事後処理準備

 フィールに着くと、レックスさんをはじめ、オーダーズギルドが整列して出迎えてくれた。

 まあ、ユーリアナ姫がいるからなんだが。

 領代はもちろん、ビスマルク伯爵やギルドマスター達まで来てるし。


 とりあえず無事にフィールに帰ってきた俺達は、フレデリカ侯爵の屋敷に集まることになり、そこで報告を行うことになった。

 ああ、サーシェスとバルバトスは獣車の後ろに括り付けてただけだから、捕縛したってのは一目瞭然だ。

 だからとっくに、オーダーズギルドに引き渡してあるぞ。


「元ハンターズマスター サーシェス・トレンネル、及びパトリオット・プライドのリーダー バルバトス・ジャヴァリーは捕縛。残りのメンバーは殺害、か。場所が交差点ってことだから、これは仕方ねえか」

「ええ。場合によっては、サーシェスとバルバトスの両名も殺害しなければなからなかったでしょうから、今回の件は僥倖と言えます」

「それにしても、まさかパトリオット・プライドが、よりにもよってユーリアナ殿下の獣車を襲っていたとは……」

「ええ。タイミング次第ではユーリアナ殿下は捕らえられ、良くてアミスターに対する人質、悪ければその場で殺害されていたことでしょう」


 その場合、女としての尊厳をズタズタにされた上で、だろうな。


「護衛のオーダーですが、亡くなったのは5名。いずれも総本部のオーダーで、1名はSランク、残り4名はBランクです」

「一命を取り留めたオーダーは6名ですが、こちらはGランクが1名、Sランクが3名、Bランクが2名となっています」


 Sランクオーダーになるにはハイクラスに進化しなければならないから、亡くなったオーダーも含め、半分近くがハイクラスだったのか。

 王族の護衛なんだからわからなくもないが、パトリオット・プライドは14人のレイドで、内5人がハイクラスに進化しているから、ハイクラスの人数だと同じだな。

 おそらく不意打ちで何人かを倒して、優位に事を進めてたってことなんだろう。


「おそらくそうだろう。幸い、プリムさんが治療を施してくれたから、生き残った6名は後遺症もなく、しばらくすれば任務に復帰できる。亡くなってしまった5名については陛下に報告し、ご遺族にはオーダーズギルドから見舞金を出すことになるだろうな」


 やっぱりそうなるか。

 金で解決できる問題じゃないけど、亡くなってしまった人を生き返らせるなんて魔法は、さすがにないからな。

 あとは遺体の引き渡しぐらいか。


「遺体については、ユーリアナ殿下の護衛をしているGランクオーダーが引き受けてくれることになっています。彼女が、護衛隊の隊長を務めていますから」


 それもキツい役目だな。

 遺族に訃報を伝えるなんて、どこの時代、どこの世界でも辛いはずだ。


「亡くなったオーダーは気の毒だったが、それでもユーリアナ殿下をお守りするという本懐を果たしたのだから、殉職扱いになるのだろう?」

「無論です。おそらくですが全員に騎爵位が贈られ、Gランクオーダーに昇格させてから、葬儀が行われることになるでしょう」


 アミスターにとって、オーダーは国を守る剣であり、盾でもある。

 だがその前に、一個の人間だということで、生前の功に報い、死下世界に送り出すんだそうだ。


 死下世界っていうのは、俗に言う死後の世界のことで、ヘリオスオーブの地下深くにあると考えられている。

 その死下世界っていうのはプリスターズギルド、もっと言えばバシオン教やいくつかの土着信仰の概念で、その関係もあって、葬儀もプリスターズギルドの管轄らしい。


 葬儀をするためには、遺体が必須となっている。

 遺体がなければ死下世界には行けず、功に報いることもできないため、辛いことではあるが、遺族には喜ばれるだろうとも言われている。


「取り調べについてはオーダーズギルドに一任しますが、例の王女も、まだ当家で預かったままです。ですから申し訳ないけど、護衛の増員をお願いできる?」

「はっ、至急手配いたします」


 レティセンシアのお姫さんか。

 早く王都に送ってしまいたいってのがフレデリカ侯爵の本音だろうが、まだグランド・ハンターズマスターもワイバーンも戻ってきてないから、軟禁しておくしかないんだよな。

 なのに俺達がサーシェスとバルバトスまで捕まえてきてしまったもんだから、フレデリカ侯爵の心労は増える一方ってことか。


「大和君、責任は取ってくれるのよね?」

「いや、何の責任!?」

「あなたが持ち込む仕事が多すぎて、最近はロクに眠れてないのよ。なのにフィールの統治もしなきゃいけないし、さらには自分の領地まであるんだから、もう一杯一杯よ?」


 ヤバい、フレデリカ侯爵の目が虚ろになってる!

 それでいて捕食者のような目にもなってるから、マジで限界を超えてるっぽいじゃねえか!


「それはつまり、フレデリカ侯爵も大和様と結婚したいと、そういうことですか?」


 ここでユーリアナ姫様の爆弾発言投下!

 皆さんの視線が、一斉にわたくしめに集まっているんですけど!


「い、いえ。さすがにそこまでは。そもそも私は、既に侯爵家を継いでいますから、私と結婚するということは、彼にも侯爵家に入ってもらうということになってしまいます。そうなってしまうと、殿下との婚約にも支障が出てしまいますので……」


 さすがにフレデリカ侯爵も、ここでユーリアナ姫が口を挟んでくるとは思わなかったか。


「なるほど。ではフレデリカ侯爵は、シングル・マザーになるということですね?」


 ちょっと待てぃ!

 なんでそっちに話が進むんですかね!?

 シングル・マザーって、意味的には俺の世界とおんなじだよ!?

 ヘリオスオーブじゃ普通のことでも、俺の世界じゃ真逆なんだよ!?

 嫁が増えるのはこの際仕方ないと思うが、それだけはどうしても受け入れたくないんですけど!!


「い、いえ、それは……その、許されるならば、ですが……」


 フレデリカ侯爵も、真っ赤になって口籠らないでくれます!?

 俺としても反応に困るぞ!


「やっぱりフレデリカ侯爵は、そうなるわよね」

「ですね。まあ、最初からわかってたことなんですけど」

「そうですね。だから申し訳ないとは思いつつも、お話を持っていけなかったわけですし」


 プリム、ミーナ、フラムの3人も、なんか不穏な話をしてないか!?

 俺は全くの初耳なんですが!!


「フレデリカ侯爵、プリムローズ嬢にミーナ嬢、フラム嬢も、その話は後程、個別にしてもらえないか?大和君も困っているし、何より話が進まない」


 アーキライト子爵に後光が見える!

 凄まじく呆れてるのもわかるが、俺にとってはありがたくて、涙が出そうだ!


「そうさせてもらいましょうか。で、サーシェスとバルバトスは、後で尋問するんですよね?」

「無論だ。例の王女共々、しっかりと吐いてもらう。もっとも王女が出張ってきている以上、レティセンシア皇王の関与も確実だろうが」


 話が本筋に戻ったか。

 後でってのが怖いが、今はこっちの話を進めよう。


「そうね。本来ならユーリアナ殿下には、王女と会っていただきたかったのだけれど……」

「それは止めた方がいいでしょう。ミリア聖司教にお願いして、神殿魔法プリスターズマジックハイ・コンストレイティングを使っていただきましたが、いかにハイクラス用の隷属魔法とはいえ、強制力はそこまで強くありません。ましてや一国の王女なのですから、強制力の穴を突くのは容易いことでしょう」


 神殿魔法プリスターズマジックには、犯罪者を抑えるための犯罪者拘束用隷属魔法がある。

 コンストレイティングとハイ・コンストレイティングがそれに当たるが、隷属を強いるとは言っても、戦闘行為、武器使用、魔法使用、偽証、逃走、隠蔽を禁止する程度の強制力しかない。

 魔法を禁じているから強化魔法も禁じられることにはなるんだが、その強制力はそこまで強くはなく、数日程度で解除されてしまう。

 だからこそ、犯罪奴隷には監督官がついていて、毎日全員を集め、同じ命令を繰り返すことで、強制力を保たせている。

 特にコンストレイティングは、ハイクラスには効果が薄く、数日もすればコンストレイティング自体が解けてしまうから面倒だ。


 だからハイクラスにはハイ・コンストレイティングの方を使うことになっているんだが、こちらは効果こそ永続的に続くが、強制力はさらに落ちるらしく、1日2日程度しか強制力が保たないそうだ。

 だからハイクラスの犯罪者は犯罪奴隷になることはなく、尋問が終われば、すぐに処刑されるんだそうだ。

 事実、俺達が捕らえた中にはハイハンターも数人いたんだが、そいつらは既に処刑されている。


 さすがに脱走されたことはないそうだが、ここまで穴がある魔法となると、万が一脱走されたら、非常にマズい事態になりそうな気もするんだがな。


 ちなみに身請奴隷の場合は、契約書を交わし、腕に隷属の腕輪という魔導具を嵌めるだけだ。

 隷属の腕輪も、契約書の内容を写し取り、条件を満たすと外れるといったの物なので、腕輪を嵌めている間、主人に好き放題されるといったこともない。

 腕輪が外れると、その時点契約終了となり解放されるため、逆に束縛すると、今度はそいつが犯罪奴隷になってしまうらしいが。


 そんなわけなので、ハイヒューマンの王女にユーリアナ姫が面会するのは、大きな危険が伴う。

 俺やプリムが護衛につけばいいんだが、それでも隙はできるから、できれば止めてもらいたいところだ。

 なにせユーリアナ姫はSランクヒーラーではあるが、レベルは15しかないんだからな。


「マナかライ兄様がフィールに来れば、解決する問題ではあるのよね」

「それは確かにそうだが、ラインハルト殿下は王太子でもあらせられる。王都でならともかく、さすがにフィールに来ることはできまい」

「マナリース殿下の場合は、さらに深刻ね。ユーリアナ殿下のお話では、バリエンテに赴いたものの、獣王自らがあなたが反逆者である証拠を突き付けて、さらには逃亡中に落命したとまで伝えたそうだから、失意のまま王都に戻られ、今は意気消沈中で、おそらくご自分のお部屋に閉じ籠っていることでしょうね」


 聞けば、第一王子であり王太子でもあるラインハルト・レイ・アミスター殿下は、レベル47のハイエルフでSランクハンター、第二王女のマナリース・レイナ・アミスター殿下は、レベル41のSランクハンターだそうだ。

 マナリース姫の方は進化していないそうだが、王都じゃ狩人姫ハンタープリンセスとして有名だし、そう遠くないうちに進化するとも言われていて、王都のハンターの間じゃ凄まじい人気を誇っているらしい。

 なんで王族の、それも王位継承権一位と二位の2人が、揃ってハンターなんかになってるのかは疑問なんだけどな。

 オーダーでもいいんじゃないかって思うぞ。


「最終手段としては、こいつらに護衛してもらうしかないでしょう。フィールにアミスターの王族が来たってのに、捕らえた敵国の王女と面会しなかったってことが知られたら、それこそ弱腰と受け取られても仕方がない」


 ライナスのおっさんの言うことも、その通りなんだよな。

 そもそも悪いのはレティセンシアで、アミスターは被害を被った側だから、やましいことは何もない。

 なのにその国の王族が、害を為した側の王族と面会しなかったとなったら、弱腰どころか腰抜けと判断されてもおかしくはない。


「大和様やプリムお姉様が護衛したくださるなら、私は構いませんが?」

「そう仰いますが、殿下は先程、そのレティセンシアの手の者に襲われたばかりではありませんか。お会いしていただくとしても、さすがに今日、これからとは参りません」

「ですね。それにグランド・ハンターズマスターも、まだ戻られていませんから、しばらくは様子を見てもいいかと思います」


 残念ながら、グランド・ハンターズマスターやソフィア伯爵は、まだフィールに戻ってきていない。

 まあ、長距離転移魔法トラベリングが使えるって言っても、王都でやることは多いだろうから、1日2日で戻ってこれるような事でもないか。


「では本日はここまでということで、続きはまた明日にしましょう」

「そうしましょう。特にプラダ村に行ってもらったハンターやオーダーは、疲れているでしょうからね。それからアーキライト子爵、申し訳ありませんが、ユーリアナ殿下をお任せしてもよろしいですか?」

「それは構いませんが……ああ、確かに今、アマティスタ侯爵家に滞在していただくわけにはいきませんでしたね」


 なんでだ、と思ったが、確かにレティセンシアの王女を軟禁してるんだから、普通に考えたら滞在させられるわけがないよな。

 ビスマルク伯爵の屋敷ってのもあるんだろうが、ビスマルク伯爵がフィールに来たのは偶然だし、何よりユーリアナ姫と同じお客様っていう立場だから、常識的に考えても、領代の屋敷に泊めるべきだろう。


「事情はわかっていますし、私としても問題はありません。よろしくお願いします、アーキライト子爵」

「当家では十分ではないと存じますが、精一杯もてなさせていただきます」


 ユーリアナ姫も快諾してくれたから、これでユーリアナ姫の滞在先も決まりだな。

 残ったのは俺の問題だけか。


 どうなることやら、頭が痛いわ。

 そっちが大事なのもわかるが、俺としては早く、代わりの武器を買いに行きたいところなんだよなぁ。

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