授与式典開幕
昼前にみんなと合流した俺だが、既に俺の
ちなみにプリムの二つ名は、
その後は最終的な打ち合わせや準備なんかに時間を取られていたため、気が付いたら式典の時間だった。
式典で褒賞を受け取るのは俺とプリムだけだが、同じユニオンってことで、リカさんを除く全員がアーマーコート着用の上で一緒に入場することになっている。
リカさんはアマティスタ侯爵家の当主だから、今回は貴族として出席だと聞かされたな。
「なんつーか、巻き込まれた感じだよなぁ」
「文句ばっか言ってんなよ?ここまで来たら腹括れ」
ボヤくエドだが、合金のことは昨日グランド・クラフターズマスターに報告したばかりだから、まだアミスターのクラフターズギルドには公表されていない。
報告のためにも準備がいるとかで、それなりに時間は必要なんだとか。
それでも明日か明後日には公表されるそうだが。
「エドさんはまだいいじゃないですか。俺とレベッカなんて、どう考えても巻き添えですよ?」
「だよねぇ」
肩を落として文句を言ってくるラウスとレベッカだが、お前らだって他人事で済むと思うなよ?
「わかってますよ。特に式典の後の立食パーティーなんて、俺とレベッカが狙われるかもしれないって、散々脅されてるんですから」
「レベッカはそうだけど、ラウスは脅しじゃなくて、現実的な問題だけどね」
朝はみんなから昨夜のことを根掘り葉掘り聞き出されたこともあって、真っ赤な顔をしてたプリムだが、やっといつもの調子に戻ったみたいだ。
「ううう……緊張します……」
「私達は直接関係ないとはいえ……国のお歴々の方々に注目されるんですよね……」
こういった場に慣れていない、というかほとんど無縁だったミーナとフラムが、ガチガチに緊張してしまっている。
「こういうのって、開き直った方が勝ちだよ?」
「勝ち負けの問題じゃないけど、開き直った方が良いっていう考えには賛成ね」
バレンティアで何度か式典に招待されたことがあるらしいルディアとリディアが2人にアドバイスを送っているが、役に立つかは疑問だな。
なにせミーナもフラムも、そんな図々しい性格はしてないんだから。
「何か失礼なこと考えてませんか?」
「そんなわけないじゃないか」
リディアに心を読まれて一瞬焦ってしまったが、態度には出さないよう、瞬時に切り返すことで不自然さを隠す俺。
「いや、思いっきり不自然だからね?というか、目が泳いでるよ?」
思いっきり態度に出てたらしい……。
というかだな、なんで俺の心が読めるわけ?
「別に心なんて読んでませんよ。ただ大和さんが分かりやすいだけです」
「浮気しても、自分からバラしてくれそうだよね」
「もしそんなことしたら、夜が大変なことになりますよ?」
不穏なことをぬかすドラゴニュートの双子姉妹。
そもそも浮気なんてしないからね!?
ヘリオスオーブにも浮気って言葉はあるんだが、結婚してる女性が男と密通することが多い。
一夫多妻が普通のヘリオスオーブで、夫が興味を無くす、あるいは倦怠期なんかに起こりやすいそうだ。
だが、逆もないわけじゃない。
男の浮気は、妻の許しを得ずに別の女を抱き、勝手にシングル・マザーにしてしまったりすることを指す場合が多い。
まだ独身ではあるが、バリエンテの元第二王子レオナスがこれに該当しているな。
どっちの場合でも、原因は夫の方にあることが多いから、浮気は凄まじく白い目で見られることになり、場合によっては処罰の対象にもなる。
俺としてはそんなつもりは一切ないから、疑われるだけでも辛いものがあるぞ。
「もし気になる女がいたら、先に一声かけてね?場合によっては認めるから」
なんていう、微塵もありがたくないプリムさんのお言葉を頂戴した俺は、多分憮然とした顔をしてると思う。
「さて、そろそろね」
「え?あ、はい」
「いつも通りにすればいいんだよ」
マリーナも少し緊張してるが、こいつは心臓に毛が生えてるはずだから、どうとでもなるだろう。
「お待たせいたしました。謁見の間のドアが開きましたら、大和様、プリムローズ様を先頭にしてお進みください」
「わかりました」
どこまで進んだらいいのかは聞いているが、宰相のラライナさんが先導してくれることにもなってるから、そこは問題ない。
「それでは、参りますよ」
おっと、ドアが開いたか。
ラライナさんの後を、俺とプリムを先頭にしてミーナとフラムが続き、その後をリディアとルディアが並んで歩く。
その後ろにはラウスとレベッカがいて、最後尾にはマリーナとフィーナが、エドを挟んで歩いている。
謁見の間に入ると私語はできないから、みんな無言だ。
だけど俺も緊張してるし、他のみんなも似たようなもんだろう。
唯一、プリムだけは平然と歩いてるが、さすがは元公爵令嬢ってことか。
視線だけ動かして周りを見渡してみる。
謁見の間は二段構造になっていて、階段の上にある玉座には当然アイヴァー陛下が、その両隣には王妃のロエーナ様とサザンカ様がいて、ロエーナ様の側にはラインハルト王子、エリス様、マルカ様が、反対のサザンカ様側にはマナとユーリがいた。
ラインハルト王子は、昨日俺が贈った黄金色の剣を佩いている。
派手ではあるが、王子様だからなのか普通に似合ってるのがすごい。
階段の両端は、最上段にグランド・オーダーズマスター、アソシエイト・オーダーズマスターがいて、その下にはロイヤル・オーダーが一段置きに配置されている。
お、アソシエイト・オーダーズマスターのディアノスさんも、昨日俺が贈った剣を佩いてくれてるな。
一応新デザインのサーコート向けにしたつもりだが、アソシエイト・オーダーズマスターの鎧も豪華だから、違和感もない。
そして階段の下にはアミスターを支える貴族のお歴々が、全部で20人近くいらっしゃるな。
もちろん、リカさんもその中にいる。
明らかにハンターと見て取れる方々もいらっしゃるんだが、もしかしなくても王都にいるGランクハンターか?
階段下の上座にはグランド・ハンターズマスターとグランド・クラフターズマスターのアルフレッドさんもいて、あと何人かギルド関係者と思われる人もいる。
王都にはヒーラーズギルド総本部もあるから、グランド・ヒーラーズマスターは確定として、あとは多分、ヘッド・トレーダーズマスター、ヘッド・バトラーズマスター、そしてヘッド・ハンターズマスターってとこか。
というか、多分ヘッド・プリスターズマスターだと思うが、お召しになられてる服が袴によく似てるんだが?
いや、女性プリスターはほぼ完全に巫女服だったからわからなくもないんだが、神社の息子としては違和感バリバリだ。
「ここで止まります。合図したら、跪いてください」
小声で指示してくる宰相さんに従って止まり、合図と同時に全員で傅く。
顔も上げないようにってことだから、気を付けないとな。
ちなみにだが、俺達の前には既にレックスさんとイリスさんが傅いていて、その後ろにはミューズさん、リアラ、ダートもいたりする。
この人達も褒賞を受け取る側だから、俺達より先に入場してるんだよ。
「楽にするがよい。そして本日の主役であるフィール支部オーダーズマスター レックス・フォールハイト、並びにイリス・セルヴァント、総本部エスコート・オーダー ミューズ・クーベル、リアラ、ダート、そしてユニオン ウイング・クレストよ」
陛下にそう言われて、俺達は立ち上がって一礼する。
一礼って言っても、右手を握って胸の前に当てる、一種の敬礼なんだが。
「此度に式典に先立ち、彼らの功績を述べたい。まずはオーダー達からになるな」
そう言って陛下が、先日のアライアンスの内容を声高に語り出す。
終焉種や異常種はいなかったことになってるし、災害種のキングとクイーンも1匹ずつにして、キングを俺とプリムが、クイーンをホーリー・グレイブとオーダーが倒したことにしているのもフィールと同じだ。
それでも災害種が複数、それも番いになってたことは過去に類を見ない事態なんだそうで、とてつもなく驚かれていたが。
私語は禁止のはずの謁見の間なのに、所々で呟きとか呻き声とか漏れてたぞ。
ついでってわけじゃないが、この場にはいないホーリー・グレイブの功績も告げられてるから、こちらは王都に戻ってき次第、略式で授与式が行われるそうだ。
「そしてウイング・クレストの功績だが、こちらは少々、いや、根底から常識を覆すような内容ばかりでな。皆も心して聞くがよい」
功績を称えるための式典のはずなのに、なんか貶されてる気がするんだが?
そう思ってたんだが、開幕がブラック・フェンリルとグリーン・ファング2匹の討伐だったので、その時点で皆様の視線がおもっくそ俺とプリムに突き刺さってきた。
さらに俺とプリムが倒した異常種や災害種が、次々と固有名称で告げられて、証拠の魔石まで持ち込まれると、俺とプリムに突き刺さっていた視線がいっそう険しい物になってきた気もする。
「その際、というのもおかしな話だが、彼らはとある人物を捕縛した。その人物とはレティセンシア皇国第一王女、マリアンヌ・レティセンシアだ」
ここでやっと、俺達から視線が離れてくれた。
さっきまでは、異常種や災害種とは言っても、あくまでも魔物の討伐だった。
もちろんこれも重大な事なんだが、その原因を作っていたのはマリアンヌ王女を始めとしたレティセンシアの工作員どもだから、重要度はこちらの方が高い。
「その結果を踏まえ、フィールにいたハンター達も全て捕縛され、さらには我が娘ユーリの命を狙っていた元ハンターズマスター サーシェス・トレンネルの身柄も抑え、先日王都に連行してきておる。今は厳正な取り調べを行っているが、マリアンヌ・レティセンシア、サーシェス・トレンネル、そしてハンターズレイド パトリオット・プライド リーダー バルバトス・ジャヴァリーは、本日より1週間後、天樹城前広場にて公開処刑を執り行う」
ああ、処刑の日取りも決まったのか。
俺としては見たくもないし、その必要もないって言われてるが、捕まえたのは俺とプリムだから、どうしたもんかと思案していたりする。
「そして予想しているであろうが、ウイング・クレストからも2名がアライアンスに参加し、その2名で見事、オーク・キングの討伐を成功させている」
フィールでのお披露目と同じような討伐内容が説明されたが、真実を知る者からすれば控えめもいいとこらしい。
いやまあ、確かに集落のキングとクイーンは、すれ違いざまに倒しちゃったから、そう言えるのかもしれないんだが。
「最後に、ウイング・クレストのリーダーであるヤマト・ミカミは、エンシェントヒューマンに進化している。僅か17歳ではあるが、このような超越的な者が我が国にいてくれたことは僥倖以外の何物でもない、まごう事なき奇跡である」
いや、それは大袈裟すぎません?
確かに俺がアミスターに転移、正確にはバリエンテだったんだが、すぐにアミスターに移動したし、フィールを拠点に決めたから、そう言ってもいいだろう。
まあ、転移してきたのは偶然だけど、あんなことがなかったら俺だってもっとおとなしくしてたはずですよ?
「今回の授与式は、我が国の危機を救ってくれた英雄のヤマト・ミカミ、そしてアライアンスに参加して亡国の危機を未然に防いだオーダー達を称える物である」
オーダー達が俺のおまけみたいな扱いになってるのが気になるが、後でしっかりと謝っておこう。
「お待ちください、陛下」
そこで口を挟んできた男が一人。
誰だ、こいつ?
「式典の最中に口を挟むとは、相変わらずレティセンシアの人間は礼儀がなっておらんな」
不快そうな顔を隠そうともせず、陛下が不機嫌な声を上げた。
こいつがレティセンシアの大使か。
「礼儀がなっていないのは、アミスターの田舎者どもでしょう。それはともかくとして陛下、マリアンヌ殿下の処刑、本気でお考えなのですかな?」
「あれだけのことをしでかしておいて、なぜ処刑されないと考える?」
無礼極まりない大使だが、そこを気にしていては話が進まないことを知っている陛下は、気にせずに先を促している。
「当然でしょう。なにせマリアンヌ殿下がアミスターを訪れた理由は、両国の友好のために、王太子のラインハルト殿下に嫁がれるためなのですから」
ここで面倒なことをしてきやがったな。
理由はともかくとして、嫁ぎにやってきた王女を処刑したとなれば、外聞が悪いどころの話じゃない。
しかもまだ公表されてはいないが、ラインハルト王子は春になったら王位を継ぐから、もし結婚なんかしたらマリアンヌ王女は王妃ってことになってしまう。
外聞を取るか内憂を取るかだが、どっちをとっても面倒ごとになるのは間違いないな。
「面白いことを言うな。ラインハルトに嫁ぎに来たと言うなら、なぜ私やラインハルトに報告が来ておらぬ?なぜマリアンヌ王女はフィールの外れなどで、異常種のマーダー・ビーに襲われていた?」
「報告が来ていないのは、単にそちらの手落ちでしょう?まったく、情報の1つもまともに伝えられぬとは、これだから田舎者は困りますな」
無礼極まりない大使の発言に、貴族達も怒り心頭って感じだ。
俺も気分悪いな。
「それと、なぜフィールにいたかですが、あの地は元々レティセンシアのものです。ですが今は、不本意ながらもアミスターが占拠し、街まで構えてしまっている。いかにマリアンヌ殿下といえど、正面からフィールに乗り込めば、輿入れためという目的があったとしても、不当にその身を拘束されてしまう危険性があった。事実アミスターはマリアンヌ殿下の身柄を拘束しているばかりか、隷属魔法まで使用していると聞いていますぞ?」
ああ言えばこう言う。
マジで自分達に都合のいいことばっか言ってきやがるな。
そもそもマイライトは、アミスター建国時からの領土で、小国の争いを制して建国されたレティセンシアとは一切関係がない。
それはアミスターだけじゃなく、ソレムネすら認めている事実だ。
「ですが、このようなことでマリアンヌ殿下のお輿入れを台無しにすることは、大使として不本意です。ですからマイライト山脈全土の割譲、そしてそこにいるエンシェントヒューマンの身柄を引き渡すことで此度の無礼を許すと、皇王陛下は仰っておいでです」
なんだろう、ここまで勝手すぎると、かえって笑えてくるんだが。
「フハハハハハ!大使よ、そなたは良い喜劇役者になれそうだな。このような場で、ここまで笑わせてもらったのは初めてだ」
そう思ってたのは俺だけじゃなく、陛下はもちろん、殿下達や貴族、オーダー達まで笑っている。
「無礼者どもが……」
小さく呟く大使だが、内容は俺だけじゃなく、プリムや宰相さんにもしっかりと聞こえてるからな?
「では大使よ、そなたは皇王からの命を受けていると、そういうことだな?」
「当然でありましょう。我が国は皇王陛下を頂点とした、規律正しい絶対王政の国ですからな」
どこが規律正しいのか、頭かち割って中見てみたい気分になるな。
「そうか。では先に伝えておこう。皆も心して聞け。私はラインハルトに王位を譲る。当初は春に行うつもりだったが、こうなった以上はこの場で譲位し、正式な戴冠式を春に行う方が良かろう」
おおい、この場での譲位宣言ですかい!
授与式典の最中に譲位なんて、聞いたことないんですけど!
「譲位したとはいえ、引継ぎもあるからな。これよりこの国の王はラインハルトとなるが、正式な戴冠式が終わるまで私は王代、とでもしておくか」
つまり国王が2人になるってこと?
よくわからんけど、それってよろしくないことなんじゃね?
「詳しく説明しておく。私は王代となるが、戴冠式までは今までと変わらぬ執務を執り行う。新たな王となったラインハルトは今までの執務に加え、王の執務が加わる形になる。もっとも急すぎること故、数ヶ月は今までと変わらぬがな」
そりゃそうでしょ。
さすがにこの場で譲位するとは思わなかったが、春の戴冠式までは今のままの体制で行くってことなら、そこまで混乱は大きくはならないか。
「ほう。ラインハルト殿下に、いや、ラインハルト陛下に譲位されたということは、マリアンヌ殿下を王妃として受け入れてくださるということですな?」
どこまでも自分達優先な思考だな。
その逆だから、ラインハルト王子に無理矢理譲位したに決まってるだろ。
「ライ、皇王への返答はそなたが行うとよい。王としての初仕事だ」
「イヤな初仕事ですね。まだ書類の山に埋もれる方がマシですよ」
本当にイヤそうな顔をして答えるラインハルト王子だが、書類仕事はマジで面倒らしいよね。
「まあ、諦めるしかないんだが。大使よ、新王ラインハルトから、レティセンシア皇王への返答を伝える。『寝言は寝てから言え』」
「……は?」
「聞こえなかったか?『寝言は寝てから言え』。これが私の返答だ」
おお、かっこいいぞ、ラインハルト王子。
「……どういうことですかな?アミスターの田舎者ごときが、我がレティセンシア第一王女の輿入れを、まさか断るおつもりですか?」
「断るも何も、私は敵国と内通する国賊に成り下がるつもりはない。先程父上が通達したように、王女の公開処刑は変更しない。それを理由に挙兵するのであれば、アミスターは全力を以て迎え撃つ。いや、皇都に乗り込み、暗愚な皇王家の首を取る」
青くなる大使だが、散々馬鹿にしておいて、それはないんじゃないか?
「ば、馬鹿な!アミスターごときが、レティセンシアを滅ぼすというのか!?立場を弁えろ、田舎者が!」
「立場を弁えるのはそちらだ。我がアミスターは国土も軍事力も、フィリアス大陸で最も大きい。レティセンシアごときオーダーズギルドの半数、いや、3分の1でも動かせば、すぐにでも皇都を占拠できるのだぞ?そうだな、グランド・オーダーズマスター?」
「恐れながら陛下、さすがに3分の1はありませんな」
トールマンさんの言葉に、口角を上げるレティセンシア大使。
だがその顔は、次の言葉で氷り付くことになる。
「いくら陛下とはいえ、オーダーズギルドを見くびりすぎですぞ。3分の1でも多すぎます。レティセンシアごとき、4分の1で十分です」
トールマンさんも容赦ないな。
元々オーダーズギルドの3分の1も動かせば、皇都なんかは一瞬で占拠出来るって言われてたんだから、4分の1、いや、装備が一新されたら5分の1でも出来そうな気がする。
「それはすまなかった。それと大和君、発言を許可する。なんでも自由にするがいい」
「ありがとうございます、陛下」
俺にも話させてくれるとは思わなかったが、せっかくだし脅しておこう。
多分ラインハルト王子、いや、もう陛下だな。
ラインハルト陛下も、それを狙ってるだろうからな。
というわけで、俺は一歩前に出て、マナリングを全開で使うことにした。
「ひっ!!」
「さあて、レティセンシアの大使さんよ?散々好き放題ぬかしてくれたな?まさか陛下の御前で、あそこまで無礼を働くとは思わなかったが、普通なら処刑もんだ。当然、その覚悟はしてたんだよな?」
「ば、馬鹿な……!まさか……まさか貴様は、翼族だったのか!?」
今朝も成功したからできると思ってたが、成功してくれて良かったと内心で安堵の溜息を吐く俺。
失敗してたらかっこ悪いどころの話じゃなかったから、マジで良かったよ。
「いいや、俺は普通のヒューマンだ。だけどちょっとしたコツを掴んでな。ま、これから死ぬあんたには、どうでもいいことなんだが」
そう言って大使にアイアン・クローをかけ、体を持ち上げていく。
さすがに謁見の間でのグロは無礼極まりないから、頭を握り潰さないように気を付けてっと。
「は、離せ!!」
俺の腕を掴んで引き剥がそうと頑張る大使だが、その程度の力じゃビクともしない。
「俺達もフィールで、けっこう迷惑を被ったからな。そこにいるミーナやフラムだって、一歩間違えばどうなってたか分からなかったんだ。そんなことを仕出かした国を、俺が許すとでも思ってるのか?」
実際ミーナはフィールに到着した日の夜、危うくノーブル・ディアーズに捕まりかけたし、フラムだってケルベロス・ファングに拉致られる寸前だったんだからな。
ノーブル・ディアーズもケルベロス・ファングもレティセンシアのスパイだったんだから、そいつらを使ってたレティセンシアを許す理由は、俺には一切ない。
「さっき陛下も言ってただろ?挙兵したけりゃ好きにしろ。だけどな、その時は俺がいの一番に迎え撃つ。その覚悟があるなら、何千だろうと何万だろうと、好きなだけ引き連れてこい」
「ひ、ひいいいっ!!」
マナリングを全開にしてるから、俺からの圧力は半端じゃない。
大使の顔が恐怖で歪み、必死に俺の手から逃れようと暴れているが、俺は手を放すつもりもない。
頭を潰さないように気を付けながら、ゆっくりと力を込めて、目に力を込めて睨み付けたままだ。
あ、こいつ、漏らしやがった。
汚えなぁ。
「そこまででいいよ。悪いね、大和君」
そこまでして、ラインハルト陛下から制止の声がかかった。
俺は陛下に軽く一礼してから大使を無造作に放り投げ、マナリングも普段レベルまで落とした。
謁見の間の床と、ついでに大使に
「そういう訳だ。我らが誇る精鋭オーダーズギルドはもちろん、エンシェントハンターまで敵に回す覚悟があるなら、アミスターはいつでも受けて立つ。わかったらさっさと、この場から去れ!」
「ひいいいっ!!」
奇声を発して謁見の間から逃げ出す大使を尻目に、貴族達も満足げだ。
いや、リカさんだけは呆れた目をしてるな。
俺、頑張ったよ?
「やりすぎよ、大和」
呆れたようなプリムの呟きが耳に届いたが、そんなことはないでしょ?
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