固有魔法
アルベルト工房でミーナ、フラム、ラウス、レベッカの装備も買い揃え、製作依頼も終えた。
ちなみにフラムとレベッカは弓を使う関係上、装甲は少なめだが、左半身だけで見ると俺達と大差はない。
ラウスは前衛らしく重装備だが、それでもミーナほどじゃないな。
「さて、それじゃあ狩りに行くか。と言いたいんだが、いい加減獣車の設計図も作りたいし、今日は装備を馴染ませるぐらいにしとこう」
「それが良いわね。使い慣れない武器は、下手をすると怪我の元になるし、ミーナはしばらく狩りには来れないから、今日明日で武器を慣らしておいて、明後日ぐらいから本格的に狩りをしましょう」
俺とプリムは慣れているが、フラム、ラウス、レベッカはさっき装備を鉄から
だからまずは、武器に慣れてもらわなければならない。
特にラウスは、盾も変わってるから尚更だ。
ちなみにミーナは、オーダーの仕事があるため、先程オーダーズギルドへ向かったところだ。
夜は魔銀亭に泊まることになっているが、しばらくはこの状態が続くから、ミーナも寂しそうだったな。
「あとはせっかくだから、魔法も見てみるか」
「決まりね。じゃあお昼過ぎぐらいまで狩りをして、その後はクラフターズギルドで獣車の設計図を作りましょう」
獣車を作ると決めてから何日も経ってるが、時間が無くて、未だに設計図すら出来ていない。
幸いと言っていいかはわからないが、最近までブラック・フェンリルがいたこともあって、フィールに来る人はいない。
いや、オーダーがエモシオンまで走ったから、こないだトレーダーが来たんだが、それでも数は多くはない。
そのためクラフターズギルドにも大口の依頼は入っておらず、また俺達が忙しいことも知っているから、それぐらいじゃ催促されることもない。
だからといってそれに甘えるわけにはいかないので、今日こそ設計図を作り、数日以内に製作に入ってもらいたいと思っている。
「獣車まで注文してたんですね……」
「何というか、Gランクハンターの稼ぎってすごいんですね……」
ラウスとレベッカが遠い目をしているが、俺達はGランクの中でも稼ぐ方らしいぞ。
俺はPランクになっているが、他のPランクと比べても多いってカミナさんに呆れられたな。
運の問題もあるが、この数日で受けた指名依頼の数も半端じゃなかったから、さすがにしばらくしたら落ち着くと思う。
「今回は色々あったから、どうしてもあたし達を指名しなきゃいけない依頼が多かったのよ。普通なら分散されるはずなのに、それが全部集中しちゃったから、その分が報酬に反映されただけで、ハンターが増えて来たらさすがに減るわよ」
「それでも、俺達より多く稼げますよね?」
「いや、普段は掲示板の依頼をこなすから、報酬はどのランクでも変わらないぞ。高ランクの場合は指名依頼もあるし、討伐数が跳ね上がるから、その分で差がつくぐらいだな。ああ、あとは希少種とかも普通に狩れるから、その分も上乗せされるか」
低ランクハンターのやる気を削がないための措置だが、魔物討伐の報酬は、一定の金額に定められている。
もちろん緊急依頼や、素材収集依頼の場合は別だ。
特に緊急依頼は、依頼を出してでも早期に解決を図らなければならない事態ということもあるから、報酬はかなり高額だ。
「そうだったんですか。じゃあこの辺りだと、何を狩るのが稼ぎになるんですか?」
「そりゃもちろん、マイライトの魔物だな。オークやフェザー・ドレイクがいるから、安定して稼ごうと思えば稼げるぞ」
フェザー・ドレイクは、素材としても食材としても高級品だから、人気も高い。
そういえばウインガー・ドレイクの在庫が少なくなってきてるから、近いうちに補充に行った方がいいな。
ラウスとレベッカが驚いた顔をしているが、こんなことが日常になるんだから、慣れる努力を怠らないでくれよ?
Side・プリム
今日は武器に慣れてもらうこともだけど、大和のアドバイスで魔法も使ってもらう予定になっている。
だから簡単な狩りで終わる予定なんだけど、せっかくだからってことで、ベール湖畔でレイク・ラビット、ブルーレイク・ブル辺りを狙ってみようってことになったわ。
あたし達もベール湖畔じゃあんまり狩りをしなかったから、良い機会だと思う。
「確かラウスが
「はい。ウンディーネ、というか妖族は、特定の属性に特化してますから」
「特化しすぎてて、種族として苦手としてる
妖族は女性しかいない種族だけど、それ以外にも魔法に特化しているわ。
ウンディーネは
つまりウンディーネのフラムとレベッカは、
「じゃあ簡単に、アロー系から行ってみるか」
魔物がいないこともあって、あたし達は魔法のイメージ方法から教えることにした。
火、土、風、水、雷、氷、光、闇の
自分が使いやすいようにする事はできるし、そうやって使ってる人も多いんだけど、そうした魔法は
だけど
「アロー系って何なんですか?」
ラウスが首を傾げてるけど、今から説明するからちょっと待ってね。
「アロー系っていうのはね、魔法を矢の形にイメージして撃ち出す魔法のことで、あたしと大和が開発した
「はい。ああ、それで矢の形にすることで、攻撃しやすいようにするってことなんですね」
「正解だ。こんな風にな。『アイス・アロー』」
大和が実演すると、氷が矢の形になり、近く大和の周囲に生まれた。
氷の矢は近くにあった手頃な岩に命中すると、被弾部から氷り始め、気が付いた時には岩全体が氷付いていた。
「す、すごい……」
「最初から、何本も出そうとしなくていい。特にフラムとレベッカは弓を使うんだから、1本ずつの方がイメージはしやすいと思う」
ああ、確かにそうだわ。
それにアロー系が自在に使えるようになれば、弓術士って矢を買わなくてもよくなるんじゃないかしら?
牽制目的はもちろん、矢が尽きそうな時に使えるのも、すごく大きいと思うのよね。
「こ、こうですか?」
「難しいけど、矢の形なら見慣れてますから、イメージはし易いかもしれませんね」
さすがに弓術士の2人は、けっこう簡単に矢をイメージできているわね。
となるとラウスは、アームズ系を先にした方がいいかもしれないわ。
「大和、ラウスはアームズ系の方がよくない?特に風は実体がないし、アロー系とかランス系はわかりにくいと思うのよ」
「その方がいいかもしれないな。ラウス、お前はアームズ系っていう、属性を武器に纏わせる魔法に変更しよう」
風は目に見えないから、イメージした矢が本当にできているのか不安になっていたラウスだけど、風を纏わせるウインド・アームズなら大丈夫でしょうね。
風を渦巻くように剣に纏わせるから、こっちも視認は難しいけど、イメージはし易くなってるはずよ。
「こう……いや、風が渦を巻くってことは……そうか、竜巻だ!」
30分ぐらい悩んでたラウスだけど、どうやらコツを掴んだみたいね。
というかあたしも、極炎の翼の精度を上げるために練習しないといけないわ。
ラウスのイメージは、あたしにも参考になったし。
「大和、ちょっとだけ、あたしも試させてもらうわよ?」
「わかった」
というわけであたしは、早速極炎の翼を使ってみた。
今までは炎に風を送り込むイメージで使ってたんだけど、今回は炎を中心にして、風が渦巻くようにしてみたわ。
すると今までより少ない魔力で、今までより強く燃え盛っているのが、感覚でわかった。
なるほど、風をただ送り込むだけじゃなくて、渦を巻いて竜巻のようにすることで、全体に満遍なく、しかも長時間使うことができるのね。
だから炎がより強くなるし、魔力で風をかき集める必要がなくなるから、その分消耗が抑えられるんだわ。
「お、今までより勢いが強いじゃないか。コツをつかんだみたいだな」
「おかげさまでね。ラウスのイメージを参考にしたんだけど、けっこう使いやすくなったわ」
今までの極炎の翼は、魔力の消耗が激しすぎることもあって、本当の意味での切り札だった。
それでもなるべく使うことで、体に慣らして、魔力の消耗を抑えるようにしていたんだけど、まだ使うようになって数日だから、慣れるにはもう少し掛かると思っていたわ。
だけどイメージを変えてみたら、それだけで劇的に効果が上がったんだから、今までの使い方が間違っていて、こっちの使い方が正しいんだってことがよくわかった。
魔法にはイメージが大切だけど、いかに効率よくできるかも大事だってことなのね。
「それって、羽纏魔法の灼熱の翼ですよね?すごく火の勢いが強いんですけど、もしかしてそれも、イメージすることで強くなったんですかぁ?」
「そうなんだけど、これは普通にイメージするだけじゃ、強くはならなかったでしょうね。大和のアイデアで、灼熱の翼に爆風の翼を重ねてる、そんなイメージになるわ」
姉妹仲良くアクア・アローの練習をしていたレベッカだけど、あたしがいきなり極炎の翼を使ったもんだから、すごく驚いたみたい。
悪いと思うけど、あたしとしても街中じゃ練習できないから、こういう機会があるならやっておかないとなのよ。
「ラウス、どんな感じだ?」
「目じゃ確認しにくいので感覚でしかわからないですけど、多分上手くいってるんじゃないかなって思います」
「確かに、風はわかりにくいよな。だけど、これは風に限らないんだが、魔法は魔力を使ってるんだから、風の流れだけじゃなくて魔力を感じるようにすると、さらにわかりやすくなるぞ」
魔法を使うためには魔力を消費しなきゃいけないけど、形をイメージするということは、その形を魔力で作り出すということにもなる。
だから他人から見て成功に見えても、本人的にはそうじゃないことも珍しくない。
実際、あたしが初めて極炎の翼を使った時も、大和は勢いを増した炎を見て成功したと思ったけど、あたしとしては魔力の消耗が激しすぎるから、とりあえず形になったぐらいの認識だったもの。
「あと、多分エンシェントヒューマンに進化した影響だと思うんだが、人の魔力も感じられるようになったみたいだし、こんなこともできるようになったぞ」
そう言うと大和は、ミスリルブレードにウインド・アームズを纏わせた。
大和のブラスト・アームズは、大和の魔力と交わることで、螺旋状に刀身に纏わりついているのが、はっきりと視認できるようになっている。
もしかして魔力を使って風を具現化、いえ、風の魔力を視認できるようにしたってことなの?
「す、すごい……」
「いや、これは風の魔力を、しっかりと意識しながら使ったからできただけだ。ラウス、俺の魔力がどんな感じで流れているか、よく見てみろ」
「え?あ、はい。柄から螺旋状に、まるで階段を上るみたいに流れてて、剣先から風が拡散してる感じがします」
「そうだ。これがラウスが使っているウインド・アームズだな。剣先に到達した時点で風が拡散、と言うより、吹き抜けている感じだから、できればこんな感じに循環させた方がいい。そして切り付ける、あるいは突き刺すと同時に解放すれば、けっこう威力が増幅されるぞ」
なるほど、他人の魔力が感じられるようになったから、どうすればいいかの改善案も教えられるってことね。
よく見たら大和の瞳が青くなってる気がするんだけど、気のせいじゃないわよね?
あ、元に戻ったわ。
「フラムとレベッカは、さすがに矢を使い慣れてるだけあって、俺から言うことは特にはないな。だけど矢の代わりに使うんなら、
「
弓術士にとっては切実な問題よね。
だけどアクア・アロー、アイス・アロー、アース・アローが矢の代わりに使えるようになれば、かなり楽になると思う。
矢切れっていう最悪の事態を防ぐことができるんだから。
まあ、魔力の問題があるから、完全に取って代わることもないだろうけどね。
「プリムの極炎の翼は、もうほとんど完成といってもいいだろうな。前はどんな感じだったかわからなかったが、さっきのは灼熱の翼に爆風の翼がしっかりと重なって、炎に螺旋の風が循環していた。後は精度を高めればいいと思う」
あたしの極炎の翼って、客観的に見るとそんな感じに見えるのね。
でも、灼熱の翼と爆風の翼が重なって見えてたってのは嬉しいわ。
元々極炎の翼は、そうすることで炎を燃え上がらせ、さらに強化することを目的として、大和が提案してくれたんだから。
そして今日、ついに大和が太鼓判を押してくれたから、あたしの中でも極炎の翼は完成したと言ってもいい魔法になった。
慣れれば魔力の消費は抑えられるし、精度も高くなるから、これからは積極的に使っていくことにするわよ。
そしていずれは、迅雷の翼も重ねられるようにしたいわね。
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