侯爵邸での報告と提案
デビル・メガロドンを狩った後、フィールに戻った俺達は、すぐにハンターズギルドに死体を持ち込んだ。
デビル・メガロドンは水中に生息してることもあって、調査も討伐も難易度が高い。
だから報告に時間を取られた上、予想通り領代から呼び出しもかかったから、俺は1人でフレデリカ侯爵の屋敷に向うことにした。
ほとんど毎日のように訪れてるが、他の領代だって集まるんだから、接待費とかとんでもないことになってる気がするんだよなぁ。
「どうも、ミュンさん」
「お待ちしておりました、大和様」
すっかり顔馴染みになったラミアのミュンさんに案内されて、いつもの応接室に通されると、既にフレデリカ侯爵とアーキライト子爵が待っていた。
ソフィア伯爵の姿が見えないが、あの人はグランド・ハンターズマスターの長距離転移魔法トラベリングで、一緒に王都に行っていて、まだフィールには戻ってきていない。
「待っていた、と言いたいところだが、ほとんど毎日異常種の討伐報告を聞いていると、感覚がおかしくなりそうだよ」
「まったく同感ですね。異常種なんて数ヶ月、数年に一度、討伐されるかどうかのはずなんだけど」
開口一番、アーキライト子爵とフレデリカ侯爵に文句を言われた。
いや、それは俺のせいじゃなくて、レティセンシアのせいでしょう。
文句はそっちにお願いします。
「わかってるんだけど、報告を受ける身としてはね」
仕事が滞るってことですか。
それも不可抗力なんだけどなぁ。
「不可抗力なのはわかってるわよ。それで、今日はデビル・メガロドンを、しかも2匹と聞いてるけど、当然スカイダイブ・シャークも、何匹か討伐してるのよね?」
フレデリカ侯爵も、だいぶ言葉が砕けてきてるな。
2つ年上って話だから、こっちの方が俺としても楽でいい。
っと、デビル・メガロドンとスカイダイブ・シャークね。
「ええ。スカイダイブ・シャークは、7匹狩ってますよ」
「7匹か。異常種が2匹もいたことを考えれば多いというわけではないかもしれないが、少ないとも言えないな。しばらくは、漁師にも注意をしてもらう必要がある」
確かにそうだけど、スカイダイブ・シャーク、ブルー・シャークはベール湖全域に生息しているし、水の中に住んでることから、調査はほとんど不可能だ。
これはベール湖に限らず、海の魔物も同様の問題を抱えているために、複数種の異常種が出現し、異常種同士でしのぎを削ることもあるらしい。
その異常種の死体は、運の良い漁師や船乗りが手に入れることもあるんだとか。
「そうですね。当面は、結界の中での漁を徹底してもらいましょう。多少は漁獲量が減るかもしれませんけど、だからといって危険な目に合わせるわけにはいきません」
領代が良心的な人で助かるよな。
なんていうか、アミスターの貴族って、権力争いとか派閥争いとかと無縁な気がするぞ。
「トレーダーズギルドには、後程使いを送っておきます。ところで大和君、例のお姫様なんだけど、彼女から、魔化結晶とやらを使った魔物を聞き出したわ」
お、それは朗報。
グリーン・ファングとデビル・メガロドンは2匹ずついたから、他にもいるんじゃないかって気になってたんだよ。
「それは助かります。何に使ったんですか?」
「グラス・ウルフ3匹、トレント1匹、フォレスト・ビー2匹、ブルーレイク・ブル2匹、グラス・ボア1匹、ゴブリン3匹、オーク2匹だそうよ」
また厄介な。
グラス・ウルフは、多分ブラック・フェンリルにまで進化したって考えれば数は合うし、全部で3匹だから、討伐済みってことでいいだろう。
トレントも、カース・トレントを気が付かない間に倒してたから、こいつもいい。
だけどフォレスト・ビーは、2匹に使ってたってことは、もう1匹マーダー・ビーが生まれてる可能性があるか。
ブルーレイク・ブルはベール湖に生息しているからある意味じゃ楽なんだが、ベール湖は広いし、水ん中に潜って調べるわけにはいかないのがキツいな。
ゴブリンは、1匹はゴブリン・クイーンに進化しやがったんだろうが、残り2匹がどこにいるのかわからない。
下手をしたら、エモシオン方面に抜けられてる可能性もあるな。
オークも厄介だ。
オークは山の中を主な生息地にしているが、山脈を越えられたらリベルターにも被害をもたらす可能性がある。
しかも未だに見つけられてないから、フィール側にいるかどうかすら判別できんぞ。
グラス・ボアもまだ見てないが、残ってるやつだとこれが一番楽な気がしてくるな。
あれ?
デビル・メガロドンは?
「デビル・メガロドン、というか、ブルー・シャークには使ってないってことですか?」
「私も気になって先程聞いてみたんだけど、使ってないそうよ。だけど魔化結晶を使ったブルーレイク・ブルが、ブルー・シャーク、あるいはスカイダイブ・シャークに捕食されていた場合、その個体が進化する可能性は否定できないって言ってたわ」
また面倒な。
ってことはデビル・メガロドンは、もしかしたら1匹は素で生まれてたのかもしれないのか。
「さすがに2匹とも捕食された可能性は高くないだろうから、そういうことになるだろうな。それとエビル・ドレイクだが、サーシェス・トレンネルの従魔だったフェザー・ドレイクに、魔化結晶を使ったということも判明している」
「つまり従魔だったフェザー・ドレイクに最初に使って、その結果を確かめてから準備を進めたってことですか?」
「そういうことだ」
魔化結晶はアバリシアからもたらされたそうだが、説明を鵜呑みにして、いきなり使うなんてことは考えられない。
必ず実験をしているはずだ。
多分、そのためにサーシェスの従魔に、白羽の矢が立ったんだろう。
だけど、気になることもある。
「ですがエビル・ドレイクは、確か数ヶ月前にも目撃されてましたよね?」
「それなんだけど、魔化結晶を使っても、すぐに異常種に進化するわけじゃないそうよ。進化するのに数ヶ月はかかるみたいだから、エビル・ドレイクへの進化を確認した上で、フィール周辺の魔物に魔化結晶を使ったと供述しているわ」
「つまり数ヶ月前に目撃されたエビル・ドレイクは、サーシェスの従魔に間違いなく、進化した直後だった。そしてその従魔に護衛されながら、魔化結晶を、フィール周辺の魔物に使いまくったってことですか」
「ええ」
ということは、1年ぐらい前から動いてたってことか。
そこまでしてマイライト山脈が欲しかったってことなんだろうが、仮に作戦が成功したとしても、どうやって異常種の相手をするつもりだったんだ?
まあ、何も考えてなかったんだろうが、レティセンシアにはどうするつもりだったのか、マジで一度聞いてみたいもんだ。
「失礼します。クラフターズマスターとトレーダーズマスターがお見えになられました」
「ラベルナさんとミカサさんが?わかりました、お通しして」
「かしこまりました」
そう思ってたら、クラフターズマスターとトレーダーズマスターが来たらしい。
何の用、って、デビル・メガロドンのことだよなぁ。
「失礼します。突然押しかけて申し訳ありません、フレデリカ侯爵」
「いえ、こちらも来てくださって助かりました。どうぞ、お掛けください」
2人がソファーに座ると、ミュンさんが待っていたかのようにお茶を淹れた。
さっき2人を通したばっかなのに、いつお茶を淹れたのさ?
いや、俺もお代わりもらえたからいいんだけどさ。
「それで、本日はどうされたのですか?」
「スカイダイブ・シャーク、それとデビル・メガロドンが討伐されたと聞きましてね。滅多に手に入らない魔物ですから、半分は剥製にしようと思っているんですよ。1匹は陛下に献上するつもりですが」
剥製か。
それは迫力があるんだろうが、スカイダイブ・シャークはともかく、デビル・メガロドンはデカすぎじゃないか?
「剥製って、デビル・メガロドンのですか?」
「いえ、さすがにあれは大きすぎますし、異常種なのですから上質な素材になります。剥製にするのは、スカイダイブ・シャークの方だけです」
「ミカサの提案なのですが、1匹はトレーダーズギルドに飾る予定でいます。なにせブルー・シャークは肉食とはいえ大人しいため、被害もほとんどありませんが、スカイダイブ・シャークは普通に人を襲ってきますからね。滅多に見られないブルー・シャークの希少種ということもあって、漁師の中にはスカイダイブ・シャークがどんな姿をしているか、知らない者も多いそうなんですよ」
そんなことを考えてるのか。
確かに剥製なら、どんな姿をしているかは一目瞭然だし、不慮の遭遇事故の場合でも、どんな魔物なのか悩む必要もなく逃げを選択できるようになるだろうから、安全のためにはいいかもしれないな。
「それはいいな。ベール湖で最も警戒しなければならない魔物はレイク・ビーだが、他の魔物を無視してもいいというわけではない。その中でも希少種であるスカイダイブ・シャークは、当然のように目撃例も少ないから、危険性を認識できていない者が多い。だがトレーダーズギルドに剥製を飾ることができれば、注意を促すことも容易となる。なにせ、実物が目の前にあるのだからな」
「私も賛成よ。それに漁師やハンターに限らず、安全に魔物の姿を確認することができれば、無謀な旅をする人も減るかもしれない。いっそのこと、どこかに魔物の剥製を展示する施設を作ってもいいかもしれないわね」
博物館みたいなもんか。
悪くないな。
本とかには魔物の絵と、分かる限りの生態が載ってるが、実際の大きさがわかりにくいこともあって、どれだけ脅威なのかが伝わりにくい。
だけどそういった施設ができれば、剥製とはいえ実物を見られるわけだから、魔物の恐ろしさは伝わりやすくなる。
管理とかは大変だが、それはどこかのギルドが率先してやれば解決できるだろうし、何より安全につながるわけだから、それぐらいは必要経費として割り切れると思う。
ああ、格安とはいえ入場料を取れば、多少は経費も回収できるな。
そうなると、トレーダーズギルドが管理するのが無難か。
「それはいいですね。どれだけ維持費がかかるかはわかりませんが、街道の安全を考えれば、悪くない考えです。それに入場料を設定すれば、維持費だけではなく、購入費も多少ですが賄えます。展示品の管理もトレーダーズギルドの管轄になりますから、総本部も交えて検討してみます」
提案してみたら、ものすごく前向きにとらえられた。
というか総本部まで交えるなんて、話がデカくなりすぎてませんかね?
「安全に魔物の姿形を知ることができるのは、私達としてもありがたいことなのよ。だからトレーダーズギルドが動いてくれるのは、国としても個人としても、すごく助かるわ」
「確かに良い案ですね。剥製にした魔物の素材は使えなくなりますが、クラフターズギルドとしてもメリットは大きい。おそらく、グランド・クラフターズマスターも賛成されると思いますよ」
ギルドマスターがいるからなのか、スイスイ話が進んでくな。
いや、トレーダーズギルドもクラフターズギルドも、総本部に打診してみるとか言ってるから、本決まりまではまだかかるんだろうけど。
というかグランド・クラフターズマスターって、確かエドの親父さんじゃなかったか?
「すいません、ラベルナさん。グランド・クラフターズマスターって、エドの親父さんでしたよね?」
「そうだよ。お父さんがグランド・クラフターズマスターで、お母さん達が補佐をしている。ちなみにエドのお母さんは、私と同じフェアリーだよ」
それはさすがに知ってる。
なにせあいつはフェアリーハーフ・ドワーフなんだから、これでおふくろさんがドワーフだって言われたら、親父さんは誰だよって話になるぞ。
「君の言いたいことはわかるよ。フィーナのことだろ?」
何も言ってないのに心を読まれた。
いや、確かにそうなんだけどさ。
「フィーナって、確かクラフターズマスターが身請けしている奴隷でしたよね?彼女がどうかしたんですか?」
「ええ。彼らが合同で披露宴をやろうとしているのはご存知ですか?」
「ええ、先日、彼からお誘いをいただきましたから」
「その際になんですが、フィーナもエドと結婚させたいらしくて、私に彼女のことを聞かれましてね」
なんか当事者の俺やエド抜きで、話が進んでる気がするな。
というかフレデリカ侯爵もラベルナさんも、えらい乗り気じゃないか?
「なるほど、そういうことですか。ですが身請奴隷ということは、そう簡単に解放はされないということですよね?」
そう、そこが問題なんだよ。
なにせ身請奴隷の借金は、契約で他人に話すことができないらしいからな。
これは個人での奴隷の譲渡を禁止していると同時に、奴隷を守るためでもあるらしい。
なんでも借金を肩代わりすると言って奴隷の主人になり、その後奴隷と共に姿をくらました奴が、けっこういるらしいんだよ。
当然借金の肩代わりなんてするはずもなく、奴隷の借金は前の主人に残り、その奴隷は数ヶ月後に偶然別の国で見かけられ、引き渡しの交渉をしている間に命を落としたそうだ。
しかも毎年、何人もの人が同じ目にあってるそうだからタチが悪い。
だからアミスターでは、借金を肩代わりするなら、必ず領主や代官に報告に行き、トレーダーズギルドで契約を交わした上で、登録の変更をしているそうだ。
勝手に変更した場合は不法奴隷扱いになり、そいつは犯罪奴隷に落とされるそうだから徹底している。
「ええ。ですが意外と知られていませんが、主人が許可をすれば、奴隷でも結婚できます。なので私が許可をすれば、全ては解決するというわけです」
なんだと?
普通に初耳なんだが、そうだったのか?
「そ、そうなんですか?」
フレデリカ侯爵も知らなかったみたいで、ミカサさんに目で訴えている。
「はい。その場合は、結婚相手が新しい主人になることが多いようです」
つまり何か?
ラベルナさんがフィーナの結婚の許可を出して、エドがフィーナの新しい主人になれば、晴れてエドとフィーナは結婚できると、そういうわけなんですか?
「その通りですが、主人はクラフターズマスターのままでも大丈夫ですよ」
「ちなみにだけどね、マリーナとプリムちゃんは、そのことを知っているよ。なにせこないだ、私のところに直接聞きに来たんだからね」
あの2人、外堀を埋めたんじゃなくて、飛び越えたのかよ。
つうかこないだって、まさか獣具の進捗状況を確認した日のことか?
確かにマリーナもクラフターズギルドに来てたが、あれはあれでお仕事しに来てたはずだぞ?
「つまりそのフィーナという奴隷も、エドワード君と結婚するということで間違いないんですか?」
フレデリカ侯爵が戦慄しつつも、直球で答えを聞きにきた。
ど真ん中すぎでしょう。
「私はそのつもりです。近いうちにフィーナの意思を確認しますが、おそらくは断られないでしょう」
おめでとう、エド。
これで何の憂いもなく、フィーナを嫁にできるぞ。
あとはフィーナを解放するだけだが、結婚すれば解放したも同然だろうから、そこまで急がなくても大丈夫だろうな。
「おめでとうございます、と言うべきなんでしょうね」
めでたいと思ってたんだが、なんかフレデリカ侯爵のテンションがダダ下がりだな。
何かありましたか?
「私もそろそろ結婚しなければいけないんだけど、なかなか良い相手がいないのよねぇ……」
ああ、なるほど。
フレデリカ侯爵は既に家を継いでいるから、結婚相手を探すのも一苦労ってことなのか。
独身の男か、侯爵家に入ってもいいっていう若夫婦を探すとこからはじめないといけないし、かといってバカとかクズを迎え入れたりしたら、とんでもない結果になる。
他人事だが、頑張ってくださいとしか言えないよなぁ。
「ねえ、大和君」
「はい?」
「私とも結婚しない?」
なんて思ってたら、特大の爆弾を投げ込まれた!?
いやいやいやいや、無理ですってば!
ほら、アーキライト子爵やラベルナさん、ミカサさんも驚いて……ないだと?
あれ?なんで?
「わかってるわよ。あわよくばと思わなくもないけど、そんな簡単に結婚を決めるつもりはないわ」
あー、ビックリした。
冗談だと思うが、そんな話をぶっこまれるとは思わなかったから、滅茶無茶焦った。
そもそもフレデリカ侯爵は領代として赴任してきてるんだから、フィールじゃ結婚相手を探すのも難しい。
だけど適齢期だし、何より結婚しないとお家断絶の危機なんだから、焦る気持ちもわからないでもない。
だからといって、軽々しく結婚は決めない方がいいと思いますよ。
既に3人の嫁がいる俺が言っても、説得力はないけどな。
フレデリカ侯爵にプロポーズされてしまったが、どうやら冗談だったらしく、本人もそのつもりはなかったみたいなので、その話はそこまでになった。
というか、元々は何の話をしてたんだっけか?
「ああ、博物館の話だっけか」
「博物館?なんだいそれは?」
ヘリオスオーブには、博物館っていう言葉がないのか。
まあ、自然に関する学問と大雑把だし、ヘリオスオーブだと魔物の研究の方が優先度が高いから、この場合は魔物学、展示施設は魔物館とでも言ったほうがいいか。
「なるほど、君の世界の学問を意味する言葉と、その学問を勉強、研究するための施設のことか」
「面白い言葉だね。決まったら、施設の名前は博物館にしてもいいかもしれない」
やめて。
確かに魔物も、広義じゃ博物学に含まれるだろうけど、俺の世界には魔物なんていないんだから、魔物は考慮されてないはずだぞ。
……いや、全くいないってわけでもないんだけどさ。
「魔物学だと、何となく語呂が良くないからね。それなら、博物学という言葉を使ったほうがシックリくる。クラフターズギルドに戻ったら、すぐにグランド・クラフターズマスターに連絡を取ることにしよう」
ラベルナさん、すげえやる気だな。
そこまで本気にならなくてもいいでしょう。
そういえば、魔石は魔物の魔力の塊だが、魔石を調べることはしてないんだろうか?
「ちょっと気になったんですけど、魔石って魔物の魔力の塊ですよね?」
「そうだよ。魔物が死ぬと心臓付近に魔力が集まって、それが魔石になるって言われてるね」
「その魔石って、魔導具のエネルギー源としてしか使ってないみたいですけど、調べたりはしないんですか?」
実際、魔石は魔導具にしか使われていない。
魔物の体内で生産される電池みたいな物、って考えてもいいかもしれないな。
だけど魔石は、魔物の魔力の塊なんだから、魔物の情報だってあるんじゃないかとも思える。
そう思って聞いてみたんだが、全員が何を言っているのかわからない、といった感じで俺の方を見てきた。
「大和君、それってどういう意味なの?」
代表して、ってわけじゃないだろうが、フレデリカ侯爵が口を開いた。
「いえ、魔石を調べれば、魔物の生態とかもわかるんじゃないかと思いまして。魔力の塊ってことは、魔物の情報とかもありそうな気がするし」
そう思ってたんだが、皆様方からすると、思ってもみなかった提案だったらしい。
「魔石に魔物の情報があるかもしれない……。そんなこと、考えたこともなかったわ」
「私もです。ですが確かに、魔石はその魔物の属性が現れている。それだけでは判断できませんが、調べてみる価値はありそうだ」
「だね。残念ながら、魔物の生態研究はクラフターズギルドの管轄じゃないけど、魔物についての詳細が調べられるなら、クラフターズギルドとしても協力は惜しまない」
「研究となると、トレーダーズギルドの管轄ですね。魔物について研究している者はフィールにもいますから、話を持ち掛けてみます」
魔物の生態がわかれば、ハンターは狩りがしやすくなるし、トレーダーだって街から街への移動が少しは楽になるだろう。
それに今思いついたんだが、魔石に魔物の情報があったとして、それを再現することができれば、街中でも簡単な模擬戦闘ぐらいはできるようになるかもしれない。
俺の世界だとAR、拡張現実用の機器はけっこうあるが、ヘリオスオーブでも魔法を使えば、再現できる気もするし。
あ、ARで閃いたが、明日にでもプリスターズギルドに行って、思いついた魔法を奏上してみよう。
「お願いします。もし魔石に魔物の情報があるようなら、少し考えがあるんで」
「面白そうだな。トレーダーズマスター、その研究、私にさせて頂いてもよろしいですか?」
「もちろん構いませんが、アーキライト子爵はブルーレイク・ブルの家畜化を研究されているはずではありませんでしたか?」
魔石の研究に、アーキライト子爵が名乗りを上げたが、別の研究もしているらしい。
というか、もしかしてアーキライト子爵って、トレーダーズギルドに登録してるのか?
しかもブルーレイク・ブルの家畜化って、成功したらかなりすごいことになると思うんだが、そっちは放っておいていいのか?
「そちらは煮詰まっているんです。なにせブルーレイク・ブルは滅多に見つかりませんし、見つかったとしてもすぐに逃げられてしまう。先日、オーダーズギルドのグラム君に、生け捕りができないか試してもらったのですが、そちらもできませんでした」
グラムの奴、失敗したのかよ。
と思ってたんだが、ブルーレイク・ブルは逃げられないと判断したら、自分で命を断ってしまうそうだ。
牛がどうやって自刃するんだとも思うが、ブルーレイク・ブルは水を操れるから、それを使ってということらしい。
そんなことで自殺するぐらいなら、攻撃ぐらいしろよと思うが。
「それは……確かに煮詰まっても仕方ないですね」
「ええ。ですから魔石から情報を得られるのなら、そちらからアプローチができるのではと思いまして」
それは確かに。
「わかりました。では魔石の研究は、アーキライト子爵に依頼させていただきます。後ほど依頼書をお持ちしますね」
「ありがとうございます」
アーキライト子爵はBランクトレーダーらしい。
トレーダーは商人が多いが、研究者や漁師とかも所属しているそうだから、全員が全員商売をしてるわけじゃないんだとか。
っと、せっかくミカサさんがいるんだし、こっちもどうなってるか聞いてみるか。
「ミカサさん、プラダ村へ持っていく商品って、どうなってるんですか?」
「プラダ村って……ああ、大和君達ウイング・クレストが護衛をしてくれるって話だったわね。明日には終わるから、明後日以降に出発の予定を立てているわ」
明後日出発か。
プラダ村までは1日かかって、商品受け渡しもあるから、最低でも3日はフィールを空けることになるか。
オーダーズギルドもあるし、多分なんとかなるだろう。
「わかりました。みんなにも伝えておきます」
「ええ。申し訳ないけど、よろしくお願いするわ」
今回のことは、俺とプリムが提案したようなもんだしな。
それにフラムのこともあるから、近い内に行く必要もあった。
だから今回の護衛は、依頼板に張り出される依頼と同じ扱いになっている。
それ以前に、俺とプリムも依頼者の1人ってことになってるから、報酬はなかったりするんだが。
さすがに、他のみんなの分は出るけどな。
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