ハンターの凶行

Side・プリム


 まったく、男ってつまらないことで意地を張るのよね。

 だけど大和の子供っぽい面が見られたし、ヘリオスオーブに来てから緊張の連続だったから、たまにはこういう事があってもいいかもしれないわね。


「それでは宿にご案内しますけど、本当にいいんですか?」

「いいって何が?」


 あたし達はフレデリカ侯爵の屋敷ではなく、レックスさん推薦の宿に泊まることにした。

 フレデリカ侯爵の屋敷ならハンターどもはもちろん、ハンターズマスターですら迂闊に手を出すことはできないけど、あたし達が厄介になってしまえば、ハンターズマスターが来訪する絶好の理由になってしまう。

 だからあえて別々に泊まることで、母様に手出しされないようにしたの。


 そういう訳であたし達はレックスさんに宿を紹介してもらったんだけど、その宿ってフィールでも有名で、それなりにハンターどもも宿泊してるみたいなのよね。


「ああ、なるほどな。だけど宿の中で襲って来たりなんかしたら、それこそオーダーズギルドに捕まることになる。しかも言い訳すらできないんだから、滅多なことをしてくるバカは、いてもそう多くはないだろ」


 ミーナの心配もわかるけど、だからって野宿する方が危険だわ。

 もちろん、絶対に連中が泊まれないような部屋に泊まるつもりだから、セキュリティもしっかりしてるでしょうしね。


 っと、着いたわね。

 ここがあたし達が泊まる宿で、魔銀亭まぎんていっていう名前になるそうよ。

 ハンターズギルドのある中央広場から一本西の通りにある3階建ての箱型で、しっかりとした石造りの建物よ。

 食事も美味しいって聞いてるから、楽しみだわ。


「魔銀亭は食事もおいしいですけど、一番有名なのは大浴場です。週に2回、一般にも格安で開放してくれるんですよ」

「お風呂もあるのね。すごいじゃない」


 尻尾が大きく揺れてるのがわかるわ。


 ヘリオスオーブじゃ、お風呂は王族や貴族ぐらいしか所有していない。

 普通は奏上魔法デヴォートマジックウォッシングで、軽く汗を流したりするぐらいね。


 魔法があるからお湯を沸かすのは難しくないし、水は井戸から汲み上げればいいんだけど、お風呂を沸かすだけの水を用意するのはかなり大変だし、井戸を占領してしまう可能性もあるから、一般家庭では個人で井戸を所有していない限り、風呂の所有も禁止されているの。

 水を出す魔道具もあるんだけど、そっちはそっちで結構高いのよね。


 だから魔銀亭は大浴場の一般開放をしてるんだけど、他にもやっている宿はあるし、公衆浴場もあるから毎日通う人もいるみたいよ。

 気持ちはよくわかるわ。


 それじゃさっそく、チェックインの手続きをしましょうか。


「いらっしゃいませ。これはミーナさん、本日はいかがなさいました?」


 魔銀亭に入るとロビーが広がってて、奥に受付があり、ウルフィーの女性が座っていた。


「こんばんは、今日はこちらの方達の案内なんです。あ、お部屋って空いてますか?」

「はい、ございます」

「それでは、こちらのお2人をお願いします」

「かしこまりました。お部屋はいかがなさいますか?」


 ミーナって、けっこう顔が広いのね。

 レックスさんの妹だからってこともあるかもしれないけど。


 っと、部屋ね。

 もちろん決まってるわ。


「ハウスルームって空いてますか?」


 大和が客人まれびとということや、あたしがハイドランシア公爵家の者だということ、ハンターズマスターと敵対していることとか、他人には聞かれたくない事情もあるしね。

 ましてや、今フィールにいるハンターは信用できないんだから、不必要に接触したくないわ。


「かしこまりました。料金は前払いとなっております。料金はお1人様、一泊1,000エルとなっております」


 ザックやエモシオンで泊まった宿と同じみたいね。

 まあ多少高くても、今のあたし達には何の負担にもならないんだけど。


「食事はどうなってるんですか?」

「夕食と朝食がございます。食堂で召し上がっていただきますが、100エルお支払いいただければ、お部屋までお持ちいたします」


 こっちは有料なのね。

 そうなるとザックより割高になるけど、それでも思ってた値段より高いわけじゃないし、何よりハンターどもと顔を合わせたくないから、運んでもらおうかしらね。


「プリム、運んでもらっていいよな?」

「もちろんよ。それじゃ10日ばかりお願い」


 1日2日はともかく、マイライトに行ったら数日は帰ってこれないと思う。

 それでも部屋を押さえておく意味もあるから、無駄だとは思わない。


「ありがとうございます。それでは、お部屋にご案内致します」


 22,000エル支払うと、案内の人がやってきた。

 あたしと同じフォクシーだわ。


「せっかくだし、ミーナも飯ぐらい食っていけよ。もちろん、帰りは送るぞ」


 言うが早いか、大和がさらに1,000エルを、受け付けの人に手渡した。

 食事代がそこまで高いわけじゃないけど、チップ込みで渡してあるから、受付のお姉さんはホクホク顔ね。


「それがいいわね。案内してもらったお礼にもなるから来なさいよ」


 大和の意図はわかってるわよ。

 このままミーナを帰せば、バカどもに襲われるかもしれない。

 だから大和が、門の近くにあるオーダーズギルドの詰所まで送り届けることで、ミーナの安全を確保し、同時にバカどもに睨みを利かせるつもりね。

 ちょっとジェラシーだけど、あたしも賛成だわ。

 中央広場には本部があるから、そこまででもいいのかもしれないけど。


「と、とんでもないですよ!これもお仕事なんですから、お礼を言われるようなことじゃありませんし!」

「それを言うなら、俺達だって魔物を狩るのが仕事だぞ」

「その時はまだ、ハンター登録されてなかったじゃないですか!」


 ミーナが大きな声を上げちゃったけど、それに反応して、どっかのバカどもがニヤついた顔で近づいてくる姿が視界に入った。

 すっごく不愉快ね。


「よう、こんなとこで何してんだ?もしかして、泊まる金がねえのか?」

「なら、俺達の部屋に泊めてやるよ。礼は一晩楽しませてくれりゃ、それでいいからよ」

「男はこっちで貰うよ。けっこう可愛い顔してるし、あいつらも喜ぶだろうしね」


 男も女も、どうしょうもないバカだわ。

 だけどこんな所で暴れるわけにはいかないし、あたし達がGランクだってことは、多分明日には広まる。

 それだったら、ライセンスでも見せびらかしてやった方が、大人しくなるかもしれないわね。

 そう思ってたら、あたしより先に大和が、声を掛けてきた女の鼻先にライセンスを突き付けていた。


「Gランク!?しかもレベル57って嘘でしょ!」


 女の声に仲間の男達も驚いて、大和の冷たい視線にさらされながら、脇目も降らずに逃げていった。


「やっぱり、見た目で判断するバカは多いみたいね」

「別に構わないさ。後で相応の代償を払ってもらうだけだからな」


 それについては同感だわ。

 まあ痛い目見ても、バックにハンターズマスターが控えてるって出てくるバカはいるだろうけどね。


「さて、それじゃ部屋に行くとするか。すいません、案内お願いできますか?」

「かしこまりました。こちらでございます」


 ミーナはまだ何か言いたげだったけど、ここまで来たらもう逃げられないわよ。

 あたしとしても、ミーナとは長い付き合いになるんじゃないかって思うから、これを機に親睦を深めておきたいしね。


Side・大和


「こちらが当宿のハウスルームです。中はすぐにリビングとなっており、そこから寝室が5部屋、テラスがあり、小さいですが浴室も備え付けております。またトイレもリビングに2基ございますので、お部屋から出なくとも、快適に過ごすことができるようになっています」

「おお、いい部屋だな」


 リビングは思っていたより広く、値の張りそうなソファーやテーブルもある。

 テラスまであるとは思わなかったな。

 しかも小さいと言われた風呂だが、ザックの宿より大きく、5人ぐらいなら同時に入れそうだ。

 さすがにエモシオンよりは小さいみたいだが、それでも全然気にならん。

 マジでいい部屋だな。


「寝室が5部屋に、大きめのお風呂があって、これで一泊3,000エルか。儲かってるのかしら?」

「はい。この部屋は、高ランクトレーダーがよく宿泊なさいます。当宿では最高の部屋ですので、防犯にも気を遣い、高性能の魔道具を使用しております。そのため、盗難などの心配もございません。またこの階には、鍵を持った方しか上がってくることができないので、夜分に襲われる危険性もございません」


 盗難や襲撃の心配がないとなれば、トレーダーとかは喜んで泊まるよな。

それでいて一泊3,000エルは、かなり安い。

 俺は案内係にも200エルほど渡して礼を述べ、飯を運んでもらうように頼むと、リビングのソファーにふんぞり返った。


 チップは100エル、つまり銀貨1枚ぐらいが相場になっているが、必ずしも渡す必要はない。

 特にハンターや一般の旅行者だと、そこまで余裕がないことも珍しくないから、従業員としても貰えればラッキー程度の認識だ。

 まあ貴族や高ランクハンター、高ランクトレーダーだと、その限りでもないんだが。


「しかし、フィールに来るまで魔物の襲撃がすごかったから買い取り額も大きくなったけど、フィールの初日からこんな生活してると、金銭感覚がおかしくなるな」


 ヘリオスオーブに来てから、たった数日で凄まじい大金を稼いじまったからな。

 普通に暮らしていくには十分過ぎる金を手に入れてはいるが、そういうわけにもいかない。

 着替えだって必要だし、飯も食わなければならない。

 緊急に入用になることだってあるだろう。

 なのにこんな生活をしてたら、すぐに金がなくなってしまう。


「まったく同感ね。まあ既に次の依頼も受けてるし、明日はそのための準備と武器の試し切りでもして、感触を確かめておきましょう」

「だな。もうじき飯も来るし、今日はいろいろあって疲れたからゆっくりしようぜ」


 朝プラダ村を出発してから、昼飯までに何度もグラス・ウルフやグリーン・ウルフに襲われて、昼飯を食ったと思ったらウインド・ウルフがやってきて、それを倒したらブラック・フェンリルとグリーン・ファングまでご登場ときたからな。


 夕方にフィールに着いたと思ったら、そこからハンターズギルドでハンター登録をして、領代やオーダーズマスター、サブ・ハンターズマスターに状況を説明して、さらについさっきまでアルベルト工房で武器や防具を見てたもんだから、既に日は沈んでるし、もう1時間もしないうちに街の灯りも消えるだろうな。


「それがいいわね。ミーナもいつまでも立ってないで、適当に座ってよ」

「そ、それでは失礼しまして……」

「そうだ。もう時間も時間だし、今日はここに泊まっていきなさいよ」

「えっ!?」


 俺とは間隔を開けた位置にミーナが座った瞬間、プリムさんの爆弾発言が飛び出した。


「だってもうすぐ街の灯りも消えるだろうし、今のフィールは、あたしから見ても女の1人歩きは危ないわ。いくらオーダーでも、いえ、オーダーだからこそ、狙われる可能性があると思うわよ?」

「ああ、それはありえるな。特にミーナはレックスさんの妹なんだから、オーダーに怨みを持ってるハンターからすれば狙い目だろうしな」

「そ、そんなことありませんよ!確かに私はまだIランクオーダーですけど、一応それなりの腕はあるつもりですから!」


 うん、危険だわ。


 ハンターズギルドで領代を待ってる間にレックスさんとローズマリーさんが教えてくれたんだが、オーダーズランクは入団から1年はTランクという研修期間で、そこからレベル20までは従騎士相当のIランク、レベル21になってようやく、正式にオーダーを名乗ることを許されるCランクになるそうだ。

 ミーナはオーダーズギルド・フィール支部の最年少ではあるが、同時に唯一のIランクオーダーでもあるそうで、個人で動くことを禁じられている。


 そんなミーナが、自分で腕が立つって言っても、何の説得力もない。

 本当は俺が送っていくつもりだったんだが、ハンターズギルドやアルベルト工房で予想外に時間を食ってしまったから、それも難しい時間になっている。

 なにせ晩飯を食ってからしばらくすると、宿の入り口が閉まって入れなくなるんだからな。

 もちろん、支払った金は返ってこない。

 さすがにそれは、俺としても勘弁だ。

 まあ娼館とかに行く客もいるから、その場合は従業員にチップを渡しておけば、日付が変わるぐらいまでなら待っててくれるらしいが。


 なんで俺がそんなことを知ってるかと言うと、ミーナの食事代と一緒に多めのチップを渡したウルフィーの受付嬢さんが、こっそり教えてくれたからだ。

 確かに俺も男だから、興味がないとは言わないが、だからって教えてもらってすぐに行こうとは思わんぞ。

 プリムやミーナの目も怖いしな。


 それはそれとして、ミーナを1人で帰すのは問題がある。

 それならプリムの言うように、泊まってもらった方がいい。

 幸いここはハウスルームだから、追加料金を払えば問題なく泊めてくれるだろうしな。


「うう……、わかりましたぁ」


 がっくりと肩を落としたミーナだが、そこまで嫌ってわけでもなさそうだ。

 さすがにレックスさんには連絡しておく必要があるだろうけど、中央広場にはオーダーズギルドの本部があるから、そこで伝言を頼めばいいだろう。


「それじゃひとっ走り、オーダーズギルドまで行ってくるか。近いし、そんなに時間もかからないだろうからな」

「あ、それなら私も行きます。大和さんより私が自分で説明した方が、みんなも納得してくれるでしょうから」


 ああ、確かにそりゃそうか。

 いきなりオーダーズギルドに行って、俺の部屋に泊まります、なんて言っても、まず信じてもらえないだろう。

 それなら本人についてきてもらった方が、変な誤解を生まずに済む。


「確かにそうね。それじゃあたしは着替えて、アルベルト工房に持っていくバトルドレスをまとめておくわ。時間的にも丁度いいだろうから」


 そういやプリムは、今日はずっとバトルドレスを着っぱなしだ。

 まあ着替える時間も余裕もなかったし、ハンターなら当たり前のことだが。


 だけど明日はアルベルト工房で、バトルドレスに付けられている胸当や肩当などの急所を覆ってる鉄製の装甲を、魔銀ミスリルに換装することになってるから、今のうちに着替えて準備しておくのもありだろう。

 寝る前に準備するか今かの違いだが、今日はもう飯食って寝るだけだから、何も問題はない。


「わかった。それじゃちょっと行ってくるよ。飯が来たら、部屋の中に入れてもらっておいてくれ」

「オッケー。いってらっしゃい」

「い、いってきます」


 というわけで、俺はミーナと一緒に、中央広場にあるオーダーズギルド本部に行くことになった。

 受付に行先は伝えたし、そんなに時間もかからないのは間違いないんだが、それでも了承してもらえると安心できる。


 魔銀亭から中央広場のオーダーズギルド本部までは、片道5分ちょいってところだ。

 魔銀亭のある通りはほとんどの建物の灯りが消えてるが、中央広場はハンターズギルドや酒場もあるから、まだ灯りが消えていない。

 というか、日付が変わるぐらいまでは、普通に付いているらしい。


「おうおう、兄ちゃんよ。こんな時間に綺麗な姉ちゃん連れて、どこ行こうってんだ?」

「てめえにゃもったいねえ別嬪さんじゃねえか。俺達が代わりにエスコートしてやるから、ありがたく思えよ」


 だからこんなバカも、普通に生息している。

 ミーナを1人で帰さなくて、本当に良かったと心から思う。


「シカトしてんじゃねえぞ!誰がこの町を守ってやってると思ってんだ!」


 しかも絡んできたのはただの酔っ払いじゃなく、色々と勘違いしてるチンピラハンターだからタチが悪い。

 正直言えば相手するのもバカバカしいんだが、この手の輩は弱みを見せればつけあがる。

 かといって俺から手を出すのも問題だから、バカみたいに面倒くさい。

 だけど話は通じないから、思いっきり鬱陶しい。

 つまり、心の底から関わり合いになりたくないんだよ。


「何叫んでんだい?」


 そう思ってたのに、酒場から仲間と思しきハンターが何人か出てきた。

 3分の1は女だな。

 スネーク・バイトは男ばっかだったが、ヘリオスオーブの男女比を考えればこれが普通か、これでも少ない方なんだろうな。


「こいつが、俺達をシカトしやがったんだよ!」

「ほう、このノーブル・ディアーズに盾突こうってのかい?良い度胸してるじゃないか」


 何がノーブルだよ。

 ただのチンピラじゃねえか。

 さすがにこれ以上、シカトすんのは無理か。


「はぁ……。まさかフィールにいるハンターが、ここまでバカばっかりだったとはな……」

「誰がバカだってんだ!?」

「お前らに決まってるだろ。まだフィールに着いたばかりだから把握しきれてないが、それでもギルドの依頼は受けない、すぐに暴力を振るう、他にも言いがかりをつけて、飯とかポーションとか勝手に持ってったりもした奴がいるらしいな」

「あたいらは別に、フィールを拠点にしてるってわけじゃないからね。本音を言えば、こんな街がどうなろうと、もっと言えばこの国がどうなろうと、知ったことじゃないのさ」

「だけど異常種が出たとかで街の出入りが封鎖されちまったから、あたしらも外に出られなくなっちまった。つまり、あたしらは閉じ込められたんだよ」

「本来なら、俺達を閉じ込めた街なんざ知ったこっちゃねえんだが、それでも俺達は街を守ってやってたんだ。だから、それぐらいは当然の権利だぜ」


 バカどころかクズ確定じゃねえかよ。

 仕方ない、軽く挑発してとっ捕まえるか。


「お前ら、そんな勝手な理屈かざして、よくハンターなんてやってこれたな。ああ、そうか。ハンターズマスターっていう救いようのないバカがバックについてるから、それで調子に乗ってるだけか」

「ああん?あんたの方こそバカなんじゃないのかい?ハンターズマスターが白って言えば、それが黒でも白になるのさ」

「それこそバカだろ。たかが一ギルドのマスターが、そこまでの権力を持ってるわけがない。それにじきにグランド・ハンターズマスターにも報告が行くことになってる。そうなったらハンターズマスターも終わりだし、そいつに便乗してたってことで、お前らも同じく終わるな」

「だからどうやって報告するのさ?アーキライトんとこのワイバーンはあたいらが始末したし、外には異常種がいるんだ。出た瞬間に食い殺されるのがオチさね」


 おっと、聞かせていただきましたよ。

 生け捕り確定だな。


「いい話を聞かせてもらったよ。じゃあ、おやすみ」

「あん?ぎゃあああああああっ!!」


 俺は火性B級広域対象系術式ショック・コートを発動させると、ノーブル・ディアーズとかいうレイドはスタンガンでもくらったみたいに痙攣して気絶した。


「まさかノーブル・ディアーズが、アーキライト子爵のワイバーンを殺していたなんて……」

「あとはオーダーズギルドに任せるさ。さ、本部に行こうぜ」


 と思ってたんだが、どうやら悲鳴を聞きつけたようで、オーダーが何人か、こっちに走ってくるのが見えた。


「動くな!って、ミーナ?なんであなたがここにいるの?」

「ご苦労様です。実は……」


 リーダーと思しき女オーダーさんに、ミーナが事情を説明する。

 俺とプリムのことはオーダーズギルド内に通達がいってるみたいで、俺は特に疑われることもなかった。

 だがアーキライト子爵のワイバーンの話になると、オーダー達の顔がみるみると怒りの形相に変わっていった。


「こいつらが、アーキライト子爵のワイバーンを!」

「これは予想外の大事ね。誰か、本部に戻って人を呼んできて。派出所に応援を頼んでもいいわ」

「了解!」


 1人が伝言のために、急いで本部に引き返す。

 本来ならミーナも手伝うべきなんだろうが、全てわかってると言いたげに、とても優しい顔をしたオーダー達がやんわりと断ったこともあって、俺達は魔銀亭に戻ることにした。

 帰りしなミーナの顔が真っ赤になってたけど、いったい何を言われたんだよ?

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