人魚達の新装備

 朝になって目が覚めると、俺の隣にはプリムとフラム、プリムの隣にはミーナが寝ていた。

 俺も含めて、全員全裸でだ。


 昨日フラムとも婚約した俺は、フラム達ウインド・オブ・プラダのウイング・クレストへの加入手続きを済ませ、強引に3人の宿を引き払って、魔銀亭のハウスルームに連れ込んだ。

 そしてミーナを迎えに行ったんだが、ミーナも満面の笑みでフラムを受け入れてくれた。


 既にラウスとレベッカは関係を持ってると聞いてたから、2人で1つの部屋を宛がい、俺達は俺達で、フラムの初夜のために、俺が宿泊している部屋に入った。

 そして無事に済ませて朝を迎えた、ということになるわけです。


 あ、ウンディーネって太ももの真ん中あたりから下が魚っていうのが本来の姿で、これはラミアも同じらしい。

 なので、人化魔法を使わなくても合体できることがわかった。

 これは、俺的には大発見だ。


 ミーナもそうだが、結婚してないのに初夜というのはスルーしてくれ。


「これで2人も大和と結婚するわけだし、あとでアルベルト工房で、3人の装備も頼みましょう」


 それについては、俺も異存はない。

 だからラウスのミスリル・ラウンドシールドも、間に合わせの意味で安物を買ったんだからな。

 エドには怪訝な顔をされたが、そのことを伝えたら納得してたし、逆に急いで瑠璃色銀ルリイロカネを精製しなきゃいけねえって焦ってたぞ。

 朝飯を食いながらになるが、聞いてみるとするか。


「新しい装備、ですか?昨日、魔銀ミスリルのラウンドシールドを買ったばかりですし、そもそも俺達に、そんな金はありませんよ?」


 開口一番、ラウスがそう答えた。

 だが、それは予定通りの返答だ。


「それはウイング・クレストの活動資金から出すから、心配するな。レイドは、それぞれが特色を持ってるだろ?俺達もそれを出したいと思って考えてたんだが、その結果考え付いたのが、こんな感じのデザインのコートと瑠璃色銀ルリイロカネを使った装備なんだよ」


 これはプリムも了承してる、というか積極的に賛成してくれたから、既に決定事項と言ってもいい。


 レイドにはレイドごとの特色がある。

 揃いの革鎧を着けるのは基本で、中には全員が剣と盾を装備してたりするし、槍オンリーのレイドだってあるが、一番多いのは、レイドの紋章を装備に付けることだな。

 もちろんウイング・クレストの紋章も考えてあって、一対の翼に剣と刀をクロスさせ、中央に斧みたいなデカい斧刃を持ったハルバードを立てた感じのデザインをしている。

 この紋章を付けることはアルベルト工房には伝えてあるから、完成した装備品には、漏れなくこの紋章が入ることになっているぞ。


「レイドの特色を出すのはわかりますけど、それって私達の装備に、紋章を付けてもらえばいいだけじゃないですかぁ?」

「それだけじゃ、他のレイドとあんまり変わらないでしょう?だから見た目でも違いを出そうってことで、大和がこのコートを選んだのよ。コートって言ってるけど、実際はプレートアーマーより防御力が高いけどね」


 その説明で、ラウスとレベッカが倒れそうになった。

 フラムもそうだが、3人の防具はグラス・ボアの革鎧と鉄の手甲、足甲で、性能も高いわけじゃない。

 完全にルーキーハンター用だ。

 それに加えてラウスは鉄の丸盾を持っていたが、こちらはスパイラル・ラビットに壊されてしまってるので、魔銀ミスリルの丸盾に更新してある。


 だが俺達が使おうと思っている素材は、ウインガー・ドレイクと瑠璃色銀ルリイロカネだから、装備のグレードは一気に最高峰にまで跳ね上がる。

 デザインもさることながら、ルーキーハンターが身に着けるような装備じゃないことは間違いない。


「もしかしてなんですけど、その瑠璃色銀ルリイロカネって、こないだエドワードさんが言っていたあれのことですか?」


 興味があっただけに、ラウスも気が付いたか。


「正解だ。心配しなくても、盾も瑠璃色銀ルリイロカネで作るから安心しろ」


 なんて言ったらひっくり返った。

 椅子ごと後ろにひっくり返るなんて、器用な奴だな。


「ちょ、ちょっと待ってください!瑠璃色銀ルリイロカネって、大和さんとプリムさんの魔力に、魔銀ミスリルが耐えられないからってことで作ったんですよね!?だったら、お2人が使えばいいだけなんじゃないんですか!?」

「何を言ってるんだ。使える物は使うべきだろ。なにせ、神金オリハルコンに匹敵する性能になったんだからな」

「それに心配しなくても、劣化版、っていうわけじゃないけど、翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネっていう手に入れやすい合金もできたから、あんた達の装備が狙われることもないと思うわよ」


 仮に狙ってきたりなんかしたら、俺かプリムが叩きのめすけどな。

 そういうわけだから、諦めてデザインを決めてくれ。

 これは決定事項なんだからな。


「ラウス君、レベッカちゃん、諦めてください」


 全てを悟ったようなミーナの呟きに、ようやく観念したようだ。


 さて、この3人はどんなデザインを選ぶのかねぇ。


Side・フラム


 朝食後、私達はまたしても、アルベルト工房に赴くことになりました。

 理由は私、ラウス、レベッカの装備を注文するためです。

 既に大和さん、プリムさん、ミーナさんは注文済みだそうですが、一気にこれだけの人数の装備を、しかも希少な素材で依頼することになってしまいました。


「引き受けるのは構わないが、時間はかかるぞ?」

「それは仕方ない。ああ、瑠璃色銀ルリイロカネは武器と盾優先で頼みたいから、コートは翡翠色銀ヒスイロカネで頼む。もちろん、俺達のもな」

「そうしてもらえると、こっちも助かる。なにせ金剛鉄アダマンタイトの在庫が、クラフターズギルドにも少なくなってきてるからな。お前の刀、プリムのハルバード、ミーナさんとラウスの剣と盾、それからフラムとレベッカの弓は問題ないが、防具までとなるとさすがに足りねえ」


 武器や盾だけでもけっこうな量を使うと思うんですが、それでも足りなくなるということは、本当にクラフターズギルドにも在庫がなかったんですね。

 その金剛鉄アダマンタイトのほとんどを、私達が使うことになるのは申し訳ないんですけど、いいんでしょうか?


「なるほどね。じゃあミーナを含めて、4人の防具だけ先に見繕いましょう。魔銀ミスリルでいいわよね?」

「もちろんだ。コートができれば、そっちになるわけだしな。できれば鎧下になるような物がいいんだが」


 ミーナさんはオーダーズギルドの装備を使われていますが、退団、もしくはアウトサイド・オーダーになると、装備は返さなければなりません。

ですからミーナさんの装備も必要になるんですが、まさかコートだけでなく、その下にも着けられるような鎧まで買うことになるとは思いませんでした。


「鎧下代わりってことか。そうなるとチェインメイルがいいんだろうが、あれは作るのが面倒だし、何より需要がないから扱ってねえんだよ。鎧下についても考えがあるから、できるまでは今ある革鎧で我慢してくれ」

「それはいいが、今のままじゃ問題があるから魔銀ミスリルに換装するぞ?」

「当然だろ。そのタイプの装甲ならあるから、昼過ぎまでにやっといてやるよ」


 どうやら大和さんにとって、魔銀ミスリルは完全に代用品でしかないようです。

 元々魔力が高すぎて、武器の耐久性に問題があるというお話でしたし、エンシェントヒューマンに進化された今では、問題はさらに深刻でしょう。


 理由はわかるのですが、だからといって即決されても、こちらとしては困惑するしかありません。


「ミーナの鎧は、これでいいかしら?」

「これってブルーレイク・ブルの革鎧ですよね?けっこう上等な物みたいですけど、本当にいいんですか?」


 ミーナさんは革鎧から用意しなければいけませんが、どうやらブルーレイク・ブルの革を使った鎧に決まったようです。


 ブルーレイク・ブルは、ベール湖に生息している牛型の魔物です。

 蹄がヒレになっているため、水の中はもちろん、水の上でも自由に走り回ることができるんですけど、臆病で人には懐かないこともあって、遭遇するのが難しいんです。

 普段は水の中で生活しているんですが、一度水上に出てしまえば潜るのに時間がかかってしまうこともあって、腕に覚えのあるハンターなら一撃で仕留めることも珍しくありません。

 しかもブルーレイク・ブルのお肉はとても美味しいので、Cランクの中ではかなりの高値で取引がされています。


「代用品とはいえ、命を預けることになる防具なんだからな。妥協はしない方がいいに決まってる。あとは武器だが、ラウスは昨日盾を買ってあるから剣だけでいいとして、ミーナは剣と盾、フラムとレベッカは弓と矢か。エド、任せた」

「丸投げかよ。まあいいけどな。剣はこのミスリルソード、盾はミスリル・カイトシールド、弓はミスリル・コンポジット、矢は消耗品だから鉄の矢と魔銀ミスリルの矢、それからちょいと高いが金剛鉄アダマンタイトの矢でどうだ?」


 まさか、武器まで更新するとは思いませんでした。

 確かに納期がどれぐらいになるかはわからないと聞いていますが、私達の武器はまだまだ使えますから、更新はしなくてもいいんじゃないかって思うんですが?


「じゃあそれで。ああ、矢は鉄と魔銀ミスリルが50本ずつ、金剛鉄アダマンタイトが20本ずつで頼みたいんだがいいか?」

「鉄と魔銀ミスリルは大丈夫だが、金剛鉄アダマンタイトは20本しかないから、10本ずつってことにしてくれ」

「わかった」


 なのに大和さんは、あっさりと決められてしまいました。

 いくらなんでも即決がすぎますよ。

 ミスリルソードが3,800×2、ミスリル・カイトシールド4,300エル、ミスリル・コンポジット4,300×2、鉄の矢50エル×100、魔銀ミスリルの矢100エル×100、金剛鉄アダマンタイトの矢500エル×10、魔銀ミスリルの手甲2,400エル×4、足甲2,800×4、ブルーレイク・ブルの革鎧7,800エル、私達の革鎧に換装する魔銀ミスリルの装甲が4,300エル×3ですから、え~っと……いくらになるんでしたっけ?


「全部で82,000エルか。これで頼む」


 計算早いです、大和さん。

 商業魔法トレーダーズマジックカウンティングを使ってるわけでもないのに、どうしてそんなに早いんですか?


 って、それもそうですけど、そんなにするんですか!?

 いえ、確かに矢は消耗品ですから、弓術士は自分で作れるようにしてる人も多いんですけど、それでも一度に、これだけ大量の矢を買うなんてありえません。

 私もレベッカも、木の矢や石の矢ぐらいならよく作っていますし、それをメインに使っているんですから。


 大和さんはストレージから、事もなげに白金貨を取り出し、右手の親指で弾いてエドワードさんに向けて飛ばしました。

 白金貨はプラダ村にはありませんでしたから、見たのは初めてです……。


「あいよ。大量購入だし、新規での注文もあるから、全部で8万エルにしといてやるよ。ほれ、釣りの金貨2枚」


 エドワードさんも剛毅なお方なんですね。

 2,000エルも値引いてくださるとは思いませんでした。


「またかよ。お前だってマリーナやフィーナとの結婚が控えてるのに、なんでそんなに値切るんだよ?」

「お前らが注文してくれてるから、最近は生活が楽なんだよ。というか、なんでそこにフィーナが入ってくる?」

「そりゃ、お前の態度で丸わかりだからだよ。男には、見栄が必要な時もあるんだぞ?」


 エドワードさんが狼狽えていますけど、大和さんが珍しく、追撃の手を緩めません。

 というか、初めてじゃないでしょうか?


「大和、ちょっと耳貸して」


 そう思ってたんですけど、プリムさんがエドワードさんの味方をするかのように、大和さんを止めています。

 いえ、エドワードさんの味方ではありませんね。

 その証拠に、マリーナさんがニヤニヤしながら見ていますから。


「なんだ?……そうなのか?なるほど、わかった」


 大和さんもあっさりと引かれましたが、それが逆にエドワードさんの不安を煽っています。

 ものすごく不安そうな顔をされていますね。


「すっげえ怖いんだが……。プリム、お前、何か企んでるのか?」

「べっつにぃ~。ああ、そうだ。そんなことよりも、あたしと大和の武器は報酬だからいいとして、他のみんなの武器とコートはどれぐらいになりそうなの?」


 確実に企んでいますね。

 ですが私には何もできませんし、本命の装備の方が気になります。


「まだ何とも言えないが、ウインガー・ドレイクの素材は持ち込みとはいえ、加工の手間を考えるとコートが2万エル前後、武器はそれなりに種類があるから1万エルから2万エル、あるいは3万に届くかもしれねえ」


 あ、もう倒れそうです……。

 最低でも金貨が数枚必要で、さらに加算される可能性があるなんて、どんな装備なんですか……。


「わかった。後は納期だけど、こればっかりはどうにもならないか」

「ああ。今じいちゃんがお前の刀を打ってるが、けっこう大変そうで難儀してる。一応、試作は出来たみたいだが、完全な失敗作だったからな」


 大和さんの世界の技術で作られた剣だと聞いてますが、そんなに大変なんですね。

 リチャードさんはフィールで一番の鍛冶師だと紹介されていますが、そんな人でも失敗するなんて、大和さんの剣やプリムさんの槍ができるまで、けっこうかかってしまいそうですね。

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