグランド・ヒーラーズマスターはサユリ様の直弟子だって聞いてるな。
「あたしも、久しぶりにお会いしたかったんだけどね」
「俺は微妙だな」
マリーナはけっこう懐いてる感じで、エドは苦手に思ってるっぽい?
まあ同じクラフターだし、昔から王家の方々と面識もあったんだから、サユリ様だけにお会いしてないってのも変な話か。
「君達の滞在中に帰って来られるかは、微妙なところだね」
「今、どこにおられるのかも分かりませんからね」
サユリ様にも懇意にしているハンターがいるから、そのユニオンに護衛してもらってるそうなんだが、急患が出たと聞けば予定を変更してそこに向かうし、気分次第で進路を変えることもあるそうだから、マジで現在の居場所は不明らしい。
いや、急患はわからなくもないんだが、気分次第で進路変更って、なんかヤバくね?
「いくらハンターが護衛してくれてるって言っても、おかしいとは思わなかった?」
「何が?」
「オーダーズギルドからの護衛はいないのよ?仮にも王家の方なんだから、エスコート・オーダーぐらいいてもおかしくないでしょう?」
あ、そういやそうだ。
ラインハルト陛下はまだ仮即位って形だが、それでもサユリ様は3代前の王妃様になる。
そんな方にオーダーズギルドが護衛を派遣しないってのは、普通にあり得ない事態だ。
「理由としては、護衛してくれてるハンターが、ひいおばあ様に幼い頃から面倒を見てもらっていた孤児達だってこと、ひいおばあ様ご自身の戦闘力が高いから、護衛の意味が薄いってことかしらね」
「そうなんですか?」
リディアも俺と同じことを感じたか。
孤児達の面倒を見てたってのはいいんだが、その戦闘力ってのはなんぞや?
「曾祖母殿のレベルは58だし、今から武闘士としてハンター登録をしても、十二分にやっていけるぐらいの腕をお持ちなんだよ」
まさの武闘士かよ!
いや、サユリ様の生まれた時代背景を考えると、第三次大戦直前ぐらいのはずだから、護身術の1つぐらいは覚えてても不思議じゃないか。
なにせお隣の国の在日外国人が、毎日のように事件を起こしてたらしいからな。
っつーかレベルも58って、グランド・オーダーズマスターよりも上かよ。
ハンターだって、同レベルの人は少ないんじゃないのか?
「少ないどころか、アミスターにはいないな。ヘリオスオーブ全体で見ても、数人程度だろう」
確かに確実に上だって言えるのは、Pランクのハイハンターぐらいか。
さすがにヒーラー兼クラフターが、アミスター最高レベル保持者だったとは思わなかったな。
「実際に戦ったら、ハンターやオーダーが勝つだろうけどね」
「まあ、さすがに実戦経験が違い過ぎるだろうから……いや、お歳を考えれば、それなりの戦闘経験ぐらいはありそうだな」
そうじゃなかったら、ハイヒューマンになんて進化できないだろうからな。
そろそろプリスターズギルドに着くが、ミーナやフラムはけっこう待たせてしまったかもしれない。
緊張してるのは分かるが、同時に嬉しそうにしてくれてるのも分かる。
俺も嬉しいぞ。
「正直言うと、出会って数日で結婚するなんて思ってなかったのよね」
マナが心中を吐露するが、気持ちは分からんでもない。
「それはそれでしょ。でも良い男を捕まえたんだから、絶対に離しちゃダメよ?」
「そうですよ。自分の好きな人と結婚できることは、すごく幸せなことなんですから」
マルカ様とエリス様が、ラインハルト陛下の腕を取りながらそんなことを言ってくる。
幸せオーラが溢れているが、それなら俺達だって負けちゃいませんぜ?
「少々照れくさいが、私としても2人と結婚できたことは嬉しいよ」
人の獣車の中で、甘々な雰囲気を醸し出す新王夫妻。
仲が良いのは素晴らしいことだし、俺も人の事を言えた義理じゃないんだが、それでも砂糖吐きそうだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます