愛国者の誇り
「ルディア!」
「オッケーだよ、姉さん!」
俺達が到着すると、丁度パトリオット・プライドの1人に、青髪の少女が短剣から氷を放ち足を止め、赤髪の少女が手甲に炎を纏わせながら殴り掛かるところだった。
息のあった連携だが、相手が各上だからなのか、あっさりと避けられてしまったが。
ちなみに俺達は、光の屈折率を操ることができる光性B級支援干渉系術式トランス・イリュージョンで姿を消している。
「いい攻撃だったが、甘いんだよ!」
「きゃあっ!」
げ、接近してた赤髪の少女に風が直撃して、派手に吹っ飛ばされた!
あ、良かった、無事みたいだ。
ん?獣車から誰か出てきたな。
あの獣車はパトリオット・プライドのっぽいな。
ワイバーン使ってたのに、どこで獣車なんて手に入れたんだ……って、ストレージングがあるから、そん中か。
「君達、どこのハンターだね?私の護衛を傷つけるなど、これは立派な犯罪行為になるんだが?」
「馬鹿言ってんじゃないわよ!先に獣車を襲ったのは、あんた達でしょ!」
「しかも、アミスター王家の獣車をです。どう見たって、そちらに非があります」
「普通はそうだろう。だが私が白と言えば、それが黒くとも白になるんだよ。なにせ私は、この先にあるフィールのハンターズマスターなのだからね」
「なっ!?」
「ハンターズ……マスター!?」
あの優男に見えるハイヒューマンがサーシェル・トレンネルか。
やっと会えたな。
「ハンターズマスターがなんで、アミスターの王族を襲ってるのよ!?」
「全ては国のためだ。君達のような優秀なハンターを消さなければならないのは心が痛むが、国を想う愛国心の前では些細な事」
「姉さん、話が通じないよ!」
「まさか……あなたはレティセンシアの!」
話が通じてないかと思ってたんだが、レティセンシアの関係者だって気付くとは、けっこう鋭い子だな。
「ね、姉さん、レティセンシアって、どういうこと?」
「あなたも知ってるでしょ?レティセンシアがマイライトを、虎視眈々と狙い続けていることは」
「そりゃ有名だからね。だけど最近まで、フィール周辺にはグリーン・ファングが現れてるって噂があったから、そのせいで
「ええ。アミスターが動かないから、隣のレティセンシアが動くんじゃないかって噂もあるわ。
初めて聞く噂だな。
レティセンシアも皇都付近に、小さいながらも
だからレティセンシアのクラフターは、アミスターやもう1つの隣国、リベルター連邦に行きたがってると聞いている。
レティセンシアとしては、アミスターやリベルターから武器や防具を輸入したいそうなんだが、アミスターとしてもリベルターとしても、潜在的な敵国が力を持つのを許すわけがなく、武具の輸入は一切行われていない。
一応ハンターもいるから、個人的にはできるんだが、レティセンシアのハンターはモラルも低く、他国でもすさまじく横柄な態度を取ってるから、良い武器を売ってもらえることはほとんどないそうだが。
だからレティセンシアの武具は、フィリアス大陸の中で最も質が低いと言われている。
クラフターズギルドの誘致も、そういった状況の改善が目的じゃないかと言われていたな。
もっともそのクラフターズギルドも、近々撤退するって話だが。
「グリーン・ファング?ああ、あの緑の獣かね?まさか君達も、そんな戯言を信じているのかね?」
「何が戯言よ!そもそも異常種は、噂でも詳しく調査する決まりでしょ!なのにそんな噂があるってことは、あんたが調査をしてない証拠じゃない!」
惜しいな。
確かに調査もしてないが、そもそも話として、グリーン・ファングのことは握り潰してたんだよ。
まあ、そのグリーン・ファングも、既に討伐済みだが。
「アミスターが動いてないのも、グリーン・ファングが確認されたフィールにワイバーンがいないから、知らせることができなかったからなんでしょうね。しかもそれにハンターズマスターが一枚噛んでたのなら、気付けっていう方が無理かもしれない」
「あ、だから姉さんは、こいつらがレティセンシアのスパイだって思ってるんだね!」
「それ以外に考えられないわよ」
「ほう、なかなか頭が回る。そんなわけで、君達に生きていてもらっては困るというわけだ」
頭が回るってのは俺も同感だが、だからといって、お前らの好きにさせるつもりはないぞ。
「待ってくれよ、ハンターズマスター。あいつら、けっこうな上玉だぜ?奴隷にするってのも、悪くないんじゃねえか?持ってんだろ?」
「残念だが、私には持たされていない。それにリスクは、極力避けるべきだ。何かあって所有者が変わってしまった場合、そこから露見する可能性がある。まあ、楽しんでから殺すのなら、私も文句は言わないが」
「だそうだ。お前ら、遠慮はいらねえ。やっちまえ!」
さすがにここまでだな。
あの子達のレベルがいくつかは知らないが、パトリオット・プライドにはハイクラスも多いし、サーシェスもそうだ。
それに王族もいるんだから、一気に勝負を決めないと人質を取られかねない。
そんなことになったらお手上げ、とまでは言わないが、面倒なことになる。
俺は事前に生成しておいたミラー・リングに魔力を込め、風性A級広域干渉系術式ヴィーナスを発動させた。
「な、なんだっ!?」
「風の結界だと!?馬鹿な……一体誰がっ?」
「俺だよ」
「ど、どこだっ!?」
「こっちだよ」
「こっちって……え?上なの!?」
どっちも驚いてるな。
ヘリオスオーブじゃ翼がなけりゃ飛べないってのが常識だし、その翼を持っていても自在に飛ぶことはできない。
だけどフライ・ウインドが実用化されてる俺の世界じゃ、制限や限界はあるが、慣れれば誰でも飛べる。
刻印具様々だよ、本当に。
「だ、誰だ、てめえ!?」
「大丈夫?」
「え、ええ……。もしかして、助けてくれるの?」
プリムも姿を見せて、ドラゴニュートの女の子達の前に立つ。
「ああ。この先にあるプラダ村まで、トレーダーの護衛していた帰りなんだ。どこかの誰かさんが、異常種を使って孤立させようとしてたからな」
「まさかてめえ……知ってるのか!?」
やっぱりまだ気付かれてないと思ってた上に、俺とプリムのことを知らなかったか。
まあ知ってたら、もっと早くに帰ってきたんだろうが。
知る術がないって致命的だよな。
「ああ、全部な。先に言っておくが、既にアミスターもアレグリアの総本部も知っている。さらに言わせてもらえば、お前のハンターズマスターの権限剥奪の手続きも進められている」
「もっとも、ここであたし達の前に現れたんだから、あんた達はここで終わりだけど」
「な、なんだとっ!?」
「おかしなことを言う。ただのハンターの戯言を、総本部が聞くわけがない。それはアミスターとしても同様だ。そもそもハンターズマスターである私に刃を向けたのだから、君の方が犯罪者だ。君達を殺す理由としては十分過ぎる」
普通なら、サーシェスの言う通りだ。
だけど今回は普通の事態じゃないし、そもそも俺達は最初から関わっているし、俺達にはけっこうな依頼が来ているから、知る機会も多いんだよ。
その俺達の報告を元に王都や総本部に報告が上げられてるんだから、動かなかったらそっちの方が問題だ。
「別に信じなくてもいいさ。フィールに戻れば、はっきりするんだからな」
「グダグダうるせえよ!さっさと始末してやる!」
「始末ねぇ。できるのか、お前らに?」
「ぬかせ!たった2人で、パトリオット・プライドに勝てると思うんじゃねえよ!やっちまえっ!!」
「ま、待てっ!!」
サーシェスはヴィーナスを展開させた俺を、多少なりとも警戒してやがる。
だがそのサーシェスの制止の声も聞かず、パトリオット・プライドの連中は、全員が
矢とか球とかの形になってるから、多分、
A級広域干渉系は惑星型術式とも呼ばれており、球状の結界を作り出す。
世界樹型と呼ばれる広域対象系のニブルヘイムとかとは違い、結界内に対象を設定するのはかなり難しいが、結界の強度は世界樹型以上だ。
当然干渉系と付いている以上、結界内の大気は俺の思いのままだ。
「な、なんだと……」
パトリオット・プライドが放った矢や
広域系は苦手だが、これぐらいなら朝飯前だ。
「じゃあ、行くか!」
「ええ!」
俺はミスリルブレードを、プリムはミスリルハルバードを構えると、アクセリングを使い、一気に間合いを詰め、パトリオット・プライドを斬り捨てた。
これで残ってるのは、サーシェスとリーダーのバルバトスだけだ。
「す、すごい……」
「な、なんなの、あの2人……」
「ば、馬鹿なっ!最強のパトリオット・プライドが、こんな簡単に!?」
「この程度で、よく最強なんて名乗れるわね」
「な、何者だ、貴様達は!?」
「最近登録したばかりの新米ハンターよ。もっとも、私はまだGランクだけど」
「Gランクだと!?」
「ば、馬鹿なっ!?」
プリムがサーシェスにライセンスを投げつけると、サーシェスもバルバトスも絶句していた。
ランクだけじゃなくレベルも表示されてるし、偽造は絶対に不可能だから信じられなくても信じるしかない。
まあドラゴニュートの姉妹も、目を丸くして驚いてるが。
「レ、レベル59だと!?」
「Pランクに近い実力者……。私達と、そんなに変わらない年のはずなのに……」
「あ、ありえない……」
さらに絶望させるために、俺もライセンスを投げた。
自分で言うのもなんだが、プリムより俺の方が与えるダメージはデカいからな。
「馬鹿なっ!レベル63、しかも……しかも、エンシェントヒューマンだと!?」
サーシェスとバルバトスの顔に、絶望の色が浮かんでいく。
サーシェスもバルバトスも、ハイクラスに進化してるとはいえ、レベルは40中盤だ。
つまりハイクラスとしては、ごく普通のレベルと言える。
俺も進化したばかりだが、エンシェントクラスとハイクラスでは、同じレベルであっても魔力の桁が1つは違うと言われているらしいから、強化魔法も段違いの強度になる。
そんな奴が目の前にいるんだから、絶望の1つもするだろう。
「じきにみんなも合流するが、そこにはサブ・オーダーズマスターもいるから、フィールに戻ったらたっぷり尋問されることになるだろうな」
「素直に吐けば、犯罪奴隷になれるかもね。もっとも、それはあたし達が関与する問題じゃないけど」
「ば、馬鹿な……!エンシェントヒューマンに進化できる者など、必ず噂になっているはずだ!にも関わらず、なぜ貴様の噂が一切ない!?答えろ!」
そりゃ簡単だ。
俺は
それからハンター登録をして、ランクアップして、そして進化したんだから、お前らが知る道理はないってことだ。
素直に教えるつもりは、さらさらないけどな。
ヘリオスオーブには電話とか通信機なんかはないから、情報の伝達には、どうしても時間がかかる。
最速で伝えるには、ワイバーンとかの空を飛べる魔物を使役することだが、それを防ぐためにアーキライト子爵のワイバーンを殺し、ハンターズギルドのワイバーンは自分達で使っていたわけだが、それが仇になった形だ。
フィールに残ってたハンターどもも、空路を使えれば、俺達のことをサーシェスに伝えるぐらいは考えただろうからな。
残るはグラントプスやバトル・ホースで向かうぐらいだが、すれ違いを覚悟しておく必要があるし、何より俺達がハンターになってからまだ10日程だから、仮に最速で伝わったとしても、話半分で聞くのが普通だと思う。
情報って大事ですよね~。
「答えるとでも思ってるのか?」
「お、おのれ……!」
レベルもランクも偽造できないのは、ハンターズマスターだからこそよく知っている。
だからなのか、手にした剣に魔力を込め、召喚陣を形成し始めた。
「『コーリング』!来るがいい!我が従魔、エビル・ドレイクよ!」
「エ、エビル・ドレイク!?」
「な、なんてものと契約してるのよ、あいつ!?」
フェザー・ドレイクの異常種であるエビル・ドレイクは、G-Iランクモンスターだ。
G-Iランクモンスターは1つ上のPランクモンスター相当になるから、ハンターが相手をしようと思ったら、ハイクラスでも数十人は必要になる。
この場にいるのはエンシェントヒューマンの俺とハイフォクシーのプリム、そしてドラゴニュートの姉妹の4人だから、十分すぎる切り札だ。
普通なら、だけどな。
「な、何故だ!?何故召喚されてこない!?」
「そいつなら、あたし達がとっくに狩ってるわよ」
そう、俺とプリムが狩っている。
従魔だと知ったのはギルドに戻ってからなわけだが、狩っておいて正解だった。
まあ、あの程度なら、仮に召喚されても大した脅威にはならなかったけどな。
「な、なんだとっ!?」
「エビル・ドレイクを……狩っただと?」
「周知しとけば問題なかったんだろうが、誰も知らなきゃ、そら討伐依頼も出るさ」
異常種なんて、目撃情報があったら即討伐が基本なんだからな。
噂程度でも詳細な調査依頼が出されるんだから、放置しとく方が悪いに決まってる。
「ば、馬鹿な……!」
「とりあえず、フィールまでは大人しくしといてもらうぞ」
俺はヴィーナスを、サーシェスとバルバトスの周囲に干渉させ、酸素を減少させた。
呼吸ができなきゃ生きてられないし、ましてやこんなことされたのは初めてだろうから、何の対処もできずに2人はその場に倒れたが、さすがに2人ともハイクラスなだけあって、意識だけは保っているようだ。
朦朧としてるようだし、ハイクラスだからそれなりに回復力もあるだろう。
逃がさないように、しっかりと捕縛しておかないとな。
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