水魔の鮫
Side・ラウス
大和さんとプリムさんに教えてもらった魔法は本当に使いやすいし、それなのに今までとは威力も段違いだから、今日の狩りが捗っている気がする。
危なくなったら、大和さんとプリムさんが助けてくれるって思えるのも大きいな。
もちろんそんな気持ちじゃ成長できないし、逆に危なくなるから、2人とも本当に危なくならない限りは手を出してこないけど。
さっきフラム姉さんがクエスティングで確認したんだけど、今日は既にレイク・ラビット16匹、ブルーレイク・ブル26匹、スカイダイブ・シャーク4匹、ゴブリン19匹を倒してたみたいだ。
いつもはこの半分どころか、3分の1、4分の1も狩れないんだから、すごい成果だよ。
まあ、ブルーレイク・ブルはCランクだから、ほとんど大和さんとプリムさんが倒したし、S-Rランクのスカイダイブ・シャークなんて、俺達の出る幕はなかったんだけど。
「さて、それじゃそろそろ帰るか」
「そうね。そこそこ狩ったから武器の慣らしとしては十分だと思うし、ちょっと気になることもあるしね」
気になることっていうのは、間違いなくスカイダイブ・シャークのことだろうな。
ブルー・シャークの希少種になるスカイダイブ・シャークだけど、それを7匹もを狩っているんだから、俺だって気になる。
ブルー・シャークは1匹も見ていないけど、元々滅多に見ない魔物なんだよね。
もっとも、それは希少種だって同じだけど。
なのに短時間で、7匹もの数に襲われたんだから、何かあったんじゃないかって思う。
そういえばフィールじゃ、大和さんとプリムさんが大量の異常種を狩ってるって噂があるけど、もしかしてブルー・シャークにも異常種が生まれてるんだろうか?
「ブルー・シャークにも異常種が生まれている、そう考えているんですか?」
「生まれてる、というか現れてるだろうな」
ほとんど断定してる感じだけど、まだ異常種がいるなんて信じられない。
もしかしたら、大きな魔力溜まりでもあるのかな?
魔力溜まりにいた魔物が異常種に進化、あるいは異常種を産み落とすって言われてるけど、希少種の増加も異常種出現の前兆だから、大和さんがブルー・シャークの異常種、デビル・メガロドンがいるって考えるのもわかる、というか当然の話だよ。
「幸い漁師には被害がでてないし、目撃情報もないが、元々ブルー・シャークはベール湖の深いとこで生活してるし、大人しい魔物だとも聞いてるから、ブルー・シャークの討伐依頼なんて滅多にでないらしい」
「討伐が難しいし、素材としても使いにくいらしいわね。肉も食べられないから、依頼でもない限り、狩ろうとするハンターはいないでしょうね」
確かにブルー・シャークはCランクだけど、それは体が大きくて、漁師さんがたまに怪我をするからだったと思う。
確か2メートルだったかな?
でも希少種のスカイダイブ・シャークは5メートル近くあって、しかも空を泳ぐこともできるとんでもない魔物だから、水の中と空の上の両方を警戒しないといけない。
陸に落ちれば何もできなくなるんだけど、落とすのがすごく難しいんだよ。
そして異常種のデビル・メガロドンは、10メートル近い巨体なのに、スカイダイブ・シャーク以上のスピードで水中、空中を自在に泳ぎ回る水の悪魔だ。
今日は晴れてるけど、もし雨が降ってたら最悪だった。
雨を利用して長距離の移動もするし、水の悪魔というだけあって水を自在に操るんだから、絶対に雨の中じゃ遭遇したくないよ。
というか異常種だし、ランクもG-Iなんだから、晴れてても会いたくないけどさ。
「そういえばお2人って、どんな異常種を倒したんですかぁ?」
「あ、俺も知りたいです」
噂は聞いてるんだけど、直接聞いたことはなかったからね。
せっかくだから聞いてみたいよ。
「ブラック・フェンリルにグリーン・ファングが2匹、ゴブリン・クイーン、エビル・ドレイク、マーダー・ビー、それからカース・トレントね」
噂より多かった!
というか、グリーン・ファングって2匹もいたの!?
「噂って誇張されたりしてることが多いのに、お2人の場合だと、噂の方が控えめなんですね……」
フラム姉さんに同意するよ。
異常種5匹、災害種2匹を数日で、しかもたった2人で倒してたなんて、そんなのグランド・ハンターズマスターでも無理だよ。
しかも大和さんは、エンシェントヒューマンに進化する前なんだから、今ならドラゴンでも倒せるんじゃないかって思っちゃうよ。
「私もそう思うなぁ。少なくともPランクのレッサー・ドラグーンは、相手にならない気がするぅ」
「何か言ったか?」
「何も言ってませんよぉ。それじゃあ今日はフィールに戻って、獣車のデザインと内装を決めるってことでいいんですかぁ?」
レベッカの奴、勇気あるよなぁ。
義理の妹っていう立場を既に使いこなしてる気もするけど、それはそれで怖い。
「そうなるわね。とは言っても、ハンターズギルドにデビル・メガロドンがいる可能性は伝えとかないといけないし、あたしと大和は領代に呼ばれる可能性があるのよね」
「その場合は俺が行くよ。いい加減獣車も何とかしないと、遠出もできないんだからな」
日帰りでも、獣車を使うハンターはけっこういる。
獣車の方が距離を稼げるし、休憩しながら進めるから、精神的にも楽なんだ。
徒歩だと全員が四六時中周囲を警戒しなきゃいけないけど、獣車だと交代で見張れるから、その間は休めるのも大きいよ。
俺達が従魔契約をすればある程度は解決するんだけど、牧場とかで買える魔物は高いし、毎日の餌代とかもかかるから大変なんだ。
大和さんとプリムさんはヒポグリフと契約してるけど、けっこうな食費がかかってるって聞いている。
そのヒポグリフ、ジェイドとフロライトは、ずっと大和さん、プリムさんのそばにいる。
ジェイドは時々ベール湖に入って魚を獲ってるけど、フロライトはゴロゴロしてるなぁ。
「いずれは従魔契約をしてもいいかもしれないが、その前に自分が力をつけないとな」
契約したその日に、マッド・ヴァイパーっていうレイドが希少な素材になるってことで、ジェイドとフロライトを狙ってきたそうだから、大和さんが本気でキレたってプリムさんが言っていた。
だから大和さんは、従魔に守られるだけじゃなく、従魔を守れるように強くなってからでないと、従魔契約は認めてくれないんだ。
さすがに従魔を使い捨てとか盾とかにする人はいないけど、多くの人は従魔を相棒じゃなくて、手下扱いしてるのも間違いない。
大和さんは、それが気に入らないみたいなんだ。
「それじゃあそろそろ帰ると……」
「クワアッ!!」
いつまでもここにいても仕方ないし、大和さんが帰ろうって促そうとした瞬間、ジェイドが大きく鳴いた。
同時に大和さんがマルチ・エッジとミラー・リングを生成してるけど、いったい何が?
「ジェイド、お前はフラム達とフロライトを、しっかり守ってろよ」
「クワッ!」
大和さんがジェイドに俺達の護衛を命じた直後、ベール湖から青い影が飛びかかってきた。
あれはスカイダイブ・シャークだと思うけど、さっき大和さんとプリムさんが倒した個体よりも全然大きい。
ってことは、まさか!
「さっきまでのスカイダイブ・シャークよりデカいってことは、こいつがデビル・メガロドンか。プリム」
「わかってるわよ!」
飛ばしてきた水を纏いながら突進してきたデビル・メガロドンを、大和さんがニブルヘイムっていう刻印術で防ぎ止め、間髪入れずに極炎の翼を纏ったプリムさんが、体ごとデビル・メガロドンを貫いた。
え?もう終わったの?
「プリムさん、後ろ!」
そう思ってたら、フラム姉さんが悲鳴を上げた。
その先にいたのはデビル・メガロドン。
もう1匹いたのか!
プリムさんの体は、最初のデビル・メガロドンを貫いた勢いが残ってるから、まだ宙に浮いてる状態だ。
そのプリムさんに、2匹目のデビル・メガロドンが牙を剥き、水弾を放ちながら襲い掛かった。
当然、プリムさんも気が付いてるはずなのに、動こうとも抵抗しようともしていない。
それどころか、ニヤッと笑ってる。
魔力と体力の消耗は激しいけど、翼族なら何とか避けられるはずなのに、なんで何もしないんですか!?
「え?」
だけど次の瞬間、デビル・メガロドンの巨体が大きくのけ反り、頭から、尻尾から、ヒレからと無秩序に氷り付いてしまった。
「やっぱり使い勝手がいいな。もうちょっと工夫すれば全方位はもちろん、指定した対象だけを狙えるようになりそうだ」
「対象指定は刻印術の方が上だけど、刻印具とか刻印法具が必要だしね。なんか初めて、魔法が刻印術より上なとこ見つけた気がするわ」
「そんなことはないだろ。魔法が使えるようになって思ったけど、刻印術にも欠点とか足りないとこはけっこうあるぞ」
何でもないことのように2匹のデビル・メガロドンを倒してしまった大和さんとプリムさんだけど、俺は別の意味でパニックになりそうだった。
デビル・メガロドンはG-Iランクモンスターだから、Pランクの魔物と同等か、それ以上の強さと魔力を持っているはず。
なのにそのデビル・メガロドンをほとんど一瞬で、しかも2匹も倒しちゃうなんて、目の前で見てたのに信じられない。
フラム姉さんもレベッカも呆然としちゃってるよ。
ブルー・シャークの異常種デビル・メガロドンが本当にいたこともだけど、それが2匹もいたなんて思いもしなかった。
異常種が複数生まれたっていう話は、大和さんとプリムさんが倒したっていうグリーン・ファング以外は聞いたことがない。
災害種が生まれたとしても、異常種が複数生まれるなんてことはないし、その災害種も異常種から進化してるんじゃないかって言われてたはずだから、本当にとんでもない魔力溜まりが、フィールの近くにあるんじゃないかって噂にも信憑性が出てくるよ。
「あたしの方はともかく、大和の方は高値で売れそうね」
「いや、アイス・スフィアが何ヶ所も直撃してるから、そこは素材としては使えないかもしれない。下手したら、プリムのより買い叩かれるかもしれないぞ」
確かに、異常種を素材にした武器や防具、魔導具はものすごい高値で売れるんだけど、異常種なんてGランクハンターがレイドを組んで、やっと倒せるかどうかなんだから、倒した後は素材としては使い物にならないことも少なくない。
なのにこの2人は一瞬で倒してしまったばかりか、素材を気にする余裕まであるんだから恐ろしすぎる。
そんなハンター、聞いたこともないよ。
「さて、それじゃ帰るか。さすがにデビル・メガロドンが2匹いたとは思わなかったが、犠牲者がでないうちに倒せて良かったよ」
「本当にね。もしかしたらマリーナが犠牲になってたかもしれないって考えると、確認と同時に狩ることができたのは僥倖だわ。これが希少種ならまだいるかもしれないって思うとこだけど、異常種なら大丈夫と考えてもいいと思うし」
確かにフィールだけじゃなく、プラダ村にも漁師はいるから、その人達に犠牲がでなくて済んだのは良かったと、心から思う。
水の中にいる魔物の異常種なんて、自ら姿を見せない限りは調べようがないし、討伐難易度だって高くなる。
むしろ、簡単に倒せる大和さんとプリムさんがいてくれたことを、神様に感謝しないといけない。
なんだけど、ここまで簡単に倒しちゃうとは思わなかったよ。
この分じゃプリムさんも、そう遠くない内に、エンシェントフォクシーに進化しちゃうんだろうなぁ。
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