褒賞授与
Side・フレデリカ
頭痛い……。
まさか大和君がラインハルト殿下、じゃなくて陛下の許可を得たとはいえ、マナリングを使った姿を見せるとは思わなかったわ。
ただでさえ手に負えない強さを持ってる大和君が、さらにもう一段強くなるんだから、もうエンシェントクラスっていうレベルじゃない気もするわね。
そのエンシェントヒューマンである大和君が、公の場であそこまで言い切ってくれたものだから、貴族達は大盛り上がりよ。
確実にエンシェントヒューマンが味方に付くことがはっきりしたんだから、無理もないんだけど。
「皆も理解できたと思うが、この突然の譲位は、レティセンシアとの戦争を見据えたものでもある。私はクラフターである故、戦のことはからきしであるからな。それならばハイハンターでもあるラインハルトの方が、間違いなく国のためになる」
なんてアイヴァー陛下が仰ってるけど、本音は自由気ままなクラフター生活を満喫するためなのよね。
とはいえ、アイヴァー陛下が戦に疎いことも事実だから、納得できなくもないんだけど。
いえ、疎いといっても一国の王なんだから、ちゃんと戦もできるわよ?
ただハンターのラインハルト陛下の方が、そちら方面に向いていて、優れているってだけよ?
「では式典を再開するが、その前に集まっていただいた貴族家、並びに各国の大使には、この場で深く謝罪する」
王位を継いだことで、進行もラインハルト陛下が行うことになる。
淀みがないけど、もしかしてラインハルト陛下だけは、こうなる可能性を聞かされてたのかしら?
あ、大使だけど、レティセンシアの大使だけじゃなく、友好国の大使も招かれてるわよ。
友好国といっても、ソレムネとアバリシア以外の国は全部だけど。
バリエンテの大使もいるけど、プリムさんが謁見の間に入ってきてから驚きっぱなしだから、プリムさんのことを知ってるってことなんでしょう。
本来なら早く国元に知らせたいでしょうけど、式典に招かれてる側としては、そんな無礼な真似はできないし、何よりなんでプリムさんが姿を見せたのかも気になるだろうから、式典が終わるまでは動けない。
だから陛下達の腹案を聞かされれば、立食パーティーは辞退するでしょうね。
同じく驚いてるのは、バレンティアの大使ね。
こっちはリディアとルディアが、ウイング・クレストと一緒に入ってきたことが原因でしょうから、後で2人が大和君と婚約したことも含めて、しっかりと説明しないといけないわ。
「先程、父上がウイング・クレスト、ホーリー・グレイブ、そしてオーダーの功績を皆に伝えた。途中で邪魔が入ったが、次は褒賞の授与となる。本来なら父上が授与されるはずなのだが、突然とはいえ私は王位を継いだ。故に授与は、私から行うこととする」
確かに突然だったけど、褒賞の授与は陛下が行われるから、王位を継いだ以上はラインハルト陛下が行うのは道理よね。
「フィール支部オーダーズマスター、レックス・フォールハイト」
「はっ!」
「此度のアライアンスにおけるそなたの活躍、まさに英雄に相応しいものだ。そなたの指揮、そして身を挺した活躍がなければ、フィールはもちろん、アミスターは多大なる被害を被っていたことは想像に難くない。よって英雄であるそなたには
「身に余る栄誉ではありますが、謹んでお受けいたします」
レックスが
なにせ終焉種すらいた集落を攻めたアライアンスを率い、オーク・クイーンの攻撃を正面から受け続けていたんだから。
これほどの功績はグランド・オーダーズマスターですら持っていないから、レックスが
「フィール支部オーダー、イリス・セルヴァント」
「はっ!」
「そなたもフィール最強オーダーとしてレックスを支え、オーク・クイーンと正面から打ち合い、見事トドメも刺した。フィール最強オーダーの名に恥じぬ、見事な活躍だ。よってそなたには、騎爵位を授ける。これからもフィールの民を頼んだぞ」
「謹んでお受けいたします」
イリスの騎爵位も既定路線ね。
レベル52になってしまったし、実際にレックスが首を刎ねなくても、イリスの一撃でオーク・クイーンが絶命していたのは確実視されてるから、トドメを刺したというのも間違いじゃないわ。
「また此度の功績を称え、イリス、そなたをPランクオーダーへ任命する」
「え……?Pランク、ですか?」
これは聞いてないわね。
イリスも驚いてるから、本人も初耳なのは間違いない。
Pランク以上はロイヤル・オーダー、オーダーズマスターだから、オーダーにとってはGランクが実質的な最上位ランクだって認識されてるけど、その上を認めるということなの?
「そうだ。Pランクオーダーはロイヤル・オーダー、もしくはサブ・オーダーズマスターに与えられるランクだが、そなたの功績はGランクでは足りない。しかしそなたが、ロイヤル・オーダーになることができない事情も理解している。それ故に此度の功績を以て、そなたをPランクオーダーへ任命することで功に報いたい」
確かにそれは言えるかもしれない。
そもそもイリスがロイヤル・オーダー就任を断ったのは、同妻がフィールのバトラーズマスターだから。
アミスターに総本部があるクラフターズギルドやヒーラーズギルドでさえ難しいのに、トラレンシアに総本部があるバトラーズギルドが関係してくるとなれば、いかに国王でも対応は難しいし、時間も掛かってしまう。
だからイリスが辞退するのは仕方のない流れなんだけど、それでもロイヤル・オーダー就任を辞退するのは異例だわ。
でも終焉種が複数存在していたアライアンスに参加し、生き残り、さらにはレベル52にまでなってしまったイリスは、実質最高位のGランクオーダーに留めておくのは国にとっても損失に繋がりかねない。
終焉種のことは公にできないけど、それでも災害種のオーク・クイーンにトドメを刺した事実は間違いのないものだから、ロイヤル・オーダーではないけど同等のオーダーとして、Pランクに任命することでイリスの実力を知らしめ、同時に功に報いるってことなのね。
「わ、私などに身に余る光栄です!Pランクオーダー、謹んで拝命致します!」
それにもしフィールのバトラーズマスターが引退すれば、旦那様共々王都に来ることも出来るようになるだろうから、そうなれば正式にロイヤル・オーダーに就任することもできるわね。
というか、そっちの方が狙いかもしれないわ。
「うむ。次にアライアンスに参加した、3名のエスコート・オーダー。オーダーズギルド総本部、ミューズ・クーベル、リアラ、ダート」
「「「はっ!」」」
「そなた達はユーリの護衛としてバリエンテまで赴き、フィールへと至った。だがそこでアライアンスが組まれたことを知り、急遽志願し、参加してくれたそうだな。そなた達が志願してくれなければ、参加者の誰かが犠牲になっていたことは想像に難くない上、最悪の事態も考えられた。そなた達の英断は、まさしく国を救ったのだ。その栄誉と忠義に応え、功に報いさせてもらう」
実際ミューズ達が参加してくれなかったら、アライアンスはもっと厳しいものになっていたはず。
ミューズは怪我で援護に務めていたそうだけど、リアラとダートは息の合った連携でオーク・クイーンを攻撃し、着実にダメージを与えていたそうだから、功としては十分だわ。
「ミューズ・クーベル、そなたは既にGランクオーダーだが、功に報いるためにも先のイリスと同じく、Pランクオーダーへ任命する。また、兼ねてよりそなたが希望していた、フィール支部への転属も認めよう」
トライハイト男爵の問題も片付いたし、何より跡取りの長男もこの場に来ていて、既にレックスとローズマリーの婚約を認めたって聞いてるから、フィールへの転属は最高の褒賞でしょうね。
リアラとダートも騎爵位を授かり、Gランクオーダーとなったけど、レベル40後半まで上がっているから、遠くない内にロイヤル・オーダーに任命されることもあるかもしれないわ。
もっとも、2人にとってはGランクに昇格したことで、家名を名乗ることが許されるようになったから、結婚が先でしょうけど。
「また、アライアンスに参加したフィールのSランクオーダー達、そして守りを固めるためにフィールに残ったエスコート・オーダー クリスも、騎爵位を授ける。本来であればこのようなことはあり得ないのだが、此度のアライアンスは、それほどまでの重大事だった。わずか13名で、P-Cランクモンスター討伐を成功させた功績は計り知れない。誰か1人が欠けても、この偉業は成しえなかっただろう。それ故に、彼らにも騎爵位を授かる功は十分過ぎるほどにあると思っている」
他の3人やクリスにも騎爵位なんて、本当に大盤振る舞いね。
それも当然だし、見方によっては足りないって言われるかもしれないけど、そこは褒賞金が加算されるって聞いてるから、特に減俸処分中のグラムには喜ばれることは間違いないわ。
「さらにアライアンスには参加せず、フィールを守っていたフィール支部のオーダー、協力を申し出たエスコート・オーダーにも、金一封を授ける」
エスコート・オーダーはともかく、フィール支部にも金一封って、随分と思い切ったことをされるわね。
さすがに1人当たり金貨数枚程度だとは思うけど、それでもかなりの額になるわ。
しかもノーマルオーダーも含まれてるから、普通のアライアンスからしたら考えられないわ。
「フィール支部への褒賞は、代表してレックス、そなたが受け取るがよい」
「はっ。僭越ながら、お預かりさせていただきます。フィールに戻り次第、アライアンス参加者の3名は、正式に昇格させていただきます」
昇格手続きは、オーダーズマスターがしなきゃだものね。
「そしてエスコート・オーダー達は、ミューズ、そなたが代表して受け取れ」
「はっ。式典後、陛下に成り代わりまして、お渡しさせて頂きます」
こっちはこの場に来てるんだし、そうなるわよね。
「うむ。続いては、アライアンスへ参加したハンター達への褒賞となる。ホーリー・グレイブはこの場には来ていないが、先のオーダーに勝るとも劣らない活躍をしている。よって褒賞金と騎爵位を考えている」
ホーリー・グレイブはフィールの守りを担ってくれているから、この場には来ていない。
元々はフィールにハンターがいなくなってしまった現状を憂いたマナリース殿下が頼んでくれたことなんだけど、今回のアライアンスは終焉種まで現れていた、過去に類を見ない事態だった。
終焉種は大和君とプリムさんに討伐されたけど、マイライト山脈の生態系がどうなっているのか分からないから、ウイング・クレストがフロートに行く以上、ホーリー・グレイブはフィールを離れることができない。
だけどホーリー・グレイブにだって褒賞は必要だから、この場で明言されているのよ。
「最後に……ウイング・クレスト、ヤマト・ハイドランシア・ミカミ、プリムローズ・ハイドランシア・ミカミ両名への褒賞となる」
間があったけど、ラインハルト陛下としても気が重いんでしょうね。
なにせ本来の功績より、何段も下の功績に見せなきゃいけないんだから。
褒賞そのものは本来の功績を踏まえているけど、それでも足りてるかは疑問だし。
本人達が満足してるとはいえ、陛下からしたら困りものよね。
「ヤマト・ハイドランシア・ミカミ、プリムローズ・ハイドランシア・ミカミ、そなたらは夫婦であるため、褒賞は2人の役に立つものを希望していた。相違ないか?」
「はっ」
「相違ございません、陛下」
大和君、緊張してるわね。
さっきまでレティセンシアの大使相手に大立ち回りしてたのに、とても同一人物とは思えないわよ?
プリムさんは、さすがに慣れてる感じね。
元とはいえ公爵令嬢なんだから、当然かもしれないけど。
「うむ。ではオーク・キングだけではなく、他にも数々の異常種、災害種を討伐し、さらにはレティセンシアの魔手からフィールを救ってくれた大和殿には、
「つ、謹んでお受けいたします」
危うく噛みかけたわね。
噛んでくれたら面白かったんだけど、そんなことになったら私も笑いを堪える自信はないから、助かったって言っていいのかしら?
だけど貴族や大使達からは、驚きの声が上がっている。
アウトサイド・オーダー登録ぐらいは考えてただろうけど、さすがに
バリエンテの大使なんて、口をパクパクさせてるわよ。
いかに他国の大使とはいえ、式典を妨害なんかしたら処刑されても文句は言えないんだから、必死に堪えてるんでしょうね。
「さらに私の妹、第二王女マナリース、第三王女ユーリアナとの婚約を認める。本人達の希望でもあるが、幸せにしてやってほしい」
今日一番のどよめきね。
中には悲鳴を上げてる貴族もいるじゃない。
いくらフィールを救い、数々の異常種や災害種を倒したとはいえ、公表されてる功績は大和君とプリムさんの2人のものだし、単独討伐は伏せられてるから、王女様2人を娶る程の功績とは思えないのも仕方ないんだけど。
だけど本当の功績は、それでも足りるか怪しいものよ?
一応マナ様、ユーリ様の希望って体裁を取ってはいるけど、それはそれで事実だし、結婚は本人の意思が優先されるから、お2人が大和君との結婚を承諾したということは、それがご本人の意思ということになる。
だから貴族が泣こうが喚こうが叫ぼうが、この結果を覆すことは不可能なのよ。
「さらに、これは褒賞とは少し異なるが、大和殿は我が国のフレデリカ・アマティスタ侯爵、アソシエイト・オーダーズマスター ディアノス・フォールハイトの娘ミーナ嬢、プラダ村の少女フラム嬢、バレンティア竜国竜爵フレイアス・ハイウインド殿の双子のご令嬢リディア嬢、ルディア嬢とも婚約されている」
ちょっと陛下、ここで私達の婚約までバラすんですか!?
いえ、そうしておけば、この後の立食パーティーでも変な輩は寄ってこないだろうけど、まだ褒賞授与の最中なんだから、もう少し後でも良かったんじゃありませんか!?
バレンティアの大使なんて、ものすごく良い笑顔されてますよ!
「さらに既に承知していると思うが、大和殿はバリエンテ連合王国のプリムローズ嬢と結婚している。彼女が何者なのか、それはバリエンテ大使殿、そなたが一番よく知っているはずだな?」
ああ、プリムさんの存在を知らしめるための前振りだったんですね。
既に大和君はOランクオーダーに任命したし、マナ様やユーリ様、さらには私達との婚約まで公表してるんだから、下手に答えればアミスターはもちろん、バレンティアだって動きを見せるかもしれない。
さて、バリエンテの大使は、どう答えるのかしらね?
「も、もちろんでございます。反逆罪によって処刑された、ハイドランシア公爵のご令嬢。バリエンテ獣王家始まって以来の翼族で、バリエンテのハイクラスが結婚を望んで決闘を挑むも、誰1人として打ち負かすことができなかった真紅の翼姫」
その二つ名は初めて聞いたわね。
プリムさんも聞いたことないって顔してるってことは、陰で呼んでたってことなのかしら?
「私もそう聞いている。だが私や妹達は、そのハイドランシア公爵が反逆者などとは思っていないし、信じてもいない。だからこそプリムローズ嬢はもちろん、母君のアプリコット夫人を受け入れたのだからな」
実際にバリエンテ中央府セントロまで獣王を訪ねたマナ様とユーリ様は、そこでハイドランシア公爵の反逆の証拠だけじゃなく、プリムさんの死まで告げられていたものね。
そのプリムさんが生きていて、しかもOランクオーダーと結婚してたなんて、バリエンテにとっては寝耳に水の話じゃないかしら?
「まさか……まさか新王陛下は、バリエンテとも戦争を起こすおつもりですか?」
震える声で尋ねるバリエンテ大使。
普通ならそう受け取られても仕方ないんだけど、陛下はもちろん、こっちにもそのつもりはないわよ。
「いや、そのつもりはない。そもそもの話として、大和殿とプリムローズ嬢が結婚したのは、互いが互いを認め、惹かれ合い、さらには大和殿がプリムローズ嬢に勝利した結果だ。そこに国の意思はないのだから、それを理由に戦争を起こすなど、下手をしたらこちらが彼に滅ぼされてしまうな」
眉を顰める大和君だけど、説得力はあるんだから、そこは我慢してちょうだい。
だけど場の空気は緩んだし、バリエンテ大使も少し安心したみたいだから、話を続けられるわね。
「私達が警戒しているのは獣王ではなく、それに敵対している者だ。それが誰かは、バリエンテの大使なのだから、言わずともわかるのではないか?」
「……そういうことですか。確かにそういうことなら、我が国との戦争は、獣王陛下が下手を打たない限りは起こりえませんな」
名前は出してないけど、さすがに各国から大使を任されているだけあって、他国の大使も誰のことかわかったみたいね。
「少なくともアミスターは、余程のことがなければバリエンテに宣戦布告することはない」
最悪の事態は獣王がレオナスに討たれることだけど、ソレムネが関与してくることもあり得るから、はっきりとしたことは言えない。
それぐらいはバリエンテ大使も分かってるみたいで、聞いてくるつもりはないみたいね。
「かしこまりました。新王陛下のご意思、そしてプリムローズ様の生存とご結婚は、間違いなく獣王陛下にお伝え致します。お相手が、アミスターのOランクオーダーであることも含めて」
バリエンテ大使の宣言に頷くラインハルト陛下。
これでバリエンテも、下手な動きはできなくなるでしょう。
特にレオナスは、プリムさんが死んだと思っていてもおかしくないんだから。
「では最後に、大和殿には『
他国に
だけどラインハルト陛下はハイハンターだし、懇意にしているトライアル・ハーツもアミスターのトップレイドだから、それぐらいの噂は聞こえてきてても不思議じゃないか。
ともかく、これで波乱に満ちた授与式典は終わりになるから、この後は立食パーティーね。
さすがにマナ様、ユーリ様との婚約が公表されて、プリムさんと結婚している大和君に言い寄る貴族は少ないだろうけど、その分ラウス君に群がりそうだわ。
まだラウス君のレベルは公表してないけど、Bランクハンターだってことは少し調べればわかるから、私も気を付けておいた方がいいわね。
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