ハーフエルフの第三王女
「すごいです!ヒポグリフ2頭立ての獣車に乗れるなんて、夢にも思いませんでした!」
ジェイドとフロライトが引く獣車に乗って、アミスター王国第三王女ユーリアナ・レイナ・アミスター様が、無邪気にはしゃいでいらっしゃる。
まあ、ヒポグリフ2頭立て獣車なんて、今までなかったんだから仕方ないか。
あ、獣車が2頭立てになった理由は、プリムがヒポグリフを見たユーリアナ姫にせがまれて、頑張ってフロライトを説得した結果だ。
なんでもフィールに戻ったら、ストレージに保管してあるウインガー・ドレイクの肉を食べさせることになったとか。
甘えん坊のフロライトだが、そのせいか若干我儘な性格になってきてる気がするんだよなぁ。
「どこからツッコんだらいいのかな……」
「ツッコむだけ、無駄な気もするけどね……」
リディアとルディアは、派手に呆れている。
さっきミーナ達を紹介したんだが、その時にミーナとフラムが俺の婚約者だと知って、滅茶苦茶驚いてたな。
「それはそれとして、大和、サーシェスとバルバトスは?」
「まだ気絶中だから、静かなもんだ。その内、目が覚めるだろうが」
ハンターズマスター、サーシェル・トレンネルと、パトリオット・プライドのリーダー、バルバトスは、フライ・ウインドとサウンド・サイレント、そしてライトニング・バンドを付与魔法で刻印化させた魔石を使い、獣車の後ろに括り付けている。
まだ白目を剥いてるが、けっこう振動がすごいから、そのうち目が覚めるだろう。
「すごいです、大和様!プリムお姉様!お2人でハンターズマスターとパトリオット・プライドを倒しただけではなく、オーダーの傷も癒していただきましたし、魔石に魔法を付与させることまでできるなんて!」
ユーリアナ姫の種族は、ヒューマンハーフ・エルフだそうだ。
そのお姫様が、目をキラキラさせて、俺の左腕にしがみついている。
うん、さっきからずっとこんな感じです。
ちなみにラウスとレベッカは、ストレアさんの獣車に移っている。
お姫様と同じ獣車に乗るなんて恐れ多いって言ってたし、それ以上にこの状況に耐えられないんだとさ。
「大和く~ん?新しいお嫁さんが3人もいるからって、こんなとこでユーリに手を出して良いとでもぉ?」
「プリムさん、僕には何のことか、さっぱりわかりません」
サーシェスとパトリオット・プライドの魔の手からユーリアナ姫、リディア、ルディアを助けてから、しばらくしてミーナ達と合流したんだが、その時からずっと、ユーリアナ姫は俺にひっつきっぱなしだ。
お姫様が相手だからなのか、プリムも強く出れないみたいだし、ミーナとフラムなんて緊張しまくっている。
「ねえ、なんかあたし達も数に含まれてなかった……?」
「そんな気がするわね……」
さりげなく嫁候補にされたリディアとルディアだが、俺とユーリアナ姫を挟んで、左右に座っている。
ルディアがユーリアナ姫の隣で、リディアが俺の隣ね。
つか君らも、距離が近いよ。
「まあいいわ。大和がしっかりと面倒見れるなら、私は反対するつもりはないし」
「わ、私もです!」
「わ、私も……その、反対はしません」
「では私も、大和様の妻に立候補しても良いのですね!?」
そうなんです。
ユーリアナ姫様、目が覚めてからずっと、俺と結婚するって言ってるんです。
プリムと結婚していて、ミーナとフラムの2人と婚約してるって説明しても、まったく聞いてくれないんです。
そもそもミーナやフラムとの結婚は、王都からの返事が来なければできないし、ミーナの家族は王都に住んでるから、王都のプリスターズギルドで儀式をするって話にもなってるんですがねぇ。
というか、さらっと流してたけど、なんでリディアとルディアも嫁候補になってんだよ!?
「殿下、お気持ちはわかりますが、陛下のお許しもなく嫁ぐことはできません。もっとも、大和さんはPランクのエンシェントハンターで、フィールを救ってくれた功績もありますから、陛下も否やとは言わないと思いますが」
やめて!
まだミーナの家族にご挨拶も済んでないのに、この上王様にまでご挨拶なんて、ストレスマッハで胃がぶっ壊れる!
プリムとフラムは何とか済ませたけど、それでもすげえ緊張したんだからな!
というかユーリアナ姫って、まだ13歳だよね!?
なんでそんな年で結婚とか考えてんの!?
「その認識、いい加減改めなさいよ。王族や貴族なんて成人前に婚約して、成人と同時に結婚なんて当たり前なんだから」
「政略結婚なんかもあるから、それはわからんでもないんだけどな……」
「なんていうか、あんたって大変なんだね」
本当に大変だよ。
プリムと結婚して、ミーナ、フラムと婚約した今だからこそ、ヘリオスオーブの結婚観もある程度は受け入れられたが、それでもそう簡単に、今まで培ってきた経験や常識は変えられない。
ただでさえプリムと結婚して、ミーナとフラムを娶るってのに、その上さらにユーリアナ姫、リディア、ルディアまで嫁にするなんて、俺の世界の奴らに知られたら、確実にフクロにされたうえで相模湾の藻屑にされる。
「と、ともかく、話をまとめよう。俺達はフィールからトレーダー ストレアさんの護衛をして、プラダ村に行っていた。で、ついさっき、ユーリアナ姫の獣車がハンターズマスターとパトリオット・プライドから不意打ちを受けて、オーダーは奮戦するも次々と倒された。残ったリディアとルディアが戦ってる最中に俺とプリムが到着して、連中を捕まえた。ここまではいいか?」
「そこまではいいわ。確かユーリは、マナと一緒にバリエンテに行って、今はその帰りなのよね?」
「はい。プリムお姉様を探すために、バリエンテの中央府セントロへ赴きました。ですが獣王陛下直々に、ハイドランシア公爵の不正の証拠を突き付けられ、さらにプリムお姉様は逃亡中に亡くなったと聞かされて……。ですがハイドランシア公爵があんなことをするはずはありませんから、お姉様はバリエンテに残られ、私は噂になっているフィールの様子を見るため、一足先に帰国したんです」
ここでプリムが、少し顔を引き攣らせた。
さっき聞いたんだが、ユーリアナ姫の姉、アミスター王国第二王女マナリース・レイナ・アミスターはプリムの幼馴染で、現獣王が即位するまではお互いがお互いを訪ねる形で、年に数回は会っていたらしい。
「ザックで、フィール方面にグリーン・ファングが現れているという噂を聞いたので、どうするかはエモシオンで考えることにしたんです。ですが私達は3日前にエモシオンに着いたのですが、その時点で噂が錯綜していて、どうするべきかの判断ができなくて……」
「だけど昨日、王都から来たオーダーが、正式にグリーン・ファング、それからブラック・フェンリルの討伐を公表したんだ。ユーリ様がそのオーダーに詳細を訪ねたんだけど、あんた達のことも含めて、詳しいことは機密事項になってるからって、教えてもらえなかったんだ。今じゃ、その理由も納得だけど」
そりゃ、機密事項にもなるだろうさ。
だけど王都からオーダーが来たってことは、もうフィールにも使者なりオーダーなりが来てるって考えても良さそうだ。
ソフィア伯爵も帰ってきてるだろうな。
それにしても、この時間に交差点にいたってことは、もしかして直でフィールまで行くつもりだったのか?
「この時間にあそこにいたってことは、プラダ村には寄らないつもりだったってことよね?」
聞いてみようかと思ってたら、プリムに先を越されてしまった。
別に競争とかじゃないし、誰が聞いてもいいんだが、なんか出遅れた感があるな。
「はい。少しでも早く、フィールの様子を見たかったですから」
まだ13歳とはいえ、この辺りは立派に王族ってわけか。
レティセンシアのクソ姫とは、根本から違うな。
いや、比べるのは失礼過ぎるってもんか。
それにしても、そのタイミングで連中と鉢合わせしたとは、運が悪いとしか言いようがないな。
護衛のオーダーの内、半数は残念ながら亡くなっていたが、遺体はストレージに入れて搬送中だ。
ストレージバッグやミラーバッグだと容量に限りがあるから、遺体の一部しか持ってこれないこともあるんだが、俺もプリムもストレージングを使えるし、命を懸けてお姫様を守ったんだから、遺体ぐらいは遺族にお返ししたい。
ちなみにパトリオット・プライドは、ライブラリー確認のために右手だけ残して、あとは骨も残さず焼却してある。
「つまりユーリは、最悪のタイミングでフィールに来たってことになるわけね」
「あうぅ……」
「それを言ったらあたしらもだけど、大和やプリムと知り合えたわけだから、悪いことばかりってわけでもないか」
そう言ってもらえるのはありがたいが、こっから面倒事のオンパレードだぞ。
「ルディア、フィールに着いたら、オーダーズギルドやハンターズギルドから取り調べを受けるのよ?正当防衛とはいえ、ハンターズマスターと戦ったんだから」
ハンター同士の私闘は禁止されているし、ハンターズマスターに攻撃ともなれば、普通に指名手配ものだからな。
俺達は登録したばかりの頃、って言ってもまだ2週間ぐらいなんだが、いくつかのレイドと私闘を行ったことがあるが、ハンターズギルド、オーダーズギルド双方から、正当防衛として認められている。
しかもフィールじゃ、サーシェスがハンターズマスターの権威を振りかざして、特例として認めてやがったから、街の人にも無銭飲食や武具の強奪、娼婦への暴行など、多大なる迷惑をかけていた。
当然これらは犯罪で、普通にライセンス剥奪の上でオーダーズギルドに捕縛される案件だ。
それを認める方も認める方だが、嬉々として実行する方も実行する方だ。
とっくに全員捕まえてあるとはいえ、未だにフィールには爪痕が残ってるから、後始末も面倒極まりない。
「そこまで緊張しなくても大丈夫ですよ。サーシェス・トレンネルが不正行為を行っていたことは証拠も掴んでいますし、グランド・ハンターズマスターもご存知です。ですからオーダーズギルドもハンターズギルドも、あなた方に罪を問うことはありません」
ローズマリーさんの一言で、2人とも安心している。
お姫様の護衛をしてたとはいえ、2人は一介のハンターなんだから、サブ・オーダーズマスターに言われたら安心するよな。
俺達だって2人のことは証言するし、今までのサーシェスやパトリオット・プライドの仕出かした罪から考えれば、無罪放免どころか金一封ぐらい出てもおかしくはないと思う。
「ん?ちょっと待って。ユーリ、マナとはセントロで別れたって言ってたけど、もしかしてマナもフィールに来るの?」
「いえ、おそらくお姉様は、王都に帰られていると思います」
それは良かったのか残念なのか、判断が難しい。
プリムのことが露見するのは避けられるが、幼馴染の安否を気遣ってバリエンテにまで行ったんだから、不憫な気もする。
だけどこの問題は、プリムが判断するべきだろうな。
「マナが来ることはないのね。残念なような、ホッとしたような、複雑な気持ちだわ……」
プリムとしても、幼馴染のことは気になるんだろうな。
この件で俺にできることはフォローぐらいだが、それでもプリムの決断を尊重しよう。
そして夕方、日が沈む前に、ようやくフィールが見えてきた。
ローズマリーさんの指示で、オーダーが2人伝令に向かったが、ユーリアナ姫が乗ってるなんて、オーダーズギルドだって予想外だろうからな。
そういやビスマルク伯爵も、まだフィールにいたはずだな。
ビスマルク伯爵のワイバーンのおかげで最悪の事態を防げたようなもんだから、本当に助かった。
みんなは俺やプリムがいたからだって言ってくれるけど、俺にできることなんて荒事ぐらいだからな。
あまり謙遜しすぎると、逆に嫌味になるってことは知ってるからある程度は受け入れてるけど、それでもなんかむず痒くなるから勘弁してほしい。
そういえば、パトリオット・プライドとの戦闘で、ついにミスリルブレードが折れちまったな。
プリムのミスリルハルバードも、穂先が砕けている。
ストレージには予備の剣や槍が入ってるが、
フィールに着いたら、新しいのを買いにいかないとけないな。
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