魔物解体士

 おはようございます。

 昨夜はミーナとの初夜(?)でした。

 もちろんプリムも一緒です。


 いえ、何も不満はございません。

 可憐なプリムと麗しいミーナに挟まれて目が覚めたんですから、これで文句を言ったらバチが当たります。

 これ、元の世界の友人とか知人とかに知られたら、確実にフクロにされた上で、相模湾に沈められるんだろうなぁ。


 あ、実はまだ、ミーナとはプリスターズギルドに行ってません。

 王都のご両親には鳥を飛ばして連絡するつもりなんだが、返事がないのに勝手に結婚するわけにはいかないし、レックスさんにもそう言われてる。

 それにアウトサイド・オーダーとして登録できるかもわからないし、こっちはグランド・オーダーズマスターの許可が必要になるから、どうしても1ヶ月ぐらいはかかってしまうらしい。

 結婚を渋られるようなことはないし、アウトサイド・オーダーの登録も大丈夫だろうと言われているんだが、俺としては返事が来るまで怯えて過ごすことになりそうだ。


 そんなわけで、ミーナは俺の婚約者ってことになっている。

 結婚前だってのに抱いていいのかって話だが、オーダーやハンターみたいな戦闘職の男は死亡率も高く、そうでなくとも戦った後に気が昂ることも多いから、恋人同士、あるいは婚約者同士なら、婚前交渉に及ぶことも珍しくはない。

 特にハンターは、魔物と命懸けの戦いを日夜繰り広げてるから、娼館に通う人も多いぞ。


 俺はヘリオスオーブに来てから、そこまで全力で戦ったことは、先日のプリムとの決闘ぐらいだ。

 あの時はプリムに勝てたこと、プリムと結婚できたことでかなり昂ってたから、初夜とかがなかったらオーダーの誰かを誘って、娼館に行ってたかもしれない。

 なお男娼なる職業は存在せず、戦闘職の女性の場合は結婚してもいい、あるいはシングル・マザーになってもいいと思う男に身を委ねることで解決しているらしい。

 もちろん、全員じゃないけどな。


 そういう事情もあるが、一番の理由はミーナ本人から懇願されてしまったためで、しかもプリムまでノリノリで参戦してきたこともあって、こんなことになってしまったというわけです。


「おはよう、大和」

「お、おはようございます、大和さん……」


 2人とも恥ずかしがって、布団から目を覗かせてるが、すげえ可愛い仕草だな。


「おはよう。体は大丈夫か?」


 ミーナは初めてで、プリムもまだ2回目だから、体調に問題はないかしっかりと確認しないといけない。

 無理させるのは本意じゃないし、仕事に支障がでたりしたら大変だからな。


「あたしは大丈夫。ミーナは?」

「私も大丈夫です。その……優しくしてもらいましたから……」


 布団から目を覗かせてるが、すげえ可愛い。

 思わずドキッとしたぞ。


「あ~、大丈夫ならいいんだ。ところで、オーダーズギルドには何時ぐらいに行くんだ?」

「今日はお昼過ぎからですけど、それがどうかしたんですか?」


 昼過ぎか。

 なら時間はあるな。


「ならアルベルト工房に行って、ミーナの装備も頼もう。もちろん瑠璃色銀ルリイロカネで」

「いいわね、それ」


 プリムも賛成してくれたし、決まりだな。

 だけど当のミーナはといえば。


「ルリイロカネ?それって何なんですか?」


 という始末だ。

 いや、瑠璃色銀ルリイロカネはまだ公表してないし、まだ俺とプリム、アプリコットさん、そしてアルベルト工房の面々しか知らないから、仕方ないんだけどな。


瑠璃色銀ルリイロカネっていうのはね、大和が提案して、エドが精製に成功した新しい金属のことなの。魔力強度と硬度は金剛鉄アダマンタイト、魔力伝達率は神金オリハルコンと同等で、重さも魔銀ミスリルより少し重い程度だから、すごく使いやすいと思うわよ」

「そ、そんなすごい金属を作ったんですか!?」


 驚くよな。

 ヘリオスオーブには合金っていう概念がないから、誰も試したことがない。

 というか、発想自体がない。

 だから、金属はそういうものだ、というのが常識であり、最良かつ最高の金属は神金(オリハルコン)ということになっていた。


 神金オリハルコンは、アミスターの東の海の先にあるグラーディア大陸でしか産出しない上に、その大陸を支配しているアバリシア神帝国がヘリオスオーブ統一を掲げていることもあって、フィリアス大陸の国家との取引は、皆無と言っても過言じゃない。

 しかもアバリシアにはギルドも一切進出していない、できてないため、内情も不明な点が多い。


 だからフィリアス大陸では、迷宮に出没する神金オリハルコンのゴーレム、あるいはパペットを倒すことでしか、神金オリハルコンを手に入れることができない。

 そのため非常に高値で、それこそ神金貨で取引をされている。


 ちなみにだが、全ての迷宮にゴーレムやパペットが出没するわけではない。

 アミスターの他にもバリエンテ、リベルター、レティセンシアの迷宮で存在が確認されているが、バレンティアやトラレンシア、ソレムネの迷宮では一切確認されていないそうだ。

 この事実は、フィリアス大陸統一を掲げているソレムネ帝国にとっては、非常に頭の痛いことらしく、そのおかげで大きな戦争を起こすことに二の足を踏んでいるんだとか。


 瑠璃色銀ルリイロカネは、その神金オリハルコンに匹敵する金属といえるから、これが広まれば、フィリアス大陸での金属の常識が覆ってもおかしくはない。

 当然、フィールを荒らしたレティセンシア、フィリアス大陸統一を掲げてるソレムネも狙ってくるだろう。

 エド達が迂闊に製法を漏らすとは思えないが、完全に隠すこともできないから、落ち着いたら翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネの製法を、クラフターズギルドに伝えるつもりでいる。

 エド達が危険になったら、意味ないからな。


「そ、そんな金属を使わなくても、私は魔銀ミスリルで十分ですよ!というか、なんで私までオーダーメイドなんですか!?」


 それを伝えたら、ミーナがパニくってしまった。


「今は良くても、先はわからないでしょ?それに瑠璃色銀ルリイロカネは、公表するとしてもかなり先になるから、今のうちに色々と調べておきたいっていう事情もあるのよ」


 瑠璃色銀ルリイロカネは完成したばかりだから、まだ武器の形になった物は1つもない。

 だから俺とプリムの武器は、オーダーメイドであると同時にプロトタイプでもあり、さらにテストタイプでもある。


 だが俺達はGランクだし、魔力も普通の翼族より多いという、ある意味特殊な存在だから、とてもじゃないがテストに向いていない。


 ところがこれがミーナならば、話はガラッと変わる。

 ミーナはまだレベル22であり、平均的なハンターより下になる。

 もちろん、この先どうなるかはわからないし、俺達と一緒に狩りにいけば、レベル30ぐらいまでなら、すぐに上がるだろう。

 そのミーナに使ってもらうことができれば、俺達より詳細に、瑠璃色銀ルリイロカネの性能がわかるんじゃないかと思える。


 もちろんテストのためだけじゃなく、同じ素材で作った装備を使ってもらいたいっていう、俺の想いもあるぞ。


「な、なるほど、そういうことでしたら……」


 って説明したら、照れながらも納得してくれたから、朝飯を食いながら、例のゲーム画像から剣と盾、鎧を見せてデザインも決めてもらったぞ。

 ミーナが選んだデザインは、まさにジ・オーダーって感じだ。

 オーダーになるのが夢だったのに、オーダーになった瞬間に辞めることを決意したんだから、やっぱりどこか心残りがあったんだろうな。


Side・ミーナ


「で、ミーナさんとも婚約したってのか?手が早い奴だと思ってたが、まさか昨日の今日でプロポーズするとは思わなかったぞ」

「うるさいよ。そう言うお前はどうなんだよ?」


 ハンターズギルドで昨日の報酬と買取額を受け取り、大和さんとプリムさんが指名依頼を受けた後、私の装備の製作を依頼をするためにアルベルト工房に来たのですが、何やら大和さんとエドワードさんが言い争っているようです。

 いえ、エドワードさんは呆れているみたいですから、言い争いというのは語弊かもしれません。


「ねえプリム、ミーナもってことは、もしかしてフラムも?」

「当たりよ。近いうちに、フラムも連れてくることになると思うわ」

「ってことはラウスとレベッカも?」

「そうしようと思ってるわ」


 プリムさんとマリーナさんも、こちらはこちらで密談中のようです。

 私には丸聞こえなんですけど、何故マリーナさんがそこまで知っているんですか?


「あたしが話したからってのもあるし、前に一緒にご飯食べた時には気が付いてたみたいよ」


 あの時ですか。

 確かにマリーナさんは勘が鋭いですから、私達の気持ちに気付いていても不思議とは思いませんけど、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいですね。


「で、ミーナさんの装備も、例のやつを使って作れってことか?」

「ああ。素材は足りるよな?」

「微妙だな。クラフターズギルドにも金剛鉄アダマンタイトの在庫が少なくなってきてるし、例のコートは裾が長いから、ウインガー・ドレイクもギリギリかもしれねえ」

「そうなのか?金剛鉄アダマンタイトって、どれぐらいまでなら手に入りそうなんだ?」

「ミーナさんの剣と盾を含めても、お前とプリムの武器を、予備も作れる分ぐらいはある。だけど装甲に使うには、まるで足りねえよ」


 いえ、別に私は、その瑠璃色銀ルリイロカネという超金属じゃなくても構わないんですけど……。

 というか、コートの方の素材って、ウインガー・ドレイクだったんですね……。


「となると、武器は瑠璃色銀ルリイロカネで、コートの方は翡翠色銀ヒスイロカネにしといた方がいいか」

「そうしてくれ。魔銀ミスリル晶銀クリスタイトは採掘が再開されたおかげで、手に入りやすくなったからな」

「となると次の問題は、ウインガー・ドレイクね」

「ああ。ある意味じゃ、金剛鉄アダマンタイトを用意するより手間だぞ。なにせ、フェザー・ドレイクの希少種なんだからな」


 ですね。

 フェザー・ドレイクでさえ、マイライトから降りてくることは稀ですし、その素材は高級品なんですから。


「心配するな。もう1匹あるから」

「あるのかよっ!?」


 そう思っていたんですが、大和さんの口から、とんでもない言葉が飛び出しました。

 既に1匹お渡ししてるのに、さらにもう1匹あるとか、普通は思いませんよ……。


「正確にはあと3匹あるぞ。全部渡しとこうか?」


 さらに増えるんですね……。

 多分、エビル・ドレイクの討伐に行かれた際に狩ってきたんでしょうが、その時のお話を聞くのって、とても怖いですね……。


「ちょっと待て!ここで出すな!」

「出すなって、何でだよ?」

「解体はここじゃできないから、クラフターズギルドに持ち込むことになるんだよ」

「そうなのか?」

「ああ。ハンターズギルドじゃ魔石を取り出すぐらいしかしないが、それだってクラフターズギルドから派遣されてる、魔物解体師がやってるんだぞ?その魔石を含めて、クラフターズギルドが買い取ってから残りを解体して、そこから依頼されてる物を作るか、素材のままトレーダーズギルドに引き渡すかってのが流れだな」


 大和さんが感心されてますが、私も知りませんでした。

 だから各ギルドは、近いところに建てられているんですね。


「なるほどな。ってことは、自分達で狩ってきた魔物素材を自分達で使いたい場合は、ハンターズギルドじゃなくてクラフターズギルドに頼むことになるのか」

「そうなるな。だからそいつは、お前が解体依頼出しといてくれ。ああ、1匹でいいぞ。それと、手数料もかかるからな?」

「それは当然だろう。あれ?ってことは、昨日置いてったウインガー・ドレイクって、もしかしてお前がクラフターズギルドに解体依頼出したのか?」

「ああ、プリスターズギルドの帰りに寄って、頼んできた。明日にはできるそうだから、取りに行くのはその時だな」


 魔物の解体はハンターズギルドがやっていると思ってたんですが、クラフターズギルドの管轄だったんですね。

 確かに建物の解体作業もクラフターが行っていますから、言われてみれば当然かもしれません。


 それにしても、大和さんがご存知ないのは無理もありませんが、私も知らないことばかりなんだと痛感してしまいます。

 もっとしっかりと、色々なことを勉強しないといけませんね。


「お、プリスターズギルドに行ったのか。どうだった?」

「なんつうか、無事に奏上できちまったよ。プリスターズギルドとしても数十年ぶりのことだからってことで、プリスターズマスターまで出てきたぞ。しかも涙を流して感謝されちまったから、すげえ居心地悪かったな……」

「おお、やったじゃないか。おめでとう、エド」

「ありがとよ、って言いたいとこなんだが、本当はお前がやるべきことだったんだぞ?」


 プリスターズギルドって、もしかして、マリーナさんとご結婚されたんでしょうか?

 でも奏上がどうとかって聞こえましたし……まさか、新魔法を奏上したんですか?

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