立食パーティー
Side・レベッカ
はぁ~、緊張したよぉ。
私達は何もしてないんだけど、それでも陛下の御前だけじゃなく貴族までいっぱいいたんだから、ただの村娘には緊張するなっていう方が無理なんだけどぉ。
授与式典も、色々あったよぉ。
陛下は王太子様に、突然王位を譲っちゃっうんだもん。
後で教えてもらったんだけど、こんな風に突然な譲位って、普通なら絶対にありえないんだってぇ。
その原因を作ったのが、途中で追い出されてたレティセンシアの大使。
アミスターを散々田舎者って馬鹿にしてたから私も腹立ったんだけど、王位を譲られたラインハルト陛下、そして大和さんがボッコボコにして、お城から追い出されちゃったから、ザマアミロって思ったよぉ。
さすがに大和さんが、翼まで生やして脅しをかけるなんて思ってなかったけどぉ。
「これ、美味いなぁ」
一緒にいるラウスが呑気にお料理を食べてるけど、これでも始まった直後は警戒してたんだよ?
だけどパーティーが始まってすぐに、大和さんが自分の弟子に勝手なことは許さないって明言しちゃったから、貴族達はみんな尻込みしちゃってるんだぁ。
実際、レティセンシアの大使を追い出した時に、翼族でもないヒューマンなのに翼を生やしちゃったし、ただでさえとんでもない魔力がさらにとんでもないことになってたから、そうなる気持ちも分かるんだけど。
だからラウスに声を掛けたい貴族は何人かいるっぽいんだけど、近寄るかどうかですごく悩んでる感じかなぁ。
「あ、ラウス君。レベッカちゃんも」
「何食べてるの?」
「フレイム・バッファローのワイン煮込みです。ブルーレイク・ブルより中身が詰まってるみたいだから、すげえ美味いんですよ」
さっきまでバレンティアの大使さんとお話してたリディアさんとルディアさんが、ようやく解放されて、お料理を取りにきたみたい。
飲み物を取りに行く時に、チラッとお話の内容が聞こえてきたんだけど、エンシェントヒューマンと婚約したことをすごく喜んでたなぁ。
リディアさんとルディアさんのお父さんだけじゃなく、竜王様にもお知らせしないとって言ってたよ。
「あの人、相変わらずよね」
「国の大使なんだから、仕方ないところもあるけどね」
あれ?知り合いだったんですかぁ?
「あの人、近衛竜騎士なんだよ」
あー、近衛竜騎士さんなんだぁ。
私が知ってる限りだと、確か近衛竜騎士はロイヤル・オーダーと同じ、王様とかの身辺警護をする騎士で、多くがワイバーンとか空を飛べるドレイク種と契約してる、一騎当千の騎士でもあったはず。
「よく知ってるわね。だけど中には、ドラゴニアンと結婚してる人もいるわよ。私達のお父さんもそうだから」
そうなの?
「というか、あたし達のお母さんってドラゴニアンだよ。言ったことなかったっけ?」
そうだったの!?
っていうか、初耳ですよ!
でもドラゴニアンって、寿命がエンシェントクラスより長いから、バレンティアの聖山から出ないって話じゃありませんでしたかぁ?
「それも正解なんだけど、女性しかいない種族なんだから、子供はどうするのって話になるでしょ?」
そう言われると、確かにそうだよね。
ドラゴニアンが生む子も、両親のどちらかと同じ種族になるんだけど、ドラゴニアンの方が生まれやすいんだって。
リディアさんとルディアさんはドラゴニュートの双子だから、珍しいケースになるそうだよぉ。
ドラゴニアンが生まれた場合は、すぐに聖山に預けられて、そこで暮らす決まりがあるらしいよぉ。
なんでもドラゴニアンは、普通の人どころかエンシェントクラスより長生きできるから、成長する速度もすごく遅いみたいで、人の中で暮らすのが難しいんだって。
「私達の姉がドラゴニアンだけど、見た目はまだ6歳ぐらいだから、妹って言った方がしっくりくるわね」
うわ~、それは確かにお姉ちゃんじゃなくて妹だよぉ。
リディアさんとルディアさんのお父さんって、2人のドラゴニアンと結婚した凄い人だってことで、バレンティアじゃ超有名人になっちゃってるんだとか。
お2人のお姉さんは、もう1人のお母さんが生んだんだって。
他にはバレンティアのPランクハンターも、双子のドラゴニアンと結婚してるって聞いたことあるけど、確かこっちは子供は生まれなかったはず。
ドラゴニアンの結婚適齢期は、驚きの80歳から130歳で、私達の感覚からすると17歳から25歳ぐらいってことになるみたい。
子供を生めるのは200歳ぐらいまでらしいけど、それでも普通の人からしたらすっごく長いよね。
その代わりすっごく妊娠しにくくて、子供を生めない人も珍しくないし、一度出産したら二度と妊娠しないそうだから、子供はドラゴニアンのみんなが大事に育ててるんだって。
ちなみに、後でリディアさんとルディアさんのお母さんが2人ともドラゴニアンだって大和さんにも教えたら、ドラゴニアンって卵から生まれるんじゃないのか!?ってものすごく驚いて、ルディアさんに引っ叩かれてたよぉ。
引っ叩いたルディアさんの方が痛そうにしてたから、さすがはエンシェントヒューマン……って言ってもいいのかなぁ?
そりゃドラゴニアンも竜族っていう人間の種族なんだから、卵なんて産むわけないじゃないですかぁ。
「きゃっ!」
「おっと、すまないな」
「いいえぇ、私も余所見してましたからぁ」
そんなことを考えながら歩いてたら、人にぶつかっちゃった。
食べ物とか飲み物とか持ってなくて良かったよぉ。
「ん?確か君達は、エンシェントヒューマンの……」
「はい、そうですけど?」
「ああ、悪い。俺はトライアル・ハーツのリーダー バウト・ウーズという。陛下に招待されて来たんだが、まさかあんなとんでもないことをやらかしてたとは思わなかったから、心の底から驚かされたよ」
トライアル・ハーツって、ホーリー・グレイブと並ぶアミスターのトップレイドの1つ!?
しかもそのトライアル・ハーツのリーダーって言ったら、レベル56のハイウルフィーだよぉ!
「あの話を聞かされた以上、恥ずかしくてトップレイドなんて名乗れないけどな」
そう言って苦笑いするバウトさん。
あの話って、もしかして終焉種のこと知ってるのかな?
「ここでトライアル・ハーツのリーダーに会うとは思いませんでしたけど、もしかして大和さんとプリムさんの本来の功績をご存知なのですか?」
「ああ、ラインハルト陛下から教えてもらった。さすがに信じられなかったが、証拠も見せてもらったからな……」
あー、エンペラーとエンプレスの魔石も見せてもらったんだぁ。
そりゃ信じられなくても、信じちゃうしかないよねぇ。
「しかも、ホーリー・グレイブの活躍も含めてだからな。とてもじゃないが、恥ずかしくてトップレイドなんて名乗れねえ」
気の毒になるぐらい、落ち込んできたバウトさん。
ごめんなさい、原因は全部、うちのお義兄ちゃんなんです。
「まあ、それはいいんだが、俺としては彼の弟子である君達が気になっていたんだ。陛下からも聞いたが、2人ともその年でBランクハンターなんだろ?しかもラウスの方は、俺やグランド・ハンターズマスターと同じウルフィーだから、興味の1つも出るってもんだ」
そういえばそうだった。
グランド・ハンターズマスターはエンシェントウルフィー、バウトさんはハイウルフィーだから、同じウルフィーのラウスに興味を持つのはわかる。
でもこんなところで、私達のハンターズランクをバラさなくてもいいじゃないですか!
話しかけようかどうしようかって躊躇ってた貴族さんの視線が、凄いことになってきてるよぉ!
「バウトさん、それはちょっと……」
「ん?あ~、悪い。これは俺の失言だったな。お詫びと言っちゃなんだが、しばらくは俺が風除けにならせてもらうか」
それはすごくありがたいです!
トライアル・ハーツは王様になったラインハルト陛下やお妃のエリス殿下が懇意にしてるレイドだし、マルカ殿下なんてバウトさんの妹さんなんだから、迂闊なことをしたら大変なことになっちゃうもんね!
「そういえばトライアル・ハーツといえば、明日は久しぶりに陛下達と一緒に狩りに行くって話じゃなかった?」
「ああ、行くよ。確かに突然の譲位だったが、突然過ぎたからこそ予定は変えたくないってことでな」
王様になって、すぐに狩りに行くんだ……。
トライアル・ハーツの人達だって、気が重いんじゃないかなぁ?
「心配しなくても陛下はハイエルフだし、エリス様もマルカも、それなりの実力はあるからな。それに狩りっていっても狙うのはロック・ボアだから、そんなに手間でもない」
ハイクラスだからこそ言える言葉だよねぇ。
だけどロック・ボアはCランクモンスターだし、ノーマルクラスだけのレイドでも狩れるんだから、ハイクラスがいれば楽なのは間違いないよぉ。
しかも陛下には、大和さんが贈った
「ロック・ボアってことは、もしかしてあの事も知ってるの?」
「知っている。正直オーダーが羨ましいし、ホーリー・グレイブも提供してもらってるそうじゃないか。俺達がフィールに行けば良かったと思った。もっとも、その代償がデカ過ぎるどころの話じゃなかったから、今じゃ微妙な気持ちだが」
確かにハイクラスには垂涎の品だけど、代償として終焉種のいるオーク集落に突っ込めなんて、リスクが高過ぎるどころの話じゃないですもんねぇ。
「幸い、トライアル・ハーツのハイクラスは6人だからな。王代陛下とグランド・クラフターズマスターが協力して、俺達用の武器を打ってくださっている。おかげで昨夜はほとんど徹夜だったらしいが、満足そうな顔してたし、特性を掴むこともできたって喜んでたな」
それは……いいのかな?
確かに
明日にはアミスター中のクラフターズギルドに通達されるって聞いたけど、それでも公表前に王都で持つのって、なんか危ないんじゃないかな?
既に持ってる人もいるし、私達なんて
「それはそれだな。俺達だって魔力を気にしなくてよくなるんだから1日でも早く欲しいし、王代陛下達だって満足してるんだから」
確かに王代陛下がお渡ししたってことは、その辺も考えられてるんだろうから、私が気にしなくてもいいのか。
ちなみに武器は、明日の朝下賜されるんだって。
「確かにね。じゃあ明日は、トライアル・ハーツは王都にはいないってこと?」
「近場にはいるが、何かあるのか?」
「いえ、明日はマナ様と大和さんがご結婚されますから、それは見届けられないのかと思いまして」
そうなんだよねぇ。
お姉ちゃんやミーナさんとも一緒に結婚の儀式をすることになってるけど、2人とも王女様と一緒に結婚するなんて、すっごく恐れ多いって言ってたよ。
だけどお姉ちゃんもミーナさんも、王都でミーナさんのご家族に挨拶するまではってことでずっと待ってたんだし、先に結婚するわけにはいかないってマナ様も言ってたから、それなら同時にってことで、トントン拍子で話が進んじゃったんだよぉ。
「さすがに見届けるさ。俺もお祝いしたいからな。なにせあの
マナ様、王都じゃすごい人気だって話ですしねぇ。
お姫様なのに誰にでも気さくに話かけられてるそうだし、護衛依頼だって受けたことがあるって聞いたよぉ。
お姫様に護衛されるなんて、依頼者が気の毒になる話だけど。
「で、その妬みや嫉みの矛先は、大和さんになるってことなんですねぇ」
「それぐらいは仕方ないだろ。さすがに手を出すような馬鹿はいないと思うがな。エンシェントヒューマンにケンカ売るなんて、自殺志願者と勘違いされても仕方ねえ」
それには同感ですぅ。
「ん?どうやら痺れを切らした輩がいるみたいだな」
「え?」
ああっ!
何人かの貴族が、ラウスに話しかけながら、地味に細かく移動しつつもどっかに連れて行こうとしてる!
動きがさりげないから、ラウスってば気が付いてないよ!
「誰かと思ったら、モントシュタイン侯爵かよ」
誰それ?
ふんふん、王都のすぐ南の海沿いにあって、バシオン教国への船も出てるんだ。
だけどそのさらに南に、
だけど肥沃な土地が多いし、海があるってことで海産物も名物になってるから、王都から近いこともあって、けっこうな量の食べ物を供給してるんだ。
それ、別に悪いことじゃないよね?
畑とかが多いってことは、それだけ魔物の被害も少ないってことなんでしょ?
「その通りなんだが、モントシュタイン侯爵は野心家でもあってな。野心って言ってもトレーダーとしてのだから、別に国をどうこうしようってわけじゃないぞ?確か今はPランクトレーダーなんだが、今のままじゃ他国で商売はできないってことで、腕の立つハンターを探してるんだよ」
なんで?
ああ、そのハンターを自分のユニオンに組み込んで、少ない依頼料で魔物素材を用意させて、それを売ろうってことなのかぁ。
「説明、ありがとうございます」
「やっぱ聞いてたか。話の途中でヤバ気な魔力が漂ってきてたから、そうだとは思ってたが」
ふえっ!?
大和さん、いつの間に!
「すいません、挨拶は後にさせてください」
「その方がゆっくりと話せそうだからな」
「大和、やり過ぎちゃダメだからね?」
「わかってるよ」
バウトさんに簡単に挨拶して、ルディアさんが笑って送り出すと、大和さんはラウスのとこに行っちゃった。
あ、モント……なんだっけ?
とにかくそんな名前の侯爵様が、真っ青になっちゃった。
ラウスを取り込んで、そこから大和さんを良いように、ってわけじゃないけど、使おうって考えてたんだから、そりゃ怒るよねぇ。
その侯爵様は、エンシェントヒューマンを利己的な目的で使おうと考えたことが、すぐに他の貴族にも伝わって、陛下からもお叱りを受けたって聞いたよ。
さすがに国のことじゃなくて個人のことだったから、それ以上の処罰はなかったみたいだけど、王都のトレーダーズギルドから侯爵領のトレーダーズギルドに話が伝わっちゃったから、けっこうな罰金を取られて、次に同じようなことをしたらライセンス剥奪だって言われたそうだよぉ。
何度も似たようなことをしてたみたいだから、トレーダーズギルドからも目を付けられてたってことなのかぁ。
「悪い奴じゃないんだが、目的のために手段を見失うことがあるからなぁ」
「私もそれさえなければ、良いトレーダーになれると思う」
バウトさんと陛下が、そんな風に言ってたのが印象的だったなぁ。
その後でちゃんとバウトさんに挨拶した大和さんは、明日の結婚の儀式にトライアル・ハーツも祝いに来てくれるって聞いて、すごく驚いてた。
トライアル・ハーツもマナ様のご結婚はお祝いしたいし、大和さんとの縁も欲しかったみたいだけど、アライアンスを組む可能性もあるんだから、ハンターなら当然だよね。
さらには明日の狩りは、ウイング・クレストとトライアル・ハーツの合同でっていうこともなったから、少しだけイデアル連山にも入ってみるんだとか。
って、私も行くんだから、他人事じゃなかったよ!
さすがに入ってすぐにGランクモンスターが襲ってくるわけじゃないけど、ロック・ボアをムシャムシャするストーム・ライガーっていうSランクモンスターとか、周りの景色と同化しちゃうカモフレオンなんていうBランクモンスターが普通にいるって話だから、すっごく怖いんですけどぉ!
「フェザー・ドレイクって、どの辺にいるんですか?」
「もう少し奥の方だって話だな。たまに下りてくるのがいるから、何度か狩ったことはあるが」
やっぱりいるんですね、フェザー・ドレイク。
大和さんの大好物じゃないですかぁ。
本格的にイデアル連山に行くのはマナ様の武器が出来てからだけど、様子見も兼ねてるって言ってるから、明日は明日で大変なことは確定かぁ。
というか、トライアル・ハーツの人達、正気を保てるのかなぁ?
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