小さき村の人魚
Side・フラム
私はフラム。
フィールより少し北にある、プラダ村という村に住んでいる
フィールから、エモシオンのオーダーズギルドに報告に向かうために立ち寄られたオーダーの方が教えてくれたんですが、先日プラダ村に滞在されたフォクシーの親子と護衛のヒューマンが、グリーン・ファング、さらにはブラック・フェンリルを退治してくれたそうなんです。
ブラック・フェンリルみたいな災害種までいたことはとんでもない恐怖でしたが、おかげで村も活気が戻り、食料も買い付けに行くことができるようになりました。
だから私は妹のレベッカ、幼馴染のラウスと3人でハンター登録も行い、プラダ村までトレーダーに来てもらう交渉をするために、フィールに向かうことにしたんです。
「ここがフィールのハンターズギルドか。これでやっと、俺達もハンターになれるんだな!」
「ラウス、浮かれるのはわかるけど、目的を忘れちゃダメよ?」
「わかってるって。ハンター登録はついでみたいなもんで、終わったらトレーダーズギルドに行って、トレーダーの派遣を頼むんだろ?」
すぐにどうなるわけではありませんが、蓄えが少ないのも間違いありませんし、閉塞感から抜け出すためにも嗜好品は必要です。
そのために村長から、最低限必要な商品のリストを預かっています。
個別に必要な物でも、緊急性の低い物は別のリストにまとめてありますが、こちらはできればといったところですね。
それよりも、まずはハンター登録をしてしまいましょう。
「ようこそハンターズギルド・フィール支部へ。登録ですか?」
ギルドに入ってリクシーの女性が受付をしているカウンターに行くと、すごく丁寧に対応されました。
一瞬気後れしてしまいましたし、ラウスとレベッカも驚いていますが、私はすぐに目的を思い出して答えを返しました。
「はい、お願いします」
「わかりました。ではこちらに記入をしていただくんですが、代筆は必要ですか?」
「いえ、大丈夫です」
私は文字の読み書きができますが、ラウスとレベッカはまだできません。
読むだけならできるはずですから、近いうちに書けるようにもなるんじゃないかと思います。
「はい、フラムさん、ラウス君、レベッカちゃんですね。レイド名はウインド・オブ・プラダ。はい、問題ありません。それでは登録しますので、こちらに血をお願いします」
「わかりました」
私はハンターよりクラフターの方が興味あるんですけど、プラダ村でも魔物を狩ることは珍しくありませんし、ハンターズギルドが一番高く買い取ってくれて、さらには討伐依頼があれば報酬までもらえるんですから、魔物を売るならハンターズギルドが一番です。
いずれはクラフターズギルドにも登録するつもりですが、そちらはハンターとして活動して、お金を稼いでからにするつもりです。
「これで登録は完了になります。注意事項はこちらに明記してありますので、時間のある時にでも読んでおいてくださいね」
簡単な説明を受けて、これで登録完了です。
私達はライセンスを確認すると、お互いに見せ合いました。
フラム
18歳
Lv.17
妖族・ウンディーネ
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:ティン(I-T)
レイド:ウインド・オブ・プラダ
ラウス
13歳
Lv.21
獣族・ウルフィー
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:ティン(C-T)
レイド:ウインド・オブ・プラダ
レベッカ
13歳
Lv.19
妖族・ウンディーネ
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:ティン(I-T)
レイド:ウインド・オブ・プラダ
これが私達のライセンスですが、実は私が一番レベルが低いんです。
ラウスはよく狩りに行きますから、いつの間にかレベルが上がったみたいです。
レベッカもラウスと一緒に行動することが多いですから、そのせいでしょう。
それに先日、プラダ村に来られた方から魔法の特性を教えていただきましたから、そのおかげでわずか数日で、いくつかレベルも上がったんです。
フィールに滞在すると聞いていますから、お会いできたらお礼を言いたいものです。
「へえ。お前ら、ハンター登録したばかりなのかよ。なら俺達が、ハンターとしての心得を教えてやるよ」
「ありがたく思えよ?俺達ケルベロス・ファングがこんなことするなんて、滅多にないんだからな」
「礼は体で払ってもらうから、遠慮はいらねえぜ?」
ところがハンターズギルドを出ると、30人近くの人達に囲まれてしまいました。
話から察するに、あの人達もハンターなのでしょうが、とてもではありませんがハンターとは思えません。
「いらないよ。フィールには知り合いがいるから、教えてもらうならその人達って決めてるんだからな」
ラウスがすぐに断りますが、どうやら逆効果だったみたいです。
「俺達の好意を断るってのか?それでこのフィールで、ハンターとしてやってけると思ってんのか?ああん?」
「思ってるよ!だってその人達、すっごくレベルが高いんだから!」
レベッカも声を上げますが、今度は嘲笑しているのがわかります。
「な、なによ?何がおかしいのよ!?」
「おかしいさ。なにせ今フィールにいるハンターで一番レベルが高いのは、間違いなくこのあたいなんだからね」
リーダーと思える女の人の言葉に、私達は驚きました。
そんなはずがありません。
今フィールにはあのお2人が、レベル50オーバーのハイクラスのお2人がいるんですから、この人が一番レベルが高いなんてことがあるわけがありません。
「姐さん、もしかして、あいつらのことじゃねえか?」
「ああ、なるほどね。だけど、あいつらが帰ってくるってことはないだろうさ。なにせたった2人で、マイライトに向かったって話だからね。いくらハイクラスだろうと、たった2人でマイライトに行って、生きて帰ってこられるはずがないさ」
「そんなわけない!それになんで、あんた達は行かなかったんだよ!?」
「行くわけがないだろ。そんなとこに行ったって何の得にもならないし、命を無駄に捨てるようなもんじゃないか。なんであたいらがこんな街なんかのために、そんなことしなきゃいけないのさ?」
私は耳を疑いました。
確かにマイライト山脈は、ヘリオスオーブでも有数の危険地帯ですが、それでも依頼で赴くことはあると聞いています。
なのにこの人達は、自分には利益がないから行かない、フィールがどうなっても知らないなんて、とてもハンターとは思えない無責任な発言をしてしまったのです。
なんでこんな人達がハンターでいられるのか、不思議で仕方ありません。
「そういうわけだから、あんたらにはあたい達が、しっかりとハンターの心得を叩き込んでやるよ。フィールで生きていくなら、あたいらの言うことに従いな」
「絶対にヤだね!」
「威勢のいいガキだな。まあ、てめえは姐さんに可愛がってもらえよ」
そう言って一人の男の人が、不用意にラウスに近づきました。
「ぎゃあああっ!」
ところがラウスはその人の腕を取ると、躊躇なく捻り、骨を折ってしまいました。
「てめえ!調子に乗ってんじゃねえぞ!」
「うるさい!悪いのはそっちじゃないか!」
ケルベロス・ファングの人達が私達を取り囲みましたが、武器を抜いてないのは救いかもしれません。
街中で不必要に武器を抜けばオーダーズギルドに捕まることになりますから、それを避けたのかもしれませんが。
「今のは油断したあいつが悪い。だからそのことで、あんたらを罰することはないさ。だけどね、これであいつはしばらく狩りに行けなくなったし、街を守ることもできなくなっちまったんだ。当然、慰謝料ぐらいは出すんだろうね?」
「そ、それは……」
私にも悪いのがこの人達だということはわかっていますが、それでも先に手を出したのはこちらです。
だから私は、女性に返す言葉を持ちませんでした。
お金は持っていますが、このお金は村のためのものですから、私達が勝手に使うわけにはいきません。
どうすればいいのか、私にはまったくわかりません。
「金がないのはわかってるよ。だからちょっと付き合ってもらえばそれでいいさ。別に体を売れとか、そういう話じゃないから安心しな」
正直なところ、まったく信用ができません。
ですが他に選択肢がないのも事実ですから、私は彼女の言うことに従うことにしました。
「わかりました。ですが、行くのは私だけでお願いします」
「そうはいかないよ。実際にこいつにケガさせたのはこのガキなんだから、少なくともあんたとこいつは来てもらわないと誠意が感じられないね」
確かにそうなのですが、それでもラウスは私の弟のようなものです。
弟を危険な目に合わせるつもりはありませんから、やはりここは私だけで済ませてもらわなければ。
「おい、俺の知り合いに何してんだ?」
そう思っていたら、救いの手が現れました。
ヤマト・ミカミさん。
私どころかプラダ村の人が知る中でも、最もレベルの高いハイヒューマンの男性。
その大和さんが言うには、このケルベロス・ファングという人達だけではなく、今フィールにいるハンターは、全員が犯罪に手を染めているそうです。
大和さんもこんな目にあったことは一度や二度ではなく、既に何人ものハンターを捕まえているそうですから、とても信じられません。
「助けていただいて、ありがとうございました」
「気にしないでくれ。それにしても、タイミングが良くてよかったよ。実際マイライトに向かったのは昨日だったから、普通ならまだマイライトにいただろうしな」
「本当にね。あたし達もだけど、あんた達も運が良かったってことでしょうね」
こちらはハイフォクシーのプリムローズさんです。
プラダ村に来られた時はフォクシーだったのですが、滞在中にハイフォクシーになられたので、すごく驚いた覚えがあります。
もう1人のヒューマンの女性は初めてですが、身成からオーダーだとわかります。
お名前はミーナさんと仰って、大和さんとプリムローズさんの案内役をなさっているそうです。
「それにしても、フィールに来るって話はした覚えがあるけど、思ったより早く来たな。道中は大丈夫だったのか?」
「はい。お2人がブラック・フェンリルやグリーン・ファングを倒してくださったおかげで、特に問題はありませんでした。何度かグラス・ウルフに襲われましたが、それぐらいですね」
「あれ?グラス・ボアはいなかったの?」
「はい、一度も遭遇しませんでしたし、見かけることもありませんでしたよ」
どうしてそんなことを聞くのかという顔でレベッカが答えますが、大和さんとプリムローズさんは残念そうな顔をしています。
何かあったのでしょうか?
「いや、今グラス・ボアの素材収集依頼を受けてるから、目撃情報があればいいなって思っただけだよ」
そういうことですか。
ですがグラス・ボアは、アミスター王国の平野ならどこにでもいる魔物ですから、探すのも難しくないと思います。
「まあ、そうなんだけどね。それより、これから予定はあるの?」
「あ、はい。トレーダーズギルドに行って、頼まれた物を注文しなきゃいけないんです」
量も多いですから、おそらくハンターズギルドに護衛依頼も出さなければいけないと思います。
フィールの現状を聞いた今じゃ、とても依頼したいとは思いませんが。
「ああ、なるほどね」
「なら、晩飯は一緒に食わないか?せっかくだから俺が奢るよ」
「いえ、そんな……」
私としては断りたいんですが、ラウスもレベッカも目を輝かせています。
プラダ村にも食事処はありますが、あくまでも宿がメインですから、滅多に外食をすることはありません。
だからラウスとレベッカは、フィールで食事をすることを、とても楽しみにしていたんです。
もちろんハンターになったばかりですから、しばらくは節約しなければならないので、食べられるとしてもまだ先だと思っていましたけど。
なのに大和さんがご馳走してくださると仰ってくださったものですから、2人はかなり期待してしまっているんです。
「遠慮しなくてもいいわよ。久しぶりに会ったんだから、ゆっくりと話もしたいしね」
お2人のお話を聞きたいのは私も同じですが、少し聞くのが怖い気もします。
「聞きたいです!」
「私も!」
でも弟も妹も、私の気持ちを知らずに呑気なものです。
ですが2人は乗り気ですし、久しぶりにお会いできたのも間違いないですから、今日のところはご馳走になることにします。
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